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アメリカ発金融不安 今後の影響と課題は/櫻井玲子・nhk
2023年03月24日 (金)
櫻井 玲子 解説委員
https://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/481149.html
世界の金融市場で、緊張が高まっています。
わずか2週間あまりの間に、アメリカでは、銀行が相次いで破綻。
さらにはスイスの金融大手が深刻な経営危機に陥って救済合併されるといった事態が起き、金融機関に対する信用不安が、広がっています。
▼金融システム不安が起きている背景や、
▼その大きな要因となったアメリカの金融政策に関する最新の動き。そして
▼今後の課題、について、みていきます。
まず、今回の一連の信用不安は、どうして起きたのでしょうか。
その要因の一つとなったのが、アメリカの中央銀行にあたるFRB・連邦準備制度理事会による、急激な利上げです。
コロナ禍からの回復に伴い、アメリカでは物価が40年ぶりの高い水準にまで上昇。
そこでインフレを抑えようと、FRBはそれまでの超・低金利政策を大きく転換し、去年3月から急ピッチで利上げをすすめてきました。
ただ、こうした利上げは、物価を抑える効果が期待される一方で、企業や銀行がこれまでより、資金を調達しにくくなるという面があります。
資金難になりそうな銀行や、問題がありそうな銀行に、自分のおカネを預けていて大丈夫か?
投資家や預金者の厳しい目が向けられるようになり、その「疑心暗鬼」が、一連の事態を招くきっかけとなっていったのです。
信用不安の発端となったアメリカ西海岸の「シリコンバレー銀行」では、金利の上昇により、貸出先の大半を占めるスタートアップ企業の資金繰りが悪化。
また、銀行が、金利が上がると値下がりしてしまう債券を、大量に保有していたこともわかり、預金者による取り付け騒ぎが起きて、10日、破綻に追い込まれました。
その2日後には、NY州の銀行が同じように、経営の先行きに疑問をもたれて破綻します。
そして金融不安は大西洋をこえて、スイスの大手金融グループにも波及しました。
クレディスイスは、世界の金融システムに大きな影響を及ぼしうる巨大な金融機関として認定された、およそ30行のうちの一つです。
しかし去年の秋以来、貸し出しの焦げ付きや、元幹部による不祥事が発覚。
今月中旬に筆頭株主が追加投資を拒否したことが伝えられると信用不安が一気に高まり、急遽、他社に救済合併されることが決まりました。
この間、日本でも、欧米で起きた信用不安を受け、連日、株価が急落する、といった悪影響が出はじめました。
このため、日銀をはじめ、アメリカ・ヨーロッパなど世界の6つの主要な中央銀行は20日、市場へのドル資金の供給を拡充すると発表。
企業や銀行に必要なおカネは、十分に供給するというメッセージを送ったことで、市場は、やや落ち着きを取り戻しました。
また、FRBによる銀行向けの緊急融資制度も新たに設けられ、破綻したアメリカの2つの銀行については、預金を全額保護するという異例の対策が打ち出されました。
いずれも、新たな取り付け騒ぎが起きることを防ぎ、不安の連鎖を抑え込む狙いがありました。
こうした中、関心を集めたのが日本時間23日の未明まで開かれたアメリカの金融政策を決めるFRBの会合です。
信用不安がくすぶる中、その要因ともなった利上げをいったん止めるのか。
それとも、高い物価を抑えることを優先に、利上げを続けるのか。
市場関係者が見守る中、FRBは前回の会合と同じように0.25パーセントの利上げを決めました。
パウエル議長はその理由について、会見の中で、
▼「アメリカの金融システムは健全だ」と繰り返し述べ、
今回破綻した銀行2行は、例外的なケースであったと強調した上で、
▼物価の上がり方を考えれば、本来ならもっと金利を大きく上げなければならないところを、今回の信用不安が景気を冷やす影響も考え、実際の利上げ幅は0.25%にとどめることにした、と述べました。
今、利上げをやめれば「本当は金融システムにより深刻な問題があるのではないか」と、かえって疑念を生じさせるリスクもある。
それを避けたいという、政治的な判断も多少、あったかも、しれません。
一方で、この先のFRBの方向性について注目すべき点もありました。
▼声明文から、「継続的な利上げが必要だ」というこれまでの文言を削除し、
▼会見でも、信用不安による影響で、アメリカ経済への予想以上にダメージが大きくなる可能性を認めたことです。
今回はひとまず利上げを決めたけれども、今後は信用不安による経済への影響を見極めながら、慎重に考えていきたいという姿勢が感じられました。
24日の東京外国為替市場では、アメリカの利上げが近く止まるのではないかとの観測も背景に、ドルを売って円を買う動きが強まり、1ドル129円台後半まで値上がりしています。
さて、この先、信用不安は収束していくのでしょうか。
専門家の多くは、今回破綻した2つのアメリカの銀行は貸出先や預金の運用先に偏りがあったことや、クレディスイスに不祥事が相次いでいたことなど、特殊な事情を抱えていたことから、これだけで、世界全体の金融システムがただちに危うくなる可能性は、現時点では高くない、と話しています。
ただ、金融機関や、中央銀行の対応への疑心暗鬼は根強く、アメリカでは、中小金融機関から預金を引き出し、大手に預けかえる動きもおきています。
体力的に弱い銀行や、問題を抱える金融機関の動向には、今後も、注意が必要となりそうです。
そこでここからは、今後のリスクや課題についてみていきたいと思います。
まず心配されているのが、アメリカの景気後退です。
というのも、信用不安を背景に、金融機関が自らのリスクを避けるために貸し出しを縮小していけば、投資家や企業への融資が減り、景気も冷え込むからです。
住宅ローンや不動産投資への影響を心配する人もいます。
また銀行が抱える債券の値下がりなどにより、損失を被る金融機関がさらに出てくることも考えられます。
アメリカの景気後退はもはや避けられないという見方が強まっており、日本経済にも少なからぬ影響が及ぶことが予想されます。
もう一つ、今、問われているのは、金融機関に対する監督や規制をどう強化し、預金者の信頼を取り戻すかです。
たとえばシリコンバレー銀行は、アメリカで利上げが予想される中で、なぜ、値下がりする可能性が高い債券を異例なほど大量に持っていたのか。
銀行に対するFRBをはじめとする金融当局の監督は十分だったのか、疑いがもたれています。
2008年のリーマンショックの後に導入された金融規制を、その後、中小・中堅金融機関を対象に、一部緩めてしまったことも今回の銀行破綻を避けられなかった理由の一つで、FRBは金融機関の規制の見直しを5月までにまとめて発表する予定です。
金利が急にはね上がった場合の備えは十分なのか。
利上げをしても金融システムの安定を保てるかどうかの点検はできていたのか、アメリカだけでなく、今はマイナス金利政策をとる日本にとっても、一つの教訓となりそうです。
今回の一連の信用不安は、金融システムがいったん信頼を失えば、簡単にその安定が崩れうることを示しているともいえます。
ロシアによるウクライナ侵攻も続く中、世界の金融システムの安定が大きく揺らぐようなことは、なんとしてでも、避けなければなりません。
アメリカをはじめ、各国が協力して信用不安の拡大を防ぎ、預金者や投資家の信頼を取り戻すことができるかが、問われています。
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