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神宮外苑が最たる例…錬金術の道具となった「やらなくてもいい再開発」が街を潰す 事故多発の建設現場で何が起きているのか
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/money/330220
2023/10/07 日刊ゲンダイ
なぜ破壊するのか(神宮外苑のイチョウ並木)/(C)日刊ゲンダイ
再開発とは何か。ある時代につくられた街が社会の変化でさまざまな齟齬をきたし始めた頃に、再び新しい時代に合った形態につくり直すことをいう。そこには、現状への明確な問題意識と、将来に向けての展望がなくてはならない。しかしながら、昨今の再開発の多くはその本来のあり方にのっとっているとは言いがたい。つまり、やらなくていい再開発が多いのだ。
公共機関やディベロッパーが発表する再開発を解説したパンフレットには、「持続可能な社会」「インバウンド」「にぎわい」「環境共生」といった美辞麗句が並ぶ。しかしながら、現実は、持続してきた地域社会を消滅させ、にぎわいをなくし、生活環境を壊す結果になっている。戦後の数十年でやっと街が成熟し、商店主が代替わりし、新陳代謝が始まっていた街をズタズタにしてしまう再開発が散見される。
一例として、東京の旧築地市場周辺の再開発が挙げられる。当初の計画では、公設市場の役目は終わるとみられていた。しかし、現実には想定をはるかに上回る外国人観光客や多数の飲食店関係者が訪問。市場外まで街が活性化された。世界に知れわたる食文化の集積地として街が発展したのだ。再開発が不要な持続可能な街に育っていたのである。にもかかわらず、築地市場を消滅させ、再開発を行う予定だが、今も更地のまま次の展望が見えていない。
もう一つの代表的な事例は、下北沢駅周辺の再開発だ。私鉄2路線が高低差をもって斜めに交わったことで、踏切や高架が複雑に入り交じる迷路のような街区を形成していた。
道に迷いやすい不便な街と思われるかもしれないが、小劇場やライブハウス、小さな飲食店などが、少しずつ増えていった結果、何度でも通いたくなる街のにぎわいが出来上がった。その魅力も再開発により失われつつある。同様な「街の魅力潰し」が立石や十条などの商店街でも起きている。
利益だけが目的
足元で起きている最たる事例が、東京・明治神宮外苑の再開発だ。音楽家の故・坂本龍一さんや作家の村上春樹さん、サザンオールスターズや、国際的な環境団体イコモスの指摘で国際問題になりつつある。なぜ、国民や外国人観光客に親しまれている外苑を破壊するのか。
これら全てに共通するのは、時間をかけて熟成した活気ある街のにぎわいや個性を、再開発の名の下に破壊する構図である。分譲マンションや商業施設の高層化により、莫大な売却益を得ることだけが目的化している。錬金術の道具となっているのだ。
そこに長期的展望はない。そんなものは再開発とは呼べず、既存社会の破壊活動でしかない。こうした行き過ぎた再開発が、建設現場にも歪みを生んでいるのだ。ディベロッパーやゼネコンだけでなく、全国民が自覚するべきだろう。 (おわり)
森山高至 建築エコノミスト
1級建築士。1965年生まれ。岡山県井原市出身。岡山県立井原高から早大理工学部建築学科に進学し、88年に卒業。斎藤裕建築研究所を経て、91年に株式会社アルス・ノヴァを設立し、代表に就任。04年に早大政治経済学部大学院経済学修士課程を修了した。建築家として関わった物件は1000件以上。長崎県の大村市協定強建替え基本計画策定など、公共建設物のコンサルティングに携わるほか、マンガの原作などの仕事も手掛ける。主な著書に「非常識な建築業界 『どや建築』という病」がある。
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