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(回答先: ヨーロッパが金持ちにひざまずくなら、アメリカの尻に火をつけてでも日本は参戦すべきだ。 投稿者 hou 日時 2003 年 2 月 22 日 21:24:15)
houさん、こんばんわ。
イラク問題についてはいろいろと書き込みをしていますので、ブッシュ政権の戦略が達成できるかと言わないまでも、勝利できるかという点に絞って書きます。
(houさんの懸念をそのまま認めた上でもということになります)
イラク攻撃のグランド・デザインを書いた人は、第二次世界大戦後に日本やドイツを占領統治を通じて新しい世界構造に組み込んだ成功体験が染み込んでいると思っています。
(一時期、ブッシュ政権がイラク占領を日本占領に習って行うという報道もされていましたし、昨日報道された内容もそれに近いものです)
イラク攻撃の簡単な見通しは、『産油国の「近代化」には失敗し、ブッシュ政権には“悪の烙印”が押され、「近代」は終焉に向かいます』( http://www.asyura.com/2003/dispute8/msg/375.html )を参照いただくとして、日本やドイツで実施した占領統治がイラクに通用するかが今回の戦争の勝敗を左右します。
イラク攻撃が短期間で終結するかどうかは別として、米国主導でのイラク占領までは達成されると予測しています。
ですから、『産油国の「近代化」には失敗し、ブッシュ政権には“悪の烙印”が押され、「近代」は終焉に向かいます』で書いたような占領統治の不安定化が生じる理由を補足的に説明します。
● 日本とドイツで占領統治が成功した理由
日本やドイツの占領統治が巧くいった要因は、両国ともそれなりに経済的成功を収めていた近代主義国家だったことにあります。
天皇制やナチス第三帝国という政体や政治的価値観は本質的問題ではありません。
両国とも近代的経済発展を志向して米英などと戦争を構えたという意味で成功した近代国家だと言えます。
両国とも、占領されても、企業が奪われたり資源をとられるどころか、経済復興の支援を受けました。
日本で言えば、軍幹部・一部政治家・不在地主・華族を除けば、めざしていた近代的経済発展がよりスムーズになる条件を手に入れました。
経済システムや経済価値観は、ほとんどそのままというか、近代的発展にとってはより合理的なものに改編されました。
(「財閥解体」はそうだとは言い切れませんが、「農地改革」や「労働組合運動強化」がその代表です。占領がなければ、あのような制度変更はずっと後まで先送りされていたでしょう)
米国をはじめたとした世界への経済的アクセスも開放へと向かい、戦争や植民地支配という膨大なコストを要する方法でそれを達成する必要もなくなりました。
端的には、戦争に負けたことで、近代的発展の阻害要因が除去されたことを意味します。
だからこそ、日本とドイツは、奇跡とも言われる高度経済成長を達成したのです。
● イラクは占領直前の日本と同じか
翻ってイラクはどうでしょうか。
今回のグランド・デザインを書いた人がそこそこ考えているなと思わせるのは、近代主義で国家運営を続けてきたイラクを標的に選択したことです。
イラクがかつての日本やドイツと同じ経済価値観や経済構造を持っていれば、占領統治がうまくいく可能性があります。
しかし、グランド・デザインを書いた人が見落としている重要な点は、フセイン政権が“圧制”を行ってきた要因がクルド人の民族独立運動とともにイラクに根強く存在する“反近代意識=イスラム信仰”であるという点です。
クルド人の問題は脇に置きます。
多数派を占めるシーア派の反体制派は、フセイン政権の世俗的社会主義に基づく近代化政策に反対しています。
スンニ派にしても、フセイン政権と結びついて経済権益を確保している勢力を別にすれば、フセイン政権の政教分離政策を必ずしもこころよく思っていません。
反体制派で近代主義を基礎にしているのは、共産党を中心とした左翼勢力です。
フセイン政権がそのような対立状況でも政権を維持してこれたのは、原油から得る収入を国民生活の向上に振り向けてきたからです。教育・医療・女性の活動容認など近代的基準に照らせば進歩的な政策を実行してきたのがフセイン政権です。
(反対派に対してではなく政権へ国民の支持を集めるためにはそのような政策の実行で対抗しかありません。独裁と言っても、洗脳でもいいのですが、国民多数派の支持がなければ維持できないものです)
このような政策は、愚かな対イラン戦争そしてさらに愚かなクウェート侵攻で実行できなくなりました。
(クウェート侵攻も、行き詰まった経済状況がクウェートの原油安売りと債務返済要求にあると考えたことが第一でしょう。クウェートは元々イラク領という意識が国民多数にあるので、クウェート侵攻は国民的支持も得られます)
このようなことから、湾岸戦争以後10年以上に渡って続いている「経済制裁」は、反フセイン政権という意識を増加させていることは間違いないでしょう。
(米英の「経済制裁」継続策は、フセイン政権からの国民離反が最大の目的だと考えています)
しかし、イラク国民生活の困窮化が反フセイン意識の増加を招いているとしても、それが米英が好む経済価値観や政治体制への移行につながっているわけではありません。
生活困窮化から生じる憎悪は、フセイン政権に対してよりも、「経済制裁」を強硬に押し通してきた米英に向けられています。
政教分離政策を採っているとは言え、フセイン氏自身もイスラム教徒のようですし、圧倒的多数の国民がイスラム教徒ですから、イスラムの教義及びイスラム法を考慮した政策をとってきました。
米国主導の占領統治が、よりイスラム寄りで国民生活の向上を達成するものであれば、それなりにうまくいく可能性もあります。
イラク攻撃の目的を石油資源に結びつける見方もありますが、それではないと思っています。
占領統治に入れば、原油輸出を拡大し、それから得た収入を国民生活の向上に振り向けるはずです。(そうでなければ、私が予測したレベルではない反占領抵抗運動が沸き起こります)
しかし、よりイスラムを尊重した占領統治を行うと考えるのは困難です。
より重要なのは、アラブ人が、爆撃と殺戮の結果占領を果たした異教徒の統治に従うことはないということです。
日本やドイツのように負けたとはいえ、国家総力戦を長期に戦い抜き疲弊の極地に至って降伏したのではなく、一方的に攻撃されるに等しい状況で占領されたのであればなおのことです。
イラクの原油を使った民生向上も、しょせん自分たちの石油を売っているだけではないかくらいはすぐに見抜かれます。
占領統治がフセイン政権以上の西欧的近代主義に基づくものであれば、それに反発するイスラム勢力が抵抗運動への糾合テーマとして活用します。
(イラクでは軽火器であれば軍以外にも幅広く保有されています)
グランド・デザインを書いた人もわかっているからこそ、占領期間を2年以上設定し、直接統治を打ち出しているのでしょうが、イラクで民主的な選挙を通じて政権を樹立するかたちにすれば、シーア派的価値観を持った政権が生まれる可能性が大です。
(アルジェリアの選挙のようなイスラム主義の政権が生まれるのです。米欧が民主的な選挙で生まれた政権を軍部が倒したときにどう反応したかを考えれば、それが望む姿ではないことは自明です)
攻撃と占領だけでもゲリラ的な抵抗運動が起きますが、米国主導の占領統治がフセイン政権以上の西欧的近代化政策を遂行しようとすれば、より多くの反米抵抗運動を生み出すことになります。
フセイン政権がなんとか蓋をしていたイスラム主義が、解き放たれたように反米抵抗運動に向かうことになるのです。
このようなことから、『産油国の「近代化」には失敗し、ブッシュ政権には“悪の烙印”が押され、「近代」は終焉に向かいます』( http://www.asyura.com/2003/dispute8/msg/375.html )で書いた進行で、「対イラク戦争」に米国が勝利することはないと考えています。
そういう基準で戦争の是非を決めるわけではありませんが、それほど利口ではないグランド・デザイナーがシナリオをつくった勝利できない戦争に日本が踏み込むのは愚かの極まりです。