5. てんさい(い)[1314] gsSC8YKzgqKBaYKigWo 2020年9月25日 22:16:06 : 0kUGInjLpY : ZUJoU1c2MzFGUzY=[322]
◆第三話 ノーベル賞・東京オリンピック・大阪万博・異常気象
2018年に私がテレビを見る人間に化けてから、テレビに登場する人間を評価することが日課となり、「これがテレビか? これが報道か?」と首をひねりながら、気がかりになる本当のことを、本稿に記述している。その中で、とりわけ多くの人が気づいていないと思われる「ノーベル賞」・「東京オリンピック」・「大阪万博」・「異常気象に関するテレビ報道」の深刻な問題について、この章で扱うことにする。
◆ノーベル賞騒ぎと、学歴・肩書社会にはびこる無知
例年のように、ノーベル賞の受賞者が発表され、彼らは、あたかも有史以来の地球が生んだ天才であるかのように手放しで賞讃される。しかし! われわれ一般大衆から見て、これらの受賞者が人類に貢献したという認識は、まったくない。それが証拠に、ノーベル賞受賞者の名前など、一年もたつと、ほとんどの人はすぐに忘れている。
ノーベル賞には、自然科学部門の三賞「物理学賞」、「化学賞」、「生理学・医学賞」のほかに、ややあやしげな「文学賞」と、きわめてあやしげな「平和賞」のほかに、見当違いの「経済学賞」まである。
* * *
最もいかがわしいのは経済学賞であり、この賞は、1968年にスウェーデン王立科学アカデミーが新しいノーベル賞として設立を承認したが、そもそもノーベル賞の遺言を残したアルフレッド・ノーベルの子孫と、ノーベル財団はこれをノーベル賞として認めていないのである。経済の問題は、難民を生み出す深刻な世界経済に関するので、しっかり述べておく必要がある。
ロスチャイルド財閥の申し子で、ノーベル経済学賞の受賞者ミルトン・フリードマンが唱えた「新自由主義」のために、現在の世界がどれほど混乱に陥ったか、その経過を、テレビ報道界は知っているはずである。同じくロスチャイルド財閥の申し子で、ノーベル経済学賞の受賞者ポール・サミュエルソンが唱えた経済理論の研究者であるハーヴァード大学経済学者ロバート・マートンと、スタンフォード大学のマイロン・ショールズも、1997年に共にノーベル経済学賞を受賞した。このマートンとショールズが、アメリカの巨大ヘッジファンド、ロングターム・キャピタル・マネージメント(LTCM、長期資産管理会社)の経営幹部となって、1998年にLTCMが破綻して、ウォール街と投資家に空前の大損害を与えたのである。何と彼らは、投資家から集めた22億ドルを担保に、銀行から120億ドルを借り入れ、それで証券を購入し、今度はそれを担保にデリバティブなどの投機金融契約に深入りしてゆき、契約総額が1兆2500億ドルにも達した。自分の財産でもない22億ドルを元手に、その500倍以上の1兆2500億ドルにふくらませ、挙げ句の果て、それを最後に破綻させ、ゴールドマン・サックス、メリル・リンチ、J・P・モルガン、チェース・マンハッタン銀行など14社の大手金融機関に1兆円の損害を与え、これが予行演習となって、10年後の2008年にリーマン・ショックで世界恐慌を起こした。その張本人が、ノーベル経済学賞の受賞者だったのである。
なぜなら、この大被害を与えたロバート・マートンがシティグループ傘下の投資部門担当重役もつとめ、ノーベル経済学賞受賞者2人が理論的指導者となって進められたデリバティブの破綻が引き金で、2008年に恐慌の火を噴いたのがリーマン・ショック≠セったからである。この連中の経済学に対しては、いい加減にしろ、と言いたくなる。
ニューヨーク・ タイムズやワシントン・ポストおよびそれに追随する日本のマスメディアは、アメリカのトランプ大統領を生理的に嫌いだという理由から、トランプの移民排除政策をしきりと批判し、株価が落ちるとトランプ・リスク≠セと、子供のように喜んでいる。しかしトランプを批判する前に、「近年、世界中に貧富の差が広がって、その経済格差のために大量の難民の移動が生まれて、先進国が混乱に巻きこまれてきたのはなぜなのか?」と疑問を抱き、難民発生のメカニズムを考えたことがあるのだろうか? 中南米と中東とアフリカからの大量の移民と難民の流入が、ヨーロッパ諸国とアメリカに外国人排斥の気風を生み出しているのは事実だが、移民と難民が過度に流入すれば静かな生活者が困惑するのも事実なのだから、その排除を求めるトランプ大統領支持者をファシストと決めつける前に、難民の発生を止める方策をとらない国連と、難民を生み出す原因となっている報道界と経済界に、まず目を向けるべきである。
中東では、そもそもこの発火源のテロ集団イスラム国IS≠ェ生み出された最大の原因が、2003年3月20日に始まったアメリカ政府の狂気のイラク攻撃にあったことは火を見るより明らかで、2006年のジョンズ・ホプキンズ大学による調査では、イラク戦争開戦から3年後の2006年6月までの「イラク人の死者数は60万人以上」とされている。したがって、被害者はその10倍の数百万人に達するであろう。イスラム教徒に対するこのアメリカの大量虐殺に怒って決起したイスラム教徒が、テロリストに変貌し、今後数十年にわたって活動を続け、難民が大量発生することは、残念ながら必然的な結末である。またその反動として起こる白人至上主義者のテロも、混乱を複雑化している。
しかしイスラム国IS≠轤フテロリストが展開してきた行為は、預言者が説いたイスラム教の律法から外れたもので、イスラム教徒には容認できるはずもない。
イスラム教の聖典コーランには、預言者マホメット(ムハンマド)による神の啓示が次のように書かれている。
── 汝なんじらが追放されたところから、汝らに敵する者を追放せよ。もし彼ら(敵)が戦いを仕掛けるなら、彼らを殺せ。迫害がなくなるまで、彼らと戦え。
この法を忠実に実行するなら、イラク人を殺戮した米軍と、パレスチナ人の領土を不法に略奪して殺戮を続けるイスラエルのユダヤ人に対して戦いを挑むことは正当な行為である。ところがコーランには、
──彼らが戦いを仕掛けない限り、汝らは戦ってはならない。
とも書かれている。つまり、何もしない人間には攻撃をしかけないことが、イスラム教徒の掟なのである。テロリストが展開してきた無辜む この民に対する殺戮≠ヘ、この法を外れたものであり、正当なイスラム教徒にとって許されない行為である。同じように、シリアのアサド政権による残忍な住民虐殺や、(アフガンではなく)パキスタン・タリバン運動による児童の大量射殺も、ナイジェリアにおけるボコ・ハラムの学校襲撃や女子生徒の拉致も、ケニアにおけるキリスト教徒の学生射殺も、これまでの「正当なイスラム武闘集団」とはかけ離れた行為なのである。実は、彼らの手にしている武器・兵器が、敵方のヨーロッパ・アメリカ・ロシアやイスラエルの死の商人≠ゥら送りこまれたものである可能性が濃厚である。つまり、アメリカをはじめとする反「イスラム国」有志国連合≠ェ続けてきた一般人を巻きこむ無慈悲な殺戮空爆が、中東・アフリカを戦乱に巻きこんで、全世界の軍需産業を隆盛させている。それ以外には、現状の答がみつからない。
こうした流れのすべての発端となった2003年のイラク攻撃♀J始の火付け役が、2002年9月8日のニューヨーク・ タイムズが「イラクの核兵器開発」をあたかも事実であるかのように根拠もなく大報道した記事(フェイクニュース)であったことを、日本のテレビ報道界は知っているのだろうか? この記事をいま読むと、トランプの大統領補佐官ボルトンが北朝鮮の核兵器を非難して、憎悪を煽あおっている言葉とそっくり同じ文面なのである。こうしておそろしい大殺戮の原因をつくった新聞ニューヨーク・ タイムズが現在もリベラルを名乗り、トランプ大統領の移民排斥政策を非難して、どこに説得力があるのだろうか? 日本のテレビ報道界がその尻馬に乗って軽々しくトランプ批判に熱中するようでは、日本のテレビ・コメンテイターもまったく信用ならない人種だということになる。
シリアのように、軍需産業が引き起こすテロや紛争、内戦が原因で生まれる難民は最も悲惨だが、一方で、中米・南米のように経済格差≠フために生まれる難民の数も非常に多い。難民発生の本当の原因を知りたいなら、トマ・ピケティの経済学書などを読むより、私が世界の財閥について実名を挙げて解析した『アメリカの経済支配者たち』と、グローバリズムの真相を解説した『資本主義崩壊の首謀者たち』(いずれも集英社新書)を読んで、対策を立てたほうがためになる。貧困国と先進国との経済格差を広げる原因は、先進国の一部の資産階級の強欲さにあるのだから、全世界がその資産家たちの実名をあげて非難することが、最も重要であるからだ。
最近では、昨年2018年クリスマス休日前に起こったウォール街の株価大暴落は、リーマン・ショックと同じく「またも世界的なバブル崩壊再来だ」、「トランプ・リスクだ」と大騒ぎしたが、2日後の12月26日には逆にダウ工業株平均株価が史上最大の1086ドルの上げ幅を記録するというメチャクチャ相場だったので、見当違いの騒動を煽あおったマスメディアが恥をかいただけであった。
トランプ大統領が中国に対して関税引上げ戦争を仕掛けたことは、反グローバリズム/反自由主義の保護主義(America First)だから、アメリカ人として正しい行動である。過去数十年、アメリカ人がウォール街の詐欺まがいの金融力に頼って経済の維持につとめ、国民の持つモノづくりの技術力・工業力を無視してきたことが、労働者階級に失業者を生み出してきた原因なので、この米中貿易戦争で、「横暴なアメリカと中国」の両大国とも貿易が不振になり、アメリカ人が自国でモノづくりに戻れば、人類にとってこれほどいいことはない。どこがトランプ・リスクなのだ? トランプがWTO(世界貿易機関)から脱退の意向を示したことを大歓迎する。私は、すべての国との文化・文明の交流を支持するが、それは、ほかの国を理解し、ほかの国の知恵を取り入れる、という意味においてである。1995年にWTOが誕生したあとのグローバリズムと呼ばれる経済交流は、それとは違って、先進国が弱小国に乗りこんで一方的な経済搾取と自然破壊・文化文明破壊をすることにほかならない。それ以来、全世界のマスメディアが推奨してきたグローバリズム/自由主義こそが人類に対する重大犯罪であり、反グローバリズムと保護主義を批判するエコノミストの頭は、完全に狂っている。
トランプ大統領が気候変動対策に関するパリ協定から離脱したことも、のちにくわしく述べるように、科学的に完全に正しい行動であった。
トランプが「戦争ゲームをやめよう!」と言って、北朝鮮と初の首脳会談を実施し、北朝鮮を挑発する米韓合同軍事演習を中止したことは、過去いかなるアメリカ大統領も成し得なかった朝鮮半島の和平に向けての歴史的な偉業であった。シリアからの米軍撤退も、アフガニスタンからの米軍撤退も、もしそれが完全に遂行されるならば正しい決断になるが、ホワイトハウスの決定を米軍の幹部と軍需産業が受け入れるかどうか、現状では不確かである。
トランプ大統領が完全に間違っていることも、挙げておく必要がある。私は、好き嫌いがはっきりしているこの男が大統領に就任した時から、オバマやクリントン夫妻のように平然と嘘をついて人殺しをする偽善者にはならないので、アメリカ政府が歴史的に続けてきた独善的な悪事が分りやすくなると期待していた。しかし選挙票目当てに、イスラム教徒をすべて悪人と決めつけ、横暴なイスラエル・ユダヤ人の肩を持って、イスラム教の聖地エルサレムをイスラエルの首都と認定し、イスラエルが武力でシリア領を占領したゴラン高原をイスラエル領土と認定するなど、アラブ人・パレスチナ人を追いつめる中東政策は、彼の言動の中でも最悪の致命的ミスである。またフロリダ州の選挙票目当てのキューバ制裁や中南米政策でも、好き嫌いの主観が強すぎる。アメリカ大統領の宿命は「巨大な軍需産業を維持しなければならない」ことにあるので、兵器輸出と、国内での銃砲野放し政策も危険である。トランプがとってきたこうした行動の規範が、多くはアメリカが金銭的に利益を得られることにあるので、全世界はトランプをうまく利用するだけの悪知恵が必要である。日本人は、トランプ政権が続いている時代に、米軍の日本駐留経費支払いを停止する嫌がらせをして、沖縄からの米軍(海兵隊)撤退を促すべきチャンスだと思うのだが……
メキシコとの国境の壁の建設は、トランプが始めたことではなく、1994年に始まったので、民主党のクリントン大統領の時代からおこなわれてきた愚行である。自称リベラル派の新聞はまったくクリントン批判をしなかったくせに、トランプ大統領になってから突然に批判を始めたのだから、トランプ批判は卑劣なフェイクニュースである。そもそも国境の壁やフェンスは、大量の難民が押し寄せる東ヨーロッパのハンガリー国境や、イギリスの北アイルランド/アイルランド国境など全世界至る所の紛争地に建設されているので、トランプの問題ではない。最もひどい壁はイスラエルのユダヤ人がパレスチナ人の土地に不法に入植して、その強奪した土地からパレスチナ人を追い出すために築いてきた分離壁で、真っ先にこれを批判しないマスメディアや国連は、人間失格である。
マスメディアは、個性の強いトランプを絵にしやすいので、諸悪の根源であるかのようにジョークを飛ばして論じているが、そうした態度は低レベルの漫画家レベルのフィクションにすぎない。ジョークは慎むべきであり、問題を個別に真剣に解析するのが、ジャーナリストの役割である。
一方、日本の経済はどうであろう。東京証券取引所で日本株の7割を所有しているのは外国人投資家なので、アメリカの株価が動けば、彼らウォール街の投機屋が日本株を売り飛ばして損失の穴埋めをするメカニズムになっている。その結果、ウォール街の株価大暴落/急上昇に引きずられて、日経平均株価が乱高下するたびに、日本人が右往左往している。加えて日本では、日本銀行という中央銀行が2018年に6兆5000億円を相場に投じ、累積で25兆円近くまで株購入に熱中し、恥ずかしくもなく株価を維持するのに奔走しているのだから、日本の株価はルール違反のデタラメ数値なので、経済と産業のレベルと動向を知る指標として、ほとんど意味を失っている。
人間は衣食住を確保できれば、それ以上、経済成長のように余計なことをしなければよいのだが、現在のようなバブル経済の発生源は、世界経済の大半を動かす意味もないインターネット関連業界にあることが分っている。したがって、これからも続くインターネット時代は、バブル経済→崩壊→バブル経済→崩壊のくり返しになり、そのたびに経済難民が大量発生する宿命にある。では、どうすればよいのか?
このバブル崩壊という現象は、ほとんどの人が、巨額の資産が「株式市場から消える」現象だと勘違いしているが、存在する資産がこの世から消えるということは、絶対にないのである。「株価暴落を先に察知した投機筋の株主が売り逃げて、莫大な額の儲けを懐に入れる」ことによって起こるのがリーマン・ショックのようなバブル崩壊である。その売り逃げる株主が仕手し て集団の場合もあり、相場に巣喰うこれら投機業者によって株価暴落が計画通りにおこなわれることもしばしばである。
したがって、彼ら投機筋はバブル崩壊のたびに必ず莫大な利益を懐に入れて大儲けに儲ける。これら投機筋が売って得た巨額の資産を、どこに隠すかを徹底的に暴露し、タックスヘイヴン(脱税資産の隠し場所)をつぶすように国際社会が共同で突きとめれば、簡単に、大衆に対する被害を小さくできるのである。ところがその役割を課せられて大統領に就任したバラク・オバマが偽善者だったため、「タックスヘイヴンでの資産家の隠し資産」を追究せず完全に放置し、ニューヨーク・ タイムズやワシントン・ポストなど全世界のリベラル派と称するマスメディアが、財閥の手先となって、いつまでも資産家の実名を挙げる批判をせず、トランプ大統領が全責任者であるというキャンペーンを展開してきた。財閥子飼いのリベラル派マスメディア≠ェなぜそうするかと言えば、「リベラル=自由」という民主主義を看板に掲げることによって、何も知らない庶民の財布を自由に♀Jかせ、そこに財閥が入りこんで、全財産を盗み取る目的を果たすためなのである。この「新自由主義」によって、貧困国と先進国との経済格差がますます広がるので、難民発生が止まらないのだ。こうして彼ら自称リベラル派<<fィアがファシズム社会を招来する元兇になっているのである。こういう当たり前のことを指摘するのが経済学なのである。
* * *
ノーベル「経済学賞」と並んで「平和賞」も、かなり怪しいことは昔から有名である。時折のまともな受賞者にまぎれて、トンデモナイ人間がたびたび受賞している。
とりわけ1973年にノーベル平和賞を受賞したアメリカのヘンリー・キッシンジャーは、もともと米ソ対立時代に大量報復論をはげしく展開して、米軍の海外進出を鼓舞しつづけ、自ら班長をつとめるベトナム特別作業班を使ってラオス・カンボジア侵攻作戦を指令した男である。こうしてキッシンジャーがベトナム戦争を泥沼に引きこむ作戦を強行しながら、1971年にニューヨーク・タイムズによって「ベトナム秘密報告」(ペンタゴン・ペーパーズ)がスッパ抜かれてから、自らの戦争犯罪を釈明する目的でベトナム和平交渉に力を入れ始め、1973年のベトナム和平パリ協定調印を成功させたとして、ベトナム戦争のA級戦犯がノーベル平和賞を受賞したのである。ノルウェー・ノーベル委員会では、この授賞に抗議した2人の委員が辞任したほどであった。
キッシンジャー受賞の翌年、1974年に、非核三原則によってノーベル平和賞を受賞した日本の首相・佐藤栄作に対しては、「おいおい、本当かよ」、と日本中が驚いた。そればかりか、ノルウェーのノーベル賞委員会が2001年に出版した「ノーベル平和賞・平和への100年」の中で、「佐藤栄作はベトナム戦争でアメリカの政策を全面的に支持し、日本は米軍の補給基地として重要な役割を果たした。のちに公開されたアメリカの公文書によると、 佐藤栄作は日本の非核政策をナンセンスだと語っていた」などと述べ、「佐藤栄作を選んだことはノーベル委員会が犯した最大の誤りであった」として、選考委員会を自ら批判した通りである。
現在もまた、ノーベル平和賞受賞者であるミャンマーのアウン・サン・スーチーが、イスラム教徒のロヒンギャに対する差別と虐殺で全世界から烈しい非難を浴び、「ノーベル平和賞を剥奪せよ」の声があがっている。
1989年に、中国・チベット問題の渦中にあるダライ・ラマ14世がノーベル平和賞を受賞したが、これは、中国とアメリカの確執が作用し、アメリカとヨーロッパの政治力の結果なので、信用できる受賞者ではない。そもそも、自分を仏の化身≠ナあると称する人物が、代々のダライ・ラマなので、私は信用していない。
アメリカ大統領はどうだろう。セオドア・ルーズヴェルトは、偽クーデターを起こして南米のコロンビアから運河計画地帯を奪い、パナマ運河をアメリカ領土として植民地化した男である。大統領ウッドロー・ウィルソンは、黒人を虐殺するKKK(クー・クルックス・クラン)を礼讃する映画『国民の創生』を自ら観賞してほめたたえた男である。大統領ジミー・カーターは、1979年に米軍から独り歩きしようとする韓国大統領・朴正熙(パク・チョンヒ)をKCIAの手で暗殺させ、同年にホメイニ師によるイラン革命が起こって、アメリカが支援する悪逆非道の独裁者パーレヴィの王制が倒されると、首都テヘランのアメリカ大使館の人質50人を奇襲攻撃で救出するブルーライト作戦を強行して失敗した男である。大統領バラク・オバマは、「核なき世界」を国際社会に呼びかけたが、それは口先だけで、自国アメリカが非核化を実行せず、北朝鮮の非核化の足を引っ張り続けてきた。加えてアフガン内戦に米軍を投入して住民虐殺を続け、シリア・イラクの内戦に対しては有志連合による空襲を続けた。この4人の大統領が「ノーベル平和賞」を受賞しているのだから、一体どのような頭を持ったノーベル委員会が受賞者を選んでいるのかと考えると、こちらの頭がおかしくなる。
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)とアルバート・ゴアにノーベル平和賞を与えた問題は、このあと「二酸化炭素温暖化説の嘘が警告する地球の危機」の項で実証する通り、デタラメの受賞である。
言わずもがなであるが、ノーベル賞が誕生した歴史は、読者がご存知であろう。1866年に、スウェーデン人のアルフレッド・ノーベルが、爆発しやすい危険なニトログリセリンを珪けい藻そう土どにしみこませることによって、落としても叩いても爆発せず、雷管によって確実に爆発する道具をつくりだし、それまでの黒色火薬に代る新しい強力な火薬を発明して「ダイナマイト」と命名した。翌1867年に、ドイツの工場で特許製品ダイナマイトの製造が始まり、1868年(日本の明治維新の年)から、アメリカとヨーロッパ各国にノーベル会社が設立され、100近いノーベル工場でダイナマイトの製造が世界的な規模で急ピッチに進められた。
かくてノーベルは、敵・味方の双方に弾薬を売りつけて、戦場の死体でかせぐ死の商人≠ニして巨万の富を築いた。そのため自分の死後に悪口を言われることをおそれて、遺産をもとに賞を授けるよう遺言を残して1896年にこの世を去った。この遺言において、アルフレッド・ノーベルが自分の故国スウェーデンをノーベル賞を授ける責任者に定めながら、なぜ平和賞だけはスウェーデンではなくノルウェー・ノーベル委員会に授賞者を定めたのかという理由は、明らかにされていない。
以来、人類は、第一次世界大戦(死者1700万人)と、第二次世界大戦(死者5000万〜8000万人)で、また朝鮮戦争とベトナム戦争で、膨大な量が使用されるようになった火薬を通じて、「戦死者の 屍しかばねの上に築かれたノーベル賞」を最高の栄誉として押し戴くことになったわけである。死の商人≠フ利益が、平和賞まで人類に与えるとは、立派なものである。
ノーベル賞は人類最高の栄誉なのか、それとも人間として恥ずべき、殺人鬼の死の商人≠フ賞なのか? 私が調べた限りでは、北欧スカンジナヴィア半島のスウェーデンとノルウェーの二つの王国が、1814年から1905年まで一人の君主を戴く同君連合として姻戚関係を持っていたことに、ノーベル「平和賞」を授ける側の問題の起源がある。つまり、ノーベル・ダイナマイト・トラストが生み出したのがノーベル産業という会社で、この殺人材料メーカーの経営者を動かしてきたのが、スウェーデン最大の経済・金融支配者ヴァーレンベリ(Wallenberg)家であり、彼らがこの北欧の二つの王室一族と姻戚関係を持っていた。この一家が、代々ノーベル賞の主催者であるノーベル財団の理事をつとめてきた支配者である。
同時に、世界最大のユダヤ金融財閥ロスチャイルド家が、1886年にノーベル兄弟から当時世界最大のロシアのバクー油田の権益を買い取った深い利権関係を結んで、ヴァーレンベリ家はロスチャイルド家の一族でもあった。かくしてこのヴァーレンベリ家が設立したストックホルム・エンスキルダ銀行(のちのスカンジナヴィア・エンスキルダ銀行)に、アルフレッド・ノーベルの遺言書が預けられ、その金庫から取り出された遺言によって、ノーベル賞が誕生してきたのだから、ヴァーレンベリ家およびロスチャイルド家にとって都合のよい意向がノーベル賞選考委員会に政治的に反映されることになった。その結果、時には、政治色を持たないまともな受賞者を選ぶこともあるが、それ以外では政治色が作用してまったく信用できない受賞者を選ぶという当たり外れ≠くり返しているのである。スウェーデンの首相として全世界に平和運動を広め、反核運動のシンボルとして尊敬を集めていたオロフ・パルメが、イラン・イラク戦争のためのイランへの兵器輸出と、インドのラジブ・ガンジー首相と進めていた兵器輸出取引きを進めてきた死の商人≠セったという驚愕の事実が暴露されたのは、彼が暗殺された翌年の1987年のことであった。
そうした「平和賞」の一面に対して、よく考えてみると、20世紀の1901年になって、最初のノーベル賞の受賞者が誕生したのだから、いわゆる自然科学系の物理学賞や、化学賞でも、あるいは生理学・医学賞でも、19世紀より前の偉大な人間は、誰一人ノーベル賞を受賞していないのである。ヘリコプターやパラシュートを考案し、さまざまな人類の科学工学技術の基礎を築いたレオナルド・ダ・ヴィンチはノーベル賞を受賞していない。地動説を唱えたニコラウス・コペルニクスもガリレオ・ガリレイも、万有引力の発見者アイザック・ニュートンもノーベル賞を受賞していない。天然痘を撲滅するワクチン接種法を発明したエドワード・ジェンナーも、近代細菌学の父ルイ・パストゥールも、ノーベル賞を受賞していない。われわれ現代人が実に偉大な功績だとみなし、人類の思考力のもとになった大半の原理を発見した人間は、19世紀より前の人間である。また現在も、大衆の生活にとって実益をもたらす発明者の大半は、ノーベル賞を受けてもいない町工場の人間たちである。ノーベル賞が、虚像の権威であることは間違いない。
ニュートンは珍しく大学の学歴ある学者だったが、一方、いわゆる「専門科学者」ではないのに、人類に対して偉大な科学的貢献をした代表的な人物がゾロゾロいるので、以下に挙げてみる。日本のテレビ報道界の文科系の人たちは、この偉人たちのさまざまな職業を見ておけば、このあとに論ずる「二酸化炭素温暖化説の嘘」を思考する際に大きな糧が得られるはずであるから、愉しんで一読されたい。
公証人と農夫の娘のあいだに生まれ、画家となって、人体解剖を手がけ、ヘリコプターとパラシュートを考案した科学技術開拓者がレオナルド・ダ・ヴィンチである。
世界最初の望遠鏡と顕微鏡を発明して製作した人は? オランダのメガネ職人ハンス・リッペルスハイと、メガネ職人ハンス・ヤンセン〜ツァハリアス・ヤンセン親子である。
ポーランドの銅商人の息子として生まれ、司祭に育てられ、司祭をつとめ、天体観測を続けて、地球は太陽の回りを公転しているという地動説をヨーロッパに生み出した天文学者が、ニコラウス・コペルニクスである。
人類で最初に「太陽は星である」という事実を主張した人は、イタリアの哲学者ジョルダノ・ブルーノである(彼はコペルニクスの地動説を支持して宗教裁判で審問され、1600年に火あぶりで処刑された)。
織物業者の店員で、公会堂の守衛をつとめながら、自ら世界一精巧な顕微鏡をつくって、人類で初めて微生物を次々と観察した人が、今から400年前に死去したオランダ人アントニ・ファン・レーウェンフックである(彼に因んでもうけられたのが、微生物学で最高の栄誉レーウェンフック・メダルであり、細菌学の父パストゥールはノーベル賞ではなく、このメダルを受賞している)。
ローソク屋の息子として生まれ、学校にも行かずに印刷屋の職工となって、雨中のタコあげの実験によって雷雲が帯電していることを証明した人が、アメリカ合衆国を独立に導き、アメリカ最高額紙幣100ドル札の顔となったベンジャミン・フランクリンである。
徴税官の息子として生まれ、学校に行ったことがなく、人類最初の機械式計算機(コンピューター)を完成し、高い山に登るほど気圧が下がる大気の真理を証明してコペルニクスの地動説を支えた数学者で物理学者が、「人間は考える葦あしである」と語ったフランスの思想家ブレーズ・パスカルである。
修道院長ながら、エンドウマメを栽培して植物を研究し続け、二つの遺伝子が交配することによって新しい一対の遺伝子がつくられるというメンデルの遺伝の法則≠証明した人が、チェコ人グレゴール・ヨハン・メンデルである。
製紙工場の経営者の息子として生まれ、たき火をした時の煙を紙袋にためると紙袋が浮かび上がることに気づいて、人類最初の熱気球を発明した人は、フランス人のモンゴルフィエ兄弟である。
貧乏な鍛冶か じ屋の職人の子に生まれ、小学校しか卒業していないのに、電磁気を使って電気エネルギーを運動エネルギーに変換する実験に成功し、現在人類が使っている発電機のモーターと発電機の原理を発見した人が、イギリス人マイケル・ファラデーである。
靴屋でありながら、人類最初の電磁石を発明した人は、イギリス人のウィリアム・スタージョンである。
木工職人でありながら、世界一精巧な置き時計と懐中時計を発明し、温度変化と揺れによってまったく狂わず、航海中の経度(時差)を正確に知ることができるこの道具によって、ヨーロッパ人の航海を成功に導いた人は、イギリス人ジョン・ハリソンである。
牧師の息子ながら、田舎の開業医となって、酪農婦が持っている天然痘に対する免疫作用を観察し続け、天然痘を撲滅するワクチン接種法を発明したイギリス人がエドワード・ジェンナーである。
画家でありながら、使用頻度に応じたアルファベットの電信符号を考案して、全世界に電信機を普及し、インターネットの源を生み出した人は、アメリカ人サミュエル・モース(モールス)である。
パノラマ画を描く舞台装置画家でありながら、銀に光を当てたあと、水銀の蒸気にさらすと撮影された画像が現われることを発見し、世界で最初に人間の写真撮影と現像に成功した人は、フランス人ルイ・ダゲールである。
小学校を3ヶ月で中退し、蓄音機、白熱電球、映画の映写機、トースター、トーキー映画映写機を発明(または改良実用化)した人は、発明王トマス・エジソンである。そして1931年に死んだエジソンがノーベル賞を受賞していないことは、世界の七不思議の一つである。
まだまだ、人類に対して真の貢献をしてきた無学歴の人が山のようにいる。日本人でも、西洋の天文学をまったく知らなかった商人ながら、西洋式天文学と測量術を使って世界一と言える精確無比の日本全図を作成した人が、江戸時代の伊い能のう忠ただ敬たかである。また「日本の植物学の父」牧野富太郎博士が小学校を中退した人であることは、誰でも知っているであろう。そのほか山のような真の偉人が歴史上にいても、テレビ界は無視して、NHKが毎年つまらない人間を主人公にしたデタラメ脚本で「大河ドラマ」を放映している。私の自著『文明開化は長崎から』(集英社)に、真の文明開化の歴史と、本物の日本の偉人の偉業をまとめて紹介してあるので、テレビ報道のコメンテイターと落語家・講談師は、まず日本人の基礎知識として、この面白い書籍を熟読して、本物の偉人の業績ぐらいは暗記してほしいものである。
したがってノーベル賞を無批判に褒めたたえる風潮は、権威主義を助長するきわめて悪しき行為である。このような権威主義に対する警告の同じ立場から、まず何より、ノーベル賞受賞者を無批判に賞讃するテレビ報道界に言うべきことは、テレビ番組に招くコメンテイターから、大学などの学歴主義と、えせ弁護士、元政府高官などの肩書主義を排除しなさい、ということだ。つまらない肩書をひけらかしてテレビ報道のコメンテイターをつとめ、評論している者の大半は、私が見てろくでもない人間であり、テレビ報道界には、報道を解説する資格が疑われるコメンテイターと解説者が多すぎる。
自分の肩書に満足するテレビ出演者に言っておきたいのは、「あなたたちの知識は未熟すぎる」ということである。もう少し謙虚になりなさい。ましてやノーベル賞なんて、大したものではない。日本人がノーベル賞を受けて「大金を手に入れる」のは結構なことだが、「よっし、名前が売れたのだから、沖縄で米軍基地反対運動の先頭に立とう」というノーベル賞受賞者が出ないのは、どうしたことだろう。日本のノーベル生理学・医学賞受賞者で、危険な原子力発電に対して真っ向から先頭に立って反対運動をする人間が、まったくいないというのは、どうしたことだ、と疑問を持たなければならない。ノーベル生理学・医学賞の受賞者である山中伸しん弥やも本ほん庶じ ょ佑たすくも関西の人間なのだから、自分の知名度を活かして、関西電力の高浜原発・大おお飯い原発の運転に反対する活動の先頭に立てば、どれほど多くの人が救われるだろうか。モデル・タレントのローラが沖縄の米軍基地建設反対を呼びかけたように、人間の気概を示すぐらいのことをして初めて、その人間の人格が評価されるものである。というのも、西ドイツでは、かつて国内の著名な医師たちが先頭に立って、国民の原発反対運動をリードしたので、真の環境保護運動の基礎が築かれたというのに、日本では、人間の生命を守るべき本流の医学界(日本医師会)が、病院検査にX線(放射線)とCTスキャン(Computed Tomography)と呼ばれるコンピューター断層撮影を大量に使い、放射線被曝で利益を出しているという理由から、ひと言も発言しないのである。最高の医学は、いかなる治療薬の発明より、危険きわまりない放射性物質を大量放出する原子力発電を全廃する予防医学であろう。福島原発事故が、癌・白血病のほか、大量の疾患を生み出しているのだ。病人をつくってから治療薬をつくるって? 何のための医療・医学であるのか?
核分裂によるエネルギーの放出という大原理を発見し、ノーベル物理学賞を受賞したアルベルト・アインシュタインは、戦後に、彼が発見した原理を基に誕生した原水爆が氾濫する世界に対して、「人類の科学の進歩は誤った方向に進んでいる」と語って無視されたが、彼の偉大さは、相対性理論によるE=mc2の発見より、この警告にあったのだ。
◆東京オリンピック騒ぎで、福島原発事故を忘れろって?
いよいよ、2020年の東京オリンピックが近づいてきたと、騒ぐ者がいる。
そもそも、今回のオリンピック大会の東京招致が決定したのは、2013年9月7日の南米アルゼンチンの首都ブエノスアイレスにおける国際オリンピック委員会(IOC──International Olympic Committee)総会での出来事であり、時差のために、日本での新聞報道は9月9日の夕刊であった。日本でその9月9日当日は、東京電力♀イ部ら42人の福島原発事故の責任者を、私たちが告訴・告発したにもかかわらず、政治圧力を受けて腐敗した東京地検が「全員不起訴」にして無罪放免しようとした同じ日だったのである。なぜそれが、オリンピックのIOC総会と歩調を合わせた出来事であったのか?
東京オリンピック招致のプレゼンテーションでは、東京電力≠フコマーシャルで稼いできた滝川クリステルと、東京電力&a院を取得する予定だった医療法人から5000万円の不正な金を受け取ったことが暴露されて2013年12月に東京都知事の辞職に追いこまれた猪いの瀬せ直樹と、「2020年を迎えても世界有数の安全な都市・東京でオリンピックを開けます。大事故を起こした福島原発は、アンダーコントロール状態にあることを保証します」と、大嘘の演説をした虚言癖総理大臣・安倍晋三という厚顔無恥の面々が示す通り、国際社会に対して「東京電力≠フ福島原発事故の大被害を隠す目的」のために、オリンピックを開催し、原発事故の責任者を無罪放免することにしたのである。したがって東京オリンピックは、動機が「スポーツの祭典」ではなかったのだ。この当時、IOCの委員たちが、日本からどれほど薄汚い裏金を受け取って、東京招致を決定したかをテレビ報道界は追究するべきだと思うが、不思議なことに、今日までテレビは真相をまったく追究していない。
日本オリンピック委員会(JOC)の竹田恆つね和かず会長が、この時のオリンピック招致委員会のトップ、理事長をつとめて、安倍晋三と共に東京招致プレゼンをおこなったのだが、竹田恆和は広告代理店「電通」を通じて、IOC委員ラミーヌ・ディアック(国際陸上競技連盟・前会長)の関連会社に2億3000万円という莫大な金を支払った責任者であり、自分でその送金を認めているのである。勿論この賄わい賂ろが、ディアックの手を通じて山のようなIOC委員にばらまかれたから、東京招致に成功したことは、招致委員たち全員の常識である。
竹田恆和が、なぜ日本のスポーツ界に君臨するJOC会長になったかといえば、父親が竹たけ田だ宮のみや恒つね徳よし王おうで、その名の通り皇族で、昭和天皇の従弟にあたり、戦時中には関東軍参謀の陸軍中佐だったが、悪名高い石井四郎隊長の悪魔の細菌戦≠V31部隊の協力者として知られていた参謀なのである。彼が戦後は皇籍を離脱して竹田姓を名乗り、日本スケート連盟会長や日本馬術連盟会長を歴任し、1964年の東京オリンピック後、1967年からIOC委員となったので、息子の竹田恆和が父親の威光を継いだわけである。このJOC委員長・竹田恆和の甥・竹田恒つね昭あきが、オリンピック招致委員会がワイロ送金に使った広告代理店「電通」の社員で「スポーツ事業局」に勤務し、麻薬の所持で逮捕歴があるのだから、よくできた話である。このような人間グループを、スポーツ界では、オリンピック貴族という。
2019年1月11日にフランスのル・モンド紙が「フランス当局が竹田会長の贈賄行為に対する刑事訴追の手続きに入った」と報じてから、にわかに日本の怠慢なマスメディアがこの一件を報じた。私が驚いたのは、この報道にみなが「驚いた」と発言していることであった。本稿でここまで書いたのは、前年(2018年)の8月頃だったからである。ル・モンド紙の報道後、竹田会長は「コンサルタント料の適切な対価として支払った」と釈明したが、それで言い逃れたと思っているのか? コンサルタントの仕事って何だ、と誰もが尋ねているんだよ。「東京誘致ワイロのほかにコンサルタントに相談することは何もない」と誰もが知っているんだよ。2億3000万円は大金で、これを正当な対価だと呼ぶ神経が、普通の人間には分らないんだよ。そもそも誰の金なんだ? 国民や都民の税金なんだろ? 全世界の報道が「金で買った東京オリンピックだ!」と報じているのに、毎日毎日色々な犯罪事件を取り上げている日本のテレビ報道界が、こんな大スキャンダルも追究しないのは、不思議な現象だと思わないだろうか。東京の前に開催された2016年ブラジルのリオデジャネイロ・オリンピック招致事件では、まったく同じ人物ラミーヌ・ディアックを経由したほぼ同額の賄賂で、ブラジル・オリンピック委員会の会長カルロス・ヌズマンが逮捕されたことを、日本のマスメディアが知らないはずはあるまい。日本では竹田会長が辞任に追いこまれたが、それですむ話ではなく、「竹田恆和は、なぜ逮捕されないんだ?」という疑問が残ったままだ。日本は法治国家なのか?誰の手で、どこに、国民の大金が消えたかがくわしく公表されるまで、テレビ報道界は追及する義務がある。この大金は、本来は東日本大震災と福島原発事故の被災者の救済に使われるべきだからである。
私がたびたび関係者の実名を挙げて、金に汚れたオリンピック批判を展開するので、JOC(日本オリンピック委員会)が「広瀬隆を名誉棄損で告訴する」と新聞報道された時、私はこれでようやくJOCの犯罪を裁判所で明らかにできると喜んだが、彼らが今まで一度も私を告訴しないのは、どうしたわけなのか? 言うまでもなく、私が記述した山のような事実が、表沙汰になれば困る人間ばかりだからである。
さて読者は、このような腐敗の根源であるオリンピック貴族と、オリンピック金庫の歴史≠ご存知であろうか? 以下の記述内容は、私が書いたオリンピック批判の一文だが、さる高名なスポーツ評論家が高く評価してくれた折り紙付きの内容なので、アスリート必読文として紹介しておきたい。
イタリアの芸術の都フィレンツェのメディチ家は、誰もが知っている。ヨーロッパ全土に、広大な通信のネットワークを張りめぐらし、世界最大の、そして国際的に世界で初めての金融帝国を築きあげたのがメディチ家であった。メディチ家は天才芸術家ミケランジェロやダ・ヴィンチ、ラファエロのパトロンとなって美術界を育てただけでなく、その通信網を使ってヨーロッパ各地の「ニュース」を伝えるのに大きな役割を果たした。
一方、オリンピックのクライマックスを飾る象徴的なマラソン競技は、ペルシャ戦争の中でギリシャのアテナイ軍の青年がマラトン勝利の「ニュース」を伝えるため、42キロを走って息絶えた有名な故事に由来する。このようにメディチ家とオリンピックのいずれも、ニュース伝達の因縁を持つからではあるまいが、メディチ家はオリンピックと深い関係を持っていた。それはバチカンのローマ法王を血族とする、この世で最高の上流貴族の物語でもあった。
メディチ一族のピエール・フレディは、ルイ11世の時代にフランスに移住し、国王に仕えることによって、今から500年以上前にフランス貴族の位を授けられた。その一族が植民地貿易によって財をなし、やがてヴェルサイユ郊外にあるクーベルタンという土地の荘園を手に入れることによって、クーベルタン男爵家が誕生した。つまりオリンピック創始者として高名なクーベルタンという名前は姓でなく、爵位名である。のちに古代ギリシャのオリンピックを再興した人物の正確な名前は、メディチ家のピエール・ド・フレディ・クーベルタン男爵という。
このクーベルタンが近代オリンピックを創始しようと考えた時、彼はまず、司令官のトラモン将軍、あるいは政治・経済分野の有力者や実業家に声をかけ、かなり大がかりなシンジケートを結成した。実はこの出発点が、われわれの見ているどす黒い現代オリンピック支配者の世界を形成することになった。そのオリンピック創始キャンペーンを成功させたのは、フランス上流社会の知名人60名を数える一団で、彼らは当時ヨーロッパにあふれかえっていた植民地主義や帝国主義と、ドイツのハインリッヒ・シュリーマンがトロイの遺跡を発見したように、もうひとつの流行であった考古学の遺跡発掘事業による財宝の強奪を結びつけ、ちょうどギリシャで発掘されたオリンピアの遺跡から、おもしろいゲームを思いついた。
時間も金もあり余るほど持っていた貴族や大富豪が、古代ギリシャ・ローマ時代の皇帝ネロのように、子飼いの選手の戦闘訓練も兼ねて競技を観賞したり、自ら参加もする上流社会のゲームをやってみようではないか、それはまさしくオリンピアの祭典の復活だ、というわけであった。こうして19世紀末の1896年、ギリシャのアテネで第1回オリンピックが開催されることになった。
このクーベルタン・キャンペーンに参加した名士のひとりが、のちにフランス財閥の中心的ファミリーを形成するジョルジュ・ピコであった。孫がスエズ運河会社の社長となって中近東から全世界の貿易行路を支配し、直系のひ孫がフランスの大手テレビ局TF1の利権を握った大統領ヴァレリー・ジスカールデスタンであり、スエズ運河会社は1990年代に世界最大級の金融会社スエズへと発展した。この発展の過程で、スエズ金融は、フランス植民地のベトナム支配銀行として頂点に君臨していたインドシナ銀行と合併して、インドスエズ社となった。その銀行の重役室に坐っていたのが、2001年まで国際オリンピック委員会(IOC)会長だったフアン・アントニオ・サマランチと共に、現代のIOCに流れこむ巨額の紙幣や小切手を数えてきたIOC財務委員長ジャン・ド・ボーモン伯爵であった。
オリンピックの金庫番ボーモン伯爵とは、何者だったろう。
オリンピックの暗部を描いた『黒い輪』(ヴィヴ・シムソン、アンドリュー・ジェニングズ共著、光文社)には、IOCのサマランチ会長と、ドイツのスポーツ用品メーカーとして巨大な利権を握る、誰もが知るアディダス(adidas)創業者のホルスト・ダスラーの関係がくわしく述べられている。この本は私が翻訳と監修を担当し、解説者≠ニして著者に対する疑問や私見、調査結果を記したので、全体的な調査結果をここでくわしく述べてみたい。サマランチ会長とスポーツ用品メーカーだけに目を奪われると、オリンピックの真相が見えないからである。
クーベルタン男爵家は、フランス東インド会社の利権者であり、ボーモン伯爵も、フランス東インド会社が姿を変えたインドシナ銀行(植民地時代のベトナムの金融機関)の利権者であった。両者は植民地の世界で商売仲間だったのである。これが、ほぼ100年の歴史を通じて用意されてきたオリンピック金脈史の裏の裏になる。
フランスと並んでヨーロッパの上流社会を代表するイギリスでは、貴族が現在でも世襲制度によって生産されており、一見すると民主的な国家が、実は旧来の貴族によって大がかりに支配されている。1989年の数字によれば、イギリスの長者わずか200人の資産を合計すると、国民総生産(GNP)の8パーセントにも達し、その後、現在では富の集中がますます加速された状態になっている。その中心にある貴族は、公爵・侯爵・伯爵・子爵・男爵(いわゆる公侯伯子男)の序列で爵位が与えられ、その下に准男爵(Baronet)とナイト(Knight)、女性はデイム(Dame)まであり、男爵以上の貴族は、21歳を過ぎると自動的に上院議員の資格が与えられる。
当時その議員数は750人にもおよび、先年に労働党のトニー・ブレア政権が、ようやくこの世襲議員制度を廃止する方針≠打ち出したが、存在理由の分らないこの貴族院を廃止する機運はない。イギリスの選挙は日本やフィリピンに比べてどれほど民主的か、といった報道がなされてきたが、選挙なしに議員になってしまう国家を民主的と呼ぶのは、ブラック・ジョークとしか思えない。
アメリカ自動車業界が、地獄の不況時代にもクライスラーのリー・アイアコッカ会長たちが億単位の収入を平然と受け取り、今また日産のカルロス・ゴーン会長の巨額の所得隠しが問題になったように、わが国や第三世界に貿易戦争を仕掛けてくるアメリカ・ヨーロッパの支配階級は、たとえばイギリスのエリザベス女王の資産が1998年(20年前)時点で1兆9200億円で、日本の同年度の国家予算の40分の1にも達する。わずかひとりの財産である。彼女の資産を運用してきたのが、世界的な投機屋ジョージ・ソロスであり、女王の資産は10年間で8000億円近くも増えてしまった。
エリザベス女王の娘アン王女は、チャールズ皇太子の妹で、世界各国の貴族と同じように、乗馬が大好きであった。ミュンヘン・オリンピックで金メダル、ソウル・オリンピックで銀メダルを取った乗馬の名手マーク・フィリップス大尉と結婚して、話題となった。ところが、この大尉はニュージーランド女性とのあいだに隠し子がいるという噂が真実味を帯び、また娼婦とのスキャンダルが発覚したため、両人は離婚する羽目になった。
アン王女が彼に支払った離婚の慰謝料は、2億円とも3億円とも言われている。このアン王女の財産も、また相当な金額に達するはずである。IOCのイギリス代表委員だった彼女は、他人から賄賂もプレゼントも一切貰わず、金に汚れていないオリンピック委員だと評されるが、2兆円規模の財産を持つ母親の娘が、オリンピック誘致キャンペーンのなかで、他人から小銭を貰う必要があるとは、誰も考えないだろう。彼らこそが真のオリンピック貴族であり、彼女は西暦2025年までIOC委員をつとめるという。
この王室に近い閨閥でつながるエクセター侯爵は、イギリス・オリンピック委員会の会長のほか、IOC委員、国際アマチュア運動連盟の会長などの要職をつとめてきたが、実は大英帝国商業会議所の会頭であった。この人も、おそらく貧しくはなかっただろう。先年までイングランド銀行総裁だったロバート・リー=ペンバートンの一族でもあるからだ。
しかし貴族の世界は、歴史上の継承争いに示されるように、一枚岩ではない。男爵の多くは、ロスチャイルド男爵家のように「巨大資産を抱える金融業や商人」として大成功を収めた新参者であるから、王室がその資金を利用しようと最下級の爵位である男爵の称号を与えた集団である。上流社会を上流にのぼってゆくと、「あれは○×男爵だ」と成金の大富豪≠ニいう底意をもってささやかれ、色眼鏡の妬ねたましい目で見られているのだ。それが転じて、貴族の存在しないアメリカでも、ビジネス界の支配者や財閥の代用語として男爵の言葉が使われ、泥棒男爵、ほらふき男爵、貧乏男爵、石油男爵、鉄道男爵といった侮蔑的な呼び方が誕生した。新世代のオリンピック貴族≠ニ呼ばれるのは、そうした人種である。
大昔から支配者だった本物の世襲貴族が、日本では天皇の親戚である皇族であり、彼らは今もって自分たちは庶民より偉い人間だと勘違いしている前世紀の遺物である。そうした本物の世襲貴族であるイギリス王室のアン王女や、モナコのグリマルディ公爵などがオリンピックやサッカー・ワールドカップに関与したとき、サマランチ会長ら新世代のオリンピック貴族の商業主義に抵抗するとは限らない。イングランド・サッカー協会は、2006年のワールドカップ招致のため、アルゼンチンなどに対する援助活動を積極的に展開し、タイのサッカー監督の給料まで受け持って、開催国を決定する投票の間接的賄賂″U勢を強めたことが問題になってきた。
金そのものは古来からある道具にすぎないもので、とりたてて憎むべきものではないが、スポーツ界に大量のうさん臭い金が流れ、その大金によるドーピング隠しも起こっているとなると、スポーツ全体が八百長ゲームになるので話は別だ。問題なのは、IOCの委員が豪華なホテルに泊り、山のようなプレゼントを受け取り、世界中を家族で旅行してきたというような、ほほえましい物語ではない。彼らがそれよりはるかに気の利いたプレゼントとして莫大な現金を受け取り、買売春が横行し、次のオリンピックやワールドカップの開催地を決定しながら、自分の国に帰って若い選手たちに高邁 こうまいなオリンピック・アマチュア精神を語るそのどす黒い世界こそが、スポーツ記者のあいだで重大な疑惑を生み続けてきた。
インド・オリンピック委員会の委員長をつとめていたIOC委員ラジャ・バレンドラ・シンは、先年この世を去ったが、彼自身が大銀行の重役だったばかりでなく、その父ブペンドラ・シンは、インドの大王マハラジャであった。
中米・南米のオリンピック界で有力者だったのが、ペルーのワシントン・パティーニョであり、パナマでは同姓のマヌエル・パティーニョだが、ボリビアの鉱山王として、南米の麻薬産業の背後にあるのがこのパティーニョ財閥で、ロスチャイルド家の一族である。どこの国でも有力者がオリンピックに乗り出してくるのは、そこに甘い蜜があるからだ。
ところが1998年12月12日、国際スキー連盟の会長を40年以上つとめたIOC理事のマーク・ホドラーが、重大な内幕をスイスで明らかにしてからオリンピック委員会の大スキャンダルが発覚した。その腐敗メカニズムが、今日現在まで続いているのである。「オリンピック開催地を決定する投票では、票のとりまとめをおこなう4つのエージェントが存在していることを確認した。そのエージェントの中にIOCの委員が入っており、彼らは50万ドルから100万ドルでIOC委員に話をもちかけ、招致がうまくいったときには、成功報酬として300万ドルから500万ドルが支払われた。すべてのオリンピックでこれらのエージェントが暗躍し、開催地が決定されてきた」というのだ。
買収額500万ドルとは、1ドル100円として5億円である。
この爆弾発言をしたホドラー理事は、スイスの弁護士で、IOC財務委員長だった当時「オリンピックの誘致活動に格別の不正はない」と、記者団にとぼけていた人物なのだ。かつて1980年には、サマランチとIOC会長ポストを争ったその大物が、ついに口を開いたとなれば、最も信憑性が高い話であった。しかも1963年からIOC委員をつとめてきた80歳の最古参で、国際冬季オリンピック競技連盟連合の会長であった。少なくとも1963年以後すべてのオリンピックの開催地が、買収によって決定されてきたことになる。かねてから噂の流れていた買収行為が、初めて内部告発によって暴露された。
このあと、喧騒なスキャンダル報道が続いたが、どうもその報道が怪しいとみな気づいていた。報道されていない真相を述べよう。
1998年の長野オリンピックの誘致を成功させようとした日本は、田中 秀しゅう征せいら誘致担当者が、ホドラー理事が指摘した怪物エージェントを相手に、悪い頭を使った。ちょうどバブル経済時代の1980年代末、成金の日本円をふんだんに使って、IOC委員1人に芸者3人を密着させた上、「たかが100万円ぐらいの出費」には領収書ナシという気前よさで、闇の中で接待と買収がくり返され、そこに買春・売春があったとの噂が絶えなかった。最後には、招致費用およそ25億円の明細を記しておいた会計帳簿が、うまい具合に消えてしまったのである。それまでは紛失したと伝えられていたが、オリンピック招致委員会の事務局次長の指示で、段ボール箱十数個分にのぼる資料を1992年に燃やしてしまったというのだ。領収書も何もかも、オリンピック開催前に証拠品を焼却した理由は明白だった。当初から犯罪行為と知っていたからである。2019年にTBSサンデーモーニングのコメンテイターをつとめていた田中秀征は、JOC会長・竹田恆和のワイロ・スキャンダルが報じられても、自分に火の粉が飛ばないように素知らぬ顔でとぼけていた。
しかし、このエレクトロニクス時代に、資料を燃やせばなくなるとは誰も考えまい。会計原簿の記録は、コンピューターに残っていたはずだ。「IOC委員にたかられた」などと嘘ばかり言ってはいけない。自分たち日本オリンピック委員会(JOC)も接待で遊びほうけていたくせに。
驚くまいことか、1998年長野オリンピックでは接待費などが11億円と巨額だったばかりか、「買収工作で代理店は使ってない」と言い張っていながら、スイスの広告エージェントIMS・スタジオ6≠フゴラン・タカチ社長に45万スイスフラン(当時のレートで5100万円)が支払われた。IOCの猪いが谷や千ち春はる理事の義父が会長をつとめる出版社が、タカチ社長と共同でオリンピックの公式写真集を出版していたことも判明し、その会社が、IOC本部と同じスイスのローザンヌにあることが、最大の謎として残った。総工費90億円をかけてローザンヌにオリンピック博物館が建設されるにあたって、JOC初代会長だった 堤つつみ義明・名誉会長(西武鉄道社長)が100万ドル(約1億3000万円)を寄付、さらに日本の企業19社が協賛金として合計2000万ドル(約20数億円)を寄付していたのだ。
問題になった長野関係者からサマランチ会長に贈られた日本画や日本人形など数々のプレゼントは、「オリンピック博物館のサマランチ・コレクションとなっている公共陳列物であって、会長個人の余得ではございません」と釈明しながら、IOCは急いで(あわてて)それらを博物館に陳列してみせた。その行動は、「サマランチ・コレクションというより、サマランチ・コネクションですな」と言われたものだ。
私がこうしたさまざまな問題の真相を雑誌に書いた当時、JOCが「告訴するぞ」と新聞紙上で脅しておきながら、いつまで待っても告訴しなかった理由は、告訴するどころか、告訴されるべき人間たちだったからである。泥沼の腐敗が明らかになった現在、日本の国民は、煙と消えた会計帳簿のコンピューター記録を見たいものだと思っている。
1999年1月8日には、2002年の冬季オリンピック開催地であるアメリカのソルトレーク・シティー・オリンピック組織委員会のフランク・ジョクリク会長とデヴィッド・ジョンソン副会長が、不祥事の責任をとって辞任を発表する大事件に発展した。この組織委員会は、全世界のIOC委員の息子や娘をただで留学させるよう5000万円近い奨学金で便宜をはかったばかりか、判明した限りで現金40万ドルをIOC委員たちに贈ったほか、プレゼントを含めて合計78万ドル(当時の1ドル120円で9360万円)と、ほぼ1億円におよぶ便宜供与をおこなった。そしてついに、長野オリンピック以来最も噂の高かった買春疑惑が証拠づけられた。組織委員会のクレジットカードを使って、IOC委員を買春接待した事実が露顕したのである。
その時点でのIOC委員114人のうち、すでにさまざまな形で関与した疑惑の委員40人近くの名前があがりながら、最終的にIOCから追放されたのはわずか10人の委員だけだが、彼らは発覚組≠ニ呼ばれ、残りほぼ80人は潜行組≠ニ呼ばれてきた。われわれが聞いている名前がまだ出ていないばかりか、指摘された買収の金額が小さすぎる。買収を取りもった国際的な仲介組織(エージェント)はかなりの数にのぼり、そのうち、ソルトレークで表面化したのは半数にも満たないからである。
贈収賄などの買収工作が発覚したオリンピック開催地と候補地は、現在まで以下の都市である。
○1964年冬季 オーストリアのインスブルックと争って敗れた日本の札幌
○1988年夏季 韓国のソウルと争って敗れた日本の名古屋
○1992年夏季 スペインのバルセロナ
○1994年冬季 ノルウェーのリレハンメル
○1996年夏季 アメリカのアトランタ
アトランタと争って敗れたオーストラリアのメルボルン
アトランタと争って敗れたカナダのトロント
○1998年冬季 日本の長野
○2000年夏季 オーストラリアのシドニー
シドニーと争って敗れたドイツのベルリン
シドニーと争って敗れた中国の北京
○2002年冬季 アメリカのソルトレーク・シティー
ソルトレークと争って敗れたカナダのケベック
ソルトレークと争って敗れたスイスのシオン
○2004年夏季 ギリシャのアテネと争って敗れたスウェーデンのストックホルム
○2016年夏季 ブラジルのリオデジャネイロ
○2020年夏季 日本の東京
半世紀以上にわたって切れ目なく続いてきた買収工作は、今やマラソン競技をしのいで、最もオリンピックらしい行事に数えられるようになったが、その中でも日本の買収工作は突出している。
贈収賄などが発覚したIOC委員の実名は、膨大な数なので本稿では省略する。ソルトレーク・シティーが大がかりな買収工作に出たのは、長野オリンピック招致のためのすさまじい日本人の買収工作に敗れた時、その悪事に学んだためだったというから、わが国の買収が同規模だったことも間違いない。日本人の責任は重い。
IOC委員たちは、誘致関係者やエージェントが「俺のところに現金を1000万円も持ってくれば、招致を実らせるのはいとも簡単なのに」と思いながら、早く話がこないかと、心待ちにしてきた。しかし本当のオリンピック疑惑は、このように個人的なものではない。
これらの全体を動かすIOCの理事会と会長が、オリンピック最大の収入源であるテレビの放映権と公認スポンサーの利権を握り、その収益を動かしてきたのである。ジャーナリズムがあまり小さな金額をほじくってばかりいると、嘘が本当になるおそれがある。オリンピックの利権は、そのような金額にあるのではない。
IOC委員個人の買収額とは比較にならないほど桁違いに大きな利権は、100億から1000億円単位、時には1兆円規模にまで広がる「テレビ放映権」、「建設業と地元観光業」、アディダスのような「スポーツ用品」、コカ・コーラ、マクドナルド、VISA、IBMなどに代表される「オリンピック公認スポンサー商品」の4大分野にある。それを差配するのが、エージェントである。ホテル代やファーストクラス航空運賃など、小さな買収に満足して、これらの利権屋に一服盛られたIOC委員の追及に明け暮れたのでは、オリンピック腐敗問題の真相は見えない。
オリンピック開催から生まれた大金の決算がどのように報告されているかといえば、これまで一切数字が公表されず、スキャンダル発覚後の1999年3月18日に、ようやくIOCの資産内容の一部が公開されたが、1998年末で現金、銀行預金、放映権料の信託資金を合計して2億3700万ドル(およそ284億4000万円)で、1年間で100億円を超える収入があったという。ところがこの金額が正しいかどうか、外部にはチェックする術がないので、完全なブラックボックスである。この秘密主義にこそ、IOC幹部、通常オリンピック・マフィアと呼ばれてきた組織の謎が隠されている。
実はIOC理事会のさらに上に立つ組織、「IOC財務委員会」がある。この委員会は名目上はIOC理事会に収支決算を報告しなければならない立場にあり、サマランチ会長の下部組織のひとつと説明されてきたが、事実上は、金庫の扉を彼ら財務委員会が開き、彼らが閉じてきた。
1998年末に爆弾発言をしたIOC理事のマーク・ホドラーがその財務委員長だった人物で、しかも報道されてきたように「爆弾発言がすべて事実だった」という経過が、金脈メカニズムを証明していた。彼自身その後、事態が大きくなった成り行きにあわてて、長野オリンピック1周年記念行事に参加し、スキャンダルの火消し役をつとめはじめたのは、まったく怪しげではないか。
サマランチ会長に帳簿をつける能力があるはずもなく、実際にはオリンピック・クラブの中を何人かの実務家が取り仕切って、徹底した秘密主義を貫いてきた。
この財務委員会の委員長として1972年から君臨してきた黒幕が、さきほど紹介したクーベルタン男爵の後継者、フランス人ジャン・ド・ボーモン伯爵なのである。ボーモン家は男爵のような成り上りの商人貴族ではなく、侯爵家の分家として伯爵位を持つ旧家であり、しかも本家ピエール・ド・ボーモン侯爵の母は、フランス貴族として最高位、ブロイ公爵家の娘ジャンヌであった。ブロイ公爵家は、3代目がフランス首相となり、その妻は文学界で知らぬもののない女流作家スタール夫人の娘で、スイス銀行界から登場したファミリーである。その息子もまた、フランス首相となった。
これが真のオリンピック貴族であり、「IOC財務委員長」ボーモン伯爵当人の過去を追跡すると、今を去る半世紀以上前から、当時インドシナと呼ばれたベトナム南部の利権を争う選挙戦で勝利を収め、2年後の1938年にその時の買収が発覚して失脚したという異常な記録が発見される。東南アジアや中南米諸国における不正まみれの国家元首の選挙どころではない。フランス植民地の中枢にあったボーモン家は、アジア太平洋地域の広大な利権を握って、彼自身は、その頂点に立つインドシナ銀行の重役室に座り、植民地の7つの会社で社長、さらに別の7つの会社では副社長、さらに別の10の銀行・鉱山・農業・工業会社で重役のポストを占めてきた。オリンピックの五輪マークは、5つの大陸の明るい輝きと友好を象徴するはずだが、ボーモン伯爵はこれらの大陸を黒い輪で結ぶシンジケートの元締めであった。1973〜1974年版のフランス人名録に掲載されていたボーモンの欄には、この汚名であるはずの「インドシナ銀行重役」という履歴が記されていたが、彼がIOCの重要人物として注目されるようになった1988〜1989年版では、その記載が消えてしまっている。
植民地という言葉は古めかしく聞こえるが、映画『キリング・フィールド』に描かれ、今日のアジアで大きな問題となってきたカンボジア紛争では、現地で使用されてきた兵器がヨーロッパ、ことにこのフランスから大量に流れこんで殺し合いがおこなわれた。ジャン・ド・ボーモン伯爵は、IOCの副会長に就任する1970年までの十数年にわたって、問題のカンボジア商会の社長であり、現代フランスで最大規模の軍需産業トムソンCSFの重役をつとめてきた。1991年の中東湾岸戦争で莫大な利益をあげ、アメリカの軍需産業買収に乗り出してアメリカ議会で問題になった会社である。カンボジアのシアヌーク殿下が痛烈に批判したこの危険な履歴も、最近の彼の人名録では抹消されている。
さらに、一族のユーグ・ド・ボーモンは、ヨーロッパ大陸屈指の投資銀行ラザール・フレールの重役室にあり、ピエール・ド・ボーモン侯爵は電力建設シンジケートの幹部である。これらの実業界はみなユダヤ系のロスチャイルド財閥傘下にあるが、そこに不思議な矛盾がある。第二次世界大戦中にヒットラーがパリへ無血入城を果たし、フィリップ・ペタン元帥を傀儡かいらい政権としてフランス国内のファシスト勢力と手を組んだ当時、ユダヤ人を迫害したそのペタン元帥の政権を認める一票を投じたのが、ほかならぬ後年のIOC「副会長」・「財務委員長」ボーモンだったのである。
そこには反ユダヤ主義から「第二次世界大戦後」にユダヤ財閥に身を委ねるようになったボーモンの変節が見える。したがって問題は、過去のファシストや反ユダヤ主義者の犯罪歴を買い取って、彼らに首輪をつけ、現在の金融を動かしているのが誰か、という点に戦後史の真相が隠されているのである。
ボーモン伯爵の場合は、結婚相手の所有するリヴォー銀行が、イタリア最大の商業銀行として君臨してきたトリノ・サン・パオロ銀行の強力細胞を構成し、そこからシチリア・マフィアとフリーメーソンを動かす力を持っている。しばしば日本で過大に評価されている陰謀史観の首謀者フリーメーソンは、近代的な国際実業界では取るに足らない下部組織である。しかし一方、オリンピックにつきものの観光の世界は、西ヨーロッパ大陸全域が、ホテルからキャバレー、セックス産業に至るまでこれらメーソン人脈によって大がかりに動かされている。1998年8月には、ストックホルム市内の売春クラブが家宅捜索された時、偶然アイルランドなどのIOC委員を買春接待した伝票が押収される事件が発覚したが、2004年夏のオリンピック候補地に挙げられ、アテネに敗れたスウェーデンの首都での出来事であった。これらの売春組織や麻薬密売シンジケートなどの幹部を公式資料で調べると、かなり高い確率でフリーメーソンとの関係を見つけることができる。
このようなイタリアの銀行は、メディチ家の遺産を受け継ぐ世界的金融マフィアであるアンドレオッティ首相やコシガ大統領、ベルルスコーニ首相たちが辞任に追いこまれたイタリアの腐敗によって明らかになった通り、多くがこれら上流階級と麻薬・売春マフィアとスポーツ貴族の結束力に依拠したものであった。
1999年の大スキャンダル後に、IOCを改革するため発足した「IOC2000委員会」は、委員長にサマランチが就き、委員にイタリア産業界の総帥そうすいジョヴァンニ・アニェリが参加を表明したというのには驚かされた。アニェリはフィアット会長に君臨してきた自動車業界の大物だが、彼の妻の実兄カルロ・カラッチオロは、1982年にアンブロシアーノ銀行のロベルト・カルヴィ頭取が、ロンドンのテームズ河の橋の下で首吊り死体で発見され、ヨーロッパを震撼させた大事件に、フィクサーとして登場した人物である。イタリアで国家の中の一国家≠ニ言われるフリーメーソンの大組織プロパガンダ2──通称P2が、カルヴィ頭取の死に関与し、カルヴィが殺される¢Oに助けを求めたのがマフィアのフィクサーとして知られるそのカルロ・カラッチオロだった、と全世界に報道された。このような改革委員会では、オリンピックのIOCがマフィア直結組織だと証明するようなものだ。
そこから汚れた金が流れる隣国スイスの秘密口座を管理する人間たちと、ボーモン一族は、直結する人脈を持っていた。IOC本部やISLがスイスに存在する理由もそこにある。
買売春を含む買収疑惑が発覚すると、多くの人がアフリカやアジア、中南米などの買われた国、いわゆる後進国を連想するが、売春≠ニ買春≠フいずれに罪あるかは、言うまでもない。報道された一連の事実から明らかなように、買った国である日本、アメリカ、スイス、オランダ、ノルウェー、フィンランド、ドイツ、ロシア、大英帝国のカナダとオーストラリアなどの先進国が主体となった買収行為であった。
ここまではやや古い話だとお感じになっただろうが、これが新しい話なのである。現在の東京オリンピックのワイロ問題は、すべて長野オリンピックとソルトレーク・オリンピックのメカニズムと同じであり、登場人間も同じなのである。当時のスキャンダル発覚後に、IOCが倫理規定を強化し、「いかなる性質の報酬、手数料、手当、サービスも、間接的にも直接的にも受領したり、提供してはならない」と明記されたことに端を発している。その結果、何のことはない、IOC倫理規定がワイロを禁止したので、それをくぐり抜ける「オリンピック招致のためのワイロ専門のコンサルタント会社」が誕生しただけなのである。
つまり腐敗まみれのIOCサマランチ会長の取り巻きとして倫理規定を定めたのは、当時のサマランチ会長の取り巻き理事ジャック・ロゲであり、2013年9月7日に日本人の目の前で2020年東京オリンピック≠フ誘致を決定した時のベルギー貴族(伯爵)のIOC委員長が、このロゲなのである。さらにもう一人のサマランチ取り巻き理事トマス・バッハが、ロゲのあとを継いだ2019年現在のIOC委員長なのである。
これら取り巻き理事が、自ら定めた倫理規定を無視して、IOC傘下のコンサルタント会社に、JOC(日本オリンピック委員会)の竹田恆和会長らが裏金をばらまいて取り入り、福島原発事故の被害を隠すために2020年東京オリンピックを招致し、サマランチ会長の美しい商業主義≠復活させたのだから、もはや言い訳のしようがない。2020年東京オリンピックは「スポーツの祭典」ではないから、即刻返上がふさわしい。
加えて、サマランチ会長時代に不正が発覚後に発足した「疑惑調査委員会」の委員長となって、ほとんどのアメリカとヨーロッパのIOC委員を免責処分にしたのが、副会長ディック・パウンドであった。彼はオリンピックの水泳選手だったことはあるが、正式名リチャード・ウィリアム・ダンカン・パウンドといい、モントリオールの公認会計士として活動し、ニューヨークからロンドン、香港まで世界を股にかけるオフィスの有力メンバーであった。カナダとアメリカを拠点にして、実業界を動かしてきた財政の専門家だから、潤沢な資金を持つオリンピック公認スポンサー11社のうち、9社がアメリカ企業となっているIOCのマネー・フローは、すっかり彼の頭の中にあったメカニズムだ。
このように莫大な金銭の取引きが発覚したそもそもの事件は、発展途上国ではなく、アメリカ・オリンピック委員会の会長で、IOCの理事でもあったロバート・ヘルミックが、オリンピック関連企業から1億円近い金を受け取っていた疑惑が明るみに出た当時にあった。この事実は、スキャンダルによってヘルミックが辞任した1991年に、全貌が判明していた。アメリカのスポンサーと、テレビ局のNBCが放映権を握って、それが枝分れしてアメリカ三大ネットワークのCBS、ABCなどから流れこむドルによって競技が成り立ち、その「金の分配」を誰が決定するかというメカニズムが腐敗の原因だったのだ。このことは当時から現在まで、オリンピック関係者の常識である。
その深層を追及するのがジャーナリズムの役割であるのに、表面の上澄み部分しか報道されていない。前述の『黒い輪』で、同書の著者がこの問題を追及しながら、故なくヨーロッパなどの先進国を美化する姿勢に、解説者≠ニして私が大いなる異議を記したのは、そうした理由からである。これが神聖と考えられてきたスポーツ界の金融事情である。
緻密な解析が好きな読者であれば、紙を広げて過去の報道内容をひとつずつ線で結び、ワールドカップのサッカー貴族と、オリンピック貴族を区別することなく図解してみるとよい。実に見事に、全員が呼吸を合わせて、スケジュール通りに全世界から集金した成果を確認することができる。大統領も首相も、餌をあさる鳥のごとしである。そこからスタートして、まだ誰にも知られていない人名と組織名の謎を解きあかす作業が、テレビ報道界に待たれているのである。スポーツだからと見くびっていると、世界の醜悪な仕組みに驚くことも一度や二度ではない。
ギリシャは、2004年に第2回アテネ・オリンピックを開催したため、そのバブルが破裂して、巨額の財政赤字が積み重なり、リーマン・ショック翌年の2009年に経済危機が表面化して、ついに天文学的な財政赤字43兆円となったため、ギリシャ国債が大暴落して国家そのものが崩壊した。オリンピック大会のために倒産したギリシャ企業は数千にも達し、ユーロ圏全体や世界中を巻きこむ金融危機へと発展し、オリンピックから13年後の2017年になっても、若者の失業率が45%、つまり2人に1人が職のない状態にあって、ホームレスが激増した。その結果、今日までEUの中で、ギリシャ人がどれほどひどい扱いを受けてきたかぐらいは、誰でも知っているだろう。
日本に最後に訪れるのは、ギリシャと同じように東京オリンピックのバブルが崩壊したあとに襲いかかる経済混乱である。東京オリンピックは当初予算が7000億円だったはずだが、いつしか4倍を超える3兆円まで膨張したというのに、テレビ報道界は、「これは、詐欺だ!」という声もあげないままである。「マラソンの競技時刻が真夏の酷暑だ」といったことしか問題にしていない。新国立競技場を建設する中心人物であった建築家・安藤忠雄らの無責任さが放置されている。このままでは一体、日本と東京はどうなるのか!
私は高校時代に甲子園を目指した野球少年で、スポーツが無類に好きだった人間なので、オリンピックをやめろと言っているのではなく、福島原発事故の被曝被害隠しのための「東京オリンピックをやめろ」と言ってきたのである。最近の日本スポーツ界には、「日本が勝った! 日本が勝った!」と叫ぶ国粋主義のアナウンサーが多く、スポーツの技を楽しまない気風なので、どうも好きになれない。だが、2018年の韓国 平ピョン昌チャンオリンピックのスピードスケート女子500メートルで優勝した小こ平だいら奈な緒おと、プロテニスのグランドスラム全米オープンで優勝した大坂なおみ、この二人は、文句ナシに素晴らしかった。小平は、地元の韓国代表・李相花(イ・サンファ)とライバルだったが、彼女を破ったレース終了後に、二位になった親友の李相花をあたたかく抱擁してリング上を走る姿が、人間として実に美しかった。
大坂なおみは、日本人としてのグランドスラム(公式の世界四大大会)全米オープン初優勝と、2019年の全豪オープンでの連続優勝は立派すぎたが、父親がカリブ海ハイチ出身のアメリカ人というハーフなので、彼女の言うことが当意即妙、実に面白くて、テニス以上に彼女のユーモラスな人柄が日本中を魅了した。「あなたは大阪で生まれたから大坂さんなのですか?」、「そうよ、大阪で生まれた人はみんな大坂さんなのよ」……???
このように明るい話題、愉快な話題がありながら、福島原発事故の大被害を隠そうという魂胆で、放射能を浴びて逃げまどってきた膨大な数の人たちに、ただちに救済の手を差し伸べるべき金を使わず、大金を使って東京オリンピックを開催しようとする欲深い人間たちに牛耳られてきた日本のスポーツ界は、あまりに薄汚いと思わないか? これで若い世代に「正々堂々たるスポーツマンシップにのっとり」と宣誓させられるだろうか。東日本大震災後、いまだに仮設住宅に入っている人が大量にいて、避難者が5万人を超えるというのに、「復興オリンピック」だという。福島県内では、原発事故によって人生を追いつめられた関連死者が2000人を超えている。テレビ報道の出演者は、仮設住宅がどのようなものか知っているだろうか? たとえば私が見た仮設住宅は、土地がないという理由で、人里はなれた山奥に設置され、人間が暮らす場所ではなかった。山奥では、やることもないので仕方なくパチンコ屋にゆけば、「あいつらは……」と陰口を叩かれる。そのような孤独感にうちひしがれる人たちをほっておいて、平気でオリンピックを楽しめる日本人の気が知れない。
スポーツの名勝負を決定する土地は、たいてい決まっているのに、なぜオリンピック開催地を決めるのに大金が動くのか、ということが問題なのである。テニスの最高の栄誉はイギリスのウィンブルドン大会、マラソンの名所はボストン、正月の関東大学駅伝の名所は箱根、競馬はダービー、ゴルフもそのほかのスポーツも、世界的に栄光ある大競技会の会場は決まっている。プロ野球では、リーグ優勝の球場が最後のワールドシリーズや日本シリーズを開催し、高校野球は甲子園球場、大学野球のメッカは神宮球場と決まっている。毎回開催地を移動するために、招致の汚職や、無用のスタジアム建設によって自然破壊問題を起こしているのは、恥ずかしいことにサッカー・ワールドカップと、オリンピックと、アジア大会だけである。アジア大会でも、八百長が横行し、スポンサーの商業主義が横行して、さまざまな問題を起こしている。オリンピックは開催地を常にギリシャと決めておけば、大半の余計な利権が消滅し、委員や選手たちも余計なことを考えずにすむではないか!
◆大阪万博騒ぎで、おそろしいファミリーが再び動き出したぞ
もうひとつ、似たような騒ぎが起こった。2018年11月23日(日本時間24日)のパリで、2025年の大阪万博の招致が決定して、大喜びしている人間たちがいた。困ったものだ。
あろうことか、その前年の2017年10月4日に、原子力規制委員会が、犯罪企業・東京電力の新潟県・柏崎刈かり羽わ原発6・7号機に対して、新規制基準に適合するという再稼働の合格証を出したが、「この出来事」と「大阪万博」がつながっているのである! つまり、「東京オリンピック」と「福島原発事故」の関係と似たような構図になっているのだ。
原子力規制委員会で、田中 俊しゅん一いちの後を継いで2017年9月22日に新委員長に就任した更田豊志ふけたとよしが、東電に重罪を問うどころか、合格証を与えて日本中の怒りを買ったが、この男は一体何者なのか?
いつまでたっても、この男の正体を日本のテレビ・新聞がまったく報じないのでは、ジャーナリストとしての調査能力が低すぎて、報道人の資格がない。よってここで、明らかにしておきたいことがある。彼は東海村の原子力研究所の出身で、この原研が動燃と合体して組織された原研機構(日本原子力研究開発機構)の幹部となって高速増殖炉「もんじゅ」を破綻させ、さらに原子力安全委員会の委員として凄惨な福島原発事故≠導いた責任者である。
日本列島すべての原子力発電所に対して、稼働するか、稼働してはならないか、を決定する権限を持つのが、この原子力規制委員会である。その委員長に、かくも無責任な人間が就任したのでは、すぐにでも次の原発大事故が起こるおそれが高いことは、子供でも分るであろう。マスメディアが自分のために「こいつは危ないぞ」と考えて調査しなければおかしいのに、それをせずに怠っている。
この話を持ち出すのは、実は、大阪万博は次の2025年が2度目の開催で、最初の大阪万博≠ェ開催されたのが半世紀前だったことに関係がある。1970年3月14日〜9月13日の半年にわたって、EXPO70大阪万博≠ェ大阪千せん里り丘陵で開会され、77ヶ国が参加した。ところが! 万博が開会したその日に合わせて、開会を祝してテープが切られ、日本原子力発電株式会社(日本原電)の敦つる賀が原発1号機が大々的に営業運転を開始したのである。
これが、福井県の原発第1号となって、高速増殖炉「もんじゅ」を含めて、合計14基もの原発が林立する悪名高い原発銀座・福井県≠ェ誕生するスタートとなったのだ。
大阪万博が開会された直後の1970年3月31日には、 八幡製鉄と富士製鉄が合併して新日本製鉄が発足し、日本の高度経済成長のシンボルとしてもてはやされたのが、この時代であった。
それだけならまだしも、1970年の大阪万博♂長となった財界総理の経団連会長・石坂泰たい三ぞうは、原発メーカー東芝℃ミ長と、東京電力≠ニ日本原電≠フ取締役を歴任した男で、彼が万博の開会日に合わせて、自社・日本原電の敦賀原発の営業運転を大々的に開始させたのである。「東芝と東京電力と日本原電の親分が?」 そうですよ。
当時の高度経済成長時代とは、一体何だったのであろうか? 現在のテレビ報道に携わる若い世代は、こんなことも知らないのか、とわれわれが驚くほど、日本史を知らないようなので説明しておこう。
この大阪万博開催中の1970年7月18日には、東京都杉並区の立り っ正しょう高校の女生徒43人がグラウンドで運動中に呼吸困難となり、目やノドの痛みを訴えてバタバタ倒れた。
これが、わが国最初の光化学スモッグ発生となり、大公害時代を迎えて、国民が震撼した時代である。ところがすでに公害で200人を超える死者を出す時代にあって、この万博開催中、1970年8月18日の毎日新聞の「 0ゼロから四半世紀」シリーズ「経営者意識」のなかで、インタビューを受けて公害について尋ねられた万博会長・石坂泰三が、「お江戸のなかに八十何年住んでいるが、公害なんて感じたことはない。公害のために死んだ者はいないよ。産業をつぶしても公害を防げというのはおかしいね。どっちを選ぶかといえば、ぼくは産業を選ぶ」と、うそぶいたのだ。
毎日新聞記者が「それにしても最近の公害はひど過ぎるとは思いませんか」と言い返すと、「ちっとも、そう思わないね」と発言したのである。これが、2015年に巨額の不正会計が発覚して糾弾された原発メーカー「東芝」の親分であった。
記者が「四日市などはひどいでしょう」と言えば、「あまりひどくないね。正月に(三重県の)桑名と四日市へ行ったことがある。桑名は至って地味だが、四日市へ行ってみると、振りそでなんかきらびやかに着て、立派な帯を矢の字に締めてね。大変繁栄してますよ。公害のおかげなんていうとしかられるだろうが……」と、水俣病と共に「四大公害病」と呼ばれた四日市ぜんそくで苦しむ膨大な数の被害者に対して、その感情を逆なでする暴言を平然と吐いたのである。大量の死者を出し、被害者がもがき苦しんでいる時代に、財界トップが公害についてこの程度の認識であったのだ。この男が、福井県を原発銀座に変えた人物であった。
こうなると読者も、石坂泰三がどのような人物かを知りたくなるであろう。姻戚関係を調べると、石坂泰三の義弟にあたる更ふけ田た健彦たけひこが、原発メーカー三菱電機重役をつとめて、現在の原子力規制委員長・更田豊志ふけたとよしの祖父だったのである。
石坂泰三の義弟・更田健彦の婿養子・更ふけ田た豊と よ治じ郎ろ うが東海研究所の所長をつとめ、原子力委員会の委員を歴任した。この豊と よ治じ郎ろ うが規制委員長・更田豊志の父で、豊治郎の姉の夫・近藤健たけ男おが原発を最大ビジネスにする三菱商事社長で、その息子・近藤健一郎が「もんじゅ」をはじめとする原発メーカー三菱重工という原子力一色のファミリーであった。こうした出自から、出世の街道を歩んで規制委員会のトップに就いた更田豊志は、原子力産業の巨大利権人脈が送りこんだ人間だから、原発の危険性などにお構いなく、次々と原発を動かす使命を与えられてきたのである。
しかも2019年現在の更田委員長は、福島第一原発の事故処理現場の敷地にずらりと並ぶ巨大タンク群に、100万トン以上も貯蔵されている危険きわまりない放射能汚染水を、「タンクが貯蔵不能になってきたから、薄めて海に流せ」と主張してきた頭のおかしな超危険人物である。「海水をもってきて薄めて流せばいいなら、最初から放射能汚染水をタンクに貯蔵せず、そのまま海に流すのと同じ」ではないのか? こうして福島県から海に放流される大量の放射性物質は、寒流の親潮に乗って南下し、日本最大の水揚げを誇る千葉県の 銚ちょう子し漁港に押し寄せ、2018年に新設されたばかりの豊と よ洲すの魚市場≠ナ、魚介類にたっぷり入って売られることになる。テレビ報道界は、なぜこの更田委員長の犯罪を追及しないのか?
このように1970年・大阪万博には、歴史上でトンデモナイ「原発の放射能」とその人脈というおまけがついてきたが、2025年・大阪万博も同じようなおまけ付きである。今度の万博会場は、大阪湾に浮かぶ人工島「夢洲」だが、これを「ゆめしま」と読む。この名前を聞いて多くの人が思い浮かべる東京・江東区にある「夢の島」は、ご存知の通り、東京都のゴミ埋め立て地として利用され、1960〜1970年代にハエの大群が発生して住民を苦しめ続けた「悪夢、の島」としての歴史がある。実は、大阪府は2008年「オリンピック招致」が失敗に終ったため、懲こりもせずに万博を誘致して、間違って「二度目の万博誘致」に成功してしまったのだが、当初はオリンピック選手村を建設する計画だった夢洲もまた、工事で出る大量の建設残土や、有害な 浚しゅん渫せつ物ぶつを含むゴミ捨て場として建設された人工島である。ここを廃物利用して万博会場に変えるには、有害物質が大量に埋まったゴミを掘り起こさなければならないのだから、毒物が流れこむ大阪湾はどうなるのかねえ。
大阪万博を開催する時のトンデモナイおまけとは、大阪府知事がぶちあげているように、「カジノを設置する統合型リゾートの候補地」、分りやすく言えば、バクチ打ち会場として夢洲を開発するというお話である。現在でも、このあたりの治安が悪化して問題になっているが、実現すれば、これからは暴力団のヤクザ王国・大阪府のイメージが強くなることは間違いない。
万博会場の建設費は1200億円を超え、東京オリンピックの先例から、実際にはそれをはるかに上回る出費に苦しむと分っている。万博にまったく気乗りがしない関西経済界は、その金を負担しろと奉加帳を回されても、金を出せない。無駄に無駄を重ねて、開催前から「万博バブル崩壊」の声が強いのである。
◆二酸化炭素温暖化説の嘘が警告する地球の危機
ダメを押すように、2018年11月7日には、このような大阪万博のボスで「日本原電」および「東京電力」取締役だった石坂泰三の親族・更ふけ田た豊と よ志しが委員長をつとめる原子力規制委員会が、「東京電力」柏崎刈羽原発だけでなく、40年の運転寿命を迎える「日本原電」の茨城県・東海第二原発に対して、運転期間の20年延長を認め、ボロボロ原発を「60年までは運転してよろしい」と決定して、安全審査を終了したのである。東京駅からほぼ100キロ圏の原発で、東日本大震災以後、地元・茨城県では地震が続発しているというのに、何とおそろしい原発ファミリーなのだ。東京都・千葉県・埼玉県・神奈川県・茨城県にまたがる首都圏の5都県で、原発事故の放射能を直接浴びる総人口は、ざっと3900万人、日本の人口の3分の1ですよ。
加えて、信じられないことに、原子力規制委員会には、地震学者が一人もいないのだ。
いいかね、テレビ報道界の諸氏よ、あなたたちは原子力と地震についてシロウトらしいから、自分の身のためだと思ってよく聞きなさい。
昨年2018年6月18日に、大阪北部で内陸直下地震が起こった。震度6弱の地震は大阪府で観測史上初めてであり、この震源の断層は確定できていないのである。
そのあと、7月6日から西日本が豪雨に襲われ、岡山県・広島県・愛媛県・岐阜県などで死者・行方不明者200人を超える大被害を出し、2ヶ月後の9月4日には、強烈な台風21号が関西を直撃して上陸し、関西国際空港(関空)が甚大な被害を被った。ここ関空も夢ゆめ洲しまと同じ人工島なので、高潮が防潮堤を乗り越え、ほぼ全域が冠水して空港は停電し、第一ターミナルでは浸水が40〜50センチにも達した。最大瞬間風速58メートルが記録される中、吹き飛ばされたタンカーが連絡橋に衝突して、すべての航空便が欠航となった。ここに津波が重なっていれば……人工島・関空はどうなっていたか、というのに、大阪万博会場の夢洲では、地盤沈下が起こっているのである。
この関西直撃の台風被害が続く真っただ中、9月6日には北海道南部の胆い振ぶり東部を震源とする内陸直下の大地震が起こって、北海道民を震え上がらせた。北海道で初めての震度7、つまり2016年の熊本大地震と同じ「地震で最大の揺れ」を記録した北海道厚あつ真ま町ちょうでは、火山噴火で形成された地層が大規模な土砂崩れを起こし、全山の山崩れで生き埋めになって36人が死亡した。そして北海道全土が一週間以上にわたって停電になる「わが国初めての域内全停電──ブラックアウト」を招き、病院や酪農家などが、深刻な被害を受けた。
2018年の漢字に「災」が選ばれたほどだが、テレビ報道界は、この災害が続発した2018年を、忘れたわけではあるまい。そこでテレビ報道に出演するコメンテイターたちは、出てくる人間ほぼ全員が、「2018年の夏は異常な猛暑だった。災害の原因は地球温暖化である」と、口にした。彼ら彼女らは、「地球温暖化は、もはや議論する必要もない」とまで、言いたそうであった。ところが彼ら彼女らは、ただの一人も「二酸化炭素(CO2)の放出によって地球の温暖化が加速している」という自分たちの簡単な主張を、科学的に実証しようとはしなかった。どうも日本人は、他人の噂話に惑わされやすく、子供でも分る科学を議論することが苦手なようだ。それでいてノーベル賞などを喜んで礼讃する珍妙な人種である。
私は『二酸化炭素温暖化説の崩壊』(集英社新書)の著者として、CO2による地球温暖化説が間違いであることを科学論によって実証したが、同書を2010年に発刊してから、すでに10年も経とうとしているので、分りやすい要点を本稿に記述しておく。CO2による地球温暖化説の嘘について説明するのに、私の講演は普通4時間だが、ここではダイジェストだけを述べる。
石油や石炭を燃やした時に発生する二酸化炭素(CO2)によって地球が温暖化するという説を流布してきたのは、国連のIPCC(Intergovernmental Panel on ClimateChange──気候変動に関する政府間パネル)で、その名の通り、いかにも怪しげな政治集団である。このIPCCが最も非難されるべきは、過去の人たちが生涯を捧げておこなってきた考古学、文化人類学、生物進化学、気象学、地質学、宇宙科学のすべてのデータをまったく無視して、根拠のない「疑似科学」を人類の頭にすり込んだことにある。
2015年までこのIPCC議長だったラジェンドラ・パチャウリは、アメリカ副大統領アル・ゴアと共にCO2温暖化説を煽あおって、先述の通り最もいかがわしいノーベル平和賞を受賞した人物である。CO2温暖化説が、ノーベル物理学賞に値する科学的真理ではなかったので、どうでもいい平和賞を与えたのである。このパチャウリ議長は、温室効果ガス(CO2)の排出権取引きで莫大な利益を得る銀行の顧問をつとめ、この取引きで多国籍企業とエネルギー業界が生み出す資金を、パチャウリ自身が理事長・所長をつとめる「エネルギー資源研究所」に振り込ませていたことが、2010年1月に発覚した。この通り、IPCCは、CO2を食い物にする詐欺グループだったのである。
実は、1988年にIPCCが設立された時、初代議長に就任したバート・ボリンが、「2020年には、海水面が60メートルから120メートルも上昇し、ロンドンもニューヨークも水没している」と予測して、CO2温暖化説を煽あおったのだからたまげるではないか。2020年というのは、東京オリンピック開催の年である。その時に、新幹線5輌を縦に立てた高さ、120メートルという天を見上げるほどの海水でロンドンもニューヨークも水没している、と信じる読者がいるだろうか? 青木 理おさむのようにテレビ報道に頻繁に出演するコメンテイターたちは、「2018年の夏は異常に暑かった。地球温暖化が原因であろう」と、つい口にしてしまうが、まさか彼らが、IPCCの詐欺師集団やCO2学説を信じる新興宗教のために、そのようなことを主張するほど愚かとは思えないので、聞いてもらいたい。
この問題を真剣に考察してきた賢明な読者であれば、1998年頃まで「温暖化、温暖化」と騒いでいた人類が、最近は「異常気象、異常気象」と言葉を変えてきていることに気づいているはずである。IPCC集団は、なぜ表現を変えたのだろう。
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人類が、気温上昇が続いた1998年まで「CO2地球温暖化説の誤り」に気づかない人間が多かったことは仕方ないにしても、2010年になってもその過ちを認めないので、現在のように虚構の地球科学が横行しているのである。
地球の気温が上昇していた1990年代には、NHKテレビがニュースの冒頭に「南極」の氷が崩れ落ちる映像を流して、「温暖化対策は待ったなし」と叫んでいた通り、「南極の氷が溶けて地球が水没する」という説は、地球温暖化の脅威を煽あおる目玉であった。ところが、現在では誰一人、南極を口にしない。どうしたわけなのか? それは、南極では2010年代に入って、氷が溶けるどころか、逆に分厚い氷と大量の積雪に、南極観測隊が四苦八苦する寒い年が続いたからである。さらに「南極の氷が崩れ落ちるのは、太古の大昔から続いてきた自然現象だから、人類によるCO2の排出とは無関係なんだよ」と指摘されて恥をかいたからである。このようにIPCCの主張がコロコロ変ってきているのに、おかしいと気づかないのは、テレビ報道界の故意であるから、日本のテレビ局もIPCC同様にかなり悪質である。
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そこで恥をかいたIPCC集団が、ここで嘘の主張を取り下げれば問題はなかったのだが、人間というものは屁理屈をつけて言い訳したがる生き物である。引っ込みがつかないので、「CO2による気温上昇論の嘘」を知られないようにするには、「温暖化」ではなく、山火事や台風、竜巻などの自然現象を、一緒くたにまとめて「異常気象が広がっている」という情緒論で、自然の脅威として煽あおれば、大衆なんてすぐにだませるという戦略に切り換えたところ、共犯者のマスメディアがそれに乗ったのである。
そこでたった今! 2018年12月15日に採択された現在の「パリ協定」の運用ルールでは、従来の「ホッケースティックの図」で主張していたような20世紀に入ってからの気温上昇ではなく、「産業革命以後の1800年代の気温と、現在の気温」を比較して、気温上昇を2℃未満におさえることを目標にする、と決めたのだ。これは、人類が産業革命によって石炭を燃やしてCO2を出し始めた時代に戻らないと、地球の気温上昇を主張できなくなったからである。ところが笑止、その産業革命時代にはCO2放出量が現在の1億分の1程度の微々たるものなので、石炭のCO2によって気温上昇が始まったという科学的根拠になるはずがない。さらに今のグラフに示されるように、人類が石炭を使い始めた産業革命時代の前(1600年頃)から、地球の温暖化が始まっていて、世界中の氷河の融解もスタートしていたことを、ありとあらゆる自然界のデータが示していたのである。かくして「1900年代の20世紀、しかも後半になって、工業界でCO2の放出量が急増したことと、地球の温度変化は無関係である」ことも科学的に明白であった。
科学者が知る通り、温暖化および寒冷化は、地球上で太古の昔からたびたびくりかえされてきた自然現象である。日本では、考古学で「縄じょう文もん海かい進しん」として知られるように、人間が石油も石炭も使わなかったほぼ1万年前の縄文時代に、東京湾の海が栃木県あたりまで広がるほど海面水位が高く、現在よりはるかに温暖化していたことは、関東地方各地の縄文人の貝塚の遺跡から明らかになっている。数千年前の日本中の、たとえば読者の郷里の海面水位を調べてごらんなさい。数千年前には、今よりはるかに地球は温暖化して、海面水位は5メートルも高かったのである。したがってこのような「地球の気候変動」と「工業化によるCO2排出」がまったく無関係だということは、はっきりしている。地球に気候変動を起こす要因は数々あって、エルニーニョもラニーニャもあればミランコヴィッチ・サイクルもあり、火山の大噴火もあり、前掲の私の著書にそれを列挙しておいたが、主に太陽の活動のような宇宙の変化が、気候変動を起こしていることは明らかである。したがって、気候変動は、人間には手の届かない現象なのである。
ところが、子供でも分るその科学的な真理を、葬ろうとする人間がいる。答を明かせば、そもそもIPCCは政治的組織で、参加している研究者は単なるボランティアであって、学術研究連合や国際学会のような性格を持つ科学的な組織ではない。日本のすべての大新聞には、現在も温暖化のデタラメキャンペーン記事が毎月2、3件は出ているが、その出典は、CO2温暖化説を利権にし、国家予算をもらって食っている人間が出す科学的根拠のない100年後の予測なのである。IPCCは気候変動を研究する科学の専門家ではないので、独自の調査研究は実施せずに、自分の主張を強化するために、そうした温暖化説に合致する研究成果だけを集めているグループで、背後には原子力産業があって、彼らがCO2温暖化説を悪用して原発建設を進めてきたのである。したがってIPCC報告書というのは、政策立案者向けに作成された独断と偏見に満ちた政治的メモにすぎず、学術論文ではない。その結果、2000年にIPCCが公表した100年後の気温シミュレーションは、高度コンピューターを使った採用データの全員が「気温上昇」を予測していたが、わずか10年後の予測で全員が外れて、先ほどのグラフのように気温が低下してしまったのだ。
読者は、IPCC専属の「専門家」が10年後の予測もできないのに、100年後を予測することができるとお考えであろうか。日本では、IPCC報告書は世界のトップレベルの研究者の意見の一致だと勘違いしている人間が多いが、IPCC専属の専門家は小学生並みの頭脳なのである。このように、多数決で世論を形成しようとする責任者は、エコロジストと自称する、非科学的で無知な自然破壊者たちと、彼らの言葉を自分で検討もせずに引用する新聞記者・テレビ記者なのである。
今年2019年3月15日には、全世界120ヶ国で一斉に「地球温暖化対策の強化を政府に求めるデモ」が、若者たちを中心におこなわれたと、テレビ・新聞は騒ぎ回ったが、この若者たちが抱いている危機感の前提が、科学的根拠のない100年後の気温予測だとは、どのテレビ・新聞も報道しなかった。この若者たちが50歳ぐらいになって、「なんだ、俺たちが聞いていた予測は、まったく間違ってたじゃないか」と恥をかくのが落ちである。この若者たちは、原発の運転を金科玉条に掲げる経済産業省の「温室効果ガス削減キャンペーン」を支持し、自分たちが犯罪を広める手先になっていることの自覚さえない。
科学的な反証データを次々と突きつけられたIPCCは、地球の気温が上昇しているように見せなければならないため、大量の温度データを改竄かいざん
・捏造ねつぞうし始めたのである。ところが10年前の2009年に、その改竄・捏造が暴露されてしまったのだ。左のグラフのように
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しかし全世界に広まったクライメートゲート・スキャンダルの結果、ドイツのシュピーゲル誌(Spiegel)2010年3月27日号によれば、3月22〜24日におこなったドイツ人の意識調査で、「地球温暖化はこわいと思うか?」という質問に、58%が「Nein(ナイン)」(=英語の「NO」=「いいえ」)と回答した。環境保護運動が最も盛んでCO2温暖化説のリーダーだったドイツ人の過半数が、ついにCO2温暖化説を信じなくなったのである。ほぼ同じ時期にアメリカ・ヴァージニア州の大学調査(George Mason University, Centerfor Climate Change Communicarion 2010年3月29日発表)で、1〜2月にアメリカ気象学会と全米気象協会のテレビ気象予報士にアンケートをとった結果でも、571人の回答者のうち63%が「気候変動の主因はCO2ではなく、自然現象である」と回答し、26%が「地球温暖化論は詐欺の一種である」とまで回答した。
このように、真の科学者のあいだで詐欺師と呼ばれる人間が集まってパリ協定を決めた本拠地フランスでは、2018年12月に毎週土曜の黄色ベスト運動≠ェ全土で吹き荒れて、「パリ協定? 脱炭素? 冗談じゃない。マクロンのようなペテン師はぶっ飛ばせ!」と、ロスチャイルド銀行出身のエマニュエル・マクロン大統領を追いつめるデモを展開し、フランス国民の8割がこのデモを支持した世論は、誰でも知っているであろう。
これほど中学生に分る科学を論じない無知な国民が、先進国の日本人であるということが不思議でならない。日本人はバカではないのに、なぜ日本人は無知になったのか。その責任は、世界的なクライメートゲート・スキャンダルさえ報道しなかったすべての日本の報道界──新聞とテレビにある。詐欺集団IPCCの手先となって、根拠のない話を語る江え守も り正せい多たの言葉を引用し、古くて朽ち果てたCO2温暖化説を再びゴミ箱から拾い出して煽動するのが、テレビ報道界の常套手段になっているが、この男は、国立環境研究所地球環境研究センターの「温暖化リスク評価研究室室長」として、温暖化説によって得られる利権のために発言しているだけだということが、マスメディアには分っていない。ところがクライメートゲート事件ですっかり人望を失ったIPCCが、まったく信用ならない地球の温度データを発表し続け、2016年あたりから巻き返して、シロウト記者を欺き始めた。
たとえば昨年2018年11月のアメリカ西部カリフォルニア州の山火事が、同州で史上最多の犠牲者を出したことをもって、温暖化が原因だと騒ぎ立てる人間がゾロゾロ出てきた。カリフォルニア州では夏に山火事が発生するのは毎年のことだが、2018年は秋に入っても雨が少なく、そこに電力大手「PG&E」社の送電線の火花から山火事が起こったので、例年以上に燃え広がった。しかし実は、近年に人口が増加したカリフォルニア州では、1990年代以降に新たに建てられた住宅の6割が山火事の発生しやすい場所なので、そこでの人口が増えて、数字の上で犠牲者が多くなったのは当然なのである。
この山火事について、よく聞いていると、CO2が原因だとは誰も断言していない。だが、トランプ大統領が「CO2温暖化説を信じない(I don't believe!)」と発言してパリ協定から脱退したので、トランプを嫌いな人間だけが、「気候変動が原因ではないか?」と、よく分らない曖昧な説明をするのである。偽善者のノーベル平和賞受賞者である民主党のオバマ大統領がアフガン攻撃をやめず、人殺しに熱中していた時、ひと言も文句を言わずに沈黙していた俳優レオナルド・ディカプリオのような民主党の太鼓持ちは、共和党のトランプ大統領が登場した途端に、「カリフォルニア州の山火事は温暖化が原因だ。トランプ大統領が悪い」と、空っぽの頭で騒ぎ出した。最近のアメリカで山火事が増え、大災害化していると騒がれるが、これはまったくの嘘である。1988年のイエローストーンの山火事では158万エーカーという焼失面積を記録して温暖化のせいだと言われたが、それよりはるか昔の1910年の山火事(Great Idaho wildfire)ではその2倍の300万エーカーが焼失している。アメリカ合衆国火災局の報告書によれば、 19世紀の 1894年の山火事(Wisconsin wildfire)で数百万エーカー、1871年の山火事(Peshtigo wildfire)で378万エーカーと、はるかに大規模の山火事が頻発した。ところが、大騒ぎした2018年11月のカリフォルニア州の山火事は、それより一桁下のわずか数十万エーカーなのである【これらの山火事に関しては、“October 2000,Wildland Fires: A Historical Perspective”の報告が正確な数字であり、Wikipedia ウィキペディア≠フ数字は間違えているので注意】。
ここで私はテレビ報道界に対して、「噂や、書き手署名のないWikipediaに惑わされず、IPCCやCO2温暖化論者が言っていることを自分の頭で考えて、本当かどうか検証してご覧なさい」と言っているだけである。
テレビ報道に携わる人間が、たとえば羽鳥慎一や玉川徹や青木理や、サンデーモーニングの司会者・関口宏が、文科系であるか理科系であるかは、関係ない。先のノーベル賞受賞者の項で、学歴のない人たちが数々の大発見・大発明をした事実を列挙したのは、自然界の科学を論ずる時に、学歴がまったく不要だということを知ってもらうためである。というより、私よりずっと頭のいい人間であるテレビ報道人にとって、これは中学生の理科≠ナ分る話なので、このような理屈が「自分の頭で分らない人間」は、テレビに出てニュース報道を解説する資格はない。
私が、「地球の気象を左右しているのは主に宇宙であり、CO2ではない」と敢えて発言するのは、IPCCや、そのプロパンガンダの手先である江守正多らがまき散らす根拠のない噂話を信ずれば大変なことになるからである。罪のないCO2を犯人だと決めつけ、あたかCO2を論ずれば環境を守れるかのように悪質な偽善者ばかりが横行するようになった現在、アホで間抜けな人類が、環境破壊を起こしている真犯人を放置し、子供たちの体をむしばんで、ぜんそくやアレルギー症状を引き起こし、自然を破壊しているのだ。そうした数々の実害を忘れつつある人間に緊急に警告することが目的なのである。
それらは、自然界のコンクリート化、大量に増えつつある都市排熱(ヒートアイランド現象)、窒素酸化物(NOx)、硫黄酸化物(SOx)、浮遊粒子状物質、放射性物質、環境ホルモン、遺伝子組み換え食品、有害な食品添加物、農薬、大量のプラスチックゴミの排出、戦争行為など、山のようにある。そのうち中国・韓国などアジア各国で近年問題になっている大気汚染物質のPM2・5は、浮遊粒子状物質のうち粒子径が2・5ミクロン(0・0025mm)以下の微粒子である。
さて、地球の気候変動に最も影響を与える太陽の活動に、話を戻してみよう。
1610年に、ガリレオが太陽に「黒点」を発見して以来、人類が観測を続けてきた結果、太陽黒点が増えたり減ったりする平均的な周期11年が明らかにされている。そして、黒点がゼロ近くに減った時期には、地球が氷河期のように寒くなった。この事実に、異を唱える人間はまったくいない。なぜ黒点の増減が地球の気候に影響を与えるのであろうか。
太陽の活動が活発化すると、内部の磁力が表面に現われる。この磁力線によってエネルギーの流れが妨げられた部分は温度が低くなって、太陽表面に「黒点」が出現するのである。太陽の温度は6000℃ぐらいだが、3000℃しかない部分が黒点となるのである。
つまり、黒点が増えた時は太陽の活動が活発で、黒点が少ない時期は太陽の活動が小さい。黒点が少なく、太陽の活動が小さい時には、【次頁の左の図】に示すように、宇宙線が太陽風に 遮さえぎられずに地球に降り注ぐため、大気中の分子が活性化して、空気中の水滴が雲をつくりやすくなるので、地球の気温が下がって寒冷化する傾向がある。逆に、黒点が増える時期は、太陽の活動が活発なので、右の図のように太陽風のプラズマが強くなり、地球に降り注ぐ宇宙線を 遮さえぎる。すると大気中の分子が水滴になりにくくなるので、雲が減って、地球は温暖になる傾向がある。
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そこで気がかりなのは、2015年にイギリスのノーザンブリア大学のバレンティーナ・ザーコバ教授が、「太陽の活動は2030年代に現在の60%にまで減少し、97%の確率でミニ氷河期(地球の大寒冷化)が到来する」と発表したことである。事実、5年前の2014年をピークに太陽の黒点数は減少に転じており、毎日の黒点の平均個数は、2014年2月が102個だったのに対して、2年前の2017年11月は6個、12月は8個と激減したのである。去年2018年1月には、黒点がまったく観測できない日もしばしばあり、ほぼ300年前に全世界が大寒冷化した時とそっくりだったのである。NASAとアリゾナ大学の専門家によれば、2022年に起こる次の太陽黒点の第25周期のピーク時には、太陽活動がはるかに弱くなると予測されているので、温暖化どころか、逆に人類は、極寒のミニ氷河期に備えなければならなくなる。つまり地球の寒冷化説がきわめて有力であり、ここ10年以上、冬の豪雪・積雪・最低気温・大寒波の記録が次々に塗り替えられている。このような寒冷化のほうが、人類の遭遇する苦難が、温暖化よりはるかに大きくなることは、誰が考えても分る。
今年2019年1月には、アメリカとカナダが厳しい寒さに襲われ、アメリカ中西部のミネソタ州では、1月30日に体感温度が氷点下53・9℃という猛烈な寒さとなった。ヨーロッパのアルプスでも記録的大雪となり、オーストリアのチロル地方では1月1日からの15日間で、100年に一度という4メートル51センチの積雪を記録し、スイス東部でも平年の2倍の積雪となった。
このような諸説と日々のニュースが流れる中で、私自身は、温暖化説も、寒冷化説も、どちらも当てにならないので、信じないことにしている。神ならぬ人間にとって、将来の宇宙と太陽が与える気候の変化がどうなるかは未知で、絶えず人類の予測は外れるから、「今後の地球の気候を観察して判断します」と答えるのが、最も科学的であるからだ。
重要なのは、「CO2が気候変動に無関係である」ことを知ったなら、先進国で使用されている最新の石炭火力≠ェ発電法としてコストが最も安い事実を認識することである。現在のヨーロッパ、アメリカなど先進国の石炭火力は、中国やインドのように粉塵ふんじん巻きあげる老朽化した石炭火力とはまるで違うのである。日本では横浜市磯いそ子ごにあるJパワー(電源開発)の石炭火力発電所のように、煙も出ないほど世界一クリーンになっている。ここまでクリーンになった高度な石炭燃焼技術を広く活用するべきである。
この石炭に関連する議論といえば、TBSサンデーモーニングが代表的な間違いに視聴者を誘導していたので、読者も知っておくべきことを述べておく。本稿はテレビ報道を非難するために書いているのではないので、先に、この番組がすぐれている点を紹介しておくと、解説にできるだけエレクトロニクス技術を使わないように心がけているらしく、説明用のプラスチック・パネルの代りに、段ボールの紙に手書きして、マギー司郎をしのぐ超絶技巧のテクニックで次々と紙芝居のように時事解説を披露するコーナーがあって、実に魅力的である。また、ホワイトボードにマジックで書くと筆の味が出ずに下手な文字になるので、昔の学校の黒板のような「緑板にチョーク」で文字を書いて説明する、といったところまで工夫をこらしているところが見事である。さらに一週間まとめての「スポーツニュース」が、張本はりもと勲いさおの解説付きで充実していることと、番組の最後に報告される「自然界の四季の変化」もなかなか面白い。
ところが2019年3月10日放映のサンデーモーニング「東日本大震災8年特集」で、「将来の日本のエネルギー(電力)をどうすべきか」という問題について、「原発を続けるべきか、それとも再生可能エネルギーに切り換えるべきか」という二者択一の設問を掲げていた。この設問は、市民運動でも最近の主流になっているが、原発と再生可能エネルギー(自然エネルギー)は、いずれもよくない、という事実が抜けているので、間違いである。何もかもまとめて自然エネルギーと呼ぶのは間違いであり、私が日本で推奨できる自然エネルギーは、住宅や工場の屋根に設置するソーラーパネルと、小水力発電ぐらいである。メガソーラーや風力発電が、広大な山林を伐採して日本の自然破壊を進めていることに、どれほど多くの人間が迷惑しているかということも知らないのが、最近の心ない大都会の人間と市民運動かと思うと、愕然とする。地熱発電は、日本では温泉を枯渇させたり、地震を誘発する。バイオマスも、福島原発事故で山林が放射能を浴びた東日本では、廃物木材を燃焼させると放射性セシウムをまき散らすので、危険である。日本では、原発をゼロにするのに、自然エネルギーも不要だから、あわてて普及する必要はないのである。
サンデーモーニングのディレクターは、現在の日本の電力は、大部分が天然ガスと石炭火力で維持されていることを知らずに、「原発か自然エネルギーか」という設問を立てたのであろう。東日本大震災後、2013年9月15日に福井県の大おお飯い原発が運転をストップして以来、2015年8月11日に鹿児島県の川内せんだい原発が再稼働されるまで、丸々2年間、真夏の猛暑期も、真冬の酷寒期も、「完全に原発ゼロ時代」を達成したのが日本であった。
その2年間の電力を、どのようなエネルギーが供給してくれたかを、テレビ報道界は自分が大電力消費者でありながら知らないらしい。この表の通り、2014年度の原発はゼロ%で、
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現在、天然ガスはシェールガスだけでなく、タイトサンドガス、コールベッドメタンなどが世界各国で大量に採掘できるようになって数百年の埋蔵量がみこまれており、地下資源として豊富な石炭は、ほぼ無尽蔵にあることが明らかになっている。そして前述の通り、ガスと石炭の燃焼によって出るCO2は気候変動に無関係である。現在の技術で、日本の石炭火力は無害だから、人間の生活にとって最大の必需品である鉄をつくる製鉄会社では石炭火力が使われ、製鉄会社で余った電力は、電力会社経由で一般家庭にも供給されている。加えて、これら火力発電所の最大の利点は「大量の電力消費地である大都市」の真ん中に設置でき、小さな面積しか必要とせず、きわめて発電効率の高い発電所で間に合うので、メガソーラーや風力発電のように自然を破壊しないことにある。勿論コストも、自然エネルギーより安い。
しばしば日本との比較で引き合いに出されるドイツは、山がほとんどない地形なので水力発電ダムに向いた日本とまったく異なり、地域的な産業構造も日本と違うので、比較しても意味はない。ドイツも昨年2018年には3分の1以上の電力をクリーンな石炭火力でまかなっているが、自然エネルギー普及を政策に掲げるドイツ最大の問題は、電気代が高騰し続けて、工業界が悲鳴をあげていることである。
日本の場合、産業界が日本最大の電力消費者であるので、東日本大震災で大被害を受けたあと、自分たちが生き残るために世界の最先端を走る独自の進歩を遂げてきた。ところが、その実業界の知識を知らないテレビ報道界や、情緒的な市民運動と、悪質な日本政府が、いまだに「原発と自然エネルギーのいずれを使うべきか」という間違った設問を投げかけて、CO2温暖化論と共に人々を混乱させているのである。
人類には、先に述べた通り、科学的根拠のない気候変動で騒ぐより先に考えるべき問題がある。人口集中が加速する都会において、自動車と冷暖房、コンクリート化などによって過大な都市熱が島状にこもって、さまざまな異常気象をもたらすヒートアイランド現象と、原子力発電の次の大事故による脅威のほうが、差し迫った深刻な問題である。
では読者は、どう考えればよいのだろうか。昨年2018年夏に、日本に住んでいた読者自身が実際に「異常な猛暑」と感じた原因は何だったのだろうか、と尋ねてみればよいのだ。
この世の災害などの異常気象はすべてCO2が原因だと主張する人たちは、「地球温暖化によって、水害や台風が起こりやすくなっている」と考えがちだが、それは憶測や観念的な噂であって、ただの一度も、誰からも、科学的な証明がなされないのである。
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なぜ地球温暖化説と、台風を日本人が結びつけて考えやすいかといえば、2018年9月4日に関西地方を直撃した台風が甚大な被害をもたらし、テレビが一日中、台風特集を組んで大騒ぎし、その時、テレビ報道界のコメンテイターが「異常気象だ。地球温暖化のせいだ」と騒ぎ立てたからである。
青木理のようなコメンテイターは、7月の西日本の大水害の時から、「私は長野県の出身ですが、先日、長野県で自動車に乗っていて今まで体験したことがない豪雨に遭いました」と言って、温暖化による異常気象を強調した。青木さん、あなたは理性的な人間だと知っているから申し上げておきますが、悪いけれど2018年にわずか52歳で、半世紀の人生体験しかないあなたが言う個人的な体験≠ヘ、気候変動とまったく関係ないのですよ。つまり今示した台風のグラフで、台風が最も多かった1967年に青木さんは1歳なんだから、「自分が体験した記憶がないんです」よ。
2018年の西日本水害の雨量は、被害者にとって例年より多かったと感じたのは本当だが、それは気象庁が「記録的な雨量だった」と大袈裟に言ったためで、記録的の的は最高記録ではなく、「平成の雨量記録」の中でやや大きかったという意味である。そして、平成というのは、たった30年の期間なのである。このように気象庁の言葉はまぎらわしいので、ニュースで驚かせるビックリ詐欺に引っかからないよう聞き分ける必要がある。人間という生き物は、自分の短い人生体験でものごとを大袈裟に感じやすいが、たいていは、その思いこみが間違っているものである。私も長野県に家を持っているが、広い長野県では、山ひとつ越えるだけで天候がガラリと変る。私が50年前に、長野県ではなく東京都心で自動車を運転していて、目の前がまったく見えないドシャ降りの豪雨に遭遇して、危うく地下鉄工事の深い穴に突っこみそうになり、一命をとりとめた体験がある。そんなわずか半世紀前の個人的な体験≠持ち出して、「気候変動」を議論するのに必要な「1000年、2000年」いや「地球の歴史46億年の出来事」を比較するような、シロウトでも分る嘘をテレビでしゃべってはいけない。現在テレビに出てくる気象庁の担当者たちが、最近はIPCCの手先となって、2013年の豪雨の予測以来「今まで体験したことがない」と大嘘を連発しては、そのたびに予測が外れて恥をかいているが、全員が40〜50代の年齢層で、気象庁の係官が体験したことがないだけなのだから、視聴者はだまされてはいけない。こういう体験談の話にだまされるのは、自分が大嘘をつくのと同じぐらいの罪である。
一方、われわれ高齢者にとっても、2018年に風速58メートルを超えた関西の台風は、東京でも強大な台風だと感じてこわかったのは、これも事実である。ところがそれは東京の台風が久しぶりだっただけで、実際には、われわれの若い時代に記憶のあるほぼ60年前の伊勢湾台風(1959年9月21日〜27日)では、死者・行方不明者が5098名であり、思い出すだに本当にすさまじい台風であった。台風の強風の記録では、1965年9月6日に発生した台風シャーリーが四国・高知県の室むろ戸と岬みさきに上陸して「日本観測史上最も強い最大風速」69・8メートルを記録した。翌年1966年9月に沖縄の宮みや古こ島じまに大きな影響を与えた台風18号(第2宮古島台風)が、宮古島で「最大瞬間風速」85・3メートルを観測し、2018年までの日本の観測史上1位の記録である。これら1965〜1966年も不思議なことに、有名な地球の寒冷期の出来事だが、現在のテレビ報道界で記憶している人間はほとんどいない。加えてこれらは明治時代以降に気象学的に観測された記録≠ネのであって、その前の江戸時代に 遡さかのぼると、1828年8月9日(文政11年)には、北九州に空前の巨大台風が襲いかかった。これが「子ね年どしの大嵐/シーボルト台風」と呼ばれ、北九州全体で1万9000人の死者という現在まで日本史上最大の台風被害記録≠ナある。明治時代より前のこの出来事には、気象学的な観測記録さえない。
このように人間の記憶は、過去についてどんどん薄められるが、一方、テレビ報道は、ニュース=NEWS≠ニいう言葉が新しい出来事≠ニいう意味だから、今日きょうのニュースを視聴者に対して衝撃的に伝えて驚かせてやろうという、宿命的な魂胆を持っている。そこで、今が一番大変な時期だと思うように「記録的」を多用する大袈裟な報道がおこなわれ、誰もが錯覚させられるのである。2018年の西日本の大水害と台風被害は、「日本近海の海水温度の上昇」と、「上空の高気圧の配置」と、「インド洋からの季節風が例年以上に強く吹いた気象条件」などが組み合わさった結果なので、気象学的には異常気象ではなかったのである。
テレビ報道では誰も言わなかったようだが、2018年に広島県や岡山県で水害の被害者があれほど多くなった原因は、自然災害の豪雨そのものより、山間の無理な住宅地開発と、川の氾濫を予測できない治水対策の不備にあって、いずれも人災の面が強かったのである。
そうした2018年の数々の出来事のうち、読者が地球温暖化説と結びつけやすい現象として、説明する必要があるのは、埼玉県熊谷 くまがや市で7月23日に41・1℃の日本の最高気温記録を更新したことと、日本近海の海水温度が上昇した、この二つの出来事の原因である。熊谷市は過去にも最高気温を記録しているが、最近の日本における高温記録は、最も暑いと想像しやすい東京都心ではなく、ほとんどが岐阜県・山梨県・埼玉県・群馬県など内陸の山間部である。なぜ山間部の都市が高温になるのだろうか? これは、東京など首都圏の中心部の大都市に人口が集中したための「人工的ヒートアイランドの熱のかたまり」が風で内陸に運ばれ、大都市を通るうちにどんどん加熱されることによって、山間部の都市に高温が生じる現象の結果である。したがって、地球の気候変動とはまったく関係がない。現在のような大都市への人口集中と、それによるヒートアイランドが続く限り、日本の最高気温記録の更新は、今後も続くことは間違いない。
一方、「フィリピン海などの日本近海の海水温度が上昇した」という事実に対する私の科学的な考察は、以下の通りである。海水温度の上昇が、風水害と台風を増やしていると推測した場合、海水温度上昇の原因は何であろうか? 日本の場合、「大地震」が起こる時期には、地球表面を覆っているプレート(岩板)が激動するので、プレート境界付近の海底で、マグマの噴出が誘発される。これは火山噴火のマグマ噴出と同じような現象だが、少量ずつのマグマ噴出であれば、海底なので人間は気づかない。こうして西日本の地下に潜りこんでいるフィリピン海プレートの動きが、南海トラフ地震のような「大地震を誘発する時期」に、「海底」でマグマがぶくぶくと噴出すれば当然、海水温度が上昇する。こうして大地震と共に、台風の発生源であるフィリピン海≠フ海水温度が上昇するので、豪雨や台風が発生しやすくなる。
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このように「大型台風」と「大地震」の発生のあいだには明らかに相関性がある。
つまり大地震が誘発される時期には、「海底のマグマ噴出」→「海水温度の上昇」と相関性があり、海水温度の上昇は気候変動ではなく、大地震の予兆である、と私のように考える地震学者が一人もいないのは不思議なことだが、その理由は、それが確実に起こる現象ではなく、必ずしも起こると断言できないからである。最近の人類は「陸上」の表面の動きを地殻変動として調べているが、地震学も火山学も、地殻変動を知っても地震や噴火の予知さえできないほど未完の学問である。それに比べて、「海底」の場合には「マグマ噴出」と「海水温度の上昇」の関係について、陸上より一層予測が困難になる。したがって「台風・暴風・水害」と「大地震」の相関性について正確には因果関係を監視できず、災害が起こってからあわてふためく、そのくり返しである。これが、私が観察してきた地球科学からの警告である。
では、権威ある学者が因果関係を証明できないからといって、放置していてよいのか?大地震に関して権威者と狼少年と、いずれが的中率が高いかと言えば、歴史上では圧倒的に狼少年の予測のほうが当たっているのだ。私の直感では、現在は相当に危ない。
なぜなら、@2018年に大阪北部地震と北海道胆い振ぶり東部地震という内陸直下の大地震が続発し、Aそこに真夏の大水害と台風が重なったからである。この動きを、B2017〜2018年に中米・南米で続発してきた地震と火山活動が日本に次の大地震をもたらす太平洋プレートを動かしている状況と重ねて見る時、C2011年3月11日の東日本大震災以来、地球を覆っている全世界のプレートが激動している証であることは間違いない。ほっておいていいのか? D耐震性ゼロの東海第二原発を60年間運転していいとゴーサインを出し、茨城県知事に還暦祝いの赤いチャンチャンコを贈ればすむことなのか!
その時、日本からの原発輸出が、ベトナム、リトアニア、台湾、アメリカ、トルコ、イギリス向けの計画がすべて白紙に追いこまれ、全滅した原因を考えるとよい。それは、福島原発事故のあと、全世界で原発に必要な安全対策費がケタ違いに増加し、たとえばトルコでは建設費が2倍近くにもなったからである。三菱・東芝・日立の原発メーカー御三家は、輸出向け原発≠ノはそれだけ厳しい新基準を課せられるようになったのだ。ところが日本国内の原発は、そのような安全対策費をかけると、電力会社の採算がまったくとれなくなるので、耐震性の計算もできないシロウト集団の原子力規制委員会・規制庁が、手抜き審査でゴーサインを出して、再稼働させているのである。全世界ですでに運転中の原子力発電所はすべて、同じように過去に耐震性に関して手抜きで建設されてきたのだ。したがって日本だけでなく、中国・韓国・台湾・インドを含めて、アジア〜中東の原発はすべて大地震の対策をとっていない危険物である。
日本は、バブル崩壊で苦しむに違いない東京オリンピックや大阪万博なんぞを、喜んで開いている時なのか? このままほっておいて、何か取り返しのつかないことが起こったら、「原発の危険性を警告しない」無責任なテレビ報道界全員の責任であることを、ここに明記し、警告しておく。いや、テレビ報道界などという抽象的な呼びかけでは目が覚めないだろうから、モーニングショーの羽鳥慎一と玉川徹、およびサンデーモーニング司会者の関口宏は、高い確率で起こり得る原発大事故による国家大崩壊≠フ危険性を放置したので、原発大事故が起こった時には法律上未必の故意≠ノあたる責任が問われると忠告しておきたい。私は、テレビ報道界のこの三人が良識と責任感を持っていると信じるので、最後の大きな期待をかける。こう個人名をあげておけば、「権力の監視機関であるべき放送局」が、今や「己の言論を権力にしてしまったテレビ報道界」であるとしても、重い腰をあげてくれるであろう。
その時、テレビ局が議論するべきは、日本で最大の問題は、政権によって任命される最高裁判所の裁判官の人事権≠ェ、高等裁判所と地方裁判所におよんで、原発裁判の原発運転許可という悪事を助長していることである。また官僚が召集する知識のない有識者委員会≠ェ、正義に反する悪事を助長する存在だということである。
テレビ報道を聞いていると、コメンテイターたちが軽く政府批判をする≠アともあって、一見すると出演者たちの玉川徹や青木理は「正義の人」のように見えるが、そのようなジャブを打っても、選挙結果を見れば明らかな通り、悪徳政治家や腐敗裁判官や御用有識者にとっては痛くもかゆくもない。正義≠ニは、正しいこと≠指摘したり、意味する言葉ではないということが、テレビ報道界や新聞・雑誌に関わるほとんどの日本のジャーナリストには分っていないようである。ほんの時折だが、すぐれたアメリカの裁判映画に出会うことがあり、弁護士たちが陪審員に求める「正義(JUSTICE)」という言葉の使われ方を聞いていると、正しいことが社会で実行されること≠意味するのである。何が正しいかが分っていても、それが実行されなければ正義ではないのだ。
よって、日本に、沖縄米軍基地、原発強行運転、韓国と北朝鮮への敵対行為、国防予算膨張と軍国主義拡大、憲法改悪計画、秘密保護法、水道法改悪、非正規社員に対する冷遇、外国人労働者に対する冷遇、AIロボット信奉、グローバリズム信奉、膨張する国家予算を埋めるための増税計画と、数限りなく、これほど悪質な政治が横行しながら放置されている現実は、日本のテレビ報道界と新聞・雑誌には、悪事を食い止める正義が存在しない、と実証していることになる。
したがって、テレビ報道界は、他局の報道部に呼びかけて、とことん問題を追及して解決するにはどうすればよいか、そのための行動をとらなければならない時期にあるはずである。それでも日本のテレビ報道界が立ち上がらないとすれば、そこに、「正しいことが社会で実行されることを求めて最後まで行動する」市民運動・住民運動の足元にも及ばない違いが、存在するのである。
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