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※2020年8月5日 日刊ゲンダイ1面 紙面クリック拡大
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※一部、文字起こし
「国の使命は、国民の命と平和な暮らしを守り抜いていくことだ」
安倍首相は4日、自民党のミサイル防衛検討チームから「敵基地攻撃能力の保有」についての提言を受け取った際、こう発言した。軍事や防衛の専門家すら非現実的だと冷ややかな視線を向ける「敵基地攻撃能力」よりも、まずは新型コロナウイルスから、国民の命と平和な暮らしを守り抜いてもらえないものか。
政府のコロナ対策は迷走と後手の度合いを深めるばかりでシッチャカメッチャカだ。
結局、お盆に帰省していいのか、いけないのか。西村コロナ担当相が慎重姿勢を見せれば、菅官房長官は「一律に控えてではない」とそれを否定。だが自治体首長の多くは自粛を求めている。政府は7日にも開かれる分科会で専門家の意見を聞いて“統一方針”を出すらしいが、翌8日からの3連休でお盆休みに入る人だっているのに遅すぎるだろう。
安倍は4日もコロナ対策について、「政府の取り組みを分かりやすく発信し、社会経済活動との両立をしっかり進めていく」とかほざいていた。しかし、分かりにくいし、両立なんてできていないのは誰の目にも明らかだ。4日も全国で新規感染者は1240人と高止まり。一体、どうやって抑え込むつもりなのか。何か打つ手はあるのか。
アクセルとブレーキを同時に踏む政策は、やはり無理があるのだ。それは世界を見ても歴然で、前のめりで経済を再開した米国、ブラジル、インドは新規感染者が高水準で推移している。欧州でも、フランスやスペインでここへきて感染者が急増。夏休みシーズンでバーやナイトクラブが感染源になっているとみられる。
中でも米国が失敗例の筆頭だ。5月には多くの州が都市封鎖を緩和し、経済活動を再開。その結果、6月下旬にはテキサス州やフロリダ州など南部で感染者が増加の一途となり、マスク嫌いだったトランプ大統領が「マスク着用」を呼び掛ける事態にまで発展した。一方で、当初は感染の震源地とされたニューヨーク市は、いまもレストランの店内飲食を制限するなど経済再開は段階を踏んで慎重に行われている。南部の感染爆発と対照的に、感染者数を低めに抑え込めているのだから、“正解”は明らかだ。
日本モデルは「3ないモデル」
ところが、である。なぜかこの国には「日本だけは違う」という歪な妄信がはびこっている。
5月末に緊急事態宣言を全面解除した際の安倍のあの演説。「まさに日本モデルの力を示した」という自画自賛だった。麻生財務相に至っては、欧米と比べ日本のコロナ感染による死者数が少ないのはなぜかと海外から問われた際のことを、「『おたくとうちの国は国民の民度のレベルが違うんだ』と言うと、みんな絶句して黙る」と国会で披露して鼻高々だった。
しかし、人口10万人あたりの死者数をアジア圏で比較すれば、日本はフィリピンに次ぐワースト2位。だから、麻生の発言は語るに落ちるなのだが、科学的な根拠のないまま「日本モデルでコロナを克服」などという戦前の発想が、今なお、強引な経済再開のベースにあるのではないのか。
シグマ・キャピタルのチーフエコノミスト、田代秀敏氏が言う。
「コロナ対策で日本は地政学的に格好の位置にある。封じ込めに成功した中国、韓国、台湾のどれにも近く、本来なら3カ国のいいとこ取りができたはずでした。しかし日本は、それらの国をバカにした。中国が10日間の突貫工事でコロナ専門病院を2棟造ると明らかにした時は失笑し、韓国がいち早くドライブスルーのPCR検査を導入すると、『医者が感染してしまう』などと相手にしなかった。しかし、その結果はどうですか。政府は『日本モデルがある』と胸を張りますが、その実態は『カネを使いたくない』『人を動かしたくない』『外国に頭を下げたくない』の『3ないモデル』。PCR検査数も増やさず、十分な休業補償も手当てしない。いまだに『神国日本』『無敵皇軍』の発想なのでしょう。無敵なのになぜ次々玉砕したのか。そこをよく考えないと、日本は同じ失敗を繰り返すことになりますよ」
感染拡大を軽視すれば人命も経済も両方失う |
コロナ禍がなければ今ごろ行われていたはずの東京五輪についてもそうだった。安倍は「(1964年五輪の)夢をもう一度」「半世紀ぶりにあの感動を再び」と繰り返し、五輪で高度成長を再現すれば、華々しい経済発展をもう一度得られるんだとばかりに「ニッポン、ニッポン」とうたい上げた。
そうやって国中に一体感を醸成し、「日本は他とは違う」という変な過信と危険な妄想で国を誤った方向に導いているのが安倍政権なのである。
前出の田代氏は「戦争は無条件降伏すれば爆弾は落ちてこない。しかしコロナに無条件降伏しても感染は止まらない」と言った。感染者の再拡大を軽視して、経済優先に突き進んだら、結局、人命も経済も両方を失うことになりかねない。
愚策の最たるものが感染爆発前夜のいま行われている「Go To トラベル」なのだが、経済の専門家の目は厳しい。ロイター通信が3日に報じたインタビューで、前の日銀審議委員の原田泰氏(名古屋商科大ビジネススクール教授)は、<感染収束に至らない局面での「Go To キャンペーン」は感染自体の急増を招くだけで歳出の無駄。他の使途のために財源を取っておくべきだった>と指摘したという。
経済評論家の斎藤満氏もこう言う。
「中途半端に経済を再開したことで、予想以上に感染者が増えてしまい、一般の人はみな不安でいっぱい。怖くて外に出られず、経済活動に制約が出てしまっています。『この夏は帰省しない』という人が66%に上ったというアンケート結果も出ています。世界的に見ても経済を優先し、コロナを『たいしたことない』と甘く見ていた国ほど、経済が回らなくなっている。それなのに、『日本は違う』なんて、麻生大臣の『民度』発言が典型的ですが、傲慢極まりない。国民が我慢して自粛したから感染者が減っただけで、『日本モデル』なんてなかったのです。勝手な思い込みだったのです。むしろ、ニュージーランドやデンマーク、台湾などは短期間の自粛で徹底的な対策を取って蔓延を抑えた。政治のトップの違いが明確に出ました」
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