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(回答先: 戦後世界観と日本のアジア政策 投稿者 あっしら 日時 2002 年 9 月 28 日 18:49:01)
この問題に深入りすると延々と続く大論争になることは必至です(笑)。
しかし、私のコメントが貴殿からの反論を惹起したのである以上、回答の義務があると思いますので、貴殿のコメントを私なりにまとめつつ反論を加えます。貴殿の考えのまとめかたがおかしかったり、私の反論に異議があれば、ご指摘下さい。
まず、もともと”よそ者”に蒔かれた火種ゆえ、そのよそ者が立ち去ることによって混乱が生じるのは過渡期的には致し方ない、とのお考えについてです。全てとは言いませんが、地球上の対立の多くが植民地主義、もっと言えば500年に渡る西洋の膨張によって作り出された構造であることは、その通りだと思います。しかし、この人工的に作り出された構造を放擲して、作り出した張本人達が逃げ出す事は、私に言わせると許されないことなのです。例えば中東情勢において、その根幹に存在するのはイスラエル・パレスチナ問題です。ここに軍事的空白ができると、ほぼ確実に核戦争になります。話し合いで解決などできないことはこれまでの歴史が証明しています。どちらかが滅亡するまで殺戮が続きます。アメリカが引けば他の先進諸国が何らかの秩序作りに奔走せねばならないことになりますが、スーパー・パワーのアメリカ主導の体制よりも統制力が弱くなる事は明白です。「過渡期的混乱は仕方ない」などと悠長なことを言っている内に物凄いジェノサイドが起きます。
次に極東米軍撤収後の中国の対台湾政策についてです。貴殿の見通しは、大国の指導者を見くびっておられる(或いは意図的に好意的解釈をしている)、現在の延長線上で物事を考察している、という二点を指摘したいと思います。まず最初の点ですが、中国は本当に経済第一主義に完全に舵を切り、これを戻す事はないのだろうか、と自問してみる必要があります。あれだけの大国を維持するのに経済を無視し得ないのは事実で、70年代末から経済重視の方針を打ち出しましたが、中国の本質はやはり政治大国です。現行体制における台湾の存在は原理的に容認できるはずはありません。自国の制度に組み入れた上で(現在のメインランドで展開するように)諸規制を緩和することは当然あり得ますが。大国の指導者の第一義は自国の統一を維持し阻害要因は排除することにあるのであって、自国民の経済水準の向上は二の次です。
そもそも、米撤退に伴い、「よそ者」を気にする必要はなくなったわけですから、中台の並存という矛盾を放置して我慢している理由はありません。その意味で貴殿の言われる「軍事力の増強まで認める台湾への宥和政策」というのは絵空事にしか見えません。これは、現状の延長線上に貴殿のお考えがあるためと思われます。また、当の台湾側が「空白を埋めるために」大陸側に対する警戒を極度に高め、それに応じた体制を固めて行く事はむしろ当然と思われ、中台間の緊張が高まることは必至でしょう。中国側としては事態の緊迫化や膠着化を招く前に電撃的な制圧を必要とするはずです。
米国の戦後アジア戦略の基本が「分断政策」にあったのは御理解の通りです。アジアのみならず中東もそうですし、対共産圏政策もそうでした。しかし、その「尻馬に乗った」日本政府の行動が愚かだったという点は同意できません。米国のアジア戦略に異を唱えて成功したであろうシナリオはどうひいき目に見ても策定し得ません。
今後の日本のアジア戦略は米国を抜きにして考えることはできませんが、仮に米国がアジアから引くようなことになれば、政治的孤立化は避けられない事態になります。そういう事態になったら、個人的には、中国との決定的対立は避けつつ日本は独自路線を歩むべきだと考えます(中国への朝貢外交=土下座外交への転換は図るべきではありません)。まぁ、仮定の話ですから突っ込んだ議論にしても仕方ないですが、米国が北東アジアから撤退する可能性よりも中国が分裂する可能性の方がむしろ高いと考えているくらいです。
政府当局者にすら限られた情報しかない中、どうして貴殿が金正日のモダニストぶりを確信できるのかいささか不思議ですが、北朝鮮の復興に彼の力は必要ありません。今後の交渉過程でも策動をしてくるであろうことから有害とも言えます。ただ、北が南に平和的プロセスのうちに融合されることになった、という歴史的事実を刻むことには意味がありますから、彼を強制排除すべきとは思いませんが。
最後に米中同盟の可能性についてです。古くはキッシンジャーの訪中、最近ではクリントン政権の親中政策に見られるがごとく、親中政権が米国にできあがっても別段不思議ではありません。しかし、「米中同盟」ともなると相当に実現性は低下します。やはりお互いに政治的価値観の異なるレジームであることは無視し得ません。実現の可能性があるとしたら、スターリンとルーズベルトの時のように「共通の敵」が存在する場合です。または、中国側の政権の性格がドラスティックに変わる場合です。その実現を完全否定する必要はありませんが、さりとてそれに備えて何かができるというものでもありません。