仕掛けられた罠…改憲で野党分裂は安倍首相の思うツボ
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2018年1月17日 日刊ゲンダイ 文字起こし
外遊先から高みの見物(C)共同通信社
野党の混乱に自民党は高笑いだ。
民進党と希望の党が衆参両院での統一会派結成に向け、15日に合意文書を交わした。両党内でこれに反発する動きが活発化し、野党は紛糾している。
希望の執行部は、17日の両院議員総会で民進党との統一会派結成について承認を求め、反対する結党メンバーには「分党」を提案する方針だ。
民進党も福田昭夫幹事長代理らが統一会派に参加しない意向を表明。民進も希望も分裂は避けられない状況だ。
国会で安倍1強に対峙するには、野党勢力が足並みをそろえるしかない。特に今年は、重要な政治課題に向き合わされる。安倍首相が、年末までに憲法改正の発議に持ち込むことをもくろんでいるからだ。ただでさえ力のない野党が縮小再生産では、安倍の思い通りに改憲スケジュールが進んでいくことは明々白々。それがなぜ、22日からの通常国会を目前にアホみたいな分裂騒ぎを起こしているかといえば、「憲法」「安保」で揺さぶられているのである。
「衆参ともに民進・希望の統一会派が野党第1会派になれば、与党は国会運営がやりやすい。民進と希望が憲法観をめぐって割れることになっても、改憲派がまとまってくれれば、それも安倍首相にとっては願ってもない展開でしょう。日本維新の会や希望の結党メンバーなど野党の改憲派を巻き込んで、『改憲には野党も合意した』と主張できますからね。ただ、安倍首相は年内の改憲発議を目指していますが、憲法改正は本来、スケジュールありきでやるような話ではありません。このまま首相の言う通りに進んでいってしまったら、日本は戦争ができる国になる。国民は本当にそれでいいのでしょうか」(政治ジャーナリスト・山田厚俊氏)
■ご都合主義の改憲スケジュール
安倍が突然、現行憲法9条に自衛隊の存在を明記する項目を加えるという改憲案をブチ上げ、「五輪が開催される2020年に新憲法の施行を目指す」と言い出したのが、昨年5月3日の憲法記念日。その後、昨年10月の衆院選で与党が大勝し、来年の参院選まで、安倍は衆参両院で3分の2以上の改憲勢力に支えられることになった。
ただし、来年は重要日程が立て込んでいる。4月30日に天皇が退位し、5月1日に新天皇が即位。一応は保守を名乗っている以上、その時期は「静かな環境」でなければならず、国論を二分する改憲発議や国民投票を行うことは難しい。それで、安倍官邸は今年中の発議を考えているわけだ。今年9月の総裁選もからんでくる。通常国会の大幅延長か、秋の臨時国会で発議すれば、60〜180日に行われる国民投票を退位前の19年冒頭までに行うことができる。2020年の施行にも間に合う。
自民党の二階幹事長も12日のBSフジの番組で、憲法改正の国会発議までの期間について、「今まで相当のところまできているので、1年もあればいいんじゃないか」と言い、安倍が目指す年内の発議を支持した。
だが、こんな改憲スケジュールは、安倍の都合でしかない。だいたい、自民党内でも意見集約ができておらず、連立を組む公明党は9条改正に慎重で、与党内にも温度差がある。国民的議論も盛り上がる気配はない。こんな状態で突っ込むのは、憲法改正を成し遂げた首相として、歴史に名を残したいだけとしか思えないのだ。
また分裂騒ぎ(C)日刊ゲンダイ
安保法や共謀罪と同様に最後は数の力で強行採決 |
立憲民主党の枝野代表も年頭会見で「国民の多くが望んでいる改正であれば積極的に対応していきたいが、現時点では安倍さんの趣味ではないかと思う」と言っていたが、個人的な野望のための改憲なんて、憲法を愚弄するにも程がある。しかも、その手口が悪辣だ。
立正大名誉教授の金子勝氏(憲法)が言う。
「安倍首相は、9条に自衛隊の存在を明記しても『専守防衛の原則は変わらない』と言っていますが、そんな詭弁にだまされてはいけません。憲法に自衛隊を置くことによって、現行2項で禁じられている『陸海空軍その他の戦力』を認めることになり、集団的自衛権の行使などを認めた安保法ともあいまって『交戦権』を保持することになる。後からできた法律の方が優先されるため、自衛隊を憲法に明記するだけで、戦争放棄もひっくり返されるのです。自衛隊が海外に出て行って、戦争をすることが合法化される。その結果、テロを呼び込むリスクも格段に大きくなり、国民が危険にさらされることにもなります。安倍首相は『自衛隊を明記しても何も変わらない』と言って国民を安心させ、日本を戦争国家につくりかえようとしている。野党は、このいかがわしさを徹底追及すべきです」
与党が吹っかけた議論にいったん乗っかれば、数の力で何でも通ってしまう。そんな場面を嫌というほど見てきた。安保法も共謀罪もそうやって、日程ありきで強行採決されたのだ。
改憲発議も同じだ。野党がバカ真面目に国会で改憲論議に応じれば、今度こそ本当に取り返しのつかない事態になる。巨大与党が設定した土俵に乗っても勝ち目はないのに、いまの野党はそれ以前の問題で、安倍が仕掛けた罠に右往左往して分裂騒動だから話にならない。
■大メディアは過ちを繰り返すのか
憲法学者で慶大名誉教授の小林節氏も、17日付の日刊ゲンダイのコラムでこう書いている。
<安倍首相が考えている9条に新項を設けて自衛隊を合憲化しようという提案は、いわば邪道である>
<対する護憲派は、相変わらずまとまっていない>
<今頃になってそれぞれ独自の改憲論を提唱し始めている。しかし、今、首相が仕掛けている改憲提案は、現実の政争であり、学術論争ではない。にもかかわらず、国会内の少数派で議題を採用させる力もないグループが、今、議場や論壇で「護憲的改憲論」を提案してみても単なるエネルギーの無駄であろう>
<今、野党が精力を集中すべきは、安倍改憲案の批判的分析と、その成果をもって国民投票の有権者に向けて啓蒙することである>
本当にその通りで、野党は対案だ何だと言ってる場合ではない。
「こんな生煮えの改憲案なんて、本来は門前払いが当たり前です。しかし、希望の党はもともと改憲のためにつくられたような党だし、民進党も条件によっては乗りかねないから心配になる。さらに問題なのはメディアで、安倍首相は第2次政権の発足以来、頻繁にマスメディアのトップと食事を繰り返し、気脈を通じている。北朝鮮の脅威をメディアが必要以上にあおるのも、安倍官邸の意向を受けてのことでしょう。現状では、世論調査でも9条改正には反対の意見の方が多いですが、北の脅威があるから自衛隊を憲法に明記する必要があると、国民世論を誘導することが考えられます。国民投票は公職選挙と違ってカネも使えますから、テレビで改憲の必要性をバンバン宣伝されたら、憲法改正が実現するかもしれない。国会は改憲派を中心に大政翼賛化し、メディアも芸能界も戦争に協力する体制が出来上がっていく。新聞社は第2次大戦が終わって反省したはずなのに、また同じ過ちを繰り返すのでしょうか」(金子勝氏=前出)
安倍が仕掛ける改憲論議に乗ったが最後、数の横暴とプロパガンダで、戦争国家へ一瀉千里。来年の今ごろには、見える景色が一変している可能性がある。
国民生活にとって、実に重要な一年なのである。
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— 桃丸 (@eos1v) 2018年1月17日