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手堅い戦略でリスク分散
世界的な株安と景気の変調で金融機関への逆風が強まる中、英大手金融グループHSBCの安定ぶりが際立っている。「弱み」とされる投資銀行業務への慎重姿勢が逆に奏功する一方、得意とする中国や中南米など新興国市場では事業拡大に向けた布石を着々と打っている。「世界のリテール銀行」を目指す国際金融コングロマリットの戦略を追った。
九月末、ロンドン東部の新金融街カナリーウォーフ地区。完成した新しい本部ビルにHSBCの経営陣が移ってきた。相次ぐ買収をテコに事業を拡大してきた経緯から金融街シティーのあちこちに分散していた本部機能を集約。八十一カ国・地域に広がる七千拠点網を統括する。
その新本部ビルの南側。対峙(たいじ)する形で米シティグループの欧州本部ビルがそびえる。株式時価総額でシティは金融機関のなかで世界一(千八百十三億ドル=約二十二兆七千億円)に対して、HSBCは千四十七億ドル(約十三兆円)で二位。エグゼクティブ・ディレクターのS・グリーン氏(企業金融担当)は四十一階の役員室の窓越しに、「いつかは見下ろす立場にたつ」とライバル心を隠さない。
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HSBCは今夏、メキシコ四位の大手商業銀行を十一億ドルで買収する方針を決めた。前年夏にはシティが同国二位の大手銀買収に踏み切ったばかり。「北米に重要な地歩を築くことに興奮している」(K・ウィットソン最高経営責任者=CEO)。シティの“裏庭”にくさびを打ち込む狙いがある。
株安で世界的に銀行株が低迷する中で、HSBC株の底堅さが浮き彫りになっている。四月以降の株価の下落率は一割にとどまる。三―四割値下がりしているシティやドイツ銀行とは対照的。HSBCの現在の株価は「他行に比べて三割のプレミアムがのっている」というのがアナリストの共通認識だ。
リテール(小口金融)業務を本気で国際展開しようとしているのはHSBCとシティに限られる。シティは利益の約六割を米国に依存。これに対し、一九九二年に英四大銀の一つミッドランド銀行を買収したHSBCは、地元英国を中心に欧州で四二%、発祥の地である香港が三九%。「安定的で成熟した先進国市場から得る利益と、高成長だが不安定な新興市場から得る利益を半々で均衡させる」戦略でリスクを分散する。
「ブラジルはアルゼンチンにならない」――。八月五日に開いた二〇〇二年中間決算の説明会。ウィットソンCEOは金融危機の連鎖を懸念する投資家に「ブラジルの政府・中銀の力量に全幅の信頼を置いている」と強調した。
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もっとも、そんな表向きの発言とは裏腹に、ブラジル向け与信額は六月末で五十八億ドル(七千二百五十億円)と半年間で三二%圧縮した。加えて今上期のアルゼンチン向け債権の追加引当金はゼロ。JPモルガンの銀行アナリスト、S・プライス氏は「HSBCは昨年中に、アルゼンチン向けは先手を打って引き当てた。新興市場での身の処し方に慣れている」と舌を巻く。
今年上期のクレジット・コスト(総貸出額に占める不良債権処理額の割合)は〇・四四%。アジア危機が収益を直撃した九八―九九年の半分の水準に抑え込んだ。エンロンなど相次ぐ大型倒産とも無縁だ。
入社から四十年あまり、HSBCの拡大の歴史を体現するボンド会長は今でも本部の電気代を精査する。訪問客に提供するサンドイッチが粗末なことで知られるHSBCの徹底的なコスト削減は伝統でもある。
「ダル(退屈)」。JPモルガンのプライス氏はこう表現する。波乱の国際金融界でHSBCの手堅い戦略が異彩を放っている。
(ロンドン=佐藤大和)