社員の肩書でじわりと盗む 組織に入り込んでいく、中国・経済スパイの実態 2020/07/30 今、米中関係が新たな次元に入っているようだ。
2019年のマイク・ペンス副大統領による中国を糾弾する厳しいスピーチに続いて、7月23日、マイク・ポンペオ国務長官もスピーチでさらに厳しい対中姿勢を見せた。カリフォルニア州でスピーチしたポンペオ長官は、中国共産党が自由世界への最大の脅威であり、法に基づく秩序を破壊していくと主張。さらに華為技術(ファーウェイ)などの企業を手先として使っており、ファーウェイは安全保障への脅威であるとも語った。 これを受け、中国共産党の機関紙の英語版では、直ちにいくつか反論記事を掲載。ポンペオ長官を激しく批判した。これらの動きから、まさに米中は冷戦の様相にあることが確認できる。 そして米中の緊張関係が高まる中、両国関係をさらに悪化させる事態が発生した。22日、米国務省のモーガン・オルタガス報道官は、米政府がヒューストンの中国総領事館に閉鎖を命じたことを明らかにした。その理由は、同領事館が米国に対するスパイ活動の拠点となっていたからだ。 実は米国内で中国政府が行っているスパイ活動は今に始まったことではない。以前から広範囲に行われており、米国は喰いものにされてきたと言っていい。企業の知的財産や、政府や軍の機密情報など、さまざまな情報を奪ってきた。しかもそうした活動は米国内にとどまらず、日本や欧州ももちろん例外ではないと言ってもいい。そこで、米国を中心に、中国のスパイ活動の実態に迫ってみたい。 ●研究者や学生、社員の“肩書”を使って情報を盗む 実は、今回のヒューストン総領事館の封鎖命令の翌日には、米国内で中国政府系のスパイが何人か逮捕されていたことが発表されている。 FBI(米連邦捜査局)は7月23日、最近4人の中国人留学生を逮捕していたと明らかにした。容疑は、人民解放軍との関係を隠してビザを獲得し、カリフォルニア州とインディアナ州の大学に入り込んでいたことだ。そのうちの1人は、6月20日にFBIから取り調べを受けた後に、サンフランシスコの中国総領事館に逃げ込んでいたが、結局逮捕された。 別のもう1人は人民解放軍の将校で、医学研究者になりすましてカリフォルニア州の大学に留学していたとしてロサンゼルスの空港で逮捕されている。 これは中国スパイの典型的な手口の一つで、研究員や学生といった肩書で米国の大学や研究機関に入り情報を盗む。これまでもいくつものケースが報告されている。 2018年にはイリノイ州で留学生を装って入国した中国人が、在米中国人の情報を集めたり、彼らを協力者にリクルートしたりするなどの諜報活動を行っていて逮捕された。この人物は、中国の諜報組織である国家安全部(MSS)のスパイで、米軍関連の情報なども盗もうとしていたことが判明した。 19年8月には、米カンザス大学で、中国系の教授が中国の大学との近い関係を隠し、情報を流していたとして起訴されている。19年12月には、ハーバード大学に留学していた中国人のがん研究者が、がん細胞の入った生物試料の瓶を21本も隠し持って中国に帰国しようとして逮捕されたケースもある。 民間でも、15年にはIBMの元社員だった中国系の人物がソフトウェアのソースコードを中国側に渡したとして逮捕されているし、16年には原子力関連の開発に技術を提供するなど関与したとして、帰化した中国系米国人が逮捕された。18年にも、潜水艦に関連する機器を中国に送ったとして中国人が逮捕されている。 また、こんなケースもある。18年10月にはMSSの中国人スパイが堂々と、米航空関連企業から情報を盗み出そうとしたとして、オハイオ州で逮捕されている。また、ダイアン・ファインスタイン上院議員の運転手が中国のスパイだったことが判明し騒動に。19年9月には、カリフォルニア在住の中国系米国人のツアーガイドが、ホテルの一室で政府の機密情報が入ったUSBデバイスを受け取り、飛行機でMSSの元に運ぼうとしたところを逮捕されている。 ●高い給料で中国人以外も“協力者”に こうした行為以外にも、実は中国は中国人以外の研究者らを取り込んで、堂々とスパイ活動を行っていると指摘されている。その活動の代表的なものは、「千人計画」と呼ばれるプログラムだ。 中国で08年に始まった「千人計画」では、中国が成長するために、国外にいる中国人科学者などを中心に人材や技術を確保することを目的としている。米当局は、特に生物科学や医学の分野で研究開発の情報や知的財産を盗もうとしていると警戒し、19年から180人以上に対する捜査を行っている。世界的にも知られるような主要な研究所などでも、共同研究などの名目で知的財産を盗まれ、中国で勝手に特許が取られている場合もあり、米当局は中国政府とつながりのある研究者や学生などが研究所などから情報を盗む「スパイ工作」に関与していると見ている。 米情報当局者がメディアに語ったところによると「すでに1万人以上が参加しており、参加者は本職でもらっている給料の3〜4倍の給料が提供される」という。 千人計画は米大学などに止まらない。民間には600人ほどが確認されており、政府系の機関にも300人ほどいるという。米司法省は18年11月から千人計画などで中国側と関与している人たちを摘発するといった「チャイナ・イニシアチブ」を立ち上げており、FBIは対象者を注意深くモニターしている。 これは中国のスパイ工作の特徴でもあるのだが、できる限り合法的に企業や大学に「浸透」していって、研究資金を出すなどしながら重要な情報をじっくり盗んでいく。もしかしたら協力者らはその自覚すらないケースもあるだろう。そして、そういうケースは米国にとどまらず、日本でも起きている可能性は高い。 とにかく、こうしたスパイのケースは枚挙にいとまがない。米国は世界で最も多く中国によるスパイ工作が行われている国だといわれている。その理由は、世界最大の経済大国であり、技術力があり、世界最強の軍を持っているからだ。中国は、民間からは知的財産を、政府や軍からは機密情報を盗みながら成長してきたと言っても過言ではない。FBIは「中国は私たちの作り上げた経済的なはしごを盗みながら登っている」と指摘しているくらいだ。 ●日本の大企業でも技術が盗まれていた 経済力と技術力という意味では、日本も世界有数の国である。そして、米国と同じように、中国によるスパイ工作のターゲットになっている。7月26日、米司法省が中国のスパイだったシンガポール人男性を、米軍関係者から機密情報などを盗んで中国に渡していたとして訴追した。日本が購入を決めている最新鋭ステルス戦闘機F35が日本や周辺地域の情勢にどんな影響を与えるかについて情報収集し、中国に報告していたことも判明している。中国のスパイ組織にとって、日本も当然視野に入っているのである。 現在では、こうした人的なスパイ工作に加えて、サイバー攻撃によって情報を盗むといったスパイ工作も強化している。世界中でハッキングなどによって知的財産を盗んでおり、日本も企業から知的財産だけでなく、人事情報などまで盗まれている。今年だけでも、三菱電機やNEC、NTTコミュニケーションズ、神戸製鋼所などが数年前にサイバー攻撃を受けていたことが判明しているが、それ以外の大企業から中小企業まで、大量の情報が盗まれていると考えていい。実際に、攻撃者側をモニターしている国外のサイバーセキュリティ関係者や情報関係者らの話では、さまざまな日本企業の技術が盗まれていると聞くことが多い。 このように中国のスパイ工作は徹底しており、サイバー攻撃も駆使して行われている。そして、ターゲットは米国や日本だけに限定されない。 例えば欧州では、中国人スパイが拠点にしている国がある。ベルギーの首都ブリュッセルだ。ブリュッセルには250人の中国人スパイがいるといわれており、この数はロシアよりも多いという。 なぜブリュッセルなのか。ブリュッセルは、欧州の首都と呼ばれ、EU(欧州連合)本部や関連機関が多数存在し、NATO(北大西洋条約機構)の本部もある、欧州の政治の中心都市だからだ。先に述べた、18年に米航空関連企業から情報を盗み出そうとしたとしてオハイオ州で逮捕された中国のスパイは、実はブリュッセルで情報収集をしていて逮捕され、米国に身柄を送致されている。 またこんな話もある。ブリュッセルにあるマルタ大使館は、EUなどの建物の近くに建っているが、そこが中国スパイ工作の拠点になっているとして、ベルギー当局が捜査を行っていたという。マルタは欧州の国の中でも中国と良好な関係を築いており、07年に在ベルギーのマルタ大使館がリノベーションを行った際にも中国が協力。中国が贈った家具などに工作がなされ、周辺の建物の情報を拾っていると指摘された。結果的にマルタ政府がその疑惑を全面的に否定したために、それ以上の捜査は行われなかった。ただ少なくとも、ベルギーでも中国のスパイ工作が警戒されていることは間違いない。 ●ゆっくりと社内情報を盗んでいった“優秀な社員” ここまでさまざまなケースを見てきたが、中国によるスパイ工作が広範囲に行われている事実は、もはや世界でも常識だと言っていい。驚きもない。 日本でも、今年判明した大手企業へのサイバー攻撃だけでなく、各方面でさまざまな工作が行われているはずだ。ある企業の幹部が少し前に筆者にこんなことを漏らしたことがある。「友人の企業で、新卒で入社してきた社員が数年後に退職した後、社内の情報を盗んでいたことがサーバの記録などから判明した。ゆっくりと情報をコピーしていた。日本の有名大学を卒業した優秀な中国系社員だったらしい」 もちろん全ての留学生や研究者、従業員がスパイというわけでは決してない。ただ何くわぬ顔をして協力者になっているケースは確かにある。日本企業で働くビジネスパーソンも、そういう実態が現実としてあることを肝に銘じておいた方がいいだろう。 https://www.msn.com/ja-jp/money/other/%e7%a4%be%e5%93%a1%e3%81%ae%e8%82%a9%e6%9b%b8%e3%81%a7%e3%81%98%e3%82%8f%e3%82%8a%e3%81%a8%e7%9b%97%e3%82%80-%e7%b5%84%e7%b9%94%e3%81%ab%e5%85%a5%e3%82%8a%e8%be%bc%e3%82%93%e3%81%a7%e3%81%84%e3%81%8f-%e4%b8%ad%e5%9b%bd-%e7%b5%8c%e6%b8%88%e3%82%b9%e3%83%91%e3%82%a4%e3%81%ae%e5%ae%9f%e6%85%8b/ar-BB17ll1y?ocid=ientp
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