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韓国に「1人当たりGDP」や労働生産性で追い抜かれた日本の行く末
野口悠紀雄:一橋大学名誉教授
週刊ダイヤモンド
https://diamond.jp/articles/-/229993
1人当たりGDP(国内総生産)で日本の地位は低下し、ついに韓国にも抜かれた。労働生産性では、さらに地位が低くなる。
※1人当たりGDP=国内総生産を全人口で割った、個人の豊かさを示す指標
事態は、昨年12月に日本生産性本部が発表したデータより深刻だ。生産性向上が喫緊の課題だ。
OECDデータの“衝撃”
1人当たりGDPで韓国が上位に
先進国が加盟するOECD(経済協力開発機構)のホームページに、衝撃的な数字がある。
図表1のAは、その一部を抜き出したものだ。これは2018年における1人当たりGDPの数字である。
日本は4万1501ドルで、アメリカの6万2852ドルの約66.0%だ。米国との差はよく知られているので、あまり衝撃はないかもしれない。
大きな衝撃は、韓国の数字が日本より大きくなっていることだ。
韓国だけではない。表には示していないが、すでにイタリアに抜かれており、スペインにも抜かれそうだ。
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「日本経済」が韓国に追い抜かれた納得できる理由
同じ構造的問題を抱えながら何が差を生んだのか
東洋経済 2022/03/07号
https://toyokeizai.net/articles/-/536058
日本経済研究センターが2027年には韓国が名目GDPで日本を上回りし、台湾も同年に上回ると予測したとき、大きなニュースとなった。しかし、国際通貨基金(IMF)によると、韓国はすでに2018年に日本を追い抜き、台湾は2009年に追い抜いている。
さらに、韓国は2026年までに日本より12%リードするとみられている。 IMFは、購買力平価(PPP)と呼ばれる基準を用いており、これは、実際の生活水準を比較するために、価格と為替レートの変動を均衡するものだ。
「逆転」が日本について語ること
しかも、韓国は日本とは異なり、その成長成果を労働者に与えてきた。1990年から2020年までの30年間、平均的な日本の労働者は年間実質賃金(付加給付を除く)の上昇を享受しなかったが、韓国の労働者の賃金は2倍になっている。現在、韓国の労働者は日本の労働者よりも高い実質賃金を得ている。
この「逆転」は、韓国よりも日本について多くを語る。健全な新興工業国は、経済的に裕福な国の技術レベルに追いつくペースが早く、経済的にも富裕国より早く成長する。日本と韓国も同様に先進国の技術に追いつき、経済成長を果たしてきた(そして日本については、奇跡の成長が終わった後も、技術的な進化は続いた)。
1970年には日本の時間あたりの労働生産性は、アメリカのそれの40%に満たなかったが、1995年までに71%にまで上昇した。が、その後、失われた10年の間に日本が後退したことで、この数字は63%にまで低下している。
一方、韓国はアメリカに追いつき続けた。1970年の時間あたりの労働生産性アメリカの10%に過ぎなかったが、2020年までに58%に急上昇。まもなく、韓国はこの指標でも日本を追い抜くだろう。
韓国の成長が特に際立つのは、韓国が日本と同じ構造的欠陥を有しているにもかかわらず、これを軽減する方法を見出したからだ。日本と同様、韓国は「二重経済」である。すなわち、韓国経済は、国内製造業の一部と多数のサービス業という、極めて効率的な輸出部門、そしてひどく非効率的な部門で成り立っている。韓国における中小企業と大企業間の生産性格差はOECDで3番目に悪い。
一方、労働力の3分の1以上は、低賃金の非正規労働者で構成されている。 経済が非常に不均衡なため、2019年の韓国の全輸出は、驚くべきことにサムスン電子だけで2割を占めている。これは非常に危険である。
「韓国の未来は日本を見ればわかる」と警告
こうした状況下、ワシントンに本拠を置く韓国経済研究所は、改革をしなかった場合、「韓国の未来は日本を見ればわかる」と警告した。加えて、世界的な競争力を持つ産業がいつまでも「経済全体を動かすのに十分な大きさのエンジン」であり続けることは両国とも不可能だ、と付け加えた。
実際、韓国の1人当たりの成長率は、1980年代半ばの年間9%から2014〜2019年にはわずか2.5%とすでに低下している。もっとも経済が成熟するにつれて成長は鈍化するものであり、2.5%は同期間の日本の成長率(1.1%)を上回っている。それでもOECDによると、韓国に日本のような構造的欠陥がなければ、年間成長率は1〜2%高くなる可能性がある。
いずれにしても、日本と韓国における1人当たりのGDPは、アメリカやヨーロッパを大きく下回っており、韓国は追いつきつつある一方で、日本はこれに後れをとっている、というのが今の構図だ。しかも韓国は構図的欠陥の少なくとも一部を改善するため、より多くの取り組みを行っている。逆に言えば、日本は韓国から学ぶところがある、というわけだ。
経済がきちんと成長するためには、高い潜在的成長を実現するための生産性向上を実現しなければいけない。同時に、経済がフル稼働するには、需要側の安定性が必要である。
この点で、韓国は日本よりうまく需要側をコントロールしてきた。前述の通り、韓国では労働者の賃金がGDPと並行して上昇している。その結果、韓国の世帯は自国が生産したものを買う余裕がある。正常な経済では、民間需要の不足を補うために、慢性的な政府による支出と、必要以上に大きな貿易黒字は必要ないのだ。
賃金格差については、韓国のほうが日本より状況が悪いが、韓国はこの改善にも取り組んでいる。例えば、最低賃金は中央値は62%に引き上げられており、これはOECDで3番目に高い比率になっている。日本はいまだ45%にとどまっている。
世界的な危機への耐性が高い韓国
韓国の対GDPにおける輸出額は日本の2倍だが、内需が強いことから、韓国は世界的な危機に対して日本より耐性がある。2008〜2009年の金融危機時、日本のGPDが7%減少した一方、韓国のGDPは4%増加した。また、過去2年のコロナ禍において日本のGDPは3%低下したのに対して、韓国のGDPは3%上昇した。一般的にマクロ経済危機の影響を受けにくい国は、長期的に平均成長率が高くなる。
生産性の面では、経済成長に必要な第一要素は最新設備への投資である。1980年当時、韓国の各労働者は日本の労働者の23%の資本しか持っていなかったが、2020年までに韓国の労働者は日本の労働者より12%多く持つようになった。
2つ目の大きな要素は、教育と訓練である。「人的資本」は、1人ひとりがどれだけ学校教育を受け、さらなる追加の学歴が各国の成長に貢献するものだが、1960年、韓国は日本と比べて70%の人的資本しか享受していなかった。これが2019年までに5%増加し、韓国の人的資本は先進国31カ国中5位となり、日本は13位になった。
多くの日本人が大学を卒業しているにもかかわらず、日本はなぜ後れをとっているのだろうか。2020年には、24〜34歳の年齢層では韓国人の70%が大卒で、日本は62%と先進国トップレベルにある。ここからわかるのは、日本企業がこうした高い学歴を持つ人を最大限に活用する訓練やテクノロジーを導入できていない、ということだ。
例えば、大卒者であったとしても非正規労働者は正規労働者が普通に受けているような、オン・ザ・ジョブ・トレーニング(OJT)をほとんど受けていない。また、日本企業のオフ・ザ・ジョブ・トレーニング(職場外研修)への支出は1991年以来40%減少している。OJTの費用は総人件費とは別に計算されていないが、非正規の割合が増加しているため、ほぼ確実に減少しているだろう。
政府が教育にかける費用も低い日本
問題は訓練費用だけではない。大学以前の教育に投資する費用(GDP比)で見ても、韓国がOECD26カ国中15位なのに対して、日本は下からなんと2番目。大学教育に関して言えば、日本は公的資金に最もお金をかけていない。 経済的負担は家族に課せられる。その結果、裕福でない家庭の優秀な日本人学生は大学に進学できず、個人にとっても国にとっても損失となっている。
ある国の経済が発展していくうえで最も重要な要素はインフラ、近代産業、および教育にどれだけ投資するかである。しかし、国がある程度経済的に成熟すると、より重要なのは国がどれだけ投資するかではなく、どれだけ賢明に投資するか、つまり、企業が投資した1円や1ウォンからどれだけの利益を得られるか、である。
この点で見ると、サムスン電子はより優れた製品や、賢い労働者を持つからではなく、優れた戦略を実行したことからソニーに取って代わったと言える。
国が物的資本と人的資本の両方からどれだけの利益を得るかを測る尺度は、全要素生産性(TFP)と呼ばれる。 資本と労働の投入量が2%増加し、GDPの生産量が3%増加する場合、その1%の差はTFPである。長期的には、TFPの堅調な成長は、1人当たりGDPの成長を最も確実に保証するものだ。 2014年から2019年にかけて、韓国はOECD 23カ国の中で1位となり、TFPは年間1.5%の成長を遂げた。対照的に、日本は0.6%でわずか10位だった。
TFP成長の一部は、アーク式電気炉を備えた製鉄所など、より最新の技術に投資することによってもたらされる。しかし、先進国はどこも同じような技術を利用している。こうした中、TFPの差を生む要因の1つは、その技術をどれだけうまく利用しているか、である。
試しにデジタル技術を見てみよう。日本と韓国はともに、大企業と中小企業間の大きなデジタルデバイドに悩まされているが、情報通信技術(ICT)に投資している韓国企業は、これをより効率的に活用する取り組みをしている。
例えば企業は、ICTを事務作業や工場作業の自動化など、すでに実行している作業のコストを削減するために使うのか、それとも新製品や改良製品を生産するために使うのか、的確に顧客を狙うために使うのがいいのかという選択に迫られる。日本経営開発研究所は、デジタル分野におけるこのような「ビジネスアジリティ」で国をランク付けしているが、2021年に64カ国中、韓国は5位だったのに対し、日本は53位と完全に後れを取っている。
企業は、従業員がICTをうまく使うスキルを持っていない限り、ICTを最大限に活用できない。 世界経済フォーラムが労働力のデジタルスキルで141カ国をランク付けしたとき、韓国は25位だったが、日本は驚くほど低い58位だった。
ベンチャーや起業家育成でも差
韓国は新興企業や起業家育成にも力を入れている。特に研究開発分野への投資は国が生み出す高成長中小企業の数に大きな違いをもたらす。日本では従業員250人未満の企業に対する政府の財政援助は、研究開発分野での政府援助の12%と、OECDで最も少ない。対して韓国では研究開発への政府支援の半分は中小企業に充てられる。これが、韓国のビジネス研究開発全体の22%が中小企業によって行われている理由の1つである(日本ではたった4%である)。
こうしたさまざまな取り組みの結果、2017年時点で韓国には8000を超える高成長企業(従業員が10人以上で、3年間連続で年間20%以上成長した企業)があった。先進国12カ国の中で、韓国は労働者100万人当たりの高成長企業数で5位にランクインしている。残念ながら、日本は起業家の成功に関する重要指標を測定したことがない。これは国が何を重要視しているのかを如実に語るものだ。
さまざまな数字は日本にとって悪いニュースかもしれないが、これはいいニュースでもある。韓国の経験を踏まえて、正しい構造改革を行えば、日本にも明るい未来が待っている可能性を示しているのだから。
https://toyokeizai.net/articles/-/536058
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