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【米大統領選・トランプ氏再選シミュレーション】佐藤優氏が予測する“大混乱”「米国は世界の紛争から手を引き、各地で勢力図が書き換えられる」/
NEWSポストセブン によるストーリ
https://www.msn.com/ja-jp/news/world/%E7%B1%B3%E5%A4%A7%E7%B5%B1%E9%A0%98%E9%81%B8-%E3%83%88%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%97%E6%B0%8F%E5%86%8D%E9%81%B8%E3%82%B7%E3%83%9F%E3%83%A5%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3-%E4%BD%90%E8%97%A4%E5%84%AA%E6%B0%8F%E3%81%8C%E4%BA%88%E6%B8%AC%E3%81%99%E3%82%8B-%E5%A4%A7%E6%B7%B7%E4%B9%B1-%E7%B1%B3%E5%9B%BD%E3%81%AF%E4%B8%96%E7%95%8C%E3%81%AE%E7%B4%9B%E4%BA%89%E3%81%8B%E3%82%89%E6%89%8B%E3%82%92%E5%BC%95%E3%81%8D-%E5%90%84%E5%9C%B0%E3%81%A7%E5%8B%A2%E5%8A%9B%E5%9B%B3%E3%81%8C%E6%9B%B8%E3%81%8D%E6%8F%9B%E3%81%88%E3%82%89%E3%82%8C%E3%82%8B/ar-BB1iuz2p?ocid=msedgdhp&pc=U531&cvid=a8652093a821489abe9310d55c3319c8&ei=9
11月の米大統領選に向け、トランプ前大統領(77)が予備選での快進撃を続けている。「予測不能」とも称されるトランプ氏が大統領に返り咲いたら何が起きるのか。元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏は、「世界は“もし、トランプが大統領になったら”という前提で動いている。日本も遅れるべきではない」と警告する。
なぜトランプ再選後の世界を見据えて今から動かなければいけないか。それは、トランプが大統領になれば、“世界の変化するスピード”が上がるからです。
トランプは、「米国はもう世界の警察官の役割を務めない」という立場。大統領になれば、特別な思いを持つイスラエルへの支援は強化するだろうが、ウクライナ戦争をはじめそれ以外の紛争からは手を引くだろう。北朝鮮や中国に対する米国の軍事的な強硬姿勢も転換する。トランプは戦争を好まないから、短期的に世界は安定する。
ところが、そうやってトランプが内向きの政策を展開し、世界での存在感を低下させると、各地で勢力図の書き換え、勢力均衡線の引き直しが行なわれる。それによる混乱は、戦後秩序の転換というレベルではない。
まず欧州では、トランプが手を引くことにより、ウクライナ戦争は早い段階で停戦するだろう。ウクライナに単独での戦争継続能力はなく、今は米国の軍事支援で戦っている状況だからだ。トランプは大統領になる前からロシアのプーチン大統領と接触して、就任した瞬間に停戦合意が結ばれるよう要請する可能性すらある。
しかし、多くの犠牲者を出しているウクライナの国民からすれば、大統領が交代した途端に米国が手を引いて停戦となったら、はしごを外されたと恨む。ウクライナが反米国家に転じる可能性すらある。
また、プーチンはウクライナ戦争を米国との戦いだと思っているから、「米国に勝った」と国内でアピールする。
EUが急遽ウクライナに500億ユーロ(約8兆円)の支援を決めたのは、トランプの大統領就任に備えているからだ。
「自分の国は自分で守れ」
では、東アジアはどうなるか。21世紀に入ってから中国は明らかに力を増しているし、韓国、北朝鮮、台湾もそうだ。一方、日本と米国は国力が低下している。つまり、日本に不利な形で安全保障ラインの引き直しを迫られることになる。
まず米国の中国に対する姿勢でいうと、バイデンは台湾防衛のために軍事関与する姿勢を強く示していたが、トランプは経済重視で基本はディール(取引)をしようとするだろう。習近平(国家主席)との関係も悪くない。
そこで、軍事的な圧力を低下させる。このような状況で台湾有事が起きると、米国は軍隊を派遣せず、兵器だけ送って「台湾人が自分で中国と戦え」となる。たとえ台湾有事が日本に飛び火することがあっても、「自分の国はまず自分で守れ」ということになる。
対北朝鮮でも、米国が核兵器を廃棄させることができるかというと、それは無理。金正恩(総書記)の米国に敵対する意思を下げさせるために、トランプは1期目と同じ融和路線を取るはずだ。韓国も保守政権のうちはいいが、リベラル政権に交代すると再び日韓関係の悪化が予想される。しかしそこに米国は関与しなくなる。
つまり米国が東アジアで安全保障のラインをずっと後退させるということだ。だから、日本は防衛力を強化することになる。
実は、「対トランプ」において、日本政府の備えは今のところ悪くないと思っている。
岸田文雄・首相は昨年9月19日の国連総会演説で、「イデオロギーや価値観では現在の国際社会の問題を解決することはできません」と言い切った。民主主義や法の支配、基本的人権の尊重などを価値観として共有する国家との関係を強化するという、それまでの価値観外交と決別することを表明し、第一歩を踏み出したわけだ。
これは価値観ではなく、ディールで結びつく関係を重視するトランプの考え方に結果的に沿っている。
ウクライナ戦争についても、殺傷能力を持つ武器供与をせず、復興費を拠出するという日本独自の形が、ウクライナ支援に消極的なトランプの考えと合っている。
日本は独自の安全保障外交に踏み出すべき
しかし、これだけではまだ足りない。
これからの日本に必要なのは、インドネシアをはじめ東南アジア諸国との関係を強化しておくこと。逆説的なようだが、そのための重要な手段の一つが防衛装備品の輸出だと考える。現在の防衛装備品はメンテナンスが重要。日本の装備を買ってもらえば、装備のメンテナンスを日本に頼らざるを得ない。そうすれば、自国の防衛上、日本を敵には回せなくなる。インフラ輸出などもそれに通じる。
日本は米国に頼りっぱなしではなく、独自の安全保障外交に踏み出していく時だと思う。
トランプが大統領になれば世界の紛争の数は増えてくる。しかし、紛争を激化させ、こじらせるのは大国の介入だ。米国の介入がなくなれば、紛争は増えるが激化するケースは減る可能性がある。
そういった意味で、トランプになったほうが「世界の先」が読みやすい。今からその変化に備えておくことこそが一番重要だ。
【プロフィール】
佐藤優(さとう・まさる)/1960年、東京都生まれ。同志社大学大学院神学研究科修了後、外務省入省。在露日本国大使館などを経て外務省国際情報局に勤務。現在は作家として活動。主著に『国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて』などがある。
※週刊ポスト2024年3月1日号
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