<■110行くらい→右の▽クリックで次のコメントにジャンプ可> 「これは本土の問題だ」…新宿で、横浜で、沖縄の「県民大会」主催者がマイクを握る真意(東京新聞) 2023年10月29日 12時00分https://www.tokyo-np.co.jp/article/286609 沖縄を再び戦場にさせない—。日本政府が対中国を念頭に南西諸島の軍事力を高める「南西シフト」への危機感から、11月に沖縄県内で開かれる1万人規模の県民大会。主催団体を代表し、前南城市長の瑞慶覧長敏ずけらんちょうびんさん(65)が今月、米軍基地のある東京都や神奈川県を訪れて「これは本土の問題だ」と訴えた。平和の構築を巡る沖縄と本土の認識の隔たりは大きい。つながろうとする人々の姿を追った。(安藤恭子、西田直晃) ◆緊迫するガザ情勢「沖縄でも同じこと」 「ミサイルをもって戦争は止まりますか」 21日午後、東京・新宿駅東口。100人を超える市民が囲む中、瑞慶覧さんはマイクでこう呼びかけた。 「ミサイルではなく発電機を。地下シェルターより電柱の地中化を。大国のロシアであっても、ウクライナ侵攻を制せてはいない。平和の運動を継続し、世界とつながることが大切だ」 この日は宮古島市議の下地茜さん(44)も新宿に駆けつけ、鹿児島から沖縄の与那国島まで自衛隊の拠点を置く「南西シフト」の現状を報告した。 2016年の与那国島を手始めに陸上自衛隊駐屯地が各地に開設され、奄美大島、宮古島、石垣島にミサイル部隊が配備された。 下地さんは、空爆によって多くの民間人の犠牲が出ているパレスチナ自治区ガザに触れて「沖縄でも同じこと。小さな島にミサイル基地が置かれれば、住民は巻き込まれる。軍民分離などできない」と訴えた。 ◆与那国島では「台湾有事の際は住民が出て行く」 与那国島では、国民保護法に基づく住民避難の説明会が進んでいる。自衛隊の配備で人口増や島の振興を期待したはずが、「台湾有事の際には住民が島を出て行くという議論になっている」という。そうなったら島には戻れるのか。下地さんは「信頼と対話の仕組みを各国と構築していくよりほか、平和への道筋はないのではないか」と述べる。 参加者は新宿駅周辺をデモ行進し「基地はいらない」と声を上げた。「デモに来たのは初めて。日本政府の対米追従に反対するし、中国を敵視するのも、沖縄に基地負担を集中させているのもおかしいと思った」と、横浜市の翻訳業高原萌さん(28)は話した。 那覇市で11月23日に開く県民大会の主催団体「沖縄を再び戦場にさせない県民の会」で共同代表を務める瑞慶覧さんは本島南部や南西諸島を含む衆院沖縄4区を地盤にし、国会議員や出身地の南城市長を務めた。 新宿でマイクを持つ前日の20日には、横浜市内でも講演した。「事件事故や環境汚染。沖縄の米軍基地問題を解決したいという一心で政治を志したが、日米安保体制を国民全体が認めている中で、変えていくのは難しい。抗あらがい続けている」と吐露した。 南西シフトの根拠とされる「中国脅威論」については「中国との戦争は、沖縄で現実味を帯びていない」と首をかしげる。 台湾有事といわれるが、中国本土と台湾は不可分とする「一つの中国」の原則は、日本も尊重している。 15世紀の明の時代から続く中国との交流を口にし、「『中国兄貴分、沖縄弟分』と言われて育った。中国脅威論は、むしろ政権が進めたい軍事増強や改憲の材料として使われているのではないか」と述べた。 ◆「沖縄の怒りは沸き上がっている」と語る理由 瑞慶覧さんは「こちら特報部」の取材に「首都圏から沖縄に関心をもたれるのはありがたい」としつつ、「深刻なのは日本の方だ。日本は独立国の体をなしているのか」と問いかけた。 米軍の優位性を定める日米地位協定に基づき、米軍は安定的に沖縄に駐留し、オスプレイは昼夜かまわず飛行している。「これは日本のどこでも同じこと。それに米国の武器を税金で大量に買わされ、防衛費は5年間で43兆円という。そのお金は国の教育や子育てに回さなくて良いのですか」 名護市の辺野古新基地建設を巡っては県民投票で反対が7割を占めた。ところが斉藤鉄夫国土交通相は今月、軟弱地盤改良の設計変更に応じない玉城デニー知事に代わって承認するための「代執行」に向けた訴訟を起こし、知事は応訴を表明した。瑞慶覧さんは「受忍の限界だ。日本ではなく東アジア、世界と連帯した方が良いと言う人もいる。沖縄の怒りは沸き上がっている」と訴える。 「戦争を止めるには足元から」と考えるのが、瑞慶覧さんを講演に招いた「島ぐるみ会議と神奈川を結ぶ会」の高梨晃嘉さん(76)。横浜港の米軍「横浜ノースドック」の小型揚陸艇部隊配備に反対する県民署名に取り組み、今月24日には5万7837筆を横浜市に提出した。 高梨さんは、370万人余の横浜市の人口に比して「まだまだ署名は少ない」と受け止める。ノースドックは南西諸島にも部隊、物資を運ぶ拠点となる。「神奈川が戦争態勢に組み込まれるということ。本土と沖縄では戦争への危機感で温度差が大きいが、自分ごとでもあると伝えたい」 県民大会当日は国会前でも午後2時から「沖縄も日本も戦場にさせない」とうたう集会が開かれるほか、横浜や大阪では連帯する集会が予定されている。 大阪集会の実行委員、西尾慧吾さん(24)=大阪府茨木市=は、高校時代の修学旅行で訪れた沖縄で戦後70年たっても遺品や遺骨が見つかることを知り、沖縄戦に関心を持った。戦没者の遺骨を含む土砂を辺野古新基地の埋め立てに使わないよう、各自治体の議会に意見書案の可決を求める取り組みをしてきた。 ◆2000年代以降「政府はより狡猾になった」 玉城知事は9月、スイスで開かれた国連人権理事会で演説し、過重な基地負担で「平和が脅かされている」と訴えた。「沖縄の知事が民意を果たそうとした結果、辺野古の裁判で国と争い、直接世界に訴えないといけないほど、沖縄の声を無視してきた日本の状況を複雑に思う」と西尾さん。 地方自治が奪われる現状を人ごとにできない、という。「基地問題を沖縄に強いるのは本土側。頑張るのは沖縄ではなくヤマトンチュ(本土の人間)の方だ」 沖縄から本土の対応はどう見えるのか。沖縄国際大の佐藤学教授(政治学)は「米軍基地依存を選んだ戦後の国づくりのスタート地点から、隔たりが生まれている」と強調する。 「2000年代以降、政府はより狡猾こうかつになった。新基地建設を強行し、中国脅威論をけしかけて沖縄を丸め込む。特に若い世代は現状を当たり前だと思い込まされている傾向がある」と嘆く。「経済的結び付きが大きい中国との戦争がいかに非現実的か、浮足立つことなくまとまり、地道に非戦を訴えるしかない」 沖縄の問題はこの国の姿をも映し出す。成蹊大の武田真一郎教授(行政学)は「『人ごとではない』と、本土の国民が改めて危機感を共有できるかが重要だ」と説く。「国が地元住民の意志を無視し、新基地をつくることが許されるなら、本土のどこかでも、軍事施設や原子力関連施設の建設が反対を押し切って強行される恐れがある。政府の暴挙を見逃してはいけない」 ◆デスクメモ 沖縄から上京して訴える方々の姿を見ると、申し訳なさが募る。東京の人々に沖縄の今を伝え、行動を促すのは本来、在京メディアの役割だ。十分できていないため、沖縄から東京に足を運び、直接訴える状況が生じたようにも思える。私たちこそ自らの役割を見つめ直さねばならない。(榊) 【関連記事】何を「公益」とみるか…国と沖縄県の主張が対立 辺野古工事「代執行訴訟」 30日に高裁で口頭弁論 【関連記事】辺野古新基地推進のために最高裁が「不合理」判決 行政法学者100人が指摘するおかしな点 政府は次の訴訟へ 【関連記事】「先住民の遺骨はふるさとに」 沖縄県民側の求めを退けた高裁判決が付言で示した、全く別の意味とは
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