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現代人および古代人のゲノムデータから推測される朝鮮人の起源
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投稿者 中川隆 日時 2020 年 6 月 15 日 06:20:07: 3bF/xW6Ehzs4I koaQ7Jey
 

(回答先: 朝鮮人は頭がおかしい 投稿者 中川隆 日時 2020 年 3 月 11 日 16:42:11)

2020年06月15日
現代人および古代人のゲノムデータから推測される朝鮮人の起源
https://sicambre.at.webry.info/202006/article_19.html


 現代人および古代人のゲノムデータから推測される朝鮮人の起源に関する研究(Kim et al., 2020)が公表されました。なお、以下では「朝鮮人」で統一しますが、おそらく本論文のデータの全ては、朝鮮民主主義人民共和国ではなく、大韓民国の人々からのものと思われます。その意味では「韓国人」で統一する方が妥当かもしれませんが、本論文は「民族」の起源と形成過程を主題としているので、区分するのではなく、「朝鮮人」で統一します。

 アジア東部現代人の祖先集団は、他の非アフリカ系現代人の祖先集団と共通のボトルネック(瓶首効果)を、最終氷期極大期(Last Glacial Maximum、略してLGM)の頃に経てきた、と推測されています。しかし、アジア東部の各現代人集団の遺伝的構造は、まだ詳細に解明されたとは言えないでしょう。朝鮮人はアルタイ語族に分類され、アジア北東部では日本人と同じです(と本論文は指摘しますが、この言語分類には異論が多いでしょう)。現在、合計で約8000万人以上の朝鮮民族が存在します(朝鮮半島南部の大韓民国に約5100万人、朝鮮半島北部の朝鮮民主主義人民共和国に約2500万人、朝鮮半島外に約700万人)。

 朝鮮人の起源については、いくつかの仮説が提示されています。朝鮮人で主流のY染色体ハプログループ(YHg)O1b2(SRY465)は、朝鮮人の祖先が新石器時代と青銅器時代(3450〜2350年前頃)の中国北部集団と関連していた、と示唆します。一方、ミトコンドリアDNA(mtDNA)ハプログループ(mtHg)は、朝鮮人がひじょうに典型的なアジア東部人型であることを示します。以前の研究では、朝鮮人は深刻なボトルネックを経ておらず、おもに2つの遺伝的構成を示す、と明らかになっています。一方は中国と強く関連していますが、もう一方はさほど明確ではありません。これまで、朝鮮人の正確な遺伝的構成は、現代と古代のゲノムデータを利用したゲノム規模では行なわれていませんでした。

 朝鮮半島の旧石器時代石器群は、全谷里遺跡を代表とする石英製の握斧(ハンドアックス)を含む大型石器を特徴とするアシューリアン(Acheulian)類似石器群、石刃素材の剥片尖頭器石器群、細石刃石器群に大きく3区分できます(関連記事)。朝鮮半島における人類の痕跡は60万〜40万年前頃までさかのぼります。しかし、酸性土壌の朝鮮半島では人類遺骸は乏しく、朝鮮人の起源と形成過程の解明に重要となる古代遺伝データを得るのは困難です。そのため、朝鮮半島に近い、ロシア極東沿岸地域の「悪魔の門(Devil’s Gate)」遺跡で発見された9400〜7200年前頃の人類遺骸(関連記事)や、北京の南西56kmにある 田园(田園)洞窟(Tianyuan Cave)で発見された4万年前頃の人類遺骸(関連記事)などの遺伝データが利用されます。本論文は、最近公表されたアジア南東部の新石器時代から鉄器時代にかけての古代ゲノムデータ(関連記事)を用いて、朝鮮人の遺伝的構成を解明します。

 現代人では、朝鮮人88人と、世界中の208人のゲノムデータが比較されました。内訳は、アフリカ13人、アメリカ大陸4人、ヨーロッパ26人、オセアニア7人、アジア中央部5人、アジア東部43人、アジア北部31人、アジア南東部36人、アジア西部22人、アジア南東部21人です。さらに、アジア東部6人とアジア南東部9人が追加されました。古代ゲノムは115人分が比較対象とされました。その内訳は、ヨーロッパとロシア全域では、更新世狩猟採集民4人、完新世狩猟採集民13人、前期新石器時代20人、中期新石器時代10人、後期銅器時代10人、後期新石器時代9人、前期青銅器時代20人、中期青銅器時代4人、後期青銅器時代2人、鉄器時代12人で、その他には、田园遺跡1人、悪魔の門遺跡2人、新石器時代から鉄器時代のアジア南東部8人です。


●朝鮮人の遺伝的構造

 本論文はまず、現代人を8ハプロタイプパターンに分類します。それは、アフリカ、アジア西部、ヨーロッパ、アジア南部、シベリア西部、シベリア東部、アジア東部aおよびbです。これはおおむね地理的関係を反映しています。アジア東部aには朝鮮人と中国人と日本人とアジア南東部のオーストロアジア語族が、アジア東部bにはアジア南東部のいくつかの少数民族が含まれます。朝鮮人はアジア東部bに表されるアジア東部集団のほとんど均一なクレード(単系統群)を形成し、その近縁な集団はシベリア東部とアジア東部aです。

 ADMIXTURE分析では、ソース集団の設定により遺伝的系統は異なってきますが、K=10では、朝鮮人はシベリア東部系統(38%)とアジア東部a/b系統(62%)の混合としてモデル化されます。アジア東部b集団間で混合率を比較すると、朝鮮人および日本人集団はひじょうに類似した混合率を示します。中国人も朝鮮人および日本人と類似した遺伝的構成を示しますが、混合率は地域により異なります。全体的に見て、遺伝的混合事象はまず朝鮮半島と日本列島外のアジア南東部および中国で起きた、と推測されます。また、そうした最近の遺伝的混合は広範な現象で、過去4000年の農耕・経済・技術的発展に起因する拡大により、アジア東部全域で同時に発生した可能性があります。


●悪魔の門遺跡個体群から朝鮮人への遺伝子流動

 外群f3統計では、4万年前頃の田园個体が、現代のシベリア東西およびアジア東部b集団と、ヨーロッパやアジア西部および南部のような他地域集団よりも多くのアレル(対立遺伝子)を共有する、と明らかになりました。これは、田园個体がユーラシア東部およびアジア東部系統の基底的な遺伝的構成であることを示唆します。現代のシベリア東部およびアジア東部b集団は、古代アジア南東部・悪魔の門遺跡・ユーラシア中央部草原地帯の青銅器時代〜鉄器時代個体群と、有意な遺伝的類似性を示します。

 これらの遺伝的類似性に基づき、古代人および現代人集団と共有される田园個体の派生的アレルとの比較により、朝鮮人の遺伝的起源が推定されました。田园個体はどの現代人集団よりもアジア南東部古代人と多くの派生的アレルを共有しており、アジア南東部古代人は田园個体系統に直接的に由来する、と示唆されます。新石器時代の悪魔の門遺跡2個体と現代のシベリア東部およびアジア東部a/b集団は、類似した田园個体系統の量を示します。これは、朝鮮半島北部に近い悪魔の門遺跡個体群が、他の遺伝的構成と混合される可能性を示唆します。

 さらに、田园個体系統は、古代草原地帯個体群よりもシベリア東西およびアジア東部b集団の方と、顕著に高水準の遺伝的類似性を有しています。これは、古代草原地帯個体群が他の遺伝的構成から形成された可能性を示唆します。アジア南東部古代人における田园個体との遺伝的類似性は、最古となるベトナムのマンバク(Man Bac)遺跡個体で最も高く、経時的にやや減少していきます。これは、古代アジア南東部個体群が、経時的に追加の遺伝的構成を受け取った、と示唆します。

 田园個体のゲノムは、現代人ではアジア南東部よりもシベリア東部の方と遺伝的類似性の水準が高い、と明らかになりました。しかし、アジア東部b集団のうち朝鮮人と日本人と中国南部人集団は、田园個体の派生的アレルをシベリア東部集団と類似した水準で示し、田园個体系統とは均等の距離となります。これは、悪魔の門遺跡個体群とシベリア東部現代人といくつかのアジア東部b集団が、経時的に類似した遺伝的影響を受け、田园個体系統から分離して以降は単一のクレードだったと予想されることを示唆します。これらの分析により、基底部田园個体系統は、新石器時代もしくはその前に分離し、それぞれ現代朝鮮人に影響を及ぼした、と明らかになります。


●朝鮮人を構成する古代の遺伝子流動

 田园個体系統から古代人および現代人集団への遺伝子流動に基づき、新石器時代個体群ゲノムが、朝鮮人もしくはアジア東部集団の系統に独立して寄与したか、第二の遺伝子流動が起きた、と仮定されました。まず、新石器時代の悪魔の門遺跡2個体の系統から朝鮮人とアジア東部集団への遺伝子流動が調査され、悪魔の門遺跡2個体はベトナムの新石器時代マンバク遺跡個体よりも、現代シベリア東部およびアジア東部b集団のほとんどの方と、多くの派生的アレルを共有する、と示されました。

 悪魔の門遺跡2個体のゲノムから、これらの現代人集団は、オーストロアジア語族の祖先と考えられるタイのバーンチエン(Ban Chiang)遺跡やカンボジアのヴァトコムヌー(Vat Komnou)遺跡の個体群と遺伝的関係は等しい、と観察されます。さらに、ミャンマーの後期新石器時代〜青銅器時代となるオアカイエ(Oakaie)遺跡およびベトナムの青銅器時代のヌイナプ(Nui Nap)遺跡個体群からアジア東部集団への地域的な遺伝的移行が観察されます。朝鮮人と日本人といくつかの中国人や極東ロシア人のようなシベリア東部およびアジア東部b集団は、オアカイエ遺跡およびヌイナプ遺跡古代人と比較して、悪魔の門遺跡個体群系統からの優勢な遺伝的寄与を示します。

 これは、現代のアジア東部a/b集団で観察される地域的な遺伝的差異が、アジア南東部における青銅器時代から鉄器時代にかけての新たな遺伝的流入に影響を受けた、と示唆します。また、ベトナムの新石器時代マンバク遺跡個体は、アジア南東部青銅器時代個体群もしくは草原地帯古代人よりも、現代シベリア東部およびアジア東部b集団と派生的アレルを多く共有しています。これは、新石器時代マンバク遺跡個体系統が、現代シベリア東部およびアジア東部b集団の基底部系統だったことを示唆します。

 マンバク遺跡個体から悪魔の門遺跡2個体と現代シベリア東部およびアジア東部b集団への遺伝的浮動は観察されませんでした。また、草原地帯古代人の遺伝的系統の分析では、現代シベリア東部およびアジア東部b集団と古代アジア南東部人は、草原地帯古代人と遺伝的に等距離と推定されます。このパターンは以前の研究と一致します。これは、草原地帯古代人と現代アジア東部集団との間の遺伝的混合を支持しますが、その経緯と混合事象の回数は不明です。

 また、マンバク遺跡個体系統から、ヴァトコムヌーといくつかのアジア東部b集団(アジア南東部および中国南部)の遺伝的分岐に関する最初の証拠も観察されました。これは、こうした集団がアジア東部に遺伝的影響を与えた集団だった、という見解を支持します。現代朝鮮人の遺伝的構成について複数のパターンが検証され、悪魔の門遺跡2個体系統とアジア南東部古代人系統の組み合わせは、前者とアジア南東部現代人系統の組み合わせよりもよく説明できます。より具体的には、カンボジア鉄器時代のヴァトコムヌー遺跡個体系統で、それに続くのがベトナム青銅器時代のヌイナプ遺跡個体系統です。

 現代朝鮮人と最も遺伝的類似性が高いのは現代日本人で、中国南部の現代人は、現代ベトナム人よりも現代朝鮮人との遺伝的類似性が高い、と示されます。これは、中国南部の遺伝的構成が、ヴァトコムヌー遺跡やヌイナプ遺跡個体系統との混合後に、朝鮮人へと移入されたことを示唆します。これらの証拠は、悪魔の門遺跡2個体とマンバク遺跡個体系統を有する集団が、新石器時代までにアジア東部bおよびシベリア東部地域全体で混合し、それはおそらく気候変化と障壁を伴っていた、という結論を支持します。青銅器時代の後、ヴァトコムヌー遺跡やヌイナプ遺跡個体系統の混合系統が朝鮮半島へと移住し、それは急速な文化的・技術的発展に起因します。


●朝鮮人の単系統ハプロタイプ分析

 現代朝鮮人のYHg(標本数55人)の割合は、O1b2が29%、O2が42%で、Oが圧倒的に優位です。次に多いのが18%となるYHg-Cです。YHg-Cはシベリアで広範になに見られますが、YHg-Oはアジア南東部および東部に分布しています。YHgからは、朝鮮人男性の南北二重起源が強く示唆されます。

 mtHgはYHgよりも複雑な遺伝的歴史を反映しているようです。最も頻度の高いmtHgはD(34%)で、それにM(12%)やB(10%)やG(9%)やA(9%)などが続きます。現代朝鮮人で12%を占めるmtHg-B/Rは田园個体系統で見られ、アジア東部系統を表します。mtHg-N/Y/AおよびDは悪魔の門遺跡2個体および現代シベリア人とともにクラスタ化し、ユーラシア系統を表します。mtHg-Aはユーラシア草原地帯中央部の中期青銅器時代のオクネヴォ(Okunevo)文化関連集団で見られます。mtHg-G/C/Zはシベリア人とベトナム青銅器時代ヌイナプ遺跡個体で見られ、ヌイナプ遺跡個体系統の起源は不明です。mtHg-Cはオクネヴォ文化関連集団において高頻度で見られます。mtHg-MおよびFはアジア東部集団とともにクラスタ化することで、南方からの移動の波を説明します。オーストロアジア語族と考えられる、ベトナムのマンバク遺跡およびタイのバーンチエン遺跡の個体群は、mtHg-Mでともにクラスタ化します。これは、mtHg-Mのその後の拡大が、オーストロアジア語族集団の拡大と関連している可能性を示唆します。mtHgの分析は、朝鮮半島への南北多様な地域からの継続的な遺伝的影響を示唆します。


●まとめ

 現代人および古代人のゲノムとの比較により、現代朝鮮人はシベリア東部とアジア東部に由来する二重の遺伝的構成を有する、と示されます。現時点での古代ゲノムデータを参照すると、現代朝鮮人の遺伝的構成は、ロシア極東新石器時代の悪魔の門遺跡2個体系統とカンボジアの鉄器時代ヴァトコムヌー個体系統と関連する古代中国南部系統の混合として最適にモデル化できます。これは現代漢人および日本人も同様で、マンバク遺跡個体関連系統(70%)と悪魔の門遺跡個体関連系統(30%)の混合としてモデル化され、その形成過程は本論文の図5で示されています。

画像
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 本論文の分析は、新石器時代の主要な2創始者系統である、悪魔の門遺跡2個体系統と田园個体系統との、シベリア東部とアジア東部における新石器時代までの長く漸進的な混合を示唆します。現代朝鮮人も含めてアジア東部現代人の亜集団は、おそらくその後の青銅器時代における地域的な遺伝的移行により確立しました。現代朝鮮人の形成は、特有の孤立事象もしくは移住というよりもむしろ、アジア東部で起きた大きな集団拡大とそれに続く混合事象の一部として把握されます。こうした最近の急速な拡大と混合は、他のアジア東部および南東部集団にも一般的なモデルとなれるかもしれません。


 以上、本論文の内容をざっと見てきました。現代朝鮮人の起源と形成過程に関する包括的な研究結果を示した本論文は、今後の研究でも参照されるでしょう。ただ、やはり朝鮮半島古代人のゲノムデータに基づいていないことは問題で、土壌の問題やよりDNAの保存に適した朝鮮半島北部のデータの利用が困難だろうという事情など、仕方のないところもあるとはいえ、今後の大きな課題になると思います。また、漢人・朝鮮人・日本人に代表されるアジア東部現代人集団の起源として、現代人にはほとんど遺伝的影響を残していないと推測されている田园個体を起源系統としてモデル化したこともやや問題でしょう。これは、アジア東部も含めてユーラシア東部の古代ゲノム研究が、ユーラシア西部、とくにヨーロッパと比較して大きく遅れていることに起因するので、仕方ないところが多分にあるとは思います。ただ、最近になってアジア東部の古代ゲノム研究が大きく進展しており(関連記事)、それらも踏まえて、朝鮮人の起源と形成過程に関する研究も近いうちに大きく更新されるのではないか、と予想しています。

 現時点では、現代朝鮮人の形成過程に関して、田园個体系統と悪魔の門遺跡2個体系統とを起源とするのではなく、アジア東部を北部(新石器時代華北集団)系統と南部(新石器時代華南集団)系統に区分し、両者の混合によるアジア東部現代人集団の形成を想定する方が妥当なのかな、と思います。また、アジア東部に関しては、北東部との関係でさらに複数系統(黄河地域と西遼河地域とアムール川地域)が想定されるでしょう。アジア東部系統は、ユーラシア東部系統でも北方系統に分類され、ユーラシア東部系統でも南方系統は、アジア東部沿岸地域の早期集団、たとえば「縄文人」に大きな遺伝的影響を残した、と推測されます(関連記事)。このように起源系統の想定が異なれば、また違った現代朝鮮人の形成過程が見えてくるはずで、それは上記の本論文の図とはかなり違って見えるかもしれません。最近になって、日本も含まれるアジア東部の古代ゲノム研究が大きく進展しつつあるように思われるので、今後がひじょうに楽しみです。


参考文献:
Kim J. et al.(2020): The Origin and Composition of Korean Ethnicity Analyzed by Ancient and Present-Day Genome Sequences. Genome Biology and Evolution, 12, 5, 553–565.
https://doi.org/10.1093/gbe/evaa062


https://sicambre.at.webry.info/202006/article_19.html  

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コメント
1. 中川隆[-16111] koaQ7Jey 2021年7月22日 09:53:34 : OZGjchZjaU : SHBTOW5ibGsvWS4=[2] 報告
雑記帳 2021年07月22日
韓国の三国時代の人骨のmtDNA分析
https://sicambre.at.webry.info/202107/article_23.html

 本論文(篠田他.,2021)は、「新学術領域研究(研究領域提案型)計画研究B01【調査研究活動報告2019年度(1)】考古学データによるヤポネシア人の歴史の解明」の研究成果の一環となります。これまでの形質人類学では、現代日本人の形成の考察において重要なのは、「縄文人」と「弥生人」の関係とされ、多くの研究が提示されてきました。現在ではその結果、基層集団である「縄文人」の社会に、アジア東部大陸部から水田稲作と金属器技術を有する「渡来系弥生人」が日本列島に到来し、本州・四国・九州を中心とする日本列島「本土」では、両者の混合により現代日本人が成立した、と考えられています(二重構造説)。一方、古代DNA研究の進展により、「渡来系弥生人」の遺伝的特徴も明らかになりつつあり、両者の混合の状況をより正確に把握できるようになりました。しかし、「渡来系弥生人」の故地と考えられる朝鮮半島の弥生時代〜古墳時代相当期の人骨のDNA分析は行なわれておらず、「渡来人」の遺伝的性格が不明なので、まだその実態は明らかではありません。

 そこで本論文は、朝鮮三国時代の古墳として有名な、慶尚北道高霊郡に位置する、慶北高霊池山洞44号墳の出土人骨のミトコンドリアDNA(mtDNA)分析結果を報告します。池山洞44号墳は5世紀後葉の大加耶の王墓で、墳丘は直径25〜27m、墳丘中央に9.4m×1.75mの大型竪穴式石室(主槨)があります。30基以上の殉葬墓が主槨を取り囲むような状態で見つかっており、主槨の人骨は失われていましたが、殉葬墓からは多くの人骨が発掘されています。これらの人骨から直接的に「渡来系弥生人」の遺伝的特徴を推定することはできませんが、この時期の朝鮮半島南部の人類集団の遺伝的特徴を解明することは、弥生時代から古墳時代にかけての日本列島の人類集団の成立解明において重要な情報を提供する、と考えられます。

 DNA分析に用いられたのは4個体(13-1号、20号、27-1号、30号)で、APLP(Amplified Product-Length Polymorphism)分析によるmtDNAハプログループ(mtHg)分類は、13-1号がG2、20号がB4c、27-1号がD5b、30号がB5でした。27-1号と30号のmtHgはそれぞれD5b1b1とB5a2a1bで、APLP分析と矛盾しません。データベースで検索すると、mtHg-B5a2a1bもmtHg-D5b1b1もそれぞれ3個体ずつ報告されており、いずれも日本人でした。現代韓国人で一致する個体が確認されなかったのは、DNAデータベースに現代韓国人がほとんど登録されていないからと考えられ、現代の日本人と韓国人ではmtHgの構成がよく似ているので、mtHg-B5a2a1bおよびD5b1b1が現代韓国人で今後確認されても不思議ではありません。現代韓国人では、mtHg- B5は3.8%、mtHg-D5は6.5%ほど存在します。

 一方、既知の「縄文人」のmtHgではmtHg-B5a2a1bおよびD5b1b1は確認されていません。一方、弥生時代の鳥取市青谷上寺遺跡で出土した人骨では、mtHg-B5およびD5が確認されており、弥生時代中期の「渡来系弥生人」である福岡県那珂川市の安徳台遺跡で発見された個体もmtHg-B5でした。青谷上寺遺跡の「弥生人」のmtHgは大半が「渡来系」と推定されています(関連記事)。現代日本人に占めるmtHg-B5およびD5の割合はさほど大きくなく、アジア東部の分布では南方に多い傾向が見られます。現時点では、古代の分布を推定できませんが、弥生時代開始期以降にアジア東部大陸部から日本列島に到来した人々の中には、mtHg-B5およびD5を有している人がいたかもしれません。慶北高霊池山洞44号墳の出土人骨では今後核DNA解析も予定されているとのことで、研究の進展が期待されます。


参考文献:
篠田謙一、神澤秀明、角田恒雄、安達登、清家章、李在煥、朴天秀 (2021)「韓国高霊池山洞44号墳出土人骨のミトコンドリアDNA分析」『国立歴史民俗博物館研究報告』第228集P465-471


https://sicambre.at.webry.info/202107/article_23.html

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