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(回答先: イラク「新政権」民主化の前途多難2 投稿者 YM 日時 2003 年 3 月 16 日 13:58:17)
SAPIO臨時増刊
酒井啓子
「反米」「反イスラエル」「反トルコ」の火種が中東にバラ撒かれる
かつてのイラン革命やアルジェリア暴動、最近ではチェチェンやコソボなど、イスラム教は市民運動、社会運動として、民衆を動かす大きな要素である。
直接的・間接的に支配する先進国への反発であったり、あるいは現政権への反体制運動であったりと形は異なるが、それらはいずれもイスラムという宗教によって衝き動かされてきた。
では、米国の空爆により、イラク国内や周辺のイスラム諸国では、一般国民レベルでどのような動きが表われ、それは中東社会全体にどのような影響を及ぼすのだろうか。かつてイラクに住んだ経験を持つアジア経済研究所主任研究員・酒井啓子氏に話を聞いた。
湾岸戦争が終結したわずか2日後の1991年3月2日、イラク国内にいわゆる「三月暴動」が発生した。きっかけは、イラク敗戦が決定的になった湾岸戦争終盤、イラク正規軍兵士がクウェートから命からがらたどり着いたイラク南部の街バスラで、掲げられていたフセイン大統領の肖像画へ放った砲弾である。早々に戦線から離れていたにもかかわらず最新兵器で武装し、厚遇されていた共和国防衛隊とは180度異なる境遇だった彼らの不満に火が付いたのだ。イラク独立以来、初めてのインティファーダ(全国規模の暴動)が始まった瞬間だった。
この暴動は発生から1週間で南部8県に拡大、続いて政府のお膝元、首都バグダッドでも警官隊とデモ隊が衝突、さらに北部のクルド地域にも飛び火した。一時は全国18県のうち、14県を反乱部隊が制圧したほどだ。
もっとも、その後暴動を主導した一般国民はすぐに馬脚を現わしてしまう。クルド人ゲリラ組織を除き、民間人の彼らに戦闘の知識はほとんどなかったのだ。例えば、乗り捨てられた戦車を使おうと乗ったはいいが、肝心の操縦法が分からず、結局は放棄するといった光景が各地で見られた。また、「フセイン政権は崩壊した」「いやまだ存続している」などと情報が錯綜し、近隣住民同士がどちらを支持するのか疑心暗鬼になって、お互いを殺し合ってしまうという惨劇も生んだ。
そうした混載した状況にもかかわらず、アメリカは不介入を決め込んでいた。そこでフセインは軍部を使って鎮圧に乗り出し、反乱は約1か月後に終息した。湾岸戦争以上とも言われる約10万人の死者を残して。
そして今、もしアメリカによるイラク攻撃が再度行なわれたとしたら──戦争終結後、この三月暴動と同じようなパターンの反乱が発生する、と断言できる。
湾岸戦争開戦前のイラクは、公務員家庭など安定した階級が羨望を集めた庶民的な社会だった。しかし戦後は、政権に取り入ることに成功した商人や、功労を認められてフセイン大統領から勲章を授与された人間など、一部に富が集中して貧富の差が拡大した。その結果、妬み、恨みなどの負の感情がはびこり、人心はすっかり荒廃してしまっている。
こうした心理状態に加え、戦争の混乱が招く食料や物資の不足、ますます悪化するであろう医療、あるいは教育、福祉の停滞……。つまり、91年の暴動と同じような反乱が再現される条件は十分に揃っているのだ。あるいは、政府に暴動を鎮圧する力が残っていなければ、前回のーか月以上に長期化することも考えられる。
周辺諸国が陥るジレンマ
こうした動きは、イラク周辺諸国に波及するだろう。ただし、イラクの場合はイスラムの教義やイデオロギー以前の問題で、あくまで生活苦に対してフラストレーションが噴出するという形だが、周辺のアラブ諸国では「反米」「反戦」などターゲットや目的が明確になってゆくだろう。例えばそれは、アメリカに対して毅然とした対決姿勢がとれない自国政府への憤りや、アメリカという国そのものへの反発が、テロやストライキという形で表われると推測される。あるいは既に非合法的な地下活動をしている反政府グループが、自らの活動をより先鋭化させていくことも考えられるだろう。
こうした動きが活発になり得るのがヨルダンとサウジアラビアである。特にパレスチナ人が多いヨルダンにおいては、アメリカをバックにパレスチナ人を迫害してきたイスラエルに対する反感という文脈に沿い、民衆の中に今以上の反米感情が生まれ、激しいデモや集会が行なわれるはずだ。
一方サウジアラビアの事情はやや異なる。政治、経済、一般国民の生活までが統制され、厳格な治安を有するサウジでは、民間人がデモ、集会を行なうことが難しいからだ。親米派として知られる現在の王政に対して当然国民は不満を抱くはずだが、国内で表立った行動をとることは許されない。
むしろ怖いのは地下活動である。アルカイダのメンバーの約半数がサウジ出身という土壌もあり、その意味では、いずれ第二、第三のオサマ・ビンラディンが出現してもおかしくはない。例えば、アメリカ企業が関与する石油施設への攻撃や、アフガニスタンから逃走してきたアルカイダ残党によるテロが発生する可能性は否定できないのだ。
イラクと国境を接してはいないものの、エジプトでも反米・反戦の気運は高まるだろう。学生、学者など知識階級が多いエジプトでは、現在もパレスチナ問題に抗議して大学の封鎖やデモ、ハンストなどが発生している。如えて、イスラエルと国交を結んだ最初のアラブ国家ながら、ついに政府が駐イスラエル大使を召還しなければいけなくなったほど世論は反イスラエル、反アメリカに傾いた。それが今以上にエスカレートしていくのは確実だろう。
仮にも親米路線をとるこれらの3か国の状況がこうなのだから、反米を標榜するイラン、シリアの国民感情は推して知るべしである。
(中略)
そうした欝屈した状況は、アメリカとアラブの歪んだ関係に拍車をかけ、非合法活動の枠を広げることにもなりかねない。アメリカは、イラクヘ攻撃を仕掛けることによって新たなテロ活動の種を播き、第二のアフガニスタン紛争を自らに招こうとしているとも言えるだろう。