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エコノミスト「"幻の景気回復"低収益構造の定着」三菱証券・水野氏
投稿者 Ddog 日時 2003 年 1 月 11 日 14:39:53:

(回答先: 投稿者 Ddog 日時 2003 年 1 月 11 日 14:37:16)

エコノミスト「"幻の景気回復"低収益構造の定着」三菱証券・水野氏
QUICKエコノミスト情報VOL.76三菱証券 チーフエコノミスト 水野和夫氏
02/12/25

【景況判断】現状(3ヵ月前比):変わらず 先行き(3ヵ月後):やや悪い
GDP予測:02年度0.9%(0.4%) 03年度0.3%(0.2%)
【金 利】短期:横這いTIBOR3ヵ月 0.08%
長期:低下 10年物新発国債0.75%
【円 相 場】緩やかなドル安の進行115円/1ドル
【株 価】株安 日経平均8,000円
l GDP予測値は実質GDP成長率、前年比%。カッコ内は直近10回分の平均値
l 長短金利、円相場、株価は3ヵ月後(03年3月末)の予測値

1.景気見通し:「"幻の景気回復"低収益構造の定着」
2002年1月から始まった今回の景気回復は1年で終わり、前回の21ヵ月を更新する
可能
性が高まってきた。景気回復期間が1年程度と、戦後で最も短いという以上に中
身が深刻
である。まず、最大の問題点は従来大企業・製造業の業況判断DIが回復期にはか
ろうじて
水準として「良い超」になっていたが、その大企業・製造業でさえもプラスにな
らないまま
次の不況期を迎える可能性が高いことである。景気回復・後退は変化の方向であ
るのに対
して、日銀短観の業況判断DIは水準であるから、変化の方向が累積されて、回復
期にお
いては水準が「良い超」になるのが通常であった。それが今回の回復期において
は、「悪い
超」のまま終わってしまうのである。従って、企業経営者は雇用も増やさない
し、設備投
資も国内ではしない。景気が回復しても、自律回復メカニズムは機能しないので
ある。
次に、大きな問題点は対前年比で今年度下期の業績はV字型回復ではあるが、半
減した
昨年の下期に比べて5割増えるだけである(日銀短観、大企業・製造業ベース)。
資産の収
益率でみると、今年度下期のV字型回復を前提としても前回のピーク時であった
2000年10
l 12月期を上回らない。大企業・製造業の実物資産収益率は2003年1−3月で16%と予想され、前回のピークの18.7%を下回っている。

2003年度不況に入ると鉱工業生産の伸びはマイナスとなるから、固定費を一段と削減しない限り、企業業績は減益が予想される。企業の収益率はこの10年間循環的には上下するものの、トレンドが上向かないことが最大の問題である。インテルショック直後の2 000年10月から日本は不況が続き、3年目に入っていると考えたほうがよい。構造改革を先送りにしたツケは、短い景気回復と長い不況である。
2.金融環境:「長期国債の短期金利化」新発10年国債利回りが1998年11月以来、再び1%割れとなった。10年国債の短期金利化が進行しているからである。元来、金融政策は長期金利に直接影響を及ぼすことはできない。あくまで、短期金利の引き下げによって、「期待」が変化し、その結果、投資と貯蓄で決まる長期金利が決定されることになる。ところが、日銀が95年からデフレ対応型の金融政策を採用して以来、コールレートが直接長期金利に影響を与えるようになり、現在、7年国債まで金融政策の影響を受けていることが、統計上確認できる。
デフレは日本だけの特殊現象ではなく、世界規模で起きている市場統合が理由であるから、デフレは10年を超える単位で長期化する可能性が高い。そうなれば、ゼロ金利コ―ルレートが10年国債利回りに影響を及ぼすのは時間の問題である。10年国債利回りが短期金利化することになる。ちょうど、95年9月にデフレ型対応政策をとったときの公定歩合が0.5%であるから、10年国債利回りが0.5%になることを意味する。
デフレが世界的現象であるように、長期金利の低下も世界的現象である。米国10年国債利回りも今年10月に3.5%台へ低下した。1958年以来の低利回りで、当時はインフレ期待がなかった時である。米国債市場はすでに米国がデフレになることを織込みはじめたのである。米国の2003年はゼロ金利政策と量的緩和に踏み切り、10年国債利回りは3%を下回って、2%台半ばまで低下する可能性がでてきた。
3.注目点:「購買力平価は成立しない」デフレの長期化で円安期待が高まってきた。塩川財務大臣が「日本の現在の実力からみると円は高すぎる。世界の水準で計算したら、1ドル=150〜160円ぐらいがいいはず」(20 02.12.2)と発言しているが、購買力平価にマーケット・レートが収斂すると期待しないほうがいい。スウェーデンの経済学者グスタフ・カッセルが1922年に発表した購買力平価説は、グローバル化した1990年代半ばにその役割を終えているからである。
長期に購買力平価説が成立しているかどうかは、二国間で物価変動率格差と為替変化率を4、5年単位でとって、OECD加盟国のデータで散布図を描くことによって確認できる。1973年から1994年までは、先進20ヵ国の為替が、為替変動率=1.08×物価変動率−0.0 9という回帰式(R2=0.98)上にプロットできるから、購買力平価が成立していた。ところが、95年から2001年のデータで物価変動率格差と為替変化率の関係を回帰すると、為替変動率=0.25×物価変動率+0.36(R2=0.06)となって、もはや為替は物価変動率とは関係なく動いている。円・ドルとユーロ・ドルに関して、95年以降、為替レート=マイナスの係数×(日本、およびユーロの物価指数/米国の物価指数)となって、購買力平価説が成立するための条件、すなわち「物価指数比率にかかる係数はプラス1程度」が成立していない。
グローバル化すると、「インフレは貨幣現象」ではないのであるから、当然「インフレは貨幣現象である」という考え方を国際経済に適応した購買力平価説も成立しなくなるのである。90年代半ば以降、資産効率の高い国の通貨が高い傾向がある。そうした状況下で円安政策を指向すると、対外交易条件が悪化する。対外交易条件は、定義上企業の交易条件(企業利潤に相当)と、家計の交易条件(実質賃金に相当)を合わせたものである。対外交易条件が悪化すれば、企業か家計のどちらかあるいは両者の交易条件が悪化する。円安政策は対外交易条件の悪化を打ち消すほどに輸出数量が伸びることが必要である。世界経済が鈍化傾向にあるため、円安政策は相手国のシェアを奪わない限り成功しない。デフレの輸出であって、世界的デフレは何ら変わらない。
<水野和夫氏略歴>
1953年生。77年早稲田大学政経学部卒、80年同大学院経済学研究科修士課程修了
後、八
千代証券入社。98年国際証券金融市場調査部長、99年同チーフエコノミスト、
2002年9月
から現職。東洋経済「統計月報」エコノミスト・コンセンサス、などのコメンテータ。エコノミストランキング11位(2002年3月25日付日経金融新聞)、日経公社債情報エコノミスト部門6位。

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