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作家の辺見庸さんが、福岡県の同胞商工人新春の集いで「私たちはどのような時代に生きているか―日朝関係と世界の動き」と題して記念講演を行った。同県内外から250人以上の聴衆が詰めかけ、熱心に耳を傾けた。辺見さんは9.11の米国中枢同時テロ後、世界を巻き込んだ「反テロ戦争」に激しく反対し、昨年9.17以降は、「北朝鮮憎悪とナショナルな義憤」を煽り立てる日本のメディアの拉致報道にさまざまな場で、強い懸念を表してきた。
この日の講演でも、辺見氏は9.17以降、「日本の戦後史でも例を見ない異様な風景が長く続いている」と切り出した。
「マスコミあげての洪水のような共和国非難が続いている。感情的、情緒的な北朝鮮暗黒帝国物語の垂れ流し。これが異論をさしはさむのを許さない危険な空気を醸している」「チマ・チョゴリの朝鮮学校生徒たちに石をぶつける。小突くといった暴力。各県の朝鮮総聯事務所への脅迫電話。WBCスーパーフライ級世界王者ホン・チャンスのホームページに『北朝鮮に帰れ』などという書き込みをする。いわば、民族排外主義的声がこの国の古井戸の奥底から噴出してきた。これほど恥ずべきことはない」
共和国に対するナショナルな義憤がしきりに煽られている。こうした危険な動きが、在日コリアンへの暴力として表出する状況を打開する道はあるのか。辺見さんは拉致事件を国家犯罪として強く非難し、責任者の処分、原状回復、保障の必要性を訴えたうえで、同時に、この問題をきっかけに「身の移し替え」という発想をすることの大切さを説く。
「拉致被害者と家族の無念さ、悲しみ、怒りは胸に突き刺さる。身を移し替えて想像すれば、それは植民地時代の夥しい数の朝鮮人強制連行の被害者とその家族や遺族の途方もない苦痛と重ならざるをえない。なぜ、日本人の拉致事件だけが現在最大の論点とされ、執拗に追及され、過去の強制連行、『慰安婦』問題は、歴史の闇の中にもくずのように捨てられようとしているのか」と。もし、拉致事件被害者の共和国における「墓」のありようを問題にするなら、日本各地に無残に放置されたままの強制連行被害者の遺骨は一体どうなっているかという点にも思いが至らなくてはならない、と辺見さんは指摘する。
辺見さんはまた「朝鮮人に対して与えてきた強制連行・徴用という凄絶な苦しみと歴史の実相をなかったことにするのではなく、拉致事件をきっかけに、その真相の一端でも真摯に知ろうとするのなら、それこそが公正で人間的な想像力というものだ」と強調しながら、あるべき歴史観について次のように強調した。
「日本の現代史、歴史が危機に瀕している。そのことは我々の生き方が自由ではなく、どんどん不自由になっていることを意味する。日本の現代史は日本人だけのものではなく、近隣諸国の民衆と在日コリアンや中国人たちの身体、涙、血をも埋め込んでいる。血抜き≠オた歴史しか語らぬ現代史とは一体何なのか。それは、学ぶべき歴史を学ばせない、記憶すべき過去を抹消する。そして間違った歴史を若い人たちに押しつけることになる。そうなれば、若い人たちもまたずうっと不自由に生き続けなければならない。歴史の実相を知らないということは、じつは不自由なことだ」
辺見さんは日本の政治が「北朝鮮憎し」の空気を最大限に煽り、組織して有事法制体系の構築に利用しようとしていると喝破する。
「過去の植民地支配を反省すると言いながら、小泉首相は非難轟々の中で靖国を参拝した。これは、過去の反省など全くしていないことを行動で実証するものだ。その小泉首相に任命された防衛庁長官の石破茂という人は、徴兵制を肯定するような超タカ派の政治家である。安倍晋三官房副長官も戦術核保有は憲法違反ではないと公言するほど不見識な人物。この内閣はアメリカのイラク攻撃を前にして、自民党内の反対をも押しきりイージス艦派遣さえ強行した。さらに、以前総務庁長官を務めた江藤隆美なる人物が『旧宗主国に対して謝罪とか、補償を求めるのは間違いだ』と放言した。まさに植民地主義者の根性まる出しの断じて許し難い暴論である」と辺見さんは語った。
「人間はどこまで非人間的になれるのか」―これが辺見さんの年来のテーマであるという。今回の講演でも「どのような精神をもって、広島・長崎に原爆を落としたのか。どのような思想で数十万、あるいは100万以上といわれる強制連行を実現しえたのか。20世紀は一体どのような論法で1億人もの人間を戦争や地域紛争で虐殺したのか。その根本的反省に立って人間の非人間性を正視し、それを回避する努力をすべきだ。それこそが人間本来の人間性実現につながるのだと思う」と述べた。
間近に迫りつつある米国のイラク攻撃、有事法案に対して、辺見さんは「既定の事実として諦めるのではなく、最後の最後まで阻止する心を強く持とう」と訴えた。さらに、拉致事件を追い風にして、「共和国の脅威」のみをことさらに強調して、事を構え、いっそうの武装化をして、戦時体制を構築しようとする小泉政権に「私はどこまでも反対する」と述べた。無関心、無感動ではいけない、反戦を心に思っても、ただ沈黙しているだけでは平和はいつまでも来ない、と。
最後に、「日朝両国民衆の本来の願いに立ち返り、関係正常化のための話し合いを早期に再開すべきだ」と呼びかけるとともに、「(一世、二世の方々はもとより)特に若い在日朝鮮人の皆さんは現在の風景にめげることなく、自信と誇りをもち、胸を張って歩き、堂々と発言し、元気に生きてほしい。あなた方の真の友人はこの国にたくさん、たくさんいるのですから」と会場の若者たちに熱く語りかけた。講演を聞いた聴衆の一人は「瞬きの暇もないほど話に引きつけられた。間違った報道を見破る視力がいかに大切か教えられた」と語っていた。(朴日粉記者)
[朝鮮新報 2003.2.5]