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2020年8月5日
どのみち2020年中は状況が改善しない確率が高い。さらに2021年になってもパンデミックによる停滞が継続するかもしれない状況にある。ズルズルとやっていると損失が広がるだけだ。そうであれば、ここはいかに素早く撤退できるかが生死を分ける境目であるということが分かる。(『鈴木傾城の「ダークネス」メルマガ編』)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、主にアメリカ株式を中心に投資全般を扱ったブログ「フルインベスト」を運営している。
■泥沼に落ちる前に足抜けするのは良い選択
コロナによって大打撃を受けているのは、飲食店だ。3月、4月の時点でさっさと飲食店を畳んだ個人営業の経営者は、泥沼に落ちる前に足抜けしたということなので、逆に良い選択をしたのかもしれない。
ただ、すべての飲食店経営者は「これはヤバいな」と思ってもさっさと足抜けできるわけではない。大抵は、店を出すのに借金をしており、その借金は毎月の店の売り上げで返す計画で進めているからだ。
コロナで客が減って経営が成り立たなくなると思っても、店を畳んだら最初の出費がそのまま大損になってのしかかってくるので、逃げようにも逃げられない。
そこで「数ヶ月様子を見てみよう」という判断になる。
数ヶ月何とか耐え切れば、コロナも収束して客が戻ってくるかもしれないではないか。しかし、その見通しは打ち砕かれた。
緊急事態宣言を耐えても客足は戻らず、7月に入ってもコロナは収束するどころか逆に感染が拡大してよけいに状況が悪くなってしまっている。8月に入った今も、感染拡大は続いて終わる気配もない。
「コロナは湿気に弱いので梅雨に入ったら収束する」という専門家の予測も外れたし、「コロナは熱に弱いので夏になったら収束する」という専門家の予測も外れた。
「コロナはただの風邪」という専門家もいるが、その裏側で「コロナで軽症の人も後遺症がひどい」という実態も浮かび上がってきた。「コロナは流行すればするほど弱毒化する」という専門家もいるが、その裏側で「強毒性のコロナが生まれている」という分析も出てきている。
「ワクチンや治療薬が2020年中に開発されて2021年には流通しているはず」という憶測もあるが、WHO(世界保健機関)などは「特効薬としてのワクチンや治療薬は永遠にできないかもしれない」と言い出し始めている。
■2020年はコロナ禍で終わる
何が正しくて何が間違っているのかは専門家でも諸説がある上に、ワクチンや治療薬の開発も一筋縄ではいかないものがあるのだから、すべての予測は「あくまでも予測である」と思いながら聞いておくのが正しい。
しかし、確実に言えるのは「コロナは8月には収束している」と考えるのはあまりにも楽観的過ぎるということだ。9月はどうか。それも楽観的だろう。10月はどうか。3ヶ月でワクチンや治療薬ができれば素晴らしいことだが、それも難しいのかもしれない。
とすれば、向こう3ヶ月間、コロナによる社会の停滞がずっと続くというのは「ほぼ確定」として考えた方がいい。10月までごたごたすれば、すぐに11月がきて12月がきて2020年は終わる。
その頃はワクチンの第3相臨床試験の結果も出揃っている。場合によっては、少しは希望がもたらされているかもしれない。ファイザー・バイオンテック連合や、モデルナなどが効果のあるワクチンを生み出しているかもしれない。
しかし、確定ではない。何とか効くワクチンであっても、それがすぐに市中に出回るわけではないので、やはり2020年は経済がコロナ前の状態まで回復するのは難しいかもしれない。
Next: とすれば、合理的に考えると飲食店は「粘るよりも店を畳んだ方が傷が浅い」――
■粘るよりも店を畳んだ方が傷が浅い
とすれば、合理的に考えると、コロナの直撃を受けて今の状況で利益を出せない飲食店は「粘るよりも店を畳んだ方が傷が浅い」ということになる。
飲食店は浮き沈みが激しい業界だが、コロナ時代は沈む方が大きく深いのだから、もし今の時点で資金的に傷を負っているのであれば、傷を深くする前に撤退する方が借金を増やすよりもずっと良い。
しかし、多くの経営者は「これまで店にかけた時間と金がもったいない」と思う。
この「これまで店にかけた時間と金がもったいない」というのは、実はワナであることは行動経済学でよく議題になる。
■辞めたら「もったいない」で損失はさらに膨らむ
「これまで店にかけた時間と金がもったいない」というのは、行動経済学で「サンクコスト」と呼ばれている。埋没費用とも言う。
たとえば、以下のケースを考えて欲しい。
「これまで店に500万円投じた。まだ100万円しか回収できていない。コロナで店をやめたら400万円が赤字になる。しかし、続けたら毎月50万円の赤字が出る」
毎月50万円の赤字が出るのであれば、8月から12月まで250万円の赤字が累積する。400万円が回収できない上に250万円の赤字が積み重なる。そうであれば、400万円の赤字の状態でも撤退した方がいいのではないか。その方が傷が浅い。
合理的に考えればそうだ。しかし、回収できない400万円の赤字が「もったいない」と経営者は誰でも思う。だから、借金が徐々に徐々に膨らんでいっても、この400万円が引っかかってやめられない。
この「もったいない」「回収したい」と思う400万円が、サンクコストだ。コロナによるパンデミックが起きて、何をどうやっても回収できなくなった費用が心理的な「おもり」になって足抜けできなくなるのである。
抱えているサンクコストの額は違っていても、今まさに多くの飲食店経営者がそうした状況に追い込まれているはずだ。コロナによる客の減少で「まずいことになった」と思っても、サンクコストに縛られて身動きできない。
Next: しかし、どのみち2020年中は状況が改善しない確率が高い。政府もアテに――
■いかに素早く撤退できるかが生死を分ける
しかし、どのみち2020年中は状況が改善しない確率が高い。政府もアテにならない。助成金を申請して、もらった瞬間に去年分の税金を取られて、差し引きマイナスになって心が折れたという経営者もいる。
さらに2021年になってもパンデミックによる停滞が継続するかもしれない状況にある。ズルズルとやっていると損失が広がるだけだ。
そうであれば、ここはいかに素早く撤退できるかが生死を分ける境目であるということが分かる。
サンクコストに引きずられるのではなく、サンクコストを捨てて復活のための余力を残しつつ「戦略的撤退」を行う。
■バフェットは評判への傷よりも「もっと損する」ことを嫌った
2020年5月2日、サンクコストに引きずられることなく「戦略的撤退」を行った投資家ウォーレン・バフェットの行動が話題になった。バフェットは4社の航空株を保有していた。
デルタ航空、アメリカン航空、ユナイテッド航空、サウスウエスト航空である。
コロナ以前の時代、人々はますます海外旅行に出かけるようになって航空業界の未来は前途洋々に見えたし、グローバル化はますます人々の移動を加速させるようにも思えた。だから、人々の「足」となる航空株は安定的な収入をもたらすはずだった。
しかし、コロナによってすべてが変わった。
バフェットは2月の段階ではまだ状況が読み切れずに、デルタ株を買い増しさえしている。テレビのキャスターから「航空株は売らないのか?」と尋ねられて、「航空会社株は売らない」とはっきり答えた。
しかし、3月以後もコロナショックがますますひどくなっていく中で、バフェットは熟考した上で、4社の航空株をすべて売却した。それまでは「航空株には未来がある」と力説し、「航空株は売らない」とテレビで明言したバフェットだったが、戦略的撤退をした。
バフェットは航空株に8,000億円近くを投じていたはずだが、回収できたのは3,000億円から4,000億円くらいでしかなかったはずだ。大損失になる。それでも売った。
「大幅な損失を出してでも、航空株を手放すことを決めた」「将来的に資金を食いつぶすと予想される企業に資金は出せない」とバフェットは述べた。サンクコストは莫大だったが、保有していれば資産を食い潰すだけなので、バフェットの売却の決意は揺るがなかった。
これについてバフェットの評判にも傷がついたが、バフェットは評判よりも「もっと損する」ことを嫌った。サンクコストに引きずられることなく「戦略的撤退」を行ったその行為は見事だったと思う。
Next: 2020年。決断しなければいけない人は大勢いるはずだ。コロナによって今――
■決断が必要だ
2020年。決断しなければいけない人は大勢いるはずだ。
コロナによって今やっていることが立ちゆかなくなってしまったのであれば、「戦略的撤退」は一刻も早くやっておかなければならない。
特に、飲食店経営者は考える必要がある。コロナで最もダメージを受け、最も苦しい戦いになるのが飲食店経営者だからである。
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