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米中が太平洋島しょ国をめぐって勢力争い 太平洋戦争で日米が戦った地域が、なぜいま注目を集めるのか/梶原崇幹・nhk
2023年08月31日 (木)
梶原 崇幹 解説委員
https://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/487240.html
かつて太平洋戦争で、日米が激戦を繰り広げた太平洋の島々。いま、この島々をめぐって、アメリカと中国の勢力争いが激しさを増しています。なぜ、米中両大国がこの地域に注目しているのか、そして、日本は、この地域にどう関与していくべきなのでしょうか。
(いま、なにが起きているのか)
太平洋島しょ国は、赤道を挟んで位置する島々で構成される14の国と地域です。
地域最大の国はパプアニューギニアで、人口はおよそ1000万人。そのほかの国は人口が100万人に達しない比較的小規模な国です。これまでは、アメリカ、オーストラリア、日本などとの関係が深く、中国の足がかりは小さいとみられていました。
激震が走ったのは、去年4月、ソロモン諸島が中国と安全保障協定を結んだことです。両国政府は協定の内容を明らかにしていませんが、オーストラリアのメディアは、▼ソロモン諸島が中国に軍や警察の派遣を求めたり、▼中国の船舶がソロモン諸島を訪問して、補給を行ったりすることができる内容が盛り込まれていると報じました。
ことし7月、中国の習近平国家主席は、北京で、ソロモン諸島のソガバレ首相と会談し、日本政府の関係者は、会談の中では、安全保障協定の運用に向けた協議も行われたとみています。
こうした安全保障面での関係強化が影響したとみられる、日本にとっては心配な事案が起きています。
8月24日、東京電力は、福島第一原子力発電所にたまる、トリチウムなどの放射性物質を含む処理水を薄めた上で、海への放出を始めました。外務省によりますと、日本政府は事前に、すべての国に直接、出向いて説明を行い、これまでのところ、13の島しょ国からは明確な反対の声は出ていません。その一方で、ソロモン諸島のソガバレ首相は、「放出は、人々や海洋、経済、暮らしに影響を与えるもので、強く抗議する」という声明を出し、中国と足並みをそろえる形となりました。
中国は、国交のあるそのほかの国々にも、ソロモン諸島と同様の安全保障協定の締結を働きかけています。
こうした状況にアメリカは危機感を強めていて、巻き返しに出ています。
バイデン大統領は、去年9月、この地域の14の国と地域の首脳などを招いた初めての会議を開き、中国に対抗していくため、8億1000万ドル、日本円にして、1100億円あまりの支援を表明しました。
また、ことし5月、ブリンケン国務長官は、ソロモン諸島の隣国、パプアニューギニアを訪れて、防衛協力協定に署名しました。協定は、現地政府が認める施設や区域を、アメリカ軍が使用できるというもので、海軍基地や空港、港湾施設などが候補にあがっています。
7月には、オースティン国防長官も現地を訪れて、協定について協議を行い、期限が15年であることや、9月にもアメリカ軍が使用できる施設について具体的な調整を始めることなどを明らかにしました。
(なぜいま、島しょ国なのか)
太平洋島しょ国をめぐって、なぜいま、米中が勢力争いをしているのでしょうか。
一連の動きの引き金となったのは、中国がソロモン諸島をはじめ、地域への関与を強めたことですが、これについて、日米の当局者は、中国軍が、この地域の軍事戦略上の利点を2つの面から着目したからだとみています。
1つは、グアム、ハワイへのけん制です。
台湾海峡で不測の事態が起きた場合、アメリカ軍は、インド太平洋軍が司令部を置くハワイ、そしてグアムなどを拠点に対応するものとみられています。
中国軍が、グアムに対し、中国本土とは逆の方向から活動できるとすれば、大きなけん制になります。
さらに、ロイター通信によりますと、中国は、ハワイの南西に位置するキリバスのカントン島の滑走路の改修支援を働きかけているということです。
外務省幹部は、「この地域で中国軍が活動すれば、アメリカ軍は、警戒監視に余分なリソースを割く必要があるだけでなく、ハワイとグアムを結ぶラインの背後を脅かされているという圧力を感じるだろう」としています。
中国軍が着目するもう1つの戦略的な利点は、オーストラリアやニュージーランドへのけん制です。
特に、オーストラリアは、中国を念頭に抑止力の強化に取り組んでいて、原子力潜水艦の導入も計画しています。
アメリカ国防総省によりますと、中国は、ソロモン諸島に続いて、その隣国のバヌアツとも同様の協定を締結しようと働きかけを強めているということです。
およそ80年前、旧日本軍は、ソロモン諸島のガダルカナル島に進出し、アメリカ軍との間で熾烈な戦いを繰り広げました。オーストラリアがアメリカの反攻作戦の拠点になるとみたことが背景にあり、周辺はオーストラリアをにらんだ戦略上の要衝です。
ニュージーランドは、ことし8月、初めてとなる国家安全保障戦略を発表しました。この中では、「中国は、この地域で、港や空港の開発を支援する取り組みを行っているが、これらは、将来的に、軍民共用か軍専用の施設になる可能性があり、地域の戦略バランスを根底から覆すことになる」として、強い警戒感を示しています。
(太平洋戦争を研究する中国)
こうした中、ことし1月、アメリカのシンクタンクが発表した1本のレポートが注目を集めました。
戦略予算評価センターの上席研究員で、中国海軍の研究で知られるトシ・ヨシハラ氏が、中国の国防大学や軍事科学院などで発表された論文を分析した「太平洋戦争から中国が得た教訓」というレポートです。
ヨシハラ氏は、中国で太平洋戦争の研究がさかんに行われていることについて、「中国軍は、世界一流の軍隊を目指すにつれて、他の大国と対等に戦うことが期待されている。太平洋戦争は、冷戦後の紛争より、中国軍に核心に迫る考察を与えるのだろう」としています。
そして、ガダルカナル島での戦いを分析した中国の論文は、特に補給面に注目しており、前線基地の確立と、物資を運搬できる船舶などの必要性に言及しているということです。
軍と関係の深い機関で行われたこれらの研究が、中国がこの地域の戦略上の重要性に着目するきっかけになったのかもしれません。
(これからの展開)
では今後、この地域での米中の勢力争いはどうなっていくのでしょうか。
両国とも、この地域への関与を強める姿勢を示していることから、争いは激しさを増していきそうです。日本政府の関係者は、短期的には、一部の国で中国の影響力が強まるのは避けられないだろうとみています。
ただ、ここにきて島しょ国からは、中国に対する警戒感が出てきているほか、多くの国は、大国同士の争いに巻き込まれたくないというのが本音です。
日本は、1997年から3年に1度、この地域の首脳らを集めて、太平洋・島サミットを開催し、来年も予定されています。防衛省も、毎年、海上自衛隊の艦船をインド太平洋諸国に派遣して、訓練を行ったり交流を図ったりしていますが、ことしは太平洋島しょ国に重点を置いています。
多くの島しょ国からは、日本の「自由で開かれたインド太平洋」戦略に評価が寄せられています。これまでの質の高いインフラ支援に加えて、沿岸警備などの能力向上支援や安全保障分野の交流などを進めて、法の支配にもとづく海洋秩序への協力を求めていく必要があるでしょう。
(まとめ)
太平洋島しょ国に足がかりを得ようとする中国の取り組みが、将来、戦力の大規模な展開につながるかどうかは、冷静にみていく必要があります。ただ、中国軍がより遠方で作戦を行えるよう取り組んでいるのは間違いありません。この地域が、80年前のような戦いの場ではなく、平和な海域でありつづけるためにはどうすればいいのか。日本の戦略的な取り組みがこれまで以上に求められています。
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