2023年著名投資家の相場予想まとめ: 株式、ドル、金利、インフレ率 2022年12月28日 GLOBALMACRORESEARCH https://www.globalmacroresearch.org/jp/archives/3228412月21日に亡くなったスコット・マイナード氏の最後のインタビューを訳し終わってしまったので、2023年の著名投資家や専門家の金融市場予想について纏めておこうと思う。2022年は物価高騰やウクライナ情勢など激動の年だったが、2023年はどうなるだろうか。 2023年の金融政策 2022年の金融市場を一言で言い表わせば、インフレと金融引き締めの年ということになるだろうか。物価高騰を抑えるための利上げと量的引き締めで株式市場は下落した。 だがその効果が2022年の秋には実体経済に出始め、アメリカのインフレ率は急減速を開始している。 11月アメリカのインフレ率は急減速継続で7.1%、ドル安加速へ まずはこのインフレ急減速を的中させた2人の2023年の相場観から紹介しよう。
2023年のインフレ率の推移予想 インフレ率の動向については専門家の予想が分かれていたが、急減速を予想し的中させたのは債券投資家の2人だった。 Guggenheim Partnersのスコット・マイナード氏とDoubleLine Capitalのジェフリー・ガンドラック氏は、債券市場が長期金利の低下などのデフレシグナルを発していたことなどを理由にインフレ減速を予想していた。 ガンドラック氏の2022年9月のコメントを掲載しよう。 ガンドラック氏: 米国経済は風前の灯、金融引き締めをスローダウンすべき (2021/9/9) 債券市場と経済学者のコンセンサスとが意見を違えるとき、債券市場の方が正しい。そして債券市場は金利は上限に達したと言っている。
そして実際にインフレ率は減速を始め、投資家は利上げの上限について議論を始めている。 インフレ率は今後どうなるのか。インフレ率の推移を予想的中させた2人の予想はこうである。ガンドラック氏はインフレ率は現状の7%(2022年のピーク時は9%)から2023年の半ばまでに4.1%まで下落すると予想し、マイナード氏は3.1%というFedの2023年末のインフレ率予想を高いと言っている。 ガンドラック氏: インフレ率は4.1%まで下がりアメリカは利上げ出来なくなる マイナード氏: アメリカはあと半年で利下げを余儀なくされる 2人のインフレ率予想によれば、インフレ率は現在の状況から2023年末には目標値である2%付近まで急降下するということになる。 インフレは根強く利上げが必要と主張していた経済学者のラリー・サマーズ氏も、最近のインフレ率急落を受けてインフレ率下落シナリオを支持しているから、2023年のインフレ率下落は専門家のコンセンサスと言って良いだろう。 サマーズ氏: インフレ率は下落する インフレ率が下がること自体は良いことだが、ガンドラック氏などはFedが利下げをしない限りインフレ率の急落は2%では止まらないと言っている。彼は都合よく丁度2%で止まると予想している中央銀行家などに対してこう言っていた。 ガンドラック氏: 中央銀行のインフレ率予想は人間が想像可能な中で一番馬鹿げた経済予想 インフレ率が9%が2%まで極めて急速に下落するならば、下方向に行き過ぎると考えない理由が何かあるだろうか? 何故2%で止まるのか? そこに何か魔法でもあるのか? インフレ率がピークから7%以上急落すれば、経済成長率も少なくとも同じくらい下落するだろうから、ガンドラック氏とマイナード氏のシナリオはインフレと景気後退が同時に起きるスタグフレーションというよりは、純粋なデフレ不況ということになるだろう。 アメリカは2023年に利下げへ インフレ率の急落を予想した後に考えるべきなのは、政策金利がどうなるのかということである。 Fedは現在、5%以上への利上げ継続を表明している。だがインフレ率が急落していることを踏まえ、ガンドラック氏はこう言う。 ガンドラック氏: インフレ率は4.1%まで下がりアメリカは利上げ出来なくなる 政策金利が5%以上に上がるとは思えない。 記事では引用しなかったがマイナード氏は次のように言っていた。 政策金利は5%以上になるかもしれないが、そこに長く留まるとは思えない。 そしてどちらにしてもマイナード氏はその後の利下げを予想している。彼は以下のように言っている。 マイナード氏: アメリカはあと半年で利下げを余儀なくされる 2023年後半にかけての何処かのタイミングで、Fedはインフレが自分の予想よりも早く減速していることに気付くことになる。そして利下げに傾いてゆく。 2023年のドル相場予想 利下げになれば真っ先に頭に浮かぶのは、2022年に話題になったドル高がどうなるかということである。 2022年、アメリカの利上げを受けてドルは全面高の状況となっていた。高金利に惹かれてドルを買いたがる投資家がドル相場に集まっていたからである。 だがドルの金利が下がるということであれば、話は変わる。 ドルについて思い出すべきは、2022年6月のスタンレー・ドラッケンミラー氏のコメントである。 ドラッケンミラー氏: 今後6ヶ月でドル空売りへ (2022/6/20) 為替市場は非常に興味深いと思う。為替相場ではまだ大したことはやっていないが、今後6ヶ月のいつかのタイミングで自分がドルを空売りしていなければ驚くだろう。 ここでは言うまでもないことだが、ドラッケンミラー氏はクォンタム・ファンド在籍時にポンド危機においてポンド空売りを成功させたことで有名である。為替取引は彼の十八番だろう。 そしてその後、ドル円は実際に6ヶ月以内にピークに達した。ドル円のチャートは次のようになっている。 アメリカで金利低下が継続するならば、ドル安トレンドも継続するということになるだろう。
そもそもインフレはアメリカで現金給付が原因で始まったことであり、インフレとはドル紙幣の価値下落のことなのだから、本来はドル安で作用すべき要因だった。何故それが2022年後半まで遅れたのかということについては、以下のサマーズ氏とレイ・ダリオ氏の論争が参考になるだろう。 ダリオ氏とサマーズ氏のドル下落に関する論争 2023年はインフレでドル紙幣が減価した分のドル安が一気に来る年になると筆者は予想している。 日銀の長期金利の実質利上げを受けてドル円の空売りを開始 2023年株式市場の推移予想 さて、利下げとドル安予想まで議論したので、次は株式市場の番だろうか。2022年の米国株は結局下落のまま終わった。 株安は継続するだろうか。マイナード氏は1株当たり利益と株価収益率の低下というシンプルな根拠で2023年の株価下落を予想していた。
マイナード氏の米国株の推移予想: 利益と株価収益率の下落で2023年は暴落へ マイナード氏はこの予想で企業利益を10%の下落と見積もっており、その上で株価は10%から20%の下落になると言っている。だが実際には企業利益はもっと下がるのではないか。 マイナード氏は年末に株価が多少上がったことについて次のように述べていた。 現在の季節的な上げ相場と、6週間前のFOMC会合から続いている安心感による上昇相場が終われば、株式市場はダウントレンドに戻るだろう。株価はまだ底値に達していない。 また、長期の視点で言えば、ドラッケンミラー氏が次のことを根拠に米国株の40年間の長期上げ相場の終了を予想している。 ドラッケンミラー氏: 株式市場は40年前の物価高騰時代より酷い惨状に 1982年から始まった金融市場の上げ相場は、特に直近の10年においてブーストされたが、それを生み出したすべての要因は、無くなっただけではなく、逆流している。 米国株は40年間上げ続けてきた。この事実に注目する人は多いが、にもかかわらず米国株が40年上がってきた原因について考える人はほとんどいない。 それは1982年から始まった低金利政策による長期株価上昇トレンドだったのである。 そしてそれはインフレの発生によって終焉を迎えた。短期的な利下げはあるだろうが、もはや長期的な金融緩和はできない。やってしまうとインフレが再発生し、その度に金融引き締めを行わなければならなくなる。その度に株価は下がるだろう。 「株式投資は長期的にはほぼ儲かる」という主張が完全に間違っている理由 この事実は特に長期の株式投資家にとって重要である。また、米国株に投資する日本の投資家にとっては更に悪いことに、これからドルは下がる。 相場について何も知らない金融庁(彼らが何も知らないということさえ一般の投資家は理解していない)の言うことを聞くのか、ドラッケンミラー氏のような本当の専門家の言葉に耳を傾けるのか、2023年、投資家はもう一度考えてみるべきだろう。 「株式の長期投資はほぼ儲かる」という幻想は金融庁の「基礎から学べる金融ガイド」から来た 2023年、アメリカは緩和転換するのか? さて、最後に議論するのは2023年に実体経済が大惨事になってからの話である。 残念ながら、インフレが減速した後に実体経済が大惨事になるということはマクロ経済学的に不可避である。20世紀最大のマクロ経済学フリードリヒ・フォン・ハイエク氏はこう言っていた。 ハイエク: インフレ減速後の失業増加は避けられない 失業はインフレが加速をやめたときに、過去の誤った政策の帰結として、非常に残念だが不可避の結果として出現せざるをえない。 コロナで沈んだ経済を現金給付で無理矢理浮揚させようとしたツケがこれから一気にやってくる。 ガンドラック氏の景気後退予想: 現金給付のツケを払うことになる だから2023年はインフレ減速とともに大量失業と大不況の年になる。 問題は、実体経済がそこまで悪化した時に中央銀行がどうするかである。 ここで紹介している専門家たちの意見では、パウエル議長が金融引き締めをやり遂げるということに懐疑的な意見が多いようだ。ドラッケンミラー氏は次のように述べている。 ドラッケンミラー氏: 経済が強い時に引き締めを続けるのは簡単だが 労働市場が強い状態で中央銀行が正しい方向に行くことは簡単だ。ハードランディングになれば彼らはどうするか見てみよう。彼らが銃撃を止めなければ良いのだが。 サマーズ氏は、インフレ退治をやり切ると言いつつもハードランディングや失業率の大幅上昇などを予想しない(予想したくない)パウエル議長について次のような例えを使っていた。 サマーズ氏: パウエル議長のインフレ退治が本気かどうか疑う理由 例えばわたしがニューヨークでマンションを買うと言えばあなたは信じてくれるだろうが、50万ドルしか払う気がないと言えば、あなたはわたしが本気かどうか疑い始めるだろう。 インフレの本番はインフレ減速後に不況が起こってからである。それがインフレ政策の最大の弊害である。 ハイエク: 緩やかなインフレが有益であるという幻想 その時にFedが大規模な緩和に転換するならば、市場経済では何が起こるだろうか。 クォンタム・ファンドを創業したジム・ロジャーズ氏はFedがインフレ退治をやり切るということを信じておらず、インフレ第2波の発生をメインシナリオとしている。 ジム・ロジャーズ氏: 景気後退で紙幣印刷再開、インフレ第2波へ そしてそうなれば金価格は高騰するだろう。リーマンショックを予想し巨額の利益を上げたジョン・ポールソン氏などは金価格高騰を予想している。 ジョン・ポールソン氏、インフレ第2波で金価格高騰を予想 結論 ということで、2023年の著名投資家らによる相場予想を纏めてみた。読んでの通り、この中で一番重要なのはマイナード氏の利下げ予想である。 マイナード氏: アメリカはあと半年で利下げを余儀なくされる そのマイナード氏の声がもう聞けないというのはあまりに惜しい。
スコット・マイナード氏、心臓発作で死去 63歳 また、ここでは取り上げなかったが2023年はBridgewaterのレイ・ダリオ氏の復活を期待したいところである。
世界最大のヘッジファンド、インフレ減速を予想できず大損の模様 読者も自分のポートフォリオと彼らの意見を比較してみてほしい。 2023年が良い年になることを祈っている。
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