ヒナステラ - クラシック音楽 一口感想メモ アルベルト・ヒナステラ(Alberto Evaristo Ginastera,1916 - 1983) https://classic.wiki.fc2.com/wiki/%E3%83%92%E3%83%8A%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%A9 アルゼンチンの大作曲家。どの分野にも、独自のエキゾチックな魅力をクラシックに融合させつつ、一つの作品としての存在感を備えた名作を書いている。南米にとどまらない世界における20世紀の大作曲家の一人だと思っている。
バレエ バレエ『パナンビ(Panambi)』 作品1 (1934年及び1936年、組曲版あり) 3.8点 18歳や20歳の作品としては非常に完成度が高いと思う。後年のエスタンシアに通じる、ダイナミックで精神を下から突き動かすような衝動に満ちており、血が湧くような感覚になる。年齢を考えると天才的な作品だと思う。シンプルさはあるが、決して古臭いクラシック音楽の真似事はない。アルゼンチンらしさも含めて、オリジナリティを十分に感じる。もっとバレエ音楽を描いて欲しかった。なんというエンターテイメント性だろう。エスタンシアには完成度が若干及ばないが。 バレエ『エスタンシア(Estancia)』 作品8 (1941年、組曲版あり) 4.0点 ヒナステラの代表作。聴き始めると、冒頭のノリのよさに一瞬にして魅了されてしまう。その後も農村の生活の活力にあふれた豊富なニュアンスに彩られた描写は大変に楽しめる。息もつかせぬ展開をみせて最後は大円団で終わり、聞き終わってお腹一杯になり、本当に愉しい時間を過ごせたという満足感に浸れる。ミュージカル音楽のようでもあり、明るくてエンターテインメント性が高い。 管弦楽曲 クリオールのファウスト序曲 Obertura para el "Fausto" Criollo 作品9 (1943年) 2.3点 とても普通で切れ味が鈍く、全然面白くない。こんな曲も書いたのかと思った。ヒナステラである価値を感じられない。 交響的三部作「オジャンタイ(またはオランタイ)」 Ollantay 作品17(1947年) 3.3点 映画音楽のようだ。イギリス音楽のような端正さとかドリーミーさがあるのが魅力。その中にも打楽器の活躍などダイナミックさがある。前衛性はほぼない。軽い娯楽曲として気軽に楽しめる。 交響的変奏曲 Variaciones Concertantes 作品23(1953年) 2.8点 おおらかな交響詩のような音楽であり、壮大さが売りのようである。そして、ソロが活躍して長時間旋律を演奏する場面が多いのが特徴。ソロが何かの動物の個別の生と生涯を表象しているように聴こえたのが面白い。しかし、音楽の密度が薄くて芸術性があまり高い感じもしないため、あまりお勧めはできない。 パンペアーナ(Pampeana) 第3番「交響的パストラール」 作品24 (1954年) 3.3点 交響詩のような曲。大自然の森の匂いや太陽を浴びて水蒸気を含んだ大気を感じさせるゆったりとした場面が多くて、その場面もそれはそれで南米的要素が目新しくて魅力はある。しかし、やはり間に何回か登場するダイナミックなアップテンポの部分の心躍る躍動の素晴らしさがあってこそ価値が高まっているとも思う。20世紀にしては画期的なものがないが、個性の力で陳腐さを回避することには成功していると思うため、スケールの大きさに心を委ねて愉しめる曲だと思う。 協奏曲 ハープ協奏曲 作品25 (1956年) 3.8点 曲の全体とはいわないが、部分的にはかなりいい曲と感じた。エキゾチックさをうまく活用している。 アルゼンチン風協奏曲 Concierto argentinos(ピアノと管弦楽のための) 作品番号なし (1937年) ピアノ協奏曲 第1番 作品28 (1961年) 3.0点 2番と同様に、自由な交響詩のような曲想でピアノを含む音楽が展開されている。ピアノの書法は洗練されているように聴こえる。芸術的な創発性を重視して、衝動的なものを音にしている感がある。クラスター的な音の塊や不思議な謎のモヤモヤした和音は出てこない。そのため、緊密で鋭角な印象がある。高みに昇った感はないが、一つの20世紀的な協奏曲のあり方として、アルゼンチン風味の面白さも含めて、自由さを楽しめる。3楽章はイマイチで4楽章の野蛮さが楽しい。 ピアノ協奏曲 第2番 作品39 (1972年) 3.3点 現代音楽的な音の塊をぶつけるピアノや、モヤモヤとした伴奏などが使われているものの、調性は多くの場面で明確であり、作曲者のやりたい音楽の雰囲気も明確であるため分かりやすく聴きやすい。一流らしい高みに昇ったものは感じないのだが聞いていて楽しい。急にラヴェルのようになったり、アジア的な土俗の神秘的音楽になったり、雰囲気が自由にコロコロと変わる。その中でピアノは明確に効果的に活躍している。暗さがなく、斬新で面白い協奏曲。ありきたりさが全然ない別世界であり、一聴の価値がある。 ヴァイオリン協奏曲 作品30 (1963年) 3.0点 冒頭が激烈で長いカデンツァで始まり驚く。そのまま刺激が強めの音楽が続いていく。ヴァイオリンを厳しい音として使っている。音感の良さを活かしており悪くない。2楽章は雰囲気が1楽章に似たところがあるせいで、よい音世界を作れているのに心にグッとくるものが少ないのが、他の曲でも感じるの弱点だと個人的には思う。3楽章はパガニーニの引用で耳を惹きつつ、打楽器の多用でバレエ音楽のようなダイナミックさを作り上げつつ、そのなかでヴァイオリンが盛り上げていくように弾かれる。ここはヒナステラならではの魅力的な場面である。 チェロ協奏曲 第1番 作品36 (1968年) 2.8点 チェロ協奏曲らしい面白さがない。まず、ソロの活躍度合いが地味。チェロらしい渋いかっこよさが足りない。自由な音楽の展開がヒナステラの持ち味だが、チェロの運動能力の低さが足を引っ張っているのか、雰囲気の変化が足りない。似た感じの場面ばかりである。旋律のバラエティにも限界を感じてしまう。ヒナステラらしい音世界の楽しさはこの曲にもあって楽しむことはできる。 チェロ協奏曲 第2番 作品50 (1980年) 2.8点 1番と同じ運動能力の弱点は感じるが、低くて渋い音色の産みだす独自の詠唱や唸りの魅力が活用されている。バレエ的な楽しみにオブリガード的に味付けしながら協奏するのも楽しい。しかし、やはりチェロ協奏曲としての楽しみや、ヒナステラの他の曲との比較の観点で、あまり上位にくる感じではない。物足りなさやもどかしさ、弾けない寂しさを常に感じながら聴いてしまった。 ピアノ独奏曲 アルゼンチン舞曲集 Danzas argentinas 作品2 (1937年) 4.0点 1曲目はアルゼンチン風ラヴェルとも呼びたいキレのよい格好いい曲。2曲目は憂愁のメロディーが素敵な曲。そして3曲目が白眉である。複雑なリズムと音使いが生み出すパッションと格好良さは相当な高レベルである。ピアノ書法が素晴らしい。見事な小品であり、生で聴いた事はないが非常に演奏効果が高いだろうと思うのでいつか聴いてみたい。 ミロンガ Milonga (『2つの歌曲』 作品3の第1曲目を作者自身が編曲。1938年) 3.8点 短い小品である。南米的な旋律もピアノ編曲も完璧で、磨かれた玉のように美しい名曲であり、曲が始まった最初から息を止めて聴きたくなるような音楽である。 3つの小品 Tres piezas 作品6 (1940年) 3.3点 ヒナステラの後の作品と比べると、かなりシンプルで個性が十分に現れていない。ドビュッシーのような3曲で、彼のルーツを垣間見える。よいピアノ曲である。特に3曲目が場面展開もあって楽しいなかなかの佳作。 マランボ Malambo 作品7 (1940年) 3.3点 最初は同じフレーズを繰り返してつまらないが、それが驚くような野生的な変容をみせていくのがとても面白い。 12のアメリカ大陸風前奏曲集 Doce Preludios americanos 作品12 (1944年) 3.5点 ヒナステラ一流のピアノ作曲センスがいかんなく発揮された作品だろう。短時間でコロコロと変わっていく曲は、曲に浸ることを許さない代わりに、センスの塊のような音世界が次々と登場することの驚異に打ちのめされる。 組曲『クレオール舞曲集』 Suite de danzas criollas 作品15 (1946年) 3.5点 短い作品が集まっている。シンプルな書法で技巧的にも難易度が低そうだ。それでも、心をとらえるものがある佳作が集まっていて、なかなか魅力がある。とても素敵だなあと何度も関心した。郷愁をさそうような雰囲気など。よいピアノ曲作者は音が少なくてもいい曲を書くものだと関心した。 アルゼンチン童謡の主題による『ロンド』 Rondo sobre temas infantiles argentinos 作品19 (1947年) ピアノ・ソナタ 第1番 作品22 (1952年) 4.3点 20世紀のピアノソナタの中でも発想の豊かさと強烈さで屈指の曲。民族性あふれる強烈で野蛮なリズムと和声で一度聴いたら忘れられない強い印象を残す1楽章。高音と低音を対比させて、身体の内側からゾクゾクするような艶めかしい情熱を出す2楽章。プロコフィエフのような即物的な少しニヒルな響きの音が少ない緩徐楽章の3楽章。音を敷き詰めて、アクセントで民族的な強烈さと野蛮さを演出する格好いい4楽章。どの楽章も本当に素晴らしい。 ピアノ・ソナタ 第2番 作品53 (1981年) 3.3点 1番の古典性を備えているほどの名作感はない。1楽章も3楽章も非常にごつごつした音の塊が野蛮に鳴らされる曲で、激しさは楽しめるが、うるさいほどである。この2つの楽章が似ているのも欠点である。1楽章の方がソナタの総合性はあるが、激しい場面のゴツゴツ感が似てる。2楽章はかなりセンスが良い緩徐楽章で、音のつくる空気感の良さを楽しめる。印象派のような繊細さが素敵だ。 ピアノ・ソナタ 第3番 作品54 (1982年) 3.3点 激しい音が、岩がぶつかり合うかのように鳴り響く曲。休憩のない単一楽章。ガツンとぶつかり砕けるような音の轟音がこれでもかというくらいに響き渡る。やりすぎと思うほど。短い曲だが、これに「ピアノソナタ」を名付けたのはやはり作曲者の自身の現れだろう。違和感はない。 器楽曲、室内楽作品 パンペアーナ 第1番(ヴァイオリンとピアノ) 作品16 (1947年) 2.8点 即興的でワイルドさのある曲。それなりにカッコいいのだが、あまりに即興的すぎて曲としての統一感や構成感を感じられないため感動できない。曲想も散漫で巨匠らしい集中がない。 パンペアーナ 第2番(チェロとピアノ) 作品21 (1950年) 3.5点 約9分。全体に渋くて格好いい。いくつかの部分を繋げて書かれており、どの場面も聴き映えがする。民族的な和声やメロディーやリズムの効果が、チェロやピアノの低音の渋さに見事にフィットしており、聴いていてゾクゾクする仕上がりになっている。 二重奏曲 (フルートとオーボエ) (1945年) 2.8点 編成の限界があるにしても、あまり面白いとは思えなかった。2楽章の記憶の彼方を呼ぶような郷愁は少し心を捉えた。 ピアノ五重奏曲 作品29 (1963年) 2.5点 前衛的でリズム感に乏しくて音が薄い。中間に曲の半分くらいの長さの全くピアノが登場しないで弦がシニカルな音を奏で続ける場面がある。全くの個人的思いとして、ヒナステラのピアノ五重奏曲に求めたいのはコレジャナイという感が半端なかった。あまりいい曲とは思えない。 ギター・ソナタ 作品47 (1976年) 2.8点 あまりギター曲として偉大な感じがしなかった。大作曲家が書いた貴重なギターソナタのはずではあり、音感の鋭さは随所に見せているが、ギターらしい良さが少し足りないのと、音楽的にもいまいち共感を得られずに終わった。最後の楽章の野蛮さは素敵だが、その他の3つの楽章のバランスが悪い。 チェロ・ソナタ(チェロとピアノ) 作品49 (1979年) 2.8点 チェロ協奏曲と同様の物足りなさを感じる。ピアノのキレは良い。チェロもカッコいい瞬間はよくあるのだが、ダイナミックさがヒナステラの一番の売りだとよく分かる。渋くて独特のエキゾチックな味がある現代的な音の動きの魅力は良いのだが、片手落ちである。 弦楽四重奏曲 第1番 作品20(1948年) 3.3点 ヒナステラの音楽性の良さがよく出ている曲。緊密で無駄が少なく、各楽章が対等の完成度。弦楽四重奏の一丸となった活発さとか自由さを活用しており、アルゼンチンらしい南米の郷土的な音世界も現代性や芸術性と融合させながら見事に表現されている。南米の弦楽四重奏の名手のヴィラ=ロボスに一歩も引けを取らない。 弦楽四重奏曲 第2番 作品26(1958年) 3.5点 1番に続きよい作品。ほんのわずかだけ切れ味が鈍くなった気もしたが、規模が大きくてスケールが大きく、鬼気迫るものもある。活発で自由な弦楽四重奏のメリットを活かしている。リズミカルになったり、不安を煽ったり、いろいろな表現の可能性を掘り出していて、ヒナステラの個性がよい方向に発露している。芸術性もなかなか高い。すごい力作。 弦楽四重奏曲 第3番 作品40(1973年) 2.5点 女声ボーカル入り。歌詞が分からないから、正直にいって音楽の幅を著しく狭めており、変化も乏しく他の弦楽四重奏の力作ぶりと比べて面白くない。雰囲気は悪くなくて、シェーンベルクの月に憑かれたピエロを連想した。でも、それだけという印象。内容の充実感もない。 https://classic.wiki.fc2.com/wiki/%E3%83%92%E3%83%8A%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%A9
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