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2023年10月30日 12時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/286776/1
https://www.tokyo-np.co.jp/article/286776/2
長さ560メートルの巨大アーケードで知られる東京都板橋区のハッピーロード大山商店街が揺れている。
タワーマンション4棟などが建つ大規模な再開発を巡り、その予定地にある地場スーパーが店頭に「再開発反対!」の横断幕とのぼり旗を掲げ、公然と反対運動を始めたのだ。
「絶対に立ち退きはしない。命の限り戦う」と気を吐く84歳のオーナー社長。一体何があったのか。その真意を聞いた。(岸本拓也)
◆「素晴らしい商店街を分断し、買い物難民を生む」
反対運動を指揮しているのは、首都圏で86店舗のスーパーを展開するコモディイイダ(東京都北区)の飯田武男社長。10月中旬、東京新聞「こちら特報部」の取材に、毅然きぜんとした口調でこう言い切った。
「東京でも指折りの素晴らしい商店街を分断し、アーケードを壊して買い物難民を生む。こんな再開発に一体何のメリットがあるんですか。絶対に反対しなくちゃいけない」
大山商店街では今、大きな二つの再開発が進む。住友不動産が協力して高さ90メートル超のタワーマンション2棟を建てる「クロスポイント周辺地区再開発」と、積水ハウスが参画して100メートル超のタワマン2棟を建てる「ピッコロ・スクエア周辺地区再開発」だ。
◆2003年に誘致を受けて進出したコモディイイダ
このうち、コモディイイダ大山店はピッコロ地区の中心部にあるビルの1階に入居しているが、再開発に伴い今年12月末までに立ち退くよう求められている。求めたのは、ビルを所有するハッピーロード大山商店街振興組合。飯田社長は「だまし討ちのようなことをされた」と憤慨し、経緯をこう説明する。
イイダは振興組合から誘致を受けて2003年に大山に出店した。長年空き地だった板橋区の土地を振興組合が借り、その上にイイダが建設費約2億3000万円を提供してビルを建設。1階にはイイダがテナントとして入り、2階には振興組合が事務所を構えた。
両者は長年緊密な関係にあり、「当時、この空き地は鉄扉で囲まれ、地元で『嘆きの壁』と呼ばれていた。そこに当社が出店したことで商店街に新たな人の流れを生み、振興組合にも喜んでもらえた」と飯田社長は自負する。
◆3億円かけた改修直後に初めて「再開発」知らされた
ところが20年12月、その関係に亀裂が生じる。当時の振興組合理事長で、現在は、ピッコロ地区の再開発組合理事長となっている人物から突如、タワマン2棟が建つ再開発計画を知らされたことが引き金だった。
イイダは、その4カ月前に3億円を投じて大山店を改装オープンしたばかり。飯田社長は「改装にはビル所有者の振興組合の許可が必要なので、事前に『再開発はいつになりそうですか』と何度も振興組合に尋ねていた。向こうは『まだまだ5年、10年先』と言っていたのに改装直後に『実はこんな再開発があります』と。こんなばかな話がありますか。信頼関係が完全に崩れた」と憤る。
◆立ち退き要求されても「最高裁まで徹底的に争う」
この話には前段がある。14年9月、先の振興組合理事長(当時)らが飯田社長と面会し、ピッコロ地区の再開発構想の資料を提示。その中には、現在のタワマン計画とは異なり、低層ビルを建てて、地元商店やイイダもそこに移転する絵姿が描かれていたのだ。
「向こうは『このやり方ならイイダさんは一日も休まずに営業を続けられますよ』と言っていたが、その後は何の連絡もなかった。それが突然のタワマン計画と、入店するスーパーも公募すると言われた。だまし討ちじゃないか」と飯田社長の怒りは収まらない。
さらに昨年11月、板橋区がピッコロ再開発計画の具体化を見越して、振興組合に「区有地の使用許可を出せなくなる」と通知。これを受けて振興組合は同12月、イイダ側に今年12月末で立ち退くよう求めた。これが決定打となり、飯田社長は再開発全体への反対姿勢を鮮明に。4月には「再開発反対」の横断幕とのぼり旗を大山店に掲げた。
今後、振興組合から立ち退き訴訟などを起こされる可能性があるが、飯田社長は「(借り手の権利を守る)借地借家法で、最高裁まで徹底的に争いますよ。最後はブルドーザーで店が壊されるまで営業はやめません」との覚悟を見せる。
◆立ち退き求めた振興組合理事長は文書で回答した
振興組合は飯田社長の主張をどう受け止めているのか。伊崎宏明理事長は取材に「非常に困惑しております。ただ、ご理解を頂くよう努力して参ります」と文書で回答。立ち退きを求めたのは、イイダと結んだ賃貸借契約で「区の行政財産使用許可が受けられなくなる場合、建物を取り壊して更地にして返す契約となっているため」と主張し、「立ち退きは契約上合意して頂いたと考える」とした。
また、再開発の状況は、振興組合が把握した情報をまとめたチラシを16年4月から毎月、イイダ側に配ってきたと説明。14年9月に当時の理事長がイイダ側に示した再開発構想については「振興組合は再開発の計画決定に関わる立場にない」と断った上で、「当時は再開発組合も発足していない段階であり、商店街や町会の要望を情報交換したものと考える。その後の流れから、14年の話はひとつの思惑に過ぎなかった」と答えた。
◆長年の混乱の源流は都市計画道路「補助第26号線」
「イイダ騒動」に揺れる大山再開発。その混乱の源流にあるのが、東京都が進める都市計画道路「補助第26号線」の整備だ。
もともと戦災復興院が1946年に大山商店街を分断するような形の幅員20メートルの道路整備を計画したが、商店街が反対。道路を造らせないように78年には巨大アーケードを建設した。
しかし、東日本大震災を機に、地域の防災性を高めるためとして、都が2015年に国の認可を得て26号線の事業化を正式決定した。道路計画に合わせ、木造密集地の解消や防火対策の名目で再開発事業に巨額の補助金を用意。大手不動産デベロッパーが協力し、クロス地区とピッコロ地区の大規模なタワマン再開発へとつながっていった。
◆なぜ大山にまで「タワマン」なのか
実はこの間、板橋区が地元住民らの意見を聞いて、低層ビルを主体とした小規模な再開発を進める「身の丈に合った開発」を模索する動きもあったが、目先の収益性に優れたタワマン計画の前に立ち消えとなった。区まちづくり調整課の長尾幸久課長は「身の丈開発は収益性の問題で事業が成立しなかった」と話す。
埼玉大の岩見良太郎名誉教授(都市工学)は「再開発でデベロッパーが利潤を最大化するには、容積率を引き上げて得た保留床をマンションとして売り払うタワマン開発が手っ取り早い。得てして事業者の都合が優先され、住民の願う街づくりとはかけ離れていく」と指摘する。
◆勢い増す反対運動
そして現在、クロス地区ではタワマン2棟の建設が着々と進む。26号線整備に伴う東武東上線の線路立体化や大山駅前の広場整備など、大山の再開発事業はてんこ盛りだ。商店街のシンボルであるアーケードも26号線が横断する予定区域で24年4月から一部が取り壊される流れになっている。
ただ、その26号線も今年3月末時点で必要な用地の取得率は51%どまり。都が目指す25年度中の整備完了が見通せない中、先行してアーケードを壊すことに反対運動も起きている。10月17日には大山の各再開発事業に反対する地権者や住民らが結集し、コモディイイダの飯田社長も参加してデモ行進する計画を決めた。
イイダの立ち退き反対もあり、板橋区の長尾課長は「ピッコロ再開発が遅れつつあるのは事実」と認める。大山の街が今後どう変容していくのか、着地点は見えないでいる。
◆デスクメモ
中板橋に2年ほど住んでいたことがある。一つ先の駅が大山だから、家族でぶらぶらと歩いて行って、気がつくと大山ハッピーロードに着いて楽しんでいた。率直に言えば、あの大山にまでタワマンとは、という思いだ。23区内で庶民が気兼ねなく暮らせる地は、どんどん減っていく。(歩)
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