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安倍政権から続く公文書隠蔽 トップダウンで終止符を
大場弘行 毎日新聞社会部記者
朝日新聞 2020年12月28日
歴代最長の7年8カ月続いた第2次安倍晋三政権では、公文書をめぐる問題が相次いだ。わたしは毎日新聞の「公文書クライシス」取材班のメンバーとして約3年半前から、国の文書管理の実態を取材している。班として証言を得た官僚は30人を超え、掲載した記事は100本近い。取材を通じて見えたのは、あらゆる手段を使って記録の公開を避けようとするすさまじい隠蔽体質だった。元々あったこの体質は安倍長期政権のもとでより強固なものになったように思う。あとを継いだ菅義偉政権は発足早々、独立性が重んじられている「日本学術会議」の会員の人選に政治介入して物議をかもした。菅首相は政権に批判的とされる6人の学者の任命を拒否しながら、「総合的、俯瞰的」に判断したという子どもだましの説明を繰り返し、経緯がわかる公文書の公開もこばんだ。菅政権のもとで隠蔽体質はさらにひどくなるのではないか。わたしは今、そう危惧している。
きっかけ
「亡くなった赤木俊夫さんのことですか?」
財務省の地方機関で働く男性職員は、わたしの問いに戸惑いの表情を浮かべた。赤木さんは、森友学園問題をめぐる公文書改ざんにかかわった近畿財務局の職員だ。良心の呵責から2018年3月に自ら命を絶ってしまった。
男性職員は「同じ立場の公務員としてあえて言わせてもらえば……」とためらいがちに続けた。
「言い方はよくないかもしれませんが、正直言ってもう少しうまくやってほしかった」
うまくやるとはどういうことだろうか。わたしがそう聞く前に言葉を吐き出した。
「公文書隠しなんてどの職場でもよくあることなんです。上から指示されたら、たとえそれが改ざんのような世間的にまずいことでも何も言わず当たり前のようにやる。そして何ごともなかったようにやりすごす。みんなそうしていますから。もしどうしても嫌ならマスコミにリークして止めたらいい。うまくやるというのはそういうことです。公務員を長くやっていればそういうしたたかさは自然と身につきます。逆にいうと、それがないと生きづらい」
そこまで言うと職員は目を閉じて小さくつぶやいた。
「うまくやれば死なずにすんだ。まじめすぎたのです、きっと……」
わたしが取材を始めたきっかけは、この森友学園問題だった。言うまでもなく、安倍前首相の妻昭恵氏と関係のあった学園に国有地が異常な安値で売却された疑惑のことだ。
わたしは今から約3年半前の17年3月23日、国会のテレビ中継にくぎ付けになっていた。証人喚問を受けていた籠池泰典・森友学園理事長(当時)が突然、あるファクス文書を暴露したのだ。昭恵夫人の秘書役の政府職員がつくって籠池氏に送ったものだった。そこには職員が籠池氏の求めに応じて国有地の費用負担の軽減策を財務省幹部に問い合わせた結果が書かれていた。「本件は昭恵夫人にもすでに報告させていただいております」と付記されており、夫人と学園の関係を決定づけるものと言えた。この問い合わせがのちの異常な値引きつながった可能性が高い。わたしはそう思った。
ところが、政権側は財務省への問い合わせは職員が公務ではなく個人的に行ったものだと強調した。ファクスの原本についても、公文書ではなく職員の「私的な文書」と結論づけた。つまり、この口利き≠フ証拠とも言えるファクスは、籠池氏が明らかにしなければ永遠に表に出なかった。もっと言えば、首相夫人にまつわるこの種の記録が同じ理屈で公文書にされない恐れがあることを意味していた。
わたしは「またか」と思った。公務員がつくった文書なのに「私的な文書」にされ開示されないことがあまりにも多いからだ。政官のスキャンダルにからむ文書はことごとくそうされる。わたしも「私的な文書」を理由に必要な記録の開示をこばまれ、悔しい思いをしたことが何度かある。この国の公文書管理は一体どうなっているのか。実態を知りたくて旧知の官僚OBを訪ねた。すると、こんなミステリアスな話を耳打ちされる。
「霞が関には闇から闇に消える文書があるのです」
OBはこう前置きして語り始めた。
「09年の夏のことです。衆院選があり、自民党から民主党への政権交代がありました。その直後でした。わが省の局長から各課の課長に指令が出されたのです。それは、過去の政治関係の文書はすべて廃棄しろというものでした。誰も口にしませんが、似たような指令はほかの局でも、ほかの省庁でもあったはずです。自民党政権が半世紀以上続く中で、あやしげな政治関係文書が霞が関にはいっぱい残っていました。これらは普通に考えれば紛れもない公文書なのですが、われわれの中でははじめから公文書としてあつかうことが想定されていないものです。公文書に当たるのか、私的なメモに当たるのか、そういう判断すらしません。ある意味で恐ろしい政治介入の証拠、違法な行為の証拠となるような記録だからです。指令は、そういうものを捨てろということだったのです」
身震いした。公文書の闇は想像以上に深い。わたしは担当デスクを酒場で口説き、取材班を発足させた。
消えるメール
同僚と手分けをして、手当たり次第に現役官僚に取材をかけた。その証言から隠蔽の実態が少しずつ見えてきた。
その一つが、公用電子メールが公文書としてあつかわれていないことだった。
官僚たちは日に10〜100通ほどを送受信し、近年は紙の報告書にとって代わり、重要なことまで書かれるようになっていた。たとえば、政策や法案の協議内容から議員とのやりとりの報告などだ。しかも、官僚自身も過去のメールを見ないと政策立案などのプロセスがわからなくなっているという。その重要性は明らかだった。
公文書管理法は公文書を「職務上作成・取得し、組織的に用いるために保有している文書」と定義し、メールのような「電子の記録」も該当するとしている。わかりやすく言えば、国の職員が仕事に使うために同僚らとシェアしている文書は公文書になる。メールは最低でも送受信者の2人でシェアするから、ほとんどが公文書になるはずだ。ところが、官僚の多くはこんな理屈を持ち出してそうはしていなかった。
「メールのやりとりは電話で話すようなもの。文書とは言えない」
「メールは何も考えずに捨てている」という証言も多かったが、ある省の課長級職員は悪びれることなく言った。
「メールが情報公開の対象になりそうな場合、消去したことにして
https://webronza.asahi.com/journalism/articles/2020122400004.html
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