佐伯和人先生/大阪大学理学研究科准教授。JAXA月周回衛星「かぐや」プロジェクトの共同研究員を務め、小型月着陸実証機「SLIM」などにも参加。著書に『月はぼくらの宇宙港』、『世界はなぜ月をめざすのか』など。(撮影/熊谷武二)
水は1リットル1億円!? 宇宙で暮らすのに必要なこと〈dot.〉
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20170810-00000058-sasahi-sctch
AERA dot. 8/15(火) 16:00配信
月は空気もなく、食料もないから、月に行ったとしても、数日しか滞在できない。しかし、月探査が進んで、月で生活するために必要な施設が建設されれば、50年後には、月で暮らせるかも! 毎月話題になったニュースを子ども向けにやさしく解説してくれている、小中学生向けの月刊ニュースマガジン『ジュニアエラ』に掲載された、大阪大学准教授・佐伯和人さんへの月に関する質問と回答を紹介しよう。
■月に水を運んだら1リットル1億円!?
――未来の月はどのようになるの?
『宇宙兄弟』というマンガを読んだことはあるかな? 2025年以降の近未来を描いた、日本人の兄弟が宇宙飛行士を目指すマンガだ。そこでは、主人公たちが月面でバギーを乗り回したり、月面望遠鏡をつくろうとしたりしている。マンガだけど、実際に、世界各国が宇宙を目指していて、アメリカや中国は、有人探査を着々と準備しているから、決して無理な話じゃない。今から50年後、キミたちが生きているうちに、このイラストのような、人類が生活できる月面基地ができていてもおかしくないよ。
――うわあ! 楽しみだなあ! 宇宙で暮らすにはどんなことが必要なの?
月の資源を有効に利用することだね。月の資源の利用というと、地球に持ち帰って使うことを考えてしまいがちだけれど、実際にはそれは難しいんだ。なぜなら、運ぶための費用がとても高いから。高い山の上にある自動販売機のジュースが高値なのと同じことだ。1リットルの水を宇宙に運ぶには、1億円くらいの経費がかかるんだよ。
――そんなに!?
だから、月の資源は、月で利用すべきなんだ。月には、人間が生きるために必要なものが不足している。だから、月の資源を有効に利用して、酸素をつくったり、水を採掘したり、食料を調達したりすることが大切だね。
■専門の宇宙飛行士にならなくてもいい
――ぼくも月で暮らしたいんだけど、どうすればいいのかな? 宇宙飛行士になるのは難しそうだし……。
専門の宇宙飛行士になる必要はないよ。月で生活できるようになれば、地球での生活に必要な職業はすべて、月でも必要になる。だから、キミがどんな職業を選んでも、月で暮らすことは夢じゃないよ。宇宙先生、宇宙農家、宇宙美容師、宇宙パティシエとかね。
――ほんとう!?
ただし、宇宙環境に合わせた工夫は必要だね。自分の職業で一流になって、工夫する力をつければ、月で暮らせるかもしれないよ。
【50年後の月はこうなっている!】
<壮大な宇宙の姿を観測「月面望遠鏡」>
マンガ『宇宙兄弟』で、主人公の兄弟が月を目指す理由の一つは、幼いころ、お世話になった天文学者の夢である月面望遠鏡を建てることだ。空気や、地球から出る電波に邪魔されない月面は、光や電波で天体観測をするのにうってつけだ。
<いつでも発電可能「月一周太陽電池パネル」>
生活に欠かせないエネルギーは、太陽電池で得られる。ただし、約2週間も続く夜は太陽電池が使えない。そこで考えられているのが、月の赤道をグルリと一周する「月一周太陽電池パネル」だ。一年中、太陽が沈まない月の北極や南極付近も、建設候補地となる。
<月の砂で厚い壁をつくる「月面基地本部」>
月では地球よりも強い放射線が降りそそいでいるので、建物の壁を分厚くしなくてはいけない。「レゴリス」と呼ばれる月の砂を焼き固めてレンガのようにするとよいだろう。また、「かぐや」が見つけた巨大な縦孔の中で暮らせれば、放射線を防げると期待できる。
<永久影の氷から「水採掘基地」>
水も、生きていくために必要だけれど月ではまだほんのわずかしか発見されていない。しかし、一年中日が当たらない永久影などには、氷があるのではないかと考えられている。水から酸素をつくるのは簡単だから、貴重な資源になる。
<ロケット発射「宇宙港」>
地球からほかの天体にロケットを発射するには、地球を覆う大気圏を突破するのに、地球の大きな重力に逆らわねばならない。でも、月からなら、地球よりも簡単に発射できる。そこで、月は、宇宙港のような役割を果たすことが期待されている。
<月の石からつくる「酸素工場」>
生きていくためには酸素が必要だが、月には空気がない。しかし、酸素はつくりだせる。月にある石の中に、鉄などの金属などと一緒に酸素がふくまれているんだ。この酸素は、高熱を使って取りだせる。一緒に金属もできるから、酸素工場兼金属工場になる。
<うんちやおしっこも利用「宇宙農場ドーム」>
私たちの体をつくるには、食料から炭素や窒素という物質を得なければならないけれど、月にはない。最初は地球からたくさん食料を持っていき、あとは、うんちやおしっことなって体から出ていく炭素や窒素を肥料にして植物を育て、食料にする工夫が必要だ。
(監修/大阪大学准教授・佐伯和人)
※月刊ジュニアエラ 2017年8月号より