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(回答先: 第十章 不思議のメダイ 投稿者 死蔵資料 日時 2002 年 4 月 29 日 14:41:32)
第十一章
マリア信仰破壊計画
その頃、私は、マリア信仰の破壊に全力を注いでいた。カトリックとギリシャ正教が各種のマリア信仰を保持しているのだが、これがプロテスタントとの間に問題を生じているのだ、と強く訴えた。
分離した愛すべき兄弟たちの方が、より論理的で賢明である。正体も分からぬただの被造物が、われわれの教会で神よりも強力な(あるいは少なくとも優しい)存在になっていると訴えた。私は、この点において神の権利を擁護して楽しんだ。
また、多くのプロテスタントが、マリアがイエズスのあとで何人も子供を持ったと考えていることを力説した。プロテスタントは、長男の出生のときだけマリアの処女性が守られた、と信じているのだろうか。それを語るのは難しい。
だが、それでなくとも、これら自称キリスト教諸派の正確な信仰を決定するのは困難なのだ。事実、どの教派も自分の信じたいことを信じている。
とはいえ、彼らが嫌っているものを知ることは比較的容易だ。そこで、私はロザリオと、マリアに捧げられている幾つもの祝日を除くことを提起した。私の典礼書には、祝日が二五もある。地域的な祝日もこれに加えられる。
次に、メダイと御像、御絵の徹底的な破壊が、私の計画の中にあった。多くの仕事が控えているが、やるだけの価値がある。
だが、ルルドとファティマ、やや重要度の劣るそれ以外の巡礼地を、どうしたら除くことができるだろう。ルルドについて言えば、これほど煩わしい場所はない。それは、プロテスタントの心には、腫れ物のような存在なのだ。
この場所に毎年数百万人の巡礼者が集まっているうちは、普遍教会は足がかりをつかむことはできない。
私は、ルルドで起きた現象について集中的に調査をしたが、大した発見をすることができなかった。初期の証言の間にかなり食い違いがあることが分かったぐらいだ。
ある者は、ベルナデッタの気絶と、彼女が住まいにまで(自分の記憶が正しければ水車小屋)幻によって導かれたと証言していた。これを否定する者もいた。ベルナデッタ自身はそれを認めてはいない。彼女は忘れててしまったのだろうと言う者もいたが、大して重要なことには思えなかった。
私は虚偽に基づく宣伝が大嫌いだ。党は、より優れた福祉が危機にさらされるときには、嘘も使いようだとの考えだが、私自身は品位を重んじる。人はそれによっていっそう強くなれるのだ。
私はまた、党の嘘吐きどもよりも、ずっと自分のほうが上だとさえ感じている。事実だけを相手にするときだけ、人間は成功できるとの考えだ。事実の役立つ部分をどう解釈するかが分かれば十分なのだ。
もう一つの問題がある。マリアをその座から引き降ろすためには、クリスマスの意味を失わせなければならない。だが、クリスマスは、未信者にとってさえ祝日になっている。後者は、その理由さえ知らずにいる。
平和と喜びは非常に望ましく、良い事柄であることに注意しなければならない。他方、ナザレのイエスが神の子でないとすれば、彼の母も重要ではなくなることに安心した。彼女の名前を知る必要さえない。
また、理性によって、イエスの倫理的教えの大部分を敬い続けたいと考えている者にとっては、イエスの幼年時代を敬うことは滑稽なことだ。馬小屋に生まれた子供が何だというのか。どこが特別だというのか。
ところで、プロテスタントは預言者イエスの処女降誕をそれほど信じてはいないが、七億人のイスラム教徒は、コーランによってこの教義を信じていることは、注目に値する。
そこで、人類の半分近くがこの娘を崇拝していると考えざるを得なくなるわけだ。
不可解この上ないことだ。
輪をかけて不可解なのは、イスラム教徒が、イエスをただの預言者としてしか見ず、自然に誕生したといわれている、開祖ムハマッドにも劣る小預言者にしていることだろう。
人間の不可解さには際限がない。
すべてを考慮して、私は、マリアの処女性を否定することが、すべてのクリスチャンを、けっして神ではない男の弟子に変えるための、一番安全な方法だと確信するに至った。
神を殺す以前にナザレのイエスをなきものにすることのほうが、どれほど有効だろう。
福音書も使徒書簡も、実際、新約聖書のすべてが、人間の創り出した言語に過ぎず、誰もが自分の好む言葉を選び、気に入らない言葉を批判し、誇張されているものは否定させる。われわれの目標はまさにここにあるのだ。
東洋では、イコンがマリア信心の中心になっているが、今では、ロシア全域でそれは鎮圧されるに至った。
だが、西洋ではロザリオの人気が高い。十五の奥義を黙想するというこの信心を、何としても滅ぼさねばならない。
それは、三位一体の神に対する信仰を推進させることで、自ずと可能になるだろう。
とりわけ、ロザリオを唱える者たち全員に、罪の意識を持たせることが、どうしても必要になる。
私が全世界に送った指令は、このような内容だった。誰とも結婚せず、「不思議」と呼ばれるその人のメダイを、神学校の自室にぶら下げたときに考え出したものだ。
みなは、メダイの前で、私が奇跡を求めて祈っていたと思っていたのだろうが、私自身は、彼女への憎悪の中で自分を守ろうとしていただけだ。
翌土曜日には、私は「黒髪」と合うことはできなかった。彼女は、伯父夫婦と連れ立って、マリア巡礼に行ってしまったのだ。
私は、怒りを紛らわすしかなかった。彼女が、この問題すべてに別れを告げてしまったように思えた。
そこで、ここしばらく御無沙汰していた聖歌の練習に行くことにした。
アキレスは大喜びだった。私はメダイの一件を彼に告げずにはいられなかった。だが、彼の答えを聞いて驚いた。
彼はこう言ったのだ。
「気をつけろ。メダイについてのその話は、すべて本当のことだ。部屋に置くな。危険を呼ぶぞ」
「具合でも悪いのか」と私は彼に聞いた。
彼は聞こえないふりをした。だが、メダイを見ただけで気分が悪くなり、その存在に苛立ちを抑えられなかったのだ。
人間の心には理解できない溝がある。わが老教授―彼は熱心な共産主義者なのだ―がこうした言動をしたことで、私は大きな不安に陥った。人生で初めて、任務の成功に疑いを抱いた。
私は、メダイについてもっと彼と話をしたかったが、できなかった。
アキレスはこう言った。
「私は何も信じてはいない。神も、悪魔も、聖母マリアもだ。だが、あのメダイだけは心配だ。それだけだ」
「あなたは、こんなもので回心させられるとでも、考えているのですか!」
私は、掴んだ両肩を揺さぶりながら、声を張り上げた。
彼は言った。
「違う!ただ、怖いだけなんだ。それだけだ」
「そんな恐怖心が、どんなに馬鹿げているか、あなたには分からないのですか! このメダイをあなたの家の中に堂々と掛けて、そんな子供っぽい恐怖心を克服してみてはどうです。その方がどんなに名誉なことか」
彼は何も答えなかった。それで、私はしつこく迫った。彼は疲れ果てたように言った。
「他のことを話そう」
「いや、僕はこの問題をとことん追及するつもりだ。これには世界の未来がかかっているのですよ。みなが、あんたみたいに、イコンやメダイにびくついたとしたら、共産主義は一体どうなると思います。考えて見ても分かることでしょう!」
彼は考えようとはしなかった。それで、彼の代わりに私が行動を起こすことにした。
私は、敗者の側に留まっているのに我慢がならない性分だ。私にとっては、困難が興奮剤だ。それが何よりの刺激なのだ。
私は大きな音を立ててドアを閉め、彼の部屋を出た。自分が何をやろうとしているかは、よく分かっていた。
翌土曜日、「黒髪」を訪問する前に、私は、金槌と釘とメダイ、それにチェーンを手に持って、アキレスの家に立ち寄った。そして、彼の寝室に直行すると、金槌でベッドの上の方に釘を打ち、「不思議のメダイ」を掛けてやったのだ。
次の土曜日、アキレスはいなくなっていた。彼に何が起こったのかは分からない。
彼の失踪は、少なくとも、代役が見つかるまで、私の活動に大きな支障をきたした。失踪する前に、彼はメダイと、私書箱の鍵を私に戻していた。