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※2022年2月7日 日刊ゲンダイ1面 紙面クリック拡大
※紙面抜粋
※2022年2月7日 日刊ゲンダイ2面
【果たしてどちらが正気なのか】
— 笑い茸 (@gnXrZU3AtDTzsZo) February 7, 2022
脱原発元首相5人を袋叩きにする異様
日刊ゲンダイ pic.twitter.com/AS0JXtVYi3
※文字起こし
「誤った情報を広め、いわれのない差別や偏見を助長することが懸念される」──。小泉純一郎、菅直人両氏ら5人の首相経験者に、政府・与党を挙げて総バッシングだ。きっかけは小泉、菅と細川護熙、鳩山由紀夫、村山富市の3氏が1月27日付で、EU欧州委員会に連名で書簡を送ったこと。欧州委が地球温暖化に資する「環境に配慮した投資先」に原発を含める方針に抗議したのだ。
原発除外を求め、綿々と説明する書簡に福島原発事故により〈多くの子供たちが甲状腺がんに苦しみ〉との表現があると、岸田政権は大騒ぎ。
「福島県が実施する県民健康調査で、甲状腺検査で見つかった甲状腺がんについては福島県や国連などの専門家会議により、現時点では放射線の影響とは考えにくいという趣旨の評価がなされている」
2日の衆院予算委員会でそう強調した岸田首相をはじめ、松野博一官房長官や自民党の高市早苗政調会長も「誤った情報」「差別を助長」などと寄ってたかって、元首相5人を猛攻撃。山口壮環境大臣は5人に抗議文まで送り付けた。
福島県の内堀雅雄知事も3日に「科学的知見に基づく客観的な情報を発信していただくよう(5人に)書簡により申し入れた」と表明。むろん、5人の主張が事実に反していれば批判は当然だ。「誤った情報で風評が広がることは、(福島県産の)農林水産品の輸入規制の解除に向けた、さまざまな方の血のにじむような努力を水泡に帰しかねない」(高市)のだが、〈多くの子供たちが甲状腺がんに苦しみ〉は決して間違っていない。
事故後の小児性がん発症率は定説の70倍
5人の意見を取りまとめた「原発ゼロ・自然エネルギー推進連盟」は環境大臣への抗議書兼質問書を発表。小児甲状腺がんの発症例について〈事故から10年で、事故当時福島県内で18歳以下だった38万人の中で既に266名の発症が判明しています。その内222名が甲状腺摘出手術を受けています〉と指摘した。
福島県は原発事故に伴い、2011年10月から当時18歳以下だった県民を対象に甲状腺検査を続けている。甲状腺には放射性ヨウ素がたまりやすいとされ、86年のチェルノブイリ事故では発生4〜5年後から原発周辺で事故当時0〜5歳だった世代を中心に甲状腺がんが急増。検査は不安払拭のため、県民健康調査の一環として始まった。
時間を空けて希望者に実施し、既に5巡目に突入。今後も発症例は増える可能性がある。問題は266人が多いのか、少ないのかだ。小児甲状腺がんの頻度は長らく年間100万人に1人弱というのが定説だ。10年間で266人は計算すると、定説の実に70倍と桁違いの発症率となる。
甲状腺は喉の下にある臓器。新陳代謝や成長に欠かせないホルモンを作っているため、全摘手術後にホルモン剤を一生飲み続けなければいけない人もいる。他人の目に触れやすい首元に手術の痕が残るのも、多感な年ごろには酷だろう。
小児甲状腺がんは大人の罹患に比べ、進行が速いとされる。福島県は総数を明かさないが、手術後に再発する子は相当数に上るともいわれている。まだ若いうちから再発や転移の不安を抱えながら、266人は生きていくのだ。多くの子どもが苦しんでいるのは紛れもない事実ではないか。
脱原発の言論封殺こそ患者への偏見を助長 |
これだけの数の発症があろうが、国も東電も福島県も原発事故との因果関係は「現時点では考えにくい」の一点張りだ。有識者でつくる福島県の県民健康調査検討委員会は16年に全国的な統計に基づいて推計される患者数に対し「数十倍多いがんが発見されている」と分析しながらも、影響は「考えにくい」。
根拠は被曝量が少なく、患者の年齢分布が異なるなどチェルノブイリとの比較だ。
20年に計138人分の甲状腺がん細胞を分析した結果、チェルノブイリ周辺で発症した子どもたちの遺伝子異常とパターンが異なっていたことも、放射線の影響が「考えにくい」の裏付けの1つに挙げる。
さらに検討委は対象者38万人もの大規模検査によって「放置しても無害ながん」まで見つけて診断する「過剰診断」のデメリットも指摘。「県民の不安を助長する」として検査縮小を訴えた。事故との因果関係の立証を恐れ、疫学調査阻止の魂胆さえ疑ってしまう。
後を絶たない発症は被曝と関連があると主張する専門家もおり、見解は割れている。いくら岸田政権がUNSCEAR(国連放射線影響科学委員会)などの報告を持ち出しても「現時点」と言い訳する以上、科学的な決着はついていない。なのに、まだ因果関係がハッキリしていない甲状腺がんに関する一文だけを切り取り、ことさら「差別を助長」などと非難する政権の異常さには戦慄を覚えるのだ。
1月27日には事故当時、福島県内に住んでいた男女6人の甲状腺がん患者が東電相手に総額約6億1600万円の損害賠償を求めて提訴した。発病は原発事故に起因するとして東電を訴える集団訴訟は初めて。原告は皆、10代で発病し、うち4人は手術後に再発。治療や体調面から就職や進学に困難が生じ、結婚や出産など将来への不安を抱えているという。
原告の1人は提訴時の会見で、自分が罹患していることすら周囲に話せなかったと打ち明けた。政権総出で脱原発元首相を袋叩きにする異様な光景を見れば、実際に苦しんでいる若者や家族が今まで以上に自分の思いや疑問を閉ざしかねない。
事故の影響が考えにくいなら別の由来を示せ
力ずくで脱原発の言論を封じ込めようとする政権側の方が、よっぽど「差別や偏見を助長」している。集団訴訟の弁護団長で、元裁判官の井戸謙一弁護士はこう言う。
「現政権も相変わらず、原発の再稼働・拡大路線です。原発推進派は安全神話の崩壊で、かつての『事故は起こしません』が言えなくなり、『事故は起こしても健康被害はありません』と言うしかない。完全なフィクションですが、推進派にすれば譲れない一線なのでしょう。子どもに健康被害があったとなれば原発を止めざるを得なくなる。現政権は苦しむ子どもや家族の立場を守ろうとせず、原発事業者を守る側に立つから、今回のような対応になるのです」
原発事故との因果関係が「考えにくい」のであれば、定説の70倍もの発症率の原因は何なのか。別の由来があるのなら、それこそ世界中の科学的知見を結集させ、実態を解明すべきだ。政権側が真剣な調査を怠るのは事故との因果関係を否定、あるいは曖昧にする「結論ありき」。さては、よほど都合の悪いことがあるのだろうが、彼らの発言を垂れ流し、原発容認世論操作に加担する大メディアも同罪だ。
「まず原発推進派がやるべきは事実を明らかにすること。その上で差別が生じるのなら、国が対応するのがスジ。『差別につながる』を“錦の御旗”にし、不都合な事実を隠すのは本末転倒です」(井戸謙一氏=前出)
はたして元首相5人と彼らを猛攻撃する現政権のどちらが正気なのか。答えは明白だ。
「温暖化以上に環境を破壊する重大事故を経験した国の元首相の立場で、原発を“グリーンな投資先”にして、お墨付きを与えようとする欧州委の動きに『待った』をかけるのはマトモな判断。岸田政権による一連のバッシングは今後、東電と発症の起因を争う患者6人に精神的な2次被害を与えるものです。がん発症との因果関係が不明なうちは、少なくとも原発を止めるべきです」(高千穂大教授・五野井郁夫氏=国際政治学)
周辺住民に発病の疑念を抱かせ、不安へのストレスを強いる時点で、原発はもう“オワコン”なのだと気づくべきだ。
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