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※2023年11月20日 日刊ゲンダイ1面 紙面クリック拡大
※紙面抜粋
※2023年11月20日 日刊ゲンダイ2面
※文字起こし
進む神格化(池田大作・創価学会名誉会長=右)、集票マシン凋落は互いにピンチ(左から岸田首相と公明党の山口代表)/(C)共同通信社
ついに「その日」が来た。創価学会の池田大作名誉会長が15日、老衰のため東京・新宿区内の自宅で亡くなった。95歳だった。学会の巨大な「カリスマ」の死去は、くしくも18日、1944年に獄中で逝去した牧口常三郎・初代会長の命日であり、学会員が最も大切にする「創立記念日」に発表された。
学会の原田稔会長は公式サイトの動画で「深い悲しみを抑えることができません」との談話を公表。池田氏の長男である博正・主任副会長も登場し、死去3日後の公表について「創立記念日の諸行事を予定通り行ってもらいたいとの家族の意向」と説明した。
しかし、池田氏には80歳を越えた頃から、健康不安説がつきまとっていた。2008年、来日中の胡錦濤・中国国家主席(当時)と都内で会談したのを最後に民間外交の表舞台を離れ、10年5月の本部幹部会以降は学会内の公式行事を全て欠席。そのため、ここ十数年は重病説や死去発表の「Xデー」が週刊誌で繰り返し取り沙汰されてきた。
今年2月、公明党はかつて党代表代行を務め、学会女性部に絶大な人気を誇った浜四津敏子元参院議員が20年11月に亡くなっていたと発表。2年以上も秘匿したのは「遺族の意向」と説明した。折しも、公明党が国政選挙並みに重視する4年に1度の統一地方選直前というタイミング。政界では「支援者たちの弔い合戦ムードを高めるため」とのウワサも流れた。
いずれにせよ、学会にとって“不世出の大指導者”の死を伏せ、大切な「11.18」に公表したことに何らかの政治的意図を感じざるを得ない。
「広宣流布」強調の必死の形相に焦燥感
もともと、日蓮正宗の在家信徒団体だった創価学会は、法華経の教えを広く流布する「広宣流布」の実践を社会的使命に掲げている。池田氏にとって政界進出は広宣流布の一環であり、選挙を「広宣流布の戦い」とみなしていた。信仰に基づく活動だからこそ、学会員は選挙に血道を上げるわけだ。
広宣流布は「集票マシン」と称される学会員の組織力の源泉。原田会長は池田氏の死を伝える動画で、その言葉を何度も持ち出し、こう訴えていた。
「広宣流布の松明のバトンを受けた私どもは、悲しみを乗り越え、『月々日々』の新たな歩みを進めていかねばなりません」「池田先生のご遺訓・ご指導を命に刻み、国内広布はもとより、世界広布の実現と創価学会の万代にわたる興隆を目指し、鉄桶の団結を一段と強め、日々、前進してまいりたいと思います」
鬼気迫った表情からは学会の危機感がヒシヒシと伝わってくる。カリスマの死を大事な日に公表したのは、巨大宗教組織が羅針盤を失って、故人の“神格化”を進めなければ「絆と紐帯」を維持できないという焦りの表れではないのか。
ただでさえ、近年の国政選挙で公称827万世帯を誇る学会員の組織力は高齢化による衰えが目立ち、陰りが見える。公明の比例票は04年参院選の862万票をピークに下落の一途で、17年衆院選、19年参院選は700万票割れ。21年衆院選は711万票と持ち直したが、22年参院選は618万票まで落ち込み、ピーク時から3割近くも減退。今年の統一地方選も県議選や市議選などで過去最多の12人が落選した。
学会は池田氏の息子まで動画出演に駆り出し、結束維持にシャカリキだが、池田氏の死でいっそう信者の選挙離れに拍車がかかるのは間違いない。
精神的支柱を失った組織はもろい
学会の選挙活動がますます細れば、自民党にとっても大ピンチだ。公明との連立政権は野党転落を挟んで20年以上続き、国政選挙では「選挙区は自民、比例代表は公明」のバーター協力がすっかり定着。底上げされる得票数は「1小選挙区あたり2万」といわれている。
自民党内には学会の支援がなければ当選がおぼつかない議員がワンサカいる。すでに統一教会(現・世界平和統一家庭連合)の支援も望み薄なだけに、「学会頼み」の当落線上の議員たちは今頃、戦々恐々に違いない。
APEC首脳会議に出席後、米国から帰国中だった岸田首相は18日、池田氏死去を受けて自身のX(旧ツイッター)に「深い悲しみにたえない」と投稿。内閣総理大臣として「国内外で平和、文化、教育の推進などに尽力し、重要な役割を果たされ、歴史に大きな足跡を残した」とたたえたのも、学会員の選挙離れを食い止めるリップサービスにほかならない。
一宗教団体のトップの訃報に接し、一国の総理がわざわざ政府専用機の機中から追悼文を送るなんて異例中の異例だが、今の岸田には票が全て。「政教分離」のタテマエを捨てることさえいとわないようだ。ジャーナリストの鈴木哲夫氏が言う。
「池田氏の死去を受け、にわかに解散風が再び強まっています。学会員にとって偉大なる指導者の死はショッキングで、意気消沈して『選挙どころではない』と普通なら考えがちですが、私はそうは思わない。岸田首相は弔い合戦の機運が高まれば学会員の結束が固まり、より組織力を発揮すると踏んでいるのではないか。政務三役の相次ぐ醜聞に加え、政治資金収支報告書へのパーティー券収入計約4000万円不記載で自民5派閥の担当者が事情聴取と、低迷する支持率はさらに下落しかねない。上がり目ナシの岸田首相にすれば、選挙は早ければ早いほどいい。学会内の弔いムードが冷めないうちに年内、あるいは年明けの通常国会冒頭に解散を仕掛ける可能性は十分にあり得ます」
「私が死んだら、もう終わり」
ジリ貧の岸田にすれば池田氏の死は解散へのラストチャンスとはいえ、弔いムードが消えれば学会の組織力は弱体化。「灯滅せんとして光を増す」の言葉通り、最後の閃光となるのは目に見えている。
1969年の言論出版妨害事件、91年の日蓮正宗総本山大石寺からの破門、相次ぐ週刊誌のスキャンダル報道などに見舞われても、学会員の多くが池田氏と共に歩む道を選んだのは「自分たちの代表」という強い思いがあればこそ。個人の圧倒的カリスマ性ゆえで、池田氏を直接知る古参会員ほど「一時代が終わった」との感慨は深い。
79年に池田氏が会長を退き、名誉会長に就いてから現在の会長は6代目だが、その原田氏を含め、第4、第5代会長の顔と名前を知っている人は世にどれだけいるのか。内外に「池田教」とも言うべき個人崇拝の構図が浸透していた証拠で、カリスマ頼みの組織は精神的支柱を失うと、もろいものだ。集票マシンがショートすれば近い将来、自民下野も視野に入る。
「自民党と創価学会」の著書がある評論家の佐高信氏はこう言った。
「創価学会と公明党の関係は長らく『政教一致』の疑念がくすぶり、公明が99年に反目していた自民との連立に踏み切ったのは池田氏の国会への証人喚問や参考人招致を封じ込める側面もあった。権力に近づいたことで、学会が支持する公明党は『平和』の党是に反し、自民党が進める軍拡路線の補完勢力に成り下がったのです。池田氏が『平和を希求する大衆指導者』と『権力亡者』という2つの顔を使い分けたとも言えますが、その結果、今の学会の腐敗状況を招いた。この先、学会は恐らく分裂するしかなくなるでしょう。亡くなった浜四津氏は自衛隊のイラク派遣に反対し、自公連立継続に難色を示していたそうですが、女性部中心の平和を求める勢力と、これまで通り権力のおこぼれを欲しがる勢力とに二分される。いや、分裂しなければ、もはや学会は生き残れません」
19日の毎日新聞によると、94年のマスコミとの最後の懇談会で、池田氏はこう語っていたという。「私が死んだら、創価学会はもう終わりです」──この予言は必ず的中することになる。
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