ビジネス2019年1月23日 / 18:43 / 5時間前更新
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日本経済の「輸出けん引」失速へ、問われるリスク対応力
Reuters Staff
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[東京 23日 ロイター] - 2018年の貿易収支が23日に発表され、日本の「輸出けん引力」に明確な陰りが見えてきた。一方で2019年は、米中経済摩擦が早期に解決しない場合、中国経済の減速が鮮明となり、世界貿易全体に波及するリスクが強く意識され出している。世界的な貿易量の一段の減速や円高リスクシナリオが台頭した際に、内需への波及を食い止めるために日本政府・日銀に十分な対応力があるのかどうか。予想外の試練が待ち受けている可能性もある。
<輸出数量の減少が意味する未来>
「日本が貿易黒字で稼ぐ局面は、今年フェードアウトしていく」──。日本総研・調査部長の牧田健氏は、2019年は輸出けん引力が弱まり、設備投資も世界経済の不透明感の強まりから弱めに転じる可能性があると指摘。戦後最長の景気拡大が見込まれている日本経済は、従来はゼロ%とみていた景気後退の確率が、10−20%に上がったと予想する。
顕著な現象は、輸出数量の失速だ。12月貿易統計によると、輸出数量指数の前年比が昨年11月からマイナスに転じ、12月は6%近い落ち込みとなった。
特に中国向けは同14%減少となった。具体的には半導体や半導体製造装置が急減し、通信機、自動車も振るわなかった。
アジア向け輸出も同じ傾向となり、半導体関連の落ち込みが大きい。
一方、対米輸出は今のところ増勢を維持している。ただ、主力の自動車輸出は、減少傾向となっている。
グローバルな貿易にも、不透明感が漂っている。21日に公表された国際通貨基金(IMF)世界経済見通しでは、2019年の成長率見通しが前回の3.7%から3.5%に下方修正された。中国経済のさらなる減速と英国の欧州連合(EU)離脱をリスク要因として指摘し、一段の混乱が起きる可能性にも言及している。
こうした情勢を踏まえ、農林中金総合研究所の主席研究員・南武志氏は、日本の輸出動向について「米中摩擦などの影響はまだ大きくはないが、今後の展開次第では一段と下押しすると思われる。足元では中国経済の減速を受けたアジア(含む中国)向けの輸出減が目立つが、早晩、欧米向けが減少に転じる可能性もある」と見ている。
<枠組みを左右する世界経済リスク>
政府の経済財政諮問会議は18日の会議で、民間議員が提示した検討課題に海外リスクへの対応が明記された。
19年前半の検討課題の冒頭には「今年は、国際経済状況が不安定化するリスクがある」として、「国際経済のリスクが顕在化した場合には、柔軟で機動的な経済運営を実行する等の対処をすべきである」と書き込まれた。
日銀が発表した昨年10月末の「展望リポート」では、海外リスクに関して、保護主義への言及はほとんどなかったが、23日公表分では、海外リスクが「強まっている」と記述。「企業や家計のマインドへの影響を注視していく必要」との表現も加えた。
市場関係者の間では「日銀は警戒感をあらわにしている」(SMBC日興証券のリポート)との声も出ている。
すでに設備投資マインドには、影響が出ている。11月機械受注はプラス予想に反して落ち込み、10ー12月期は6四半期ぶりの前期比マイナスになる可能性が高まっている。1月ロイター短観でも、製造業のマインドが2年ぶりの低水準に落ち込んだ。
世界経済の先行きを警戒した企業心理の悪化を一段と加速させかねい要因が、もう1つ存在する。米連邦準備理事会(FRB)が、中国の予想を超える減速などに直面した場合、現在の引き締め政策から緩和政策に転換し、その影響が外為市場で円高となって波及してくる経路だ。
デロイト・トーマツの・リスク管理センター長、大山剛氏は、FRBが金融政策を現在の引き締めから中立、もしくは緩和方向にかじを切って、自国景気を支えることになるのではないかと予想。「結果的に金融政策の緩和余地が乏しい日本は、再び円高に苦しみ、輸出産業にとっては厳しい環境となりそうだ」と見ている。
世界の政策当局者は、緩やかな景気拡大というメーンシナリオを維持しているが、米中経済摩擦の長期化など、リスク要因が台頭した場合、にわかに情勢が急変する可能性もある。
すでに輸出競争力が衰え、貿易赤字が基調として定着する兆しが見え始めた日本にとって、リスクシナリオの顕在化に備える「余力」があるのかどうか、政府・日銀の力量が問われそうだ。
中川泉 編集:田巻一彦
https://jp.reuters.com/article/japan-export-risk-idJPKCN1PH0V7
ビジネス2019年1月23日 / 12:18 / 4時間前更新
日銀、物価見通し引き下げも「モメンタム維持」 政策は据え置き
Reuters Staff
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[東京 23日 ロイター] - 日銀は23日、1月の「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」で物価見通しを引き下げた。ただ、物価見通し引き下げの主因は原油価格。黒田東彦総裁は会見で、2019年度を中心に物価が下振れていることについて「一時的」と述べ、物価安定目標2%に向けたモメンタムは維持されているとの見方を示した。
日銀は、短期金利をマイナス0.1%、長期金利をゼロ%程度とする現行の金融政策を据え置いた。
1月展望リポートでは、政策委員の物価見通し(消費増税・教育無償化を除くケース)中央値は、昨年10月に続き20年度までの3カ年、いずれも下方修正された。特に19年度は原油価格下落を背景に1.4%から0.9%に大幅修正した。19年度の物価見通し引き下げは4回目。一方、20年度は1.5%から1.4%への小幅な修正にとどまった。
黒田総裁は会見で「昨秋以降の原油価格の下落によるところが大きく、直接的な影響は一時的なものにとどまる」と述べた。また「20年度はそれほど変わってない」とも指摘し、「物価見通し自体が20年度に向けて大きく変わったわけではない」との見解を示した。
今回の物価見通しには、携帯電話料金の引き下げは織り込まれていない。日銀では、携帯料金の引き下げについては、短期的に物価押し下げ要因になるが、消費者の実質所得が増えることで中長期的には消費にプラスに働く可能性があるとみている。
展望リポートでもう一つ特徴的だったのは、海外経済について「下振れリスクはこのところ強まっているとみられ、企業や家計のマインドに与える影響も注視していく必要がある」との1文を加えた点。
黒田総裁は「米中の経済摩擦や欧州の要因などが海外の下方リスクをやや高めているのは事実」と指摘した。ただ「現時点で、米国や中国のメインシナリオを変えるようなリスクが顕在化しているとか、顕在化しつつあるという状況ではない」とみているという。
米中貿易摩擦については「長引けば世界経済に大きな影響が出てくる」との懸念を示しながらも、「個人的意見だが、収束に向かうと思っている」と述べた。
22―23日の金融政策決定会合では、短期金利をマイナス0.1%、長期金利をゼロ%程度とする長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)付き量的・質的金融緩和政策の現状維持を決めた。
長短金利目標と上場投資信託(ETF)など資産買い入れの目標額も据え置いた。決定会合前、株式市場の一部では日銀がETFの買い入れ比率を変更するのではないかとの思惑が浮上していたが、変更は行われなかった。
また、貸出増加支援と成長基盤強化支援のための貸出支援制度のほか、被災地金融機関を支援するための資金供給制度について、受付期間の1年延長を全員一致で決めた。
今後の政策対応余地について、総裁は「現時点で主要な中銀も短期政策金利が大きく引き下げられるほどには上がってない。ショックや不況時に、短期金利引き下げという伝統的なやり方で対応する余地は狭まっているが、それは非伝統的な金融政策余地が狭まっているということではない」とし、「政策の余地が全体として狭まっているとは思わない」と述べた。
*情報を追加し再構成しました。
清水律子 伊藤純夫
https://jp.reuters.com/article/boj-policy-meeting-idJPKCN1PH07C
為替フォーラム2019年1月23日 / 17:03 / 6時間前更新
2大リスクに身構えるドル円相場、決裂なら104円も=鈴木健吾氏
鈴木健吾 みずほ証券 チーフFXストラテジスト
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[東京 23日 ロイター] - 年末年始の金融市場はリスクオフが加速し、異様な雰囲気となった。中でも、米アップルの売り上げ見通し下方修正を受け、日本が休場の1月3日朝方、ドル円は108円台から約1分強で104円台前半に急落し、その30分後には107円台に戻すという、いわゆる「フラッシュ・クラッシュ」を演じた。
米連邦準備理事会(FRB)による2019年の利下げ実施を織り込む動きが加速していたこともあり、今年は米国のリセッション入りとともに、さらにリスクオフが加速するとの悲観的な見方が市場に広がった。
一方、筆者は「さすがにやりすぎ」との立場だった。その理由として、1)米企業業績の伸びは2018年よりは鈍化するものの、それでも予想EPS(1株当たり利益)はプラス成長が予想されていること、2)PMI(購買担当者景気指数)など先行指標には悪化がみられるものの、遅行指標は近い将来のリセッション入りを示唆していないこと、3)ドル円の急落は日本の休場といった特殊な季節的要因が大きいとみられること──などが挙げられる。
市場に参加者が戻るとともに、ドル円は年初の急落分を埋め戻し、S&P500指数も12月半ばの水準へ上昇、米政策金利先物も2019年に1回利上げの確率が1回利下げの確率を上回る状況に戻ったことなどから、やはり年末年始の動揺は行きすぎだったとみてもよいのではないか。
だが、状況は決して楽観視できない。特に1─3月期にはその後の世界経済の方向性を決定付けるインパクトの大きい政治的リスクがいくつか控えているからだ。その代表格が米中貿易摩擦と英国のEU(欧州連合)離脱(ブレグジット)だろう。
<中国が一定の譲歩か>
米中は昨年12月1日の首脳会談で、2019年から25%としていた米国の対中関税引き上げを3月1日まで猶予し、緊張緩和に向けた話し合いを行うことで合意した。1月初めに北京で行われた次官級協議に、対米通商交渉責任者である劉鶴副首相の出席が伝えられるなど、問題解決に向けた中国側の積極的な姿勢がみられ、トランプ米大統領も「中国との交渉は非常にうまくいっている」とツイートした。
その後も、ムニューシン米財務長官が対中関税の一部または全部の撤回を提案したと報じられたり(財務省は否定)、現実的にはかなり困難だろうが、中国が今後6年間かけて対米貿易黒字をゼロにする計画を提案したと伝えられたりするなど、緊張緩和に向けた努力は継続しているもようだ。しかし、21日にトランプ大統領が「中国は遊ぶのをやめ、本当の取引をすべきだ」とツイートした通り、交渉は難航しているとみられる。
1月30日―31日には劉鶴副首相が渡米し、ライトハイザー米通商代表部代表(USTR)やムニューシン財務長官などと閣僚級の貿易協議を行う予定。期限とされる3月1日まで40日を切る中、緊張感が高まっている。
米中間には知的所有権や安全保障を巡る摩擦もあり、貿易問題で決裂して関税合戦が再開されれば、不安定さを増す両国の株価や、陰りがみえる経済に大きなダメージとなり、世界経済に急ブレーキをかける恐れがある。それだけに、中国が一定の譲歩を提示し、トランプ政権がこれを受け入れる可能性が高いのではないだろうか。筆者は、3月までに一定の合意に至ると予想している。
<ブレグジット混迷でも市場は冷静>
ブレグジット問題は、英下院が15日、反対432票、賛成202票の歴史的大差でEU離脱協定案を否決した。これを受けてメイ首相は21日、最大の争点である北アイルランドとの国境問題に関する部分を修正するなどの代替方針を議会に提示した。
しかし、一度合意したEUが変更を認めるとは思えない。また、原案をほぼ踏襲しているこの代替方針で英議会を説得するのは力不足だろう。29日とされる採決でも否決される可能性が高い。そうなれば、離脱期限の3月29日に何の合意もない無秩序な離脱に突き進み、欧州経済が混乱に陥る可能性が高まる。
にもかかわらず、市場は冷静だ。下院が離脱協定案を否決した週のポンドは、主要先進国の通貨に対して上昇した。
これは、英国が無秩序な離脱を回避するために3月29日の期限を先送りし、あわよくばその間に2回目の国民投票を行って、EU残留を選択する可能性を市場が期待しているものとみられる。
実際、下院議員の大半は無秩序な離脱を望んでいないとされ、超党派の議員が(2月26日までに英国が離脱協定を批准できない場合には)離脱期限を先送りするための法案を提出するとの報道もある。
イングランド銀行(英中央銀行)は、無秩序な離脱となった場合、英国経済は金融危機時の6.25%を超える年率8%のマイナス成長に陥り、商業不動産価格は48%程度下落すると試算。直近2%台前半の物価上昇率は6.5%に跳ね上がるなど、大混乱に陥ると予想している。
筆者は離脱期限が2019年末ごろまで先送りされ、その間に国民投票が再び実施される可能性が高いのではないかとみている。期限の先送りが決まるだけでも、リスクオンの材料となりそうだ。
3月にかけて米中協議が決裂し、英国が無秩序離脱を選択すれば、それ以降は非常に暗い年となり、ドル円はリスク回避の円買いで104円を目指す可能性が高まるだろう。しかし、米中の合意とブレグジットの期限延期を予想する筆者は、どちらかと言えば楽観的だ。4月以降、夏場にかけてドル円も115円方向を試す展開を想定している。
それまでは現状の109円台を中心に、107円─112円程度のレンジでもみ合いつつ、2大リスクの行方を見極める動きとなるのではないだろうか。
鈴木健吾氏(写真は筆者提供)
*鈴木健吾氏は、みずほ証券・投資情報部のチーフFXストラテジスト。証券会社や銀行で為替関連業務を経験後、約10年におよぶプロップディーラー業務を経て、2012年より現職。
*本稿は、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいています。
https://jp.reuters.com/article/column-kengo-suzuki-20190123-idJPKCN1PH0LN
http://www.asyura2.com/18/hasan130/msg/698.html