公共工事は地元の業者を最優先するなど地方行政・企業にとっては神様のような存在だった鈴木議員。同氏の自民離党とともに地方経済も衰退の道を歩むことになる!?
鈴木宗男・衆議院議員が3月15日に自民党を離党した。涙を流しながらの記者会見は、政治に興味がない方でもちょっと興味を引かれたことだろう。週末のテレビ報道は、鈴木氏の涙を放映しながら、これで政治の世界にも春がやってくるかのような雰囲気を漂わせていた(同日、関東地方で春一番が吹いたせいかもしれない)。しかし実体経済をウォッチする者からすると、今回の鈴木氏離党は、地方経済に春どころか極寒の冬をもたらすきっかけになるのではないかとやや心配してしまう。
90年代前半の地方公共団体は、国の景気対策をきっかけに大規模な地方単独事業を実施し、結果として建設業中心の経済構造を構築してしまった。しかしその後、日本経済は不況で苦しむばかり。当然、地方経済も厳しくなっている。そこで地方行政は、経済の立て直しと銘打ち、建設業保護を優先した政策=公共投資の追加を幾度となく実施してきた。
不況による税収減の状況下で、地方公共団体が公共投資を増やせば、財政事情が急速に悪化する。そこで地方は、自分の懐が痛む地方単独の公共事業から、国の補助金を受け取ることができる補助事業へ公共事業の中身をシフトさせていった。しかし、地方財政が改善する気配は全く無い。そのため公共事業の減少に歯止めをかけることができず、失業率は上昇し続ける。たまらず国も2月1日に第二次補正予算を成立させ、地方での補助事業追加を決定した。規模はそれほど大きくないとはいえ、今回の決定は今の地方経済にとって恵みの雨と言っていいだろう。
ただ、本質論を述べれば、地方行政がやるべきことは、国からのお恵みをただ待つことではなく、建設業中心の経済構造をIT関連といった他産業中心へとシフトさせていくことだろう。長野県知事がリーダーシップを取り公共事業から脱却する動きなどは良い見本だ。そもそも国の方針案を決める小泉内閣は、目標として財政再建を掲げており、財政出動を可能な限り減らそうとしている。そんな内閣が続く限り、いくら国からの補助事業を待っていても、十分な規模の補助事業がやってくるわけはない。こんなことは地方の役人も十分にわかっていることだ。それでも彼等は国からの補助を待つしかない。自ら動く予算も能力も意欲も何も無いことは、彼等自身が一番わかっているからだろう。
自ら動くことはできないが国からの補助は欲しい地方行政の役人にとって、鈴木氏は非常に付加価値の高い人間だったことだろう。中央官僚の課長補佐を船の中で殴ろうが、正式パスポートを保有しない外国人を私設秘書に採用しようと、そんなことは地方経済には関係ない。もちろん、彼のために選挙協力をしなければならないし、政治献金という報酬を民間企業に負担させる必要はあった。しかし彼は、それ以上の見返りを地方経済に持ち帰ってきてくれた。こんな良い人はそうそう他にはいない。まさに鈴木氏は「私たちの友達」だ。
地方行政の役人にとって残念なことに、鈴木氏が以前のように権力を使用することは難しい状況にある。また同様の権力を行使していた国会議員達も、しばらく目立たないよう、露骨な利益誘導をしないだろう。最終的には、有力な国会議員を有していた地方でも来年度の公共事業の急減は免れないだろう。
ここで気になるのが来年度の日本の景気。公共投資の減少を外需や個人消費がどれだけカバーできるかがポイントとなる。今月中旬に相次いで発表された調査機関の予想をみると、GDP成長率のコンセンサスは、ほぼプラスマイナスゼロ。民間需要への対応ができている地方が回復基調をたどるのに対し、公共事業依存度の高い地方が厳しい冬を過ごすといった図式を予想している。
マーケットエコノミスト 秋新作
提供:株式会社FP総研