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星川淳の「屋久島インナーネット・ワーク」
第19回 帝国の暗い影
●われわれは半世紀を越えてなんとか“非戦”を貫き通した・・
戦後日本国憲法に込めたアメリカの戦略は、(1)天皇制を温存して昭和天皇の戦争責任を問わないかわりに
(2)軍備と戦争を放棄させ(3)本格的な軍事基地機能は沖縄にまとめる、という3点セットだった。もちろ
ん、GHQの隠れ左翼ニューディーラーたちが本気かつ善意で書き込んだ民主原則や人権条項も少なくないけれ
ど、日本列島周辺地域におけるアメリカの国益を支える上記の三脚はなおも健在だ。
しかし逆にいえば、1950年代の冷戦と日米安保体制以降(2)が米軍支援可能な軍備の許容から促進へと傾
くにつれ、(1)と(3)の相対的バランスが崩れてもおかしくなかった。そして、ついに有事法案国会上程と
いう実質改憲の戸口に立った現在、(2)の支柱をほとんど抜き取られそうな三脚は、いまにも倒れかねない。
だからこそ、(1)を固守するために国旗・国歌法制定や教育基本法改定による人工的な愛国心発揚を、(3)
の必然性消失を防ぎつつ対中国シフトの南方展開に備え、辺野古海上ヘリポート建設などによる沖縄県内の米軍
基地維持をめざす。だれが?――今回はこの主語を探そう。
近著『「平和国家」日本の再検討』(岩波書店)で冒頭の3点セットを紹介する憲法学者・古関彰一は、吉野
作造賞受賞の前著『新憲法の誕生』(中公文庫)で意外な事実を掘り起こしている。連合国側の極東委員会(F
EC)とマッカーサー司令部が、新憲法施行(1947年5月3日)後2年以内に必要なら改正を検討するよう勧
めたにもかかわらず、のちに「押しつけ憲法」を糾弾する保守派を含め、自主改憲の動きはほとんど見られなか
った。一部に、間近と目された天皇退位をスムーズにする手続きや、民主化を徹底する内容への改定案は出た
が、その後の改憲論議の的になる第九条を問題視する声など皆無だったのだ。
この背景には、早くも冷戦シフトに足を踏み出して日本の過剰な民主化=共産化への警戒モードに入ったアメ
リカ政府の心変わりと、吉田茂をはじめ日本政府上層部の「不本意な新憲法には目をつぶって、さっさと占領を
終わらせたい」という打算があった。時代は1950年のマッカーサー日本再軍備容認声明に向け、三脚そのもの
を問うより、すでにセットされた三脚の微調整作業へと移っていたのである。結局、日米ともに政府中枢が平和
憲法を真に受けていたのはせいぜい数年。なんと短命な初志であったことか。
ただし、晴れて主権者になったはずの日本国民にとっては話が違う。瓢箪から駒。歴史はつねに為政者の思惑
どおり進むとはかぎらない。占領終了後、日本はたちまち軍国主義に逆もどりするというオーストラリアなどの
予想は外れ、われわれは半世紀を越えてなんとか“非戦”を貫き通した。ここまできたら馬鹿正直に徹したほう
がいい。戦乱激動の中米でコスタリカにできたことが、東アジアの経済大国にできないと諦めるのは早すぎる。
問題は、露骨に国益を最優先して動くアメリカと、この先いかにつきあうかだ。九条改憲・本格軍備への道
は、ナショナリストたちの宿願のように見えて、じつは「グローバリズム」という名の21世紀アメリカ帝国主
義に組み込まれる袋小路。一極支配の新しい華夷(かい)秩序において、属国が生きのびるには忠誠なる朝貢あ
るのみ――この国の新保守派政治家とエリート官僚は、そう観念しているらしい。子ブッシュからスタッフジャ
ケットを賜(たまわ)って喜ぶコイズミくんを見よ! アメリカがしかける戦争に馳せ参ずるためなら支持率低
下なにするものぞ、と顔に書いてある。あいにく、諜報能力ニアゼロの日本国首相に有事認定権も軍事指揮権も
握れる見込みはない。
http://www.hotwired.co.jp/ecowire/hoshikawa/020521/