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安倍首相が辞任表明 行き詰まった末の幕引き
毎日新聞 2020/8/29
https://mainichi.jp/articles/20200829/ddm/005/070/072000c
安倍晋三首相が体調悪化を理由に辞任を表明した。新型コロナウイルス感染症対策が後手に回り、政権運営が行き詰まる中での突然の幕引きだ。
首相は記者会見で「国民の負託に自信を持って応えられる状態でなくなった」と語った。持病である潰瘍性大腸炎が再発する兆候が6月に見つかり、今月の検査で確認されたという。
コロナ対応という危機管理が求められる状況だ。首相の判断はやむを得ないが、2007年の第1次政権の時と同様、任期途中の辞任で混乱を生んだことは残念だ。
安倍政権のコロナ対応は迷走を続けた。「アベノマスク」とやゆされた布マスクの郵送配布や、外出自粛の最中に自宅で優雅にくつろぐ様子を公開したツイッター動画は国民から批判を浴びた。全国民への一律10万円の給付も二転三転の末に遅れた。
迷走続いたコロナ対応
新規感染者数は夏に入って増加に転じ、7月末にピークを迎えた。この間、首相が指導力を発揮する場面はほとんどなかった。
通常国会は6月に閉じられた。10兆円もの巨額の予備費を計上するだけで、首相は国会での説明に応じる姿勢を示さなかった。
野党は憲法53条の規定に基づいて臨時国会召集を要求した。しかし、与党は応じず、閉会中審査への首相の出席も認めなかった。
感染が地方にも拡大し、国民の不安が高まる中で、首相は約70日間、コロナ問題を巡る記者会見を開かなかった。
毎日新聞などの世論調査でも、政府のコロナ対応を評価しないという回答が6割を超えた。国民の信頼を失う中での辞任となった。
首相の在任日数は12年の第2次政権発足後、連続で2800日を超え、歴代最長を更新した。ほぼ1年ごとに6人の首相が入れ替わった混乱状態に終止符を打ったのは事実だろう。
第1次政権は「戦後レジームからの脱却」を掲げ、短命に終わった。これを教訓に第2次政権以降は、国民に身近な経済再生を最優先課題に掲げることでイデオロギー色を薄め、国民の支持を得やすい状況を作った。
デフレ脱却を目指す経済政策「アベノミクス」で景気回復をアピールし、内閣支持率を安定させた。政権奪還につながった衆院選を含め、国政選挙で6連勝したことが政権の推進力となった。
集団的自衛権の行使を一部認める安全保障法制や特定秘密保護法制は、国論を二分したが、選挙で得た与党の数の力で押し切った。
一方で、政権の長期化に伴い、最近は内政、外交ともに停滞感が強まっていた。
景気は1年半前から後退局面に入り、高い支持率を支えていた経済政策で成果を打ち出せなくなっていたのがその象徴だろう。「戦後外交の総決算」を掲げたが、北朝鮮による日本人拉致問題やロシアとの北方領土問題は解決に向けた糸口も見いだせなかった。
沖縄県の米軍基地移設問題も県側との対立は深まっている。宿願の憲法改正論議も進まなかった。
難局乗り切る体制急務
7年8カ月に及んだ長期政権の弊害で際立つのは、「安倍1強」によるゆがみだ。内閣人事局に人事権を掌握された幹部官僚の間では、政権へのおもねりや「忖度(そんたく)」がはびこった。
典型的な例が、学校法人「森友学園」への国有地売却問題や首相主催の「桜を見る会」問題だ。
政権を私物化していると指摘されると、首相に都合の悪い公文書や記録が改ざんされたり、廃棄されたりした。正確な記録を残すことで後世に評価を委ねるという意識の欠如が浮き彫りになった。
国会を軽視する姿勢も目立った。野党を敵視し、反対意見には耳を傾けない。民主主義の基盤となる議論の場に真摯(しんし)に向き合おうとしなかった。
長期に権力を維持することには成功したが、政策や政治手法の点では「負の遺産」が積み上がったのが実態だったのではないか。
自民党は次期総裁選びに入る。コロナの危機が続いていることを考えれば、迅速に選ぶ必要がある。ただし、密室での協議で決めるようなことはしてはならない。
コロナで落ち込む経済や米中対立によって不透明化する国際情勢への対応など課題は山積している。こうした危機に取り組む新たな体制を、開かれた論戦を通じて構築する必要がある。
https://mainichi.jp/articles/20200829/ddm/005/070/072000c
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