日銀「軌道修正」の隠れた論点、不況に備えETF購入拡大に布石か
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2018.8.6 週刊ダイヤモンド編集部
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批判も多いETF購入策だが、日銀は年6兆円ものペースで買い入れを続けている Photo by Ryosuke Shimizu
日銀の算段が外れ修正
「不況に備えたのではないか」。BNPパリバ証券の河野龍太郎チーフエコノミストは、日本銀行が7月末に発表した金融政策決定会合の隠れた論点としてETF(上場投資信託)購入策の修正を挙げ、そんな見方を示す。
まず、今回の会合で関心が集まった金融政策の主な修正点は二つ。一つは長期金利の操作目標となる10年物国債の金利水準(0%程度)に関し、従来はマイナス0.1〜プラス0.1%程度で国債購入を調節してきたが、今後は「変動幅を倍くらい(0.2%程度)にする」(黒田東彦総裁)として、一定の幅で金利が動くのを認めたことだ。国債市場の機能低下など、長引く低金利政策でたまった副作用への配慮もうかがえる。
併せて、中央銀行が将来の金融政策の方針を前もって表明する「フォワードガイダンス」の導入を決定。今回は2019年10月に予定される消費増税の影響を見通しにくい点に触れつつ、「当分の間」は現在の超低金利の維持を想定しているとした。
なぜ、このタイミングで軌道修正を図ったのか。それは低失業率に伴って賃金が上昇し、目標とする物価上昇率も上向くと見ていた日銀の算段が外れ、物価見通しを引き下げる中で政策の持続性を高める必要が生じてきたからだ。
追加文言の意味合いは
こうした中、今回の会合ではさらに、年6兆円ものペースで買い入れを続けている「ETF購入策」についても修正が施された。
河野氏が着目するのは、日経平均連動型からTOPIX(東証株価指数)連動型を増やす購入方法の見直しではなく、日銀の声明文における追加文言が持つ意味合いだ。「買い入れ額は上下に変動しうるものとする」との表現が加わり、市場の状況次第で規模を調整する可能性に言及したからだ。
これは、株価が高値圏にある状況では減額の可能性があることを示唆する一方で、景気悪化や株安が続く場合には増額できるように布石を打った、との読み解きができることになる。
というのも、不況時などの追加緩和の手段として、金融機関からの反発が強いマイナス金利政策の活用はもはや考えにくい。また、実質的に減額を進めている国債購入の拡大も選択肢に入らないとなれば、「フォワードガイダンスで低金利政策の一段の長期化を示すのに加え、ETF購入量の拡大に動くことが有力な緩和手段になる」(河野氏)というわけだ。
だが、そもそもETF購入策は、市場機能の低下などさまざまな批判がつきまとう。一連の修正で日銀が政策自由度を高める“のりしろ”を確保する目的があるにせよ、将来の出口局面へ一段と高まるリスクを鑑みれば、ETF購入増という手段に走るのは決して望ましくない。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 竹田幸平)