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(回答先: ムスリムの好戦性? 投稿者 baka 日時 2002 年 9 月 22 日 13:09:48)
bakaさん、こんにちわ。
宗教論に踏み込むと長くなるので簡単に自分の考え方を述べます。
共同体の価値観は、生存維持活動の形態に強く規定されると考えています。
人の生存維持活動を大きく区分すると、農耕と遊牧に分けることができます。
(近代の牧畜や産業は、生産するものは異なりますが、定住性や資産の性格から農耕に近いものだと考えています)
農耕と遊牧に関しては、「定住生活 対 移住生活」・「土地資産 対 家畜資産」・「専制支配 対 個人(家族)主義」といった特性の違いがあります。
農耕は、多大な人力を使った組織的な土地や水利の開発で生産性を向上させていきました。これが、家族や共同体を超えた支配−被支配構造が強化された過程でもあります。
かつての日本の生存維持基盤であった水田稲作は、膨大な組織的活動力で造られ維持されるものです。このような生活条件であれば、それをなんとか守ろうという“防衛”的価値観が大きくなります。
日本のように、ほぼ全域が多大な活動力を注ぎ込んだ農耕で生活を営んでいた国連合体であれば、争いごとはできるだけ避けようという価値観をお互いが持つようになります。
せっかく築いた生活基盤をめちゃくちゃになるまで破壊するような戦争は、お互いが無益だと考えます。生活基盤の維持に人手も多く必要ですから、軍事行動に人を割くことも好ましいものとは考えられません。(「天下分け目の関ヶ原」も、たった1日の戦闘で決しました)
日本の従来的価値観は、このような農耕共同体価値観をほぼ全域が持っていたことが色濃く反映されたものだと思っています。
すぐ近くの朝鮮半島や中国も、農耕を基盤とした地域でした。というより、弥生以降の農耕スタイルは朝鮮半島経由でもたらされたと考えています。
その一方で、日本と大陸農耕国家には大きな条件の違いがあります。
日本は全域が農耕共同体で覆われていましたが、中国や朝鮮の場合、隣接するかたちで異なる生存維持スタイルを持つ共同体がいました。
ご存知のように、モンゴル平原及び満州は遊牧共同体の世界でした。
遊牧共同体は、家畜の飼料を求めて移動します。彼らの資産は家畜であり、土地も家屋も流動的なものです。(彼らが金・銀・宝石に執着するのも、身に付けて持ち運べるものだからです)
平原の草が順調に育ち、家畜に大きな被害をもたらす疫病もなければ、農耕共同体の共存関係は維持されます。
しかし、その条件が崩れると、彼らは、生活を維持するために、農耕共同体に対する略奪活動を行います。
(農耕共同体は、防御的攻撃を除けば、遊牧共同体に攻め入ってもほとんどメリットがありません)
遊牧共同体の統治ルールは、「民主主義の源流」とも言えるものです。
アフガニスタンでロヤジルガが開催されたので知られるようになりましたが、家族の長が集まって共同体に関る物事を決めるという合議制です。(その上に共同体間という多層的な合議制)
軍事行動も、参加したくない家族は参加しなくともいいのです。
(多くの場合は、参加させないことのほうが問題でした。参加することでのみ略奪品の分け前に与ることができるからです)
動物を飼い慣らし、馬を乗りこなし、守るべき固定的資産がないという共同体ですから、血の気も多いし、軍事戦術にも長けています。
中国全土が、元や清といった遊牧共同体の長に支配される時代もあったくらいの強さです。漢人王朝は、うっとうしい侵攻を未然に防ぐために、強力な遊牧共同体には“貢ぎ物”をしていました。
(元も清も、漢民族領域については漢人王朝以上の儒教的支配を追求しました。“中華”に対するコンプレックスの現われかもしれません。その一つが、元が鎌倉幕府に求めた朝貢です)
商人(遠隔地商人)は、遊牧共同体が起源です。
そして、ユダヤ教とイスラムは、商人的性格を色濃くした遊牧共同体で生まれた宗教です。(キリスト教は、ユダヤ教に非民族性のオブラートを被せたものに過ぎません)
遠隔地交易は、強盗団から商品や貨幣を守る必要がありますから、商人団(隊商)も武装集団です。(あるときは商人団が強盗団になるという世界でもあります)
しかし、遊牧や商業活動が生存基盤であれば、“移動の自由”が何よりも重要ですし、貨幣の通用性が広いほうが便利です。(戦争や争いごとはないに越したことはありません)
つまらない盗賊合戦や閉鎖的な世界であるより、広大な地域でルールに則った商業競争を安心して営めるほうがいいという商人の価値観が、イスラムを生み出したと考えています。
ユダヤ教はユダヤ民族の選民性を主張していますが、それを乗り越えて、普遍的な価値観に基づく世界帝国の確立を可能にしたのがイスラムです。
イスラムは、その生存基盤スタイルから争いが起きやすい遊牧・商人共同体間をイスラムという価値観と統治ルールでまとめることで、地域や共同体間で発生する戦争(争いごと)を抑制したと考えています。