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東京都内で痴漢に対する罰則が強化されてから一年以上が経過する。混雑した電車内などでの犯罪行為は相変わらずだ。最近では、インターネットなどで仲間を募った集団痴漢も横行、警察も警戒を強める。一方で、痴漢と間違えられ、仕事や家庭を棒に振るえん罪の問題も深刻だ。二回にわたり、痴漢をめぐる両面の恐怖を検証する。
都内の私立大学に通う埼玉県内の女性(19)が、被害に遭ったのは今年の八月下旬だ。ウイークデーの午後八時すぎ、新宿駅で、出発間際の埼京線最後尾の車両に飛び乗った。
■両手に荷物 一斉に触られ
「結構込んでいました。ドア近くに乗ったら、足の間にだれかのかばんが挟まったのでおかしいなと思ったら、前の男にひざでブロックされ、周りを囲んでいた七、八人が一斉に体に触ってきた。両手には荷物を持っていたし、何がなんだか分からず頭は真っ白、パニックになった」
女性は恐怖で言葉も出せない状態だったが、前の男が、着ていたTシャツをまくり上げようとしたため、泣きながら「やめて」と声を絞り出したという。その一言で周りの男らが離れ、電車が次の駅に着くと、女性は逃げるように降りた。
周りにいたのは、背広姿などの二、三十代の男たちだった。いまだにそのときの悪夢がさめやらず、電車に乗るのが怖いという。
なぜ、男たちは集団で襲ってきたのだろうか。
実は、インターネットの掲示板などで、不特定多数の仲間を募って犯行に及ぶ“痴漢ネット”がひそかに広がりつつあるという。
警視庁鉄道警察隊幹部はこう話す。
■1、2年前から集団化の傾向
「新宿、池袋のようなターミナル駅ともなれば(痴漢の)『突き出し』は一日五、六本はある。インターネットで仲間を募り、痴漢をやっているという話は承知している。酔っての出来心などではなく、共謀行為で極めて悪質、絶対に許すことはできない」
「(痴漢の集団化は)最近一、二年の傾向ではないか」と話すのは、現場の別の鉄警隊員だ。やはり埼京線など混雑度の激しい路線の朝夕のラッシュ時間帯が多いようだ。
■被害者に贈り物渡すケースも…
昨年八月、埼京線内で痴漢で捕まった大学生(21)は「ネットで痴漢募集のサイトを見て犯行を思い立った」などと供述している。
何度も同じ女性を狙ったり、揚げ句の果ては、被害者にプレゼントを渡すというストーカー痴漢も存在する。
インターネット上で、痴漢対策を呼びかけるホームページの主宰者は「ネット上の『痴漢体験告白』などの影響が大きい」と指摘し「告白掲示板が痴漢を誘発し、その上、掲示板では痴漢のノウハウも書かれている。このようなサイトで痴漢同士が交流し、徒党を組むケースが増えている」と解説する。
警視庁は一昨年「ハイテク犯罪対策総合センター」を設立、悪質なサイトなどの監視を続けている。
前出の鉄警隊幹部は「不審な書き込みなどがあれば、センターからの通報を受け、ただちに当該車両、路線で警戒を強め、被害防止に努めている」と説明する。
■複数での犯行 一網打尽難しく
ただ集団痴漢の容疑者を一網打尽にすることは、実際には難しいという。「えん罪事件が問題になるように、慎重に対応しなければならないし、被害者が同時に複数の男に触られたと訴えてくるケースでも、混雑した車両の中で、複数の犯行を一度に摘発することはかなり困難だ」
■罰則強化策も依然効果薄く
昨年九月の都条例の改正で、痴漢行為は初犯でも六月以下の懲役または五十万円以下の罰金、常習痴漢は一年以下の懲役または百万円以下の罰金に強化された。しかし現実的にはあまり減っていないようだ。
警視庁生活安全部によると、条例違反容疑で検挙・逮捕された件数は、昨年一年間で、JR八百二十六件を筆頭に、私鉄、地下鉄と合わせ千七百三十四件、今年は十一月までで計千五百二十一件を数える。
集団痴漢について、犯罪心理学に詳しい小田晋筑波大学名誉教授は、「新現象ですね。痴漢は摩擦症といった性的嗜好(しこう)障害の一種で、通常は非社会的、陰湿で単独犯だ。摩擦症のマニアが集まって犯行に及ぶというのは犯罪史の中でもなかった。ただ赤信号みんなで渡ればではないが、集団の方が怖くない、免責されるという意識が働いている可能性はある」と分析する。「痴漢はマニア雑誌などもなかったわけで、さまざまな情報が集まるインターネットの影響は大きい」とも付け加えた。
■車内でメール連絡取り合う
メディア問題などに詳しい桂敬一東京情報大学教授は「インターネットといっても、実行行為にまで走る連中は、携帯電話のメールで連絡を取り合っているのではないか。埼京線などは区間が長いので、バラバラに乗っても、メーリングリストなどを利用して、特定の車両に集合するなど、機動力を発揮できる。やばければ逃げればいいし、サイバーポリスもそこまではチェックできないというのもあるでしょう」
悪質な痴漢行為への対抗策はないのだろうか。
■女性専用車両もコスト面ネック
JR東日本では昨年七月から、埼京線の午後十一時以降の新宿発下り電車(一部池袋発)十一本の一車両を「女性専用」とした。乗客には好評だが、増設や他線への拡大などはコスト、技術面から、難しそうだ。また、車両に監視カメラを設置することも、「プライバシーの問題などもあり、今のところ考えていない」(同社広報)という。
一方で、集団痴漢については、男性を取り巻く社会的な変化がいびつな形で投影されている、との指摘もある。
小田氏は「痴漢に対しての女性側の反撃も厳しくなってきた。もちろん許されることではないが、集団という形で、対抗しようという意識が働いているかもしれない。さらに米国でいわれているメールバックラッシュ(男の逆襲)という現象。アンチフェニミズム、つまり追いつめられた男たちの反撃という要素だ。集団痴漢の犯罪者たちは意識してはいないだろうが、強い女性に対する反撃という潜在的な意識が働いている可能性もある」。
桂氏はかつて大学運動部であった集団レイプ事件のような要素を指摘する。
「集団痴漢は勢いでやる、あるいは面白がってやるというものだと思う。遊び感覚で、むしろ本人たちの犯罪としての自覚が薄いだけに、より悪質だ。かつてのニューヨークの地下鉄内での犯罪などに似ているように感じる。ニューヨークも景気が良くなって地下鉄の治安もだいぶ良くなったようだが、日本の場合、不景気で荒れた世相が、そうした犯罪の背景にあるのかもしれない」