※ウクライナは加盟できない?理由1 ウクライナの政治体制が、NATOが求める民主主義体制の基準を満たしていないという加盟国からの指摘です。 ウクライナは財閥と政治家の癒着がはびこり、根深い汚職体質を脱却できていないと長年指摘されてきました。 笹川平和財団 主任研究員 畔蒜泰助さん 「すでに冷戦後のNATOというのは単なる軍事同盟ではなくて、やっぱり政治的な実態、それから資本主義的な自由度とか、汚職の問題とか、そういう西側のスタンダードに近づいた政治制度や経済の仕組みとかを共有できるところまで来ないと加盟できないっていうのが大原則なんですね。だから加盟が支持されても、実際にはすごい時間が必要なんです」 NATO加盟国 全30か国一覧(加盟順) 1949年:アイスランド、アメリカ、イタリア、イギリス、オランダ、カナダ、デンマーク、ノルウェー、フランス、ベルギー、ポルトガル、ルクセンブルク(原加盟国12か国) 1952年:ギリシャ、トルコ 1955年:ドイツ(当時「西ドイツ」) 1982年:スペイン 1999年:チェコ、ハンガリー、ポーランド 2004年:エストニア、スロバキア、スロベニア、ブルガリア、ラトビア、リトアニア、ルーマニア 2009年:アルバニア、クロアチア 2017年:モンテネグロ 2020年:北マケドニア ※ウクライナは加盟できない?理由2 ロシアを刺激したくないという加盟国の思惑です。 フランスやドイツなどは、ウクライナが加盟すればロシアがヨーロッパ全体の安全保障を脅かす軍事行動に出るおそれがあるとして、これまで一貫して否定的な姿勢を見せているといいます。 笹川平和財団 主任研究員 畔蒜泰助さん 「本音のところでは、ウクライナの加盟問題はロシアにとってめちゃくちゃセンシティブな問題だとわかっているからやらないんですね」 ※ロシアはなぜNATOに反対? 畔蒜さんは、NATOが他国の紛争に介入するようになったことが、ロシアとの関係を悪化させる一因になったと指摘しています。 ソビエト崩壊後、ヨーロッパにおける安全保障上の脅威のあり方が大きく変わります。 紛争や内戦の悪化などで通常の国家機能が維持できなくなる国、いわゆる「破綻国家」と呼ばれる国々が目立つようになります。 NATOは「破綻国家」の紛争に介入する「危機管理」に新たな存在意義を見いだしていくのです。 象徴的な事例が「コソボ紛争」です。 旧ユーゴスラビアのセルビアの自治州だった「コソボ」では、1990年代後半、人口の大半を占めるアルバニア系住民がセルビアからの分離独立を求め、これに反対するセルビアとの間で激しい武力衝突が勃発。 セルビアによる一般市民の大量虐殺「ジェノサイド」があったという批判が高まると、NATOは「人道的な危機を食い止める」として、1999年、初めて国連の安全保障理事会の決議を経ることなく、セルビアの軍事施設などに大規模な空爆に踏み切りました。 安保理ではロシアが反対していました。 「国連安保理で採決されるのは理想だけれども、もうそれができないのであれば、人道的な危機を食い止めるため決議を待たずにNATO独自の判断で軍事介入に踏み切る。その最初の例が、コソボへの“人道的介入”だったわけです。このときは事実上ロシアを無視する形で強行したわけですね」 ※ロシアもNATOに入りたかった? ただ、畔蒜さんによると、ソビエト崩壊直後のロシアはNATOを「敵」とみなさず、“東方拡大”にも正面切っての反対はしていなかったといいます。 プーチン大統領も就任当初はNATOに対して、否定的な感情をもっていたわけではなく、一時期はアメリカのクリントン大統領に「ロシアはいつNATOに入れるのか?」と尋ねたこともあったといいます。 しかし、その後米ロ関係が悪化するとプーチン大統領は2007年、ドイツのミュンヘンでの演説で、初めてNATOの拡大について公で批判し、反対の姿勢を明確にするに至ります。 (ロシアがNATOの東方拡大を否定し始めたのは2007年からで、過去の密約などではないのです) ロシアの正当化は、NATOのまね?「ウクライナ東部でジェノサイドがあった。ロシアはそれを守るために人道的に介入する。それから独立国家を承認する」 ロシアは、ウクライナへの軍事的な“介入”にあたって、こうした主張を続けています。 これについて、畔蒜さんは「かつてNATOが使ったロジックの“まね”」だと指摘し、今回ロシアは、当時NATOがコソボで行った“人道的介入”の論理を乱用しているとしています。 笹川平和財団 主任研究員 畔蒜泰助さん 「ロシアが開き直って今言っているのは『NATOが同じことをやってきたじゃないか、なんでわれわれだけ非難するのだ、あなたたちも同じことやってきたでしょ』と。コソボの時のロジックのまねをしているわけです」 NATOはなぜ今、軍事介入をしないのか? 畔蒜さんは 1 アメリカの力が衰えていること、 2 ロシアが核保有国であること をあげています。 「一つ大きな時代の変化として、アメリカがもはや冷戦直後とは異なり、圧倒的な軍事力を失い、軍事介入の意思を失っていると思います。一極的な“世界の警察官”の役割はすでに放棄しています。また、ロシアが当事者の紛争に介入するってことは、総兵力90万人の軍事大国ロシアと真っ向から対じすることになりますし、エスカレートすれば間違いなく核戦争になる可能性がある。そこがコソボのときとは違うんです」 NATOは「ウクライナの人々への支援を続ける」として、武器の供与や人道支援などは強化していく考えを示す一方、ウクライナに軍の部隊を派遣しないことを明確にし、軍事力をともなう直接的な介入を当初から行わない姿勢を貫いています。
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