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採取されると不都合なのか。福一原発処理水を1km先の海に放出する謎
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2022.04.21 『きっこのメルマガ』 まぐまぐニュース
国民の充分な理解が得られたとは言い難い中、2023年春の開始に向け着々と準備が進む福島第一原発の処理水海洋放出。そもそもこの処理水自体、「安全」と言い切れるものなのでしょうか。今回の『きっこのメルマガ』では人気ブロガーのきっこさんが、東電と政府が処理水の安全性に関してつき続けている「二重の大嘘」をリーク。さらにわざわざ海底トンネルを建設してまで1キロ先の沖合に処理水を放出する理由を訝るとともに、当時の首相として「自分が責任者となり汚染水問題を解決する」と宣言するも、ただの一度も対策会議を開かなかった安倍晋三氏を強く批判しています。
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アベ政治の負の遺産
福島第1原発に溜まり続ける自称「処理水」の処分方法を巡り、菅義偉岸首相(当時)が海洋放出を決定してから1年となった4月13日、東京は永田町の衆院議員会館前を始め、全国8都府県の10カ所以上で「海洋放出の撤回を訴える抗議行動」が行なわれました。しかし、その2日後の15日、原子力規制委員会は、東京電力が提出した海洋放出の実施計画について「不十分な点や適切に評価されていない点はない」として、事実上の「了承」をしました。
このまま進めば、形だけのパブリックコメントを経て正式に「認可」され、福島県と地元自治体の了解が得られれば、6月には海洋放出のための設備工事が始まってしまいます。そして、来年の春から自称「処理水」の海洋放出が始まるのです。ザックリ説明すると、福島第1原発から沖合1キロまで海底トンネルを建設し、そこから海洋放出する計画で、総予算は約430億円、もちろん東電を利用している人たちの電気料金に上乗せされます。
しかし、これほど「反対」の声が高まっているのに、このまま計画通りに進むのでしょうか?海洋放出の決定から1年となった4月13日、福島民報社は福島県内59市町村長を対象に「海洋放出について、この1年で政府との合意形成が進んだか?」というアンケート調査を実施しました。その結果「かなり進んだ」はゼロ、「少しは進んだ」が5人(8%)で、83%に当たる49人の首長が「あまり進んでいない」と回答したのです。
「地元自治体の了解」が海洋放出の条件ですから、政府にとって、これは大きなハードルでしょう。また、4月5日には、全漁連(全国漁業協同組合連合会)の岸宏会長が岸田文雄首相と面会して「いささかも反対の立場に変わりはない」と全国の漁業関係者の声を伝えています。地元の漁業関係者も風評被害を懸念して海洋放出に反対していますが、昨年も福島沖で試験操業されたクロソイから基準値の5倍の100グラム当たり500ベクレルの放射性セシウムが検出されたのですから、すでに風評被害ではなく実害が出ているのです。
そもそも、この「風評被害」という表現は、海洋放出する自称「処理水」が、東電や政府が言うように、本当に環境へ何の影響も及ぼさない安全な水だった場合の表現です。実際には何の影響も出ていないのに、悪い噂が広まって福島の魚が売れなくなる、これが風評被害です。しかし実際は、海洋放出する前から福島沖で獲れた魚から基準値を超える放射性セシウムが検出されているのです。その上、900兆ベクレルという天文学的なトリチウムが残留した自称「処理水」を130万トン以上も海洋放出すれば、風評被害ではなく実害が出ることは自明の理でしょう。
東電は「安全なレベルまで海水で希釈してから海洋放出するので問題ない」などと説明していますが、これは完全にペテンです。どれほど海水で希釈しようとも、900兆ベクレルというトリチウムの総量は変わりません。たとえば、人間が1グラム摂取すると死んでしまう毒薬があったとします。これを水で薄めて飲めば、死ななくなると思いますか?100倍に薄めようとも、1,000倍に薄めようとも、薄めた水をすべて飲めば、その人は死んでしまうのです。
しかも、これは「トリチウムしか残留していない処理水である」という東電と政府の大嘘を鵜呑みにした場合の話です。これは、2021年4月14日に配信した第114号の「海洋放出という破綻したシナリオ」にも詳しく書きましたが、2018年8月、メディアのスクープによって、信じられない事実が発覚したのです。当時、約89万トンまで溜まっていた自称「処理水」のうち、84%に当たる約75万トンが安全基準を満たしていなかったことが発覚したのです。それも、基準値を大幅に超えたストロンチウム90、ヨウ素129、ルテニウム106、テクネチウム99などの放射性核種が次々と検出されたのです。
最も危険なストロンチウム90は、含有量の高い貯水タンクのものは1リットル当たり約60万ベクレル、なんと基準値の約2万倍でした。他の放射性核種も、基準値の数十倍から数百倍のものが数多く検出されました。これのどこが「処理水」なのでしょうか?だからあたしは、自称「処理水」と呼んでいるのです。つまりは、当時の安倍晋三首相が「汚染水処理の切り札」として鳴り物入り導入した多核種除去装置「ALPS(アルプス)」に、期待したほどの除去能力がなかったということなのです。
現在、130万トン以上ある自称「処理水」の約70%は基準値を超えており、基準値の100倍を超えるものも10万トン以上も存在します。「ALPS」の処理能力は1日500トン、3基あるので1日1,500トンですが、100万トン以上の処理水を再処理するためには、毎日増加し続ける新たな汚染水の処理と並行して行なった場合、3基をフル稼働しても3年以上は掛かってしまいます。
その上、一度の処理で基準値の2万倍も残留している猛毒のストロンチウム90が、もう一度処理しただけで基準値以下になるとは、とうてい思えません。他の放射性核種が残留している自称「処理水」も、その残留率が基準値を大幅に超えているタンクのものは、二度や三度の再処理では、基準値以下にはできないでしょう。
結局、東電と政府は、この事実にフタをして、あくまでも「トリチウムしか残留していない処理水である」「そのトリチウムも安全なレベルまで海水で希釈してから海洋放出するので問題ない」という二重の大嘘で押し切るつもりなのです。そして、いつものようにパブリックコメントの結果を無視し、いつものように地元の漁業関係者や首長の頬を札束で叩き、海洋放出を強行するつもりなのです。
東電も政府も、この自称「処理水」を「安全だ」と言い張り続けていますし、麻生太郎副総理などは「飲んでも問題ない」とまで公言しました。それなら、目の前の港湾へ放出すれば良いじゃないですか。どうして、莫大な予算をかけて沖合1キロまで海底トンネルを建設するのでしょうか?もしかすると、海洋放出している自称「処理水」を誰かに採取され、分析されると困るのでしょうか?
2013年9月、当時の安倍晋三首相は、アルゼンチンのブエノスアイレスで開催されたIOC総会で「原発事故は完全にコントロールしている」「放射能汚染水は完全にブロックしている」と述べ、東京に五輪を招致しました。しかし、実際には、大雨によって未処理の放射能汚染水の水位が上がり、1リットル当たり50万ベクレルを超えるストロンチウム90などが含まれた大量の汚染水が、堰を超えて海へ流出するという事故が相次いでいました。
こうした状況を受け、安倍首相は「汚染水問題は、今後は東電に丸投げせず、この私が責任者となり、政府が前面に立ち、完全に解決すると国民の皆さまにお約束いたします」と宣言しました。しかし、それ以降、安倍首相は6年後に政権を丸投げして辞任するまで、一度たりとも汚染水問題の対策会議をひらきませんでした。
ようするに、毎度おなじみの「無責任に言い散らかしただけ」だったのです。そして、その結果が、この「嘘に嘘を塗り重ねた海洋放出」なのです。ただでさえ、新型コロナによる収入減とウクライナ問題による物価高騰で多くの国民が疲弊しているのに、その上「アベ政治の負の遺産」まで背負わされるなんて、冗談じゃありません。
(『きっこのメルマガ』2022年4月20日号より一部抜粋・文中敬称略)
image by: 首相官邸
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