海外に魔の手を伸ばす中国の「統一戦線工作」
日本もその手口を知って警戒を怠るな!
2018.10.5(金) 樋口 譲次
核搭載可能の米戦略爆撃機、南シナ海を飛行 中国けん制か
米空軍のB52戦略爆撃機(1997年9月1日撮影)。(c)AFP PHOTO / US AIR FORCE 〔AFPBB News〕
海外に魔の手を伸ばす中国の「統一戦線工作」
「統一戦線を組もう」とは、仲間内の日常会話でも使われる表現である。
しかし、国際政治の場において、外交戦、情報・世論戦、謀略戦、懐柔策などを複雑に絡めて展開される「統一戦線工作」は、奇々怪々として、国家に深刻な問題を投げかける。
というのも、中国が、習近平政権になって、海外における「統一戦線工作」を一段と強化しているからである。
先日、中国の「『統一戦線工作』が浮き彫りに」という米国からの記事(「古森義久のあめりかノート」、産経新聞、平成30年9月23日付)が掲載された。
詳細は、この後に譲るとして、米国では、統一戦線方式と呼ばれる中国の対米工作に関する調査報告書が発表されたことをきっかけに、習近平政権が「統一戦線工作」によって米国の対中態度を変えようとしていることが明らかになった。
そして、米国全体の対中姿勢が激変し、官と民、保守とリベラルを問わず、「中国との対決」が米国のコンセンサスになってきたというものである。
この件については、筆者拙論「台湾に迫る危機、日本よどうする!」(http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/54145、2018.9.20掲載)の中で、中国による台湾の国際空間からの締め出しや台湾国内でのスパイ活動などに触れたが、これらも「統一戦線工作」の一環である。
「統一戦線工作」とは、本来、革命政党である共産党が主敵を倒すために、第3の勢力に意図や正体を隠しながら接近・浸透し、丸め込んで巧みに操り、その目的を達成しようとする工作である。
ソ連共産党をはじめ、中国共産党、朝鮮労働党などが常套手段としたもので、これらの国では、今日でもその手法が重用され、国内の政敵のみならず、海外の敵対勢力に対して自国の立場や主張に有利な環境条件を作為しようと試みている。
なかでも中国は、特定の団体や個人を丸めこんだり、協力関係を築いたり、場合によっては逆に非難や圧力・恫喝、攻撃を行い、重要な情報を収集し、対象国での影響力を高め、国際社会における中国共産党への支持を取り付けるなど、世界中で「統一戦線工作」を活発に展開している。
日本も、手を拱いている場合ではない。
日本は、中国の覇権的拡大に対して最大の妨げとなる在日米軍基地を抱え、また尖閣諸島問題や歴史認識などで厳しく対立している。
さらに、中国が欲しがる最先端科学技術を保有するなど、中国にとって極めて重要な「統一戦線工作」の対象となっていることから、重大な関心を抱かざるを得ないのである。
習近平政権下の中国の「統一戦線工作」
習近平政権下での「中国共産党統一戦線工作条例(試行)」の制定
中国共産党の「統一戦線工作」を掌る「中国共産党中央統一戦線工作部(中央統戦部)」設立の歴史は古く、中華人民共和国の建国から遡ること7年前の1942年である。
「統一戦線工作」上、最もよく知られているのが、抗日民族統一戦線としての中国国民党と中国共産党による「国共合作」である。
中央統戦部が重視されていることは、中国共産党中央委員会直属の組織であることからも明らかである。
その国家レベルの方針を決める中央統一戦線工作会議が、習近平中央委員会総書記の下、2015年5月に北京で開かれ、「中国共産党統一戦線工作条例(試行)」(以下、統戦条例)を制定した。
実は、それまでに統一戦線をテーマにした正規の党内法規はなかったようで、統戦条例は統戦工作に関する初の法規として「統一戦線活動の制度化、規則化、手続き化の重要なメルクマール」(人民日報)と報じられている。
そして、習近平総書記は、中央統戦会議で「新しい形勢下の統一戦線工作」について強調し、これを全党挙げて重視することを明言したのである。
「統戦条例(試行)」制定をめぐる習近平の狙い
習総書記が掲げる国家目標は、「2つの百年」、すなわち中国共産党創設100周年にあたる2021年を中間目標とし、中華人民共和国建国100周年を迎える2049年を最終目標として「中華民族の偉大な復興という中国の夢」を実現することだ。
統戦条例では、その国家目標への奉仕を強調しており、中国は「統一戦線工作」を「中華民族の偉大な復興」を果たすための重要な手段として位置づけているのである。
そして、中央統戦会議で習総書記は、国際社会から中国社会への影響力が強まっていることに加え、中国国内に政治的変化を求めるグループが存在するなど、中国を取り巻く内外情勢が「変化」しているとの情勢認識を示した。
これに基づき、国家目標を達成するには、変化に対応した「統一戦線工作」をますます強化発展させなければならないと述べている。
こうした方針を実行に移すにあたり、統戦条例では、対国内に関する部分はさておくとして、対海外に関する部分について、「香港・マカオ・台湾、海外への統一戦線工作」の章を設けている。
そのことから、統一戦線工作の対象が香港、マカオ、台湾のみならず、それ以外の海外へも向けられていることは明らかだ。
また、統戦条例の起草には、海外に居住している華僑や華人などの在外同胞に係わる業務を所管している国務院僑務弁公室も参加し、習総書記の中央統戦会議における講和では「留学した人材」を通じた世論コントロールについて述べている。
このことから、在外公館の現地外交官(工作員)のほかに、これらが海外での統一戦線工作に加担していることは容易に察しがつこう。
明らかになった米国における中国の統一戦線工作(具体例)
中国が世界の500か所以上に開設している「孔子学院」は、親中派(中国シンパ)を育成する「統一戦線工作」の一環としてのソフトパワー戦略と見られている。
その約40%が米国に集中し、学問の自由を阻害しているとして、ここ数年批判の声が高まっていた。
これを受けて、すでにシカゴ大学、ペンシルベニア州立大学など多くの大学が孔子学院の閉鎖に動き、スパイ活動やプロパガンダ活動などの容疑で米連邦捜査局(FBI)が捜査を開始した模様だ。
そこで、改めて、中国の「『統一戦線工作』が浮き彫りに」という産経新聞の記事を振り返ってみよう。
この記事の基になったのは、ワシントンの半官半民のシンクタンク「ウィルソン・センター」が、1年以上をかけ、コロンビア、ジョージタウン、ハーバードなど全米25の主要大学を対象として調査した学術研究の報告書(原題:『米国の高等教育における中国の政治的影響と妨害活動に関する予備的研究』)である。
同記事(報告書)で明らかになった中国の「統一戦線工作」の具体例を引用すると、下記の通りである。
(1)中国政府の意を受けた在米中国外交官や留学生は事実上の工作員として米国の各大学に圧力をかけ、教科の内容などを変えさせてきた。
(2)各大学での中国の人権弾圧、台湾、チベット自治区、新疆ウイグル自治区などに関する講義や研究の内容に対してとくに圧力をかけてきた。
(3)その工作は抗議、威嚇、報復、懐柔など多様で、米側大学への中国との交流打ち切りや個々の学者への中国入国拒否などを武器として使う。
そして、「米国の主要大学は長年、中国政府工作員によって中国に関する教育や研究の自由を侵害され、学問の独立への深刻な脅威を受けてきた」と総括されている。
工作の結果、米国の大学や学者が中国の反発を恐れて「自己検閲」をすることの危険性を特に強調している。
以上は、あくまで、全米の主要大学を対象とした中国の対米工作の特定部分についての調査結果にすぎない。
その工作が、その他の政・官・財界、軍隊、産業界、マスコミ、シンクタンクなど、米国の意思決定や国益を左右する中枢部に及んでいると考えるのは当然であり、その広がりを考えると、影響の重大さに震撼させられるのである。
中国の「統一戦線工作」の実態を理解し厳重な警戒を
日本政府は、中国の「統一戦線工作」の実態について、「警察白書」をもって公式に発表している。
平成29年「警察白書」は、第5章第2節1項「対日有害活動の動向と対策」の中で、「中国の動向」について、次のように記述している。
中国は、諸外国において多様な情報収集活動等を行っていることが明らかになっており、我が国においても、先端技術保有企業、防衛関連企業、研究機関等に研究者、技術者、留学生等を派遣するなどして、巧妙かつ多様な手段で各種情報収集活動を行っているほか、政財官学等、各界関係者に対して積極的に働き掛けを行うなどの対日諸工作を行っているものとみられる。
警察では、我が国の国益が損なわれることがないよう、こうした工作に関する情報収集・分析に努めるとともに、違法行為に対して厳正な取締りを行うこととしている。
在日中国人の数は約73万人。その中には、工作員として「選抜、育成、使用」される可能性の高い「留学生」約12.5万人、「教授・研究・教育」約2000人、「高度専門職」約5200人、「技術・人文知識・国際業務」約7.5万人などが含まれる。(政府統計の総合窓口「e-stat」、2017年12月現在)
また、中国から日本への旅行者は約637万人(2016年、日本政府観光局(JNTO)統計)であり、通年で、約710万人の中国人が日本に滞在していることになる。
正確な数字は明らかではないが、これほど多くの中国人の中には、相当数の工作員が含まれていると見なければならない。
中国には「国防動員法」があり、動員がかかれば、「男性公民は満18歳から満60歳まで、女性公民は満18歳から満55歳までの間、国防に従事する」義務がある。
在日中国人や中国人旅行者もその例外ではなく、日本国内において、彼らが在日工作員あるいは潜入した武装工作員(ゲリラ・コマンド)と連携し、情報活動や破壊活動などに従事する事態を十分に想定しておかなければならない。
加えて、北朝鮮およびロシアも、様々な形で対日有害活動を行っている。
一方、国内を見ると、日本共産党は、「しんぶん赤旗」(2007年11月29日付)において、読者の質問に答える形で「日本共産党は、一貫して統一戦線の結成と強化をめざしています」と表明している。
旧日本社会党であった社会民主党も、それ自体が中国や北朝鮮などとつながりを持った統一戦線としての性格を有しており、日本共産党との「社共共闘」も革新統一戦線である。
このように、日本は、中国をはじめとして、国内外の勢力が複雑に絡み合った「統一戦線工作」の渦中に置かれている。
そしてわが国の至る所で、日常茶飯事のごとく、国民の身近に工作が迫っている実態を理解し、厳重な警戒を怠ってはならないのである。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/54274
メディア崩壊:ネトウヨに支配され始めた米国
事実確認など無用、噂を“事実”として流し続ける保守系メディア
2018.10.5(金) 高濱 賛
トランプ氏、改めて最高裁判事候補に支持を表明
米首都ワシントンの連邦議会議事堂で行われた上院司法委員会の公聴会に出席した、告発者のクリスティン・ブレイジー・フォード氏(左)とブレット・カバノー最高裁判事候補(右、いずれも2018年9月27日撮影)。(c)SAUL LOEB / POOL / AFP〔AFPBB News〕
米国を席巻するカバノー錯乱シンドローム
今、米メディアは、ドナルド・トランプ大統領が最高裁判所判事に指名したブレット・カバノー・連邦控訴裁判所判事(53)の性的暴行疑惑報道以外眼中にはない状態が続いている。
トランプ大統領は、2回目の米朝首脳会談に強い意欲を見せている。しかし、米メディアは上の空だ。大げさな言い方をすれば、「米朝関係」なんかに関心はないのだ。
「Kavanaugh Deangement Syndrome」(カバノー錯乱シンドローム)という新語が生まれている。
カバノー氏の性的暴行疑惑によって3権(司法、立法、行政)が入り乱れて大混乱に陥っている症候群を指すのだが、その3権に今や「第4の権力」とされるメディアが加わている。
ことの発端をこと細かく説明する必要はないかもしれない。
トランプ大統領が退官した中道派のアントニー・ケネディア最高裁判事の後任に保守派のカバノー氏を指名。これまで保守派とリベラル派が拮抗していた最高裁を一気に保守化させようというのが狙いだった。
同氏が判事に就任するには上院司法委を経て本会議での可決による承認が必要だ。
ところが上院司法委員会が審議している最中、カバノー氏が高校生だった1983年にパーティで知り合った女子高校生をレイプしようとしたという疑惑が急浮上した。
告発したのは、クリスティーン・ブラジー・フォード氏(51)。現在サンフランシスコ近郊のパロアルト大学教授(心理学)だ。
職業に貴賤の差はないとはいえ、クレディビリティ(信用度)では、トランプ大統領と不倫関係にあり2016年大統領選挙直前に口止め料を受け取ったポルノ女優のスートーミー・ダニエルズ氏とは比較にならないほど高い。
そのダニエルズ氏の大統領との親密な関係を赤裸々に描いた新著『Full Discloser(全面公開)』*が10月3日に発売された。信用度はともかくとして全米は新たなショックを受けている。
*本書については『前代未聞、全世界に知れ渡った米大統領の下半身』(http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/54158)を参照。
少なくとも1100万人が上院司法委員会聴聞会を視聴
「カバノー錯乱シンドローム」は米メディアを直撃した。直撃したと言うよりもメディアが主導してシンドロームの拡大を図っていると言った方が正確かもしれない。
上院司法委員会はカバノー氏とフォード氏を9月27日召喚し、午前中はフォード氏、午後はカバノー氏を証人喚問した。
2人は直接対決はしていない。この模様はニュース専門のケーブル3局で実況中継され、1100万人(25歳から54歳までの成人)が視聴した。
実際には25歳以下の若者や55歳以上の中高年層も見ていただろうし、SNSでテレビ映像を見ていた人もいる。実際の視聴者数は1100万人どころではないだろう。
9月27日以降、テレビ、ラジオはもとより新聞、雑誌も「カバノー錯乱シンドローム」一色。
トランプ政権の重要ポストに次々と人材を送り込んできた親トランプの保守系テレビ局フォックス・ニュースをはじめ、ブライトバート・ニュースなど保守派メディアやウエブサイトはカバノー氏を100%支持。
一方、トランプ政権に批判的なMSNBCやCNNはフォード氏の肩を持つ報道を展開している。
そうした中で3大ネットワークのABC、NBC、 CBSや主流メディアのニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストは、カバノー氏の周辺取材にしのぎを削っている。
視聴率ではフォックス・ニュースが断トツでリード
前述の各局の中継ではフォックス・ニュースが569万人と断トツ、ついでMSNBC(289万人)、CNN(252万人)となっている。
特にカバノー氏が証言に立った午後ではフォックス・ニュースは700万人とCNNの3倍近い視聴者を獲得している。
ワシントンの政界通はこう解説している。
「フォックス・ニュースを見る保守的な白人高齢者を入れるとCNNとの差はもっと広がっているはず。大半はカバノー氏の証言を聞き、同氏に好意的なコメンティーターのコメントを聞きたがっていたということだろう」
通常でも視聴率競争では常にフォックス・ニュースがリードしている。
政治評論家兼コメンテーターのショーン・ハナティ氏や作家兼コメンテーターのビル・オライリー氏といった花形キャスターが視聴率競争でトップ争いを続け、これがフォックス・ニュースが断トツの視聴率を獲得する原動力になっている。
ニュース専門テレビ局にはフォックス・ニュースのほか、中道派のCNN(トランプ氏は大統領選中はCNNを「ヒラリー・クリントンの専門局」と呼び、大統領就任後は「わが敵」とまで敵視している)、リベラル派のMSNBCがある。
MSNBCのレイチェル・メドゥ氏(女性コメンティター)のトランプ批判は反トランプ派の人たちに大受けだ。
「カバノー錯乱シンドローム」報道ではフォックス・ニュースはカバナー氏支持、CNNとMSNBCはフォード氏支持、の感が強い。
保守系テレビとウエブサイトの関係を暴いた「学術書」
こうしたケーブルテレビ局がどのように取材し、編集し、報道しているのかを膨大なデータを収集し、コンピュータ―分析した学術論文が1冊の本として出版された。
「Network Propaganda: Manipulatin, Disinformation, and Radicalization in American Politics(ネットワーク・プロパガンダ:米政治におけるごまかし、偽情報、そして尖鋭化)」
著者はハーバード大学のヨチャイ・ベンクラー教授と2人の同僚研究者だ。
イスラエルのテルアビブ大学を経てハーバード法科大学院でITに関する法律や産業情報経済を専攻してきた。現在同大学院の「起業・社会問題研究所」の共同所長を務めている。
調査対象はニュース専用ケーブル局3局のほか、インターネットでニュースを送っているNSNウエブサイト。数百万件の記事を精査している。
Network Propaganda: Manipulation, Disinformation, and Radicalization in American Politics By Yochai Benkler, Robert Faris, and Hal Roberts Oxford University Press, 2018
調査時期は、事実上の大統領選が始まった2015年春頃からトランプ政権が発足した2017年1月まで。
その間にテレビ局が大統領選キャンペーンに関してどのようなニュースを流してきたかを徹底調査している。
著者は以下のような結論を出している。
「フォックス・ニュースやブライトバート・ニュース、ウエスタン・ジャーナル、ディリー・コーラーズといった保守派メディアの報道姿勢や報道方法は、中道派やリベラル派、左翼のメディアに比べると、際立った違がいある」
「それは両者のエコシステム(環境生態系)の違いだ(ここでいうエコシステムとは、報道方針やスタンス、手法などを意味している)」
「保守系メディアのエコシステムとは、極右ウエブサイトが取り上げた特定のニュースをその信憑性がチェックされることなく、一般的に認知されているフォックス・ニュースなどに提供されそのまま報道される、というものだ」
「そのニュースが事実に反するかどうか、それをチェックする機能が保守派、特に極右派のメディアにはない。それが慢性化している」
「中道派メディアはもちろん、リベラル派メディアでもニュースの信憑性をチェックする機能が備わっている」
「クリントン元大統領はロリコンだった」
著者は、保守系メディアとリベラル派メディアのエコシステムの違いを実例を挙げて記述している。
1つは保守系サイトの「InfoWar」*が流したビル・クリントン元大統領が「ロリコン(ロリータ・コンプレックス=幼女・少女への性的嗜好や恋愛感情を持つ人間)」だというニュースだ。2016年の米大統領選の最中に報じられた。
*「InfoWar」は保守派ラジオ・パーソナリティのアレックス・ジョーンズ氏が主宰するサイトで、月間アクセス数は1000万。
記事の内容は、クリントン氏は億万長者の招待でカリブ海にある島の施設に頻繁に通って幼い少女たちを相手にセックスに興じていたというもの。実際には全く根も葉もないデマ情報だった。
この記事がサイトに載るや、その直後、フォックス・ニュースは、米領バージン諸島のセントジェームズ島の地図を載せて、「この孤島にクリントン氏はしげしげと通っている」*と報じている。
*「Flight logs show Bill Clinton flew on sex offender's jet much more than previously known," Malia Zimmeman, Fox News, 7/6/2016」(https://www.foxnews.com/us/flight-logs-show-bill-clinton-flew-on-sex-offenders-jet-much-more-than-previously-known)
「トランプ強姦13件」容疑をリベラル派メディアは無視
これに対してリベラル派メディアはデマ情報には慎重だった、
その実例は、フェイスブックに5回も載ったトランプ氏のレイプ報道をリベラル派中道メディアが一切無視したケースだ。
これは「トランプ氏が1994年の1年間に13人の女性に対して性的暴行を加え、2010年告訴されている」というフェイスブックに載った記事だ。
ニューヨーク・タイムズをはじめ主流派メディアは事実関係を徹底的に取材したが、結局それを裏づける証拠は見つからず、報道を差し控えた。
著者はフォックス・ニュースのエコシステムについてこう結論づけている。
「フォックス・ニュースは、報道したニュースが事実か誤報かを問うよりも、報道した記者たちを徹底的に守ること、報道した事実が誤報でないことを主張すること、誤報だという者を攻撃すること、自らの記者たちに対する部外者からの脅迫に反駁することを信条としている」
その信条は米国という国があくまでも民主主義と市場経済主義を基軸としたキャピタリズム国家であり、それを守り抜くのがフォックス・ニュースだという「政治哲学」に基づいている、と著者は分析している。
海外からは、ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストといったリベラル中道派のメディアを通して米国という社会を見る機会が多い。
だが、実際には保守派、極右のメディアやサイトは数え切れないほど存在している。
「The New Revere」*というウエブサイトは、トップ100の保守派ウェブサイトのリストを公表している。
これらサイトがトランプ氏を大統領に押し上げ、トランプ政権を支える原動力になっていると言える。
*https://thenewrevere.com/2018/09/top-100-conservative-websites-in-september-2018/
ちなみに、フォックス・ニュースがトランプ当選にどれほど貢献したかを示すデータがある。
超党派の世論調査機関「Pew Research Center」によれば、2016年大統領選投票日の11月8日前に米有権者でトランプ氏に投票した人たちの40%とはフォックス・ニュースの選挙報道を参考にしたと答えている。
フォックス・ニュースを参考にしてクリントン氏に票を投じた人たちは8%にすぎなかった。
ネット革命に乗じた極右の「プロパガンダ」
著者は、1970年以降、新技術革命はインターネットを生み落とし、米政治の場ではこれまで受け継がれてきた政治文化に強烈なインパクトを与えてきた点に着目している。
著者は、そうした状況の中で急速に力を強めてきた保守派メディアの危険性を指摘している。
「インターネットと現実の政治は相互に作用し合いながら、そのダイナミズムは中道保守派やそれに属する政治家たちを無用化(Marginaized)させ、保守派メディアを尖鋭化(Radicalized)させ、メディア報道に影響を受けやすい有権者を洗脳し続けた」
「大統領選ではトランプ候補の対抗馬だったクリントン候補にとって不利なフェイクニュースをまことしやかに共謀する形で流し、有権者に信じ込ませようとした」
「『ネットワーク・プロパガンダ』である。その間を縫って入り込んだのがロシアによる介入だった」
本書を読み解いていくと、トランプ政権誕生にまつわる「ロシアゲート疑惑」がなぜ起こったのか、ロシアだけでなく、中国やその他の国がハッカーやブット(知的エージェント)を使って選挙キャンペーンにちょっかいを出していた実態が見えてくる。
ただ著者は、2016年米大統領選へのロシアの介入については、「その介入が選挙の結果にそれほど大きなインパクトを与えたとは信じがたい」と結論づけている。
本書を読んでもう1つ学んだのは、現在進行中の「カバノー錯乱シンドローム」報道でも保守派、特に背後で蠢く極右、(むろん、それに対抗するリベラル派、特に極左の動向もだが)の動向に目が離せないということだ。
果たして日本のメディア、サイトには同じようなエコシステムは皆無なのだろうか。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/54297
http://www.asyura2.com/18/kokusai24/msg/196.html