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※2022年7月13日 日刊ゲンダイ1面 紙面クリック拡大
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※紙面抜粋
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※2022年7月13日 日刊ゲンダイ1面 紙面クリック拡大
【岸田首相は排除できまい】
— 笑い茸 (@gnXrZU3AtDTzsZo) July 12, 2022
国民の関心は安倍「負の遺産」の行方
日刊ゲンダイ pic.twitter.com/ianYG4i4ej
※文字起こし
参院選大勝から一夜明け、自民党総裁として行った11日の岸田首相の記者会見は、随所に凶弾に倒れた安倍元首相についての言葉があふれた。
「世界から愛された偉大なリーダー」
「思いを受け継ぎ、拉致問題や憲法改正など、ご自身の手で果たすことができなかった難題に取り組む」
「元総理が残されたさまざまなご功績の上に、さらなる取り組みを進め、次の世代に引き継いでいかねばならない」
11日は東京・芝公園の増上寺で安倍の通夜が営まれた。近親者のみの家族葬として執り行われたが、国会議員らの焼香は受け入れたため、長い行列ができた。一般向けには献花台が設けられ、花を手向ける人が後を絶たなかった。
永田町の自民党本部の駐車場にも記帳台が設けられ、本部内の役員室前には遺影が飾られた。自民党議員は揃って「元総理の遺志を継ぐ」と口にしている。
突然の安倍の死去は、自民党内のパワーバランスを変化させると囁かれる。「骨太の方針」で基礎的財政収支の2025年度黒字化目標を“骨抜き”にするなど、財政政策や防衛費増額で政府方針に口出しし、自らの主張に沿うよう修正させてきたのが安倍だった。
参院選勝利後、岸田は「安倍離れ」を加速させるつもりだったが、党全体が「遺志を継ぐ」のだから、そうはいかなくなった。無念の死により、逆に安倍の思い入れが強かった政策を、岸田は無視できなくなったのである。
「遺志を継ぐ」だけ、新年のない政治家
そうした弱みを見透かしたとでも言おうか、きのうは驚くべき動きがあった。
日銀の支店長会議の場で、黒田総裁が「必要があれば、ちゅうちょなく追加的な金融緩和措置を講じる」と改めて強調したのだ。参院選が終われば、岸田が「アベノミクスを修正するのではないか」との警戒感がマーケットにはあった。それを打ち消すかのように、黒田が異次元緩和の継続をわざわざ明言し、その直後から為替は円安が加速。1ドル=137円台に突入した。
安倍は黒田と二人三脚で進めた金融緩和路線の継続を求めていた。岸田に修正させじと、黒田が先手を打ったということなのか。
米国のブリンケン国務長官が11日、岸田を表敬訪問したのも唐突だった。訪問先のタイからの帰国途中に、予定を変更。安倍の死去を受け、弔意を表すために来日した。
「安倍氏は首相在任中、日米関係を新たな高みに押し上げるため、他の誰より尽力した」
岸田との面会後、こう語ったブリンケン。安倍が強く求めた防衛費倍増。NATO諸国にならってGDP比2%にすることは、日米の軍事力一体化を進める米国の要望でもある。ブリンケンは「安倍氏は『自由で開かれたインド太平洋』という先見性あるビジョンを掲げた」と持ち上げてもいたが、「自由で開かれたインド太平洋戦略」は対中包囲網の外交戦略である。対中強硬路線の米国が高く評価するのは当然で、ブリンケンは岸田に対し「安倍路線の継続」を念押しするために、わざわざ飛んできたように見える。
法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)が言う。
「岸田首相が領袖を務めるハト派の宏池会のあり方は、本来、タカ派の安倍路線とは異なるはずです。しかし、党内基盤を固める中で『安倍後継』を意識せざるを得ず、安倍路線を進むようになった。岸田首相の本心は別のところにあるのかもしれませんが、『安倍氏の遺志を継いで』と言っているうちに、継承せざるを得なくなるでしょう。敵をつくらないのが岸田首相の手法。枠を突破するだけの力量も信念もない政治家です」
議会政治の根底を崩して、政治の信頼を失墜
死者を悪く言わないのが日本人の美徳とはいえ、憲政史上最長の首相が進めた「アベ政治」は、岸田が「さまざまなご功績」と言うような立派なものだったのか。否だ。「負の遺産」だらけである。
衝撃的な銃撃事件により、参院選の争点としてボヤけてしまった「物価高」は、これから年末にかけてが本番。岸田はこの物価高を世界的なものとして「ロシアによるウクライナ侵攻」が理由だと強弁しているが、超のつく円安が物価をさらに引き上げるダブルパンチとなっていることには触れない。庶民を苦しめている超円安の原因が、日米の金利差にあり、アベノミクスの金融緩和による円安誘導策の弊害であることは論をまたない。
だいたい自国通貨を安値に誘導し続ければどうなるかは自明だ。トリクルダウンで庶民にも富が滴り落ちるはずが、賃金は上がらずデフレが続きすっかり「安いニッポン」だ。アベノミクスの失敗を決して認めず、継続を強要してきた安倍の責任は重い。
ブリンケンが安倍を高評価するのは、裏を返せば対米追随を進化させ、ポチ外交を加速させてきた証左である。集団的自衛権の行使を容認して、日本を米国とともに戦える国にした挙げ句、トランプ前大統領に気に入られるため、兵器の爆買いで防衛費をどんどん膨らませてきたのが安倍である。
悲願としてきた憲法改正だって、決して国民の側が望んだわけじゃない。憲法は本来権力を縛るものなのに、権力の側が「改憲は自民党の党是」だと押し付け、時間をかけて改憲の空気を醸成してきたのである。
「行政の私物化」は今こそ再調査を
絶対に許しちゃならない極め付きの「負の遺産」は、行政の私物化だ。
「モリカケ桜」で、どれほどの税金が安倍の個人的な関係に使われた疑いがあるのか。官僚による忖度も含まれるだろうが、いずれもお手盛り調査しか行われず、実態解明は藪の中。森友学園の公文書改ざんでは公務員が命まで落としているのに、謝罪もない。国会で118回もの虚偽答弁をしても平気の平左。どこが「偉大なリーダー」なのか。
「総裁選に出馬表明した際、当初、岸田首相は森友問題について、『国民が納得するまで説明を続ける』と再調査に前向きな姿勢を見せたのに、安倍氏の逆鱗に触れるのを恐れてすぐに日和った。岸田首相は、今こそ安倍氏が逃げてきた疑惑を再調査して、国民の疑問に答えるべきじゃないですか。霞が関を忖度ヒラメ官僚ばかりにして、公文書の改ざん・隠蔽を日常化させ、議会政治の土台を崩して政治の信頼を失墜させた。安倍氏は歴代総理の中でも最も罪が重いと思います」(五十嵐仁氏=前出)
総裁選で「分配」重視や「令和版所得倍増」で庶民寄りの政策を打ち出し、「聞く力」をアピールした岸田は、「こんな人たちに負けるわけにはいかない」と絶叫して社会を分断させた安倍とは何から何まで異質に見えた。
だが、しょせんは自民党という同じ穴のムジナだ。献金をする財界や大企業。選挙で票をくれる業界団体。自民党政治とは富裕層、上級国民のための政治だ。法人税の税率はどんどん下げるのに、消費税は上げ、「社会保障のため」との詭弁で庶民からむしり取る。こんな政治が続いて、この国が良くなるわけないのである。
政治評論家の本澤二郎氏はこう言った。
「参院選で自民党が負ければ少しはマトモな政治になったかもしれませんが、大勝したので安倍元首相の『負の遺産』との決別はおろか、反省も修正もない。現状のまま走るだけなので、物価は上がり続けても、賃金は上がらず、日本はますます沈んでいく。絶望的な気分になります」
ただただ、あがめ奉るだけで、アベ政治の亡霊を排除できない岸田には、何も期待できない。
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