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2023年9月9日 12時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/275925?rct=tokuhou
集団的自衛権の行使を容認した安全保障関連法の違憲性が問われた訴訟。6日付の最高裁決定は上告を退け、憲法判断に踏み込まなかった。最高裁が「違憲かどうか」について判断しないケースはこれまでも少なくない。一体、なぜなのか。これで「憲法の番人」と言えるのか。(中山岳)
◆原告側「憲法の番人であるべき裁判所の責務に反する」
「最高裁が原告らの訴えを門前払いしたことは、人権救済の否定であり、憲法の番人であるべき裁判所の責務に反する」
原告の弁護団は8日に声明を発表し、最高裁の姿勢を強く批判した。
873人の原告は、2016年施行の安保法制により「平和に生きる権利(平和的生存権)が侵害された」と主張。一、二審判決は「原告の生命・身体の安全が侵害される具体的な危険が発生したとは認められない」として棄却した。最高裁が上告を退けたのも「具体的な権利侵害がある場合に憲法判断する」との判例からだ。
ただ、原告側は集団的自衛権を行使すれば日本が攻撃対象でなくとも同盟国の戦争に参加することもあるとし、「具体的な危機の切迫」も訴えてきた。
◆「憲法9条に違反していると言わざるを得ないから逃げた?」
原告の元陸自レンジャー隊員、井筒高雄さんは「台湾有事を含めて外国との武力衝突が現実になれば、まず海上封鎖による輸出入の制限、食糧不足が起きうる。攻撃が始まれば死傷者も出る。そうした被害が出るまで最高裁が何も判断しないなら、司法の職務放棄だ」と怒りをにじませる。
安保法制を巡っては、安倍晋三政権が14年の閣議決定で、歴代政権が違憲としていた集団的自衛権の行使を一転して合憲と認めた。多くの学者らが違憲と指摘し、各地でデモが起きた。
原告弁護団の古川こがわ健三弁護士は「安倍政権の閣議決定から安保法制を経て、防衛費増大や日米軍事一体化も進む。最高裁は憲法判断に踏み込めば安保法制は憲法9条に違反していると言わざるを得ないため、逃げたのではないか」と話す。
◆国会や政府を差し置いて、司法が国の方針を決めないように
最高裁が憲法判断をせずに訴えを退けたケースは過去にもある。
旧日米安保条約が9条違反かどうかが問われた砂川事件の最高裁判決(1959年)では、高度な政治性を有することを理由に判断を避けた。自衛隊の合憲性が争われた「長沼ナイキ基地訴訟」では73年札幌地裁判決が違憲としたが、最高裁は82年に「訴えの利益がない」として退けた。
憲法判断に消極的と見える背景には何があるのか。
元最高裁判事の浜田邦夫弁護士は「日本の司法制度は、具体的な国民の権利侵害や法的紛争がないと裁判所は憲法に適合するかどうか判断できない仕組みになっている。国会や政府を差し置いて、司法が国の方針を決めないようにするためだ。今回の最高裁決定も、そうした原則に基づいている」と説明する。
◆「権利の侵害」には社会情勢や時代によって変わる余地
一方で「戦争が起きない限り、安保法制の違憲性を判断できないかといえば、そうではない。どんな状態なら国民の権利が侵害されているかは、社会情勢や時代によって変わる余地がある」と述べる。
一例に挙げるのが2015年に女性の再婚禁止期間を定めた民法規定を違憲とした最高裁判決だ。「社会で男女平等の意識が進むにつれ、昔は合憲とされてきた規定も女性の権利を侵害していると考えられるようになり、違憲判決が出た。法令の違憲性を巡る解釈には幅があり、少しずつ変わる」と語り、こう続けた。
「安保法制についても、おかしいという世論が高まれば、裁判所が尊重せざるを得なくなる面はある。最高裁の変化を招くために、国民的な議論の盛り上がりやメディアの継続的な問題提起も必要ではないか」
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