(回答先: 堺屋氏:ムーディーズ気にするな、予算通れば財政政策を−自民に進言(東京 3月6日ブルームバーグ) 投稿者 FP親衛隊国家保安本部 日時 2002 年 3 月 06 日 19:42:50)
「わたしの理解する限り、長期国債の買い入れ額を8000億円から1兆円にしたのが年度末対策の一環だとは、一言も言っていないと思う」−−。日本銀行の田谷禎三審議委員は6日、横浜市内で会見し、2月28日の措置についてこう説明した。既に決定から1週間が経ったが、こうした説明がされたのは初めて。しかも、果たしてそれが政策委員会のコンセンサスなのか。日銀の説明責任の在り方に疑問も出そうだ。
日銀は前月28日の金融政策決定会合で、「日銀当座預金残高が10−15兆円になるよう潤沢な資金を供給する」という「金融市場調節方針」を据え置いたうえで、「なお書き」部分を、「当面、年度末に向けて金融市場の安定確保に万全を期すため、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う」に書き換えた。
前回までの「なお書き」は、「資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う」だったので、“年度末対策”をより明確に指示した格好だった。日銀は同時に、長期国債買い入れを月8000億円から1兆円に増額したが、これが「なお書き」の書き換えに対応した措置であれば、年度末を越えれば買い入れ額を元に戻すのが筋。それに対する田谷委員の見解が、冒頭の発言だ。
「3月4日は14兆円ぎりぎりしか達成できず」
田谷委員は「今回、当座預金残高目標(10−15兆円)は変えてないわけだが、そうは言っても、短期のオペでは未達が出ている。少しでも短期のオペ手段の負担を減らすため、長期国債買い入れ額を若干増額したわけであって、必ずしも年度末に向けて何らかの効果を狙ってやったわけではない」と述べた。
しかし、未達が起きていたのは、当座預金残高が15兆円程度になるよう目指していたからで、「10-15兆円程度」という金融市場調節方針が達成できなかったわけではない。当座預金残高の目標が「15兆円程度」とピンポイントならともかく、「10−15兆円程度」の上限が達成できないからといって、国債買い入れを増額する必然性がどこまであるのか。
田谷委員はこれに対し、「税揚げの日、たとえば3月4日などは、どんなに努力しても14兆円ぎりぎりくらいしか達成できなかった。(昨年12月の決定会合で)10−15兆円の当座預金目標を掲げたときも、少なくともわたしが理解する限り、議論のなかでは『(目標の)高いところを目指そうと』という一般的な合意があったはずだ」と説明した。
国債買い入れは、札割れ対策か景気対策か
つまり、年度末対策としてではなく、札割れ対策として長期国債を増額したので、年度末以降の長期国債買い入れの扱いは「白紙の問題」(田谷委員)というわけだ。しかし、「(目標の)高いところを目指そう」という合意にそれほどの拘束力があるのなら、執行部に対する絶対的な指令である「金融市場調節方針」に、そう明記するべきだろう。
しかも、速水優総裁は前月28日の決定会合後の会見で、「3、4月が終わって資金需要が落ち着けば、この1兆円をまた減らすこともあり得るのか」と問われ、「景気が変わっていけば、そういうこともあり得るだろうが、まだ今はそういう情勢は見えていない」と、なんとも珍妙な答弁を行っている。長期国債買い入れ増額は、果たして「札割れ対策」なのか「景気対策」なのか。
田谷委員の言う通り、「札割れ対策」という認識が政策委員会のコンセンサスなのだとすれば、「14兆円ぎりぎりくらいしか達成できなかった」(田谷委員)3月4日のようなケースがこれからも相次げば、再び国債買い入れを増額することになるのか。
長期金利への介入は市場規律殺す劇薬に
田谷委員は講演で、「場合によっては、長期金利に働き掛けることも完全には否定しない。要は、今後の経済、物価の情勢次第だろうと思う」と述べた。会見でその真意を聞かれ、「わたしは2年前から、場合によっては、相場動向によっては、直接的に市場に働き掛けることを完全には否定しないと言っている。 (その狙いは、長期国債相場の)下支えとか、長期金利が急騰していったとき、それを抑えるとか、いろいろな場面や状況があると思う」と答えた。
長期金利の下支えにせよ、急騰を抑えるためにせよ、その手段は国債の買い入れ増額が第1候補になるのは間違いない。そのとき、「日銀券発行残高」という買い入れ額の上限撤廃は、不可避だろう。しかし、田谷委員自身が認める通り、「ある程度以上の期間にわたって長期金利をコントロールすることは、不可能とは言わないまでも、非常に困難」(講演)。何よりそれは、財政規律に対する市場のチェック機能を殺す劇薬になりかねない。
同床異夢のなかで決定された2月28日の長期国債買い入れ増額。これからも、長期国債買い入れ増額に対する政府の圧力が弱まることはないだろう。国債買い入れ額の「上限」にも近づいている。長期国債買い入れ増額に対する“あいまいな態度”を続ける時間は、それほどないかもしれない。