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マイナカードを巡るトラブルは日本の産業の衰退を象徴している 金子勝の「天下の逆襲」
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/324797
2023/06/20 日刊ゲンダイ ※後段文字起こし
時代遅れのシステムの欠陥を隠し「ヒューマンエラー」と言い張り…(C)共同通信社
日本の産業の衰退ぶりが、国民生活で目に見える形で出てきている。新型コロナ流行時には、日本製ワクチンや治療薬はほとんど開発されなかった。電力自給問題でも、日本の風力、太陽光発電のメーカーはほぼ壊滅状態だ。目下のマイナンバーカードを巡る問題も、日本のIT産業の衰退を象徴する出来事と言える。
マイナカード事業の中核を担う「地方公共団体情報システム機構(J-LIS)」には、総務省と関係が深い“御用企業”からの出向者が名を連ねている。政府はトラブル発生の原因を「ヒューマンエラーだ」と言い張っているが、時代遅れのシステムの欠陥を隠し、責任を利用者に押しつけようとする姿勢がさもしい。
マイナポータルの利用規約では損害賠償をしない免責条項がある。しかも、ヒューマンエラーではないものを、ヒューマンエラーだと言っているのだから、タチが悪い。例えば、マイナンバーと公金受取口座の誤登録を巡って、政府は一般利用者の登録ミスが原因としている。国民のせいだと言っているわけだ。
しかし、利用者がクレジットカードなど登録手続きでミスした場合、普通は端末の画面上で「警告」が表示されるはずだが、そういう仕組みさえない。顔認証トラブルでマイナ保険証がフリーズして10割負担になったのも「システムエラー」だ。26年に新しいカードに替えるという。なんで急ぐのか。
マイナカードの誤紐付けで、他人の年金記録が閲覧される事態も起きたが、これも、誤登録をチェックできない仕組み自体に問題がある。米国でも年金支給を巡るトラブルは起きているが、少なくとも米国の公的年金は一元化されており、社会保障番号により容易に確認できる仕組みになっている。
しかし、日本の年金制度は職業や年齢別に分立しており、負担率も運営の仕組みもそれぞれが大きく異なる。転職や、年を重ねるごとに頻繁な変更を余儀なくされる。「デジタル化=効率化」につながらない。
そもそもスマホでなくカードを作ることが、なぜデジタル化なのか。カードを紛失すれば、預金から何から丸裸になってしまう。ドイツでは、ナチスがユダヤ人を管理するために番号を割り振っていた経験から、情報を分散管理する方針を取っている。国民の情報を一元化し「利便性」を高めれば、セキュリティーは弱まる。だからこそ、分散管理が重要なのだ。
カード化はたばこのtaspoと同じ利権のにおいがプンプンする。必要なのは、J-LISに巣くう御用企業の時代遅れなOSとの決別だ。独自のOSをイチから作り上げるくらいの気概がなければ、日本のIT産業は永遠に先進国には追いつけない。
金子勝 淑徳大客員教授
1952年6月、東京都生まれ。東京大学経済学部卒業、東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。法政大学経済学部教授、慶應義塾大学経済学部教授などを経て現職。慶応義塾大学名誉教授。文化放送「大竹まことゴールデンラジオ」などにレギュラー出演中。近著「平成経済 衰退の本質 」など著書多数。新聞、雑誌、ネットメディアにも多数寄稿している。
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