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(回答先: 「甘言で誘われてノコノコついていったというのは」…… 投稿者 ト系 日時 2002 年 9 月 29 日 19:52:23)
サンデー毎日2002/10/6
拉致問題を対日交渉の切り札として温存していた
吉田康彦・大阪経済法科大教授(国際関係論)
今回の日朝首脳会談で拉致問題について、北朝鮮は8人の死亡と5人の生存を日本側に伝えた。被害者の家族の気持ちを思えば本当に胸が痛い。
会談前の報道などでは、被害者2〜3人の安否確認が行われるというのが、もっぱらの見方だったことからショッキングに受け止められた。しかし、私は当初からこのような結果になると推測していた。というのは、今年5月に北朝鮮でマスゲーム「アリラン」が行われた際、私は北朝鮮を訪問した。そして、旧知の北朝鮮政府中堅幹部と話をしたとき、予言めいた言葉を聞いたからだ。私が「日朝関係を正常化するには、北朝鮮が『拉致問題は知らない』では済まされない」と言うと、彼は「日本が拉致問題にこだわっているのはよく分かる。こちらがそれを認めるにはこの方式以外にない」と答え、ある事例を挙げた。それは、1972年5月に韓国と北朝鮮の南北共同声明」起草のため、朴正煕大統領(当時=故人)の密使として平壌を訪れた李厚洛KCIA部長に対する金日成主席(故人)の対応だった。
金主席は当時、両国の懸案になっていた、68年にソウルで起きた北朝鮮武装ゲリラによる大統領官邸襲撃未遂事件(銃撃戦の末、韓国護衛隊に殺害)について「大変申し訳なかった。左翼妄動分子が行ったことであり、私の意思、(労働)党の意思ではない」と謝罪したという。襲撃を認め謝罪もする、しかし自分の指示ではないというわけだ。この方式を日本に対しても使う、と中堅幹部は私に説明した。
果たして、結果はその通りになった。金正日総書記は、拉致を認め、謝罪をした。その一方、「(拉致は)特殊機関の一部が妄動主義、英雄主義に走った」と述べた。まさに、中堅幹部が私に例示したケースと同じだ。このケースは非公式の交渉であったのに対し、今回は公式の場で最高指導者が拉致を認め、謝罪したのは特筆すべきことである。
だが、責任転嫁の論理は同じで、決して看過すべき問題ではない。今後の国交正常化交渉の場で厳しく真相究明を要求するべきだ。
北朝鮮は、これまで拉致問題を対日交渉の切り札として温存してきた。そのカードをこうした形で切ったのは、米朝対話の行き詰まりに加え、北朝鮮経済の悪化と内外で厳しい情勢に立たされているからだ。「拉致を認めて謝罪すれば正常化交渉にこぎつけられて補償金(あるいは経済協力資金)を獲得できる」と、金総書記はギリギリの決断を迫られ踏み切ったと思う。
こうした判断に、軍や朝鮮労働党の工作機関が反発し、北朝鮮の体制が揺らぐのでは、との観測もあるが、事前に党や軍の幹部とは十分に協議しているはずだ。今回の謝罪は市民には知らされていないが、もし市民が知るところとなったとしても、「人民のために偉大な将軍様が代わって頭を下げてくれた」と受け止めるだろう。そうした体制を彼は作ってきた。また、北朝鮮には国際感覚を持ったテクノクラートが育っており、彼らが柔軟な外交、市場経済を目指す経済改革を進めている。
そうしたことを考えると、北朝鮮は今回、生き残りのきっかけをつかんだといえる。
日朝会談で、日本の関心は拉致問題に集中したが、国際社会の関心は大量破壊兵器拡散阻止、地域の緊張緩和などだ。共同宣言にはその部分が盛り込まれ、小泉訪朝は一定成果を上げたし、交渉再開の決定も妥当な判断だった。
拉致問題の真相解明の努力は、今後の交渉で続けるべきだが、同時に日本側は「過去の清算」にも誠意を持って取り組み、日朝国交正常化の早期実現、南北分断の解消など北東アジアの平和と安全の確立に寄与すべきだ。一部の国会議員らは北朝鮮に対する制裁、在日朝鮮人の出国・送金の停止などを主張しているが、これは逆効果である。一時的な感情的反発で関係悪化をさせてはならない。(談)