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※紙面抜粋
※2023年6月21日 日刊ゲンダイ2面
※文字起こし
危機をあおってばかりの岸田首相、アメリカですら対話を模索(ブリンケン米国務長官と中国の習近平国家主席=左)/(C)日刊ゲンダイ
安倍派のパーティーに出席し、「ハト派、タカ派のレッテル貼りには意味がない」──と挨拶した岸田首相は、周囲に「自分はハト派じゃない」と口にしはじめているそうだ。
実際、岸田政権による軍拡が急ピッチで進んでいる。この通常国会では、軍事費を5年間で43兆円に拡大させるための「財源確保法」も成立させている。岸田政権は日本の軍事費をGDP比2%まで膨らませる方針だ。このままでは、日本は世界第3位の軍事大国となってしまう。戦後、約80年間続いた「戦争をしない国」が、大きく姿を変えようとしているのは間違いない。
直感だったのかも知れないが、昨年末、2023年を「新しい戦前になるんじゃないですかね」と警告したタモリは、まさに慧眼だったのではないか。この「新しい戦前」について、慶応大の片山杜秀教授が、毎日新聞夕刊(19日付)で鋭い指摘をしている。
<この言葉が衝撃を与えているのは、実際に近い将来、戦争が起きうると多くの人が思っているからではないでしょうか。その可能性を認めることをけしからん、という人もあまりいない。つまり、新しい戦前である状況を受け入れていると思います><こんな危機の時代だから、防衛費を増額しても仕方ないとうなずいている状況です。それに対して、野党も十分に反発していない。国民的な議論が巻き起こる兆しもない><軍備の増強など国がやっていることを、国民が無為に追認してしまっています>
要するに、軍拡やむなしという思考停止が「新しい戦前」を招いているということだ。しかし、戦争を止める最後の砦である国民が「仕方ない」と思考停止に陥り、歯止めとならないとなると、あっという間に最悪の事態になだれ込んでしまうのではないか。「いつか来た道」である。
法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)はこう言う。
「内心“これはおかしい”と思っていても、大きな流れを前に“仕方ないか”となりやすいのが、日本人の特徴です。空気を読み、少数派になることを恐れる気持ちも強い。戦前の日本人も同じでした。主権在民となり、戦後約80年たっても、日本人の気質は大きく変わっていないということです。戦争の怖さは、はじまってしまうと、反対の声を上げようと思っても、その時は声を上げられない状況になっていることです」
このままでは、あとから振り返ったら、2023年は、あの時が分岐点だったとなりかねないということだ。
外交を放棄する最悪事態
最悪なのは、国民の「仕方ないか」という意識に便乗し、岸田政権が「戦争できる国」に向けてひた走っていることだ。それどころか、危機をあおって「新しい戦前」をつくり出している状況である。
とくに中国に対する「包囲網」構築に躍起になり、「台湾有事」をあおりまくっている。昨年、改定した「安保関連3文書」でも、わざわざ中国の動きを国際秩序への“最大の挑戦”と指摘し、国民に中国脅威論を印象づけようとしていた。防衛費倍増の最大の理由も中国脅威論である。
中国が軍事大国化しているのは事実だろう。しかし、いま必要なのは「軍拡」ではなく「外交」なのではないか。
中国の最大のライバルでもあるアメリカですら、なんとか正面衝突を避けようと、中国との対話姿勢を打ち出している状況である。ブリンケン米国務長官が中国を訪問し、秦剛外相と計7時間半、王毅政治局委員とも3時間にわたり話し合い、習近平国家主席とも会談している。バイデン大統領も、わざわざ「今後、数カ月以内に習主席と会うつもりだ」と記者団に語っている。
ところが、岸田政権は、軍拡だけで日中首脳会談の予定もないのだから話にならない。これでは戦前の日本と同じだ。
高千穂大教授の五野井郁夫氏(国際政治学)はこう言う。
「米中共に、対話による外交で万一の衝突を回避したいのでしょう。当然ながら、戦争を望んでいないということです。本来、こうした緊張緩和に向けた外交は、隣国であり、平和憲法を掲げる日本が率先すべきです。理想は、5月の広島サミットに中国を招くことでした。成功していれば、日本は国際社会から注目を浴びたはずです。なぜ、岸田首相はアメリカよりも早く訪中し、首脳会談実現に動かなかったのでしょうか。それどころか、やっていることは大軍拡で、いたずらに中国を刺激してしまっている。これでは、対話による外交などとても無理でしょう。緊張関係に拍車をかけるだけです」
台湾有事にアメリカは参戦しない
このまま岸田政権に任せていたら、本当に「新しい戦前」になりかねない。当たり前のように「台湾有事」をあおっているが、「台湾有事」がどういう事態なのか、岸田は想像できているのだろうか。
「仮に台湾有事が起きた場合、最悪、日本だけが中国と向き合うことになる恐れがあります。アメリカ政府が台湾有事への対応で米軍を派遣する場合、議会の承認が必要となります。『日本のために米兵の血を流す必要があるのか』という世論が強くなれば、承認を得られない可能性がある。ロシアの侵攻を受けるウクライナへの支援を巡っても、共和党からは消極的な意見が出てきているほどです。米軍派遣が議会で承認されなければ、日本だけが中国と対峙することになりかねません。軍事大国の中国と直接向かい合うことがどれほど危険なことなのか、岸田首相に想定できているとは思えません」(五野井郁夫氏=前出)
危ういのは、岸田は重要政策を国民に知らせないまま、好き勝手に決めていることだ。
昨年末に改定した「安保関連3文書」も、わざと国会閉幕後を狙って閣議決定している。専守防衛から逸脱する「敵基地攻撃能力」の保有も、国民の知らないところで決めてしまった。その後も、なぜ防衛費を倍増させるのか、どんな兵器を買うのか、と野党から追及されても「手の内を明かすことになる」と強弁して、ほとんど答えようとしない。
ウクライナ危機以降、日本は、「国難」と叫ばなくても、軍事費が拡大し、軍拡が進む異常事態となっている。
放っておいたら、岸田は、勝手に日本を「戦争できる国」にしてしまうのではないか。国民が「仕方ない」と思考停止に陥れば、取り返しがつかないことになるだろう。
国民の手で、“欠陥品”のマイナンバーカードとともに岸田政権を葬り去る必要がある。
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