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高収益企業だったキヤノンは、なぜ危機に陥ったのか?株価時価総額1兆円超が吹き飛ぶ
https://biz-journal.jp/2020/08/post_172386.html
2020.08.06 06:00 文=編集部 Business Journal
キヤノン本社(「Wikipedia」より/Centpacrr)
東京株式市場でキヤノン株が下げ幅を広げている。7月31日の終値は前日比126円50銭(7.77%)安の1676円まで下落した。1999年10月以来、およそ20年9カ月ぶりの安値を更新した。
年初来高値は1月20日の3099円。株価は46%下落し、時価総額で1兆8919億円が消し飛んだ。キヤノン(12月決算)は第2四半期(4〜6月)の連結最終損益が赤字に転落。初の四半期赤字を嫌気した売りが膨らんだ。
■コロナで経営の二本柱、事務機とデジカメが打撃受ける
キヤノンの20年4〜6月期の連結決算(米国会計基準)は最終損益が88億円の赤字(前年同期は345億円の黒字)だった。四半期の最終赤字は四半期決算の開示を始めた2000年以降で初めてだ。売上高は前年同期比25.7%減の6733億円、営業損益は178億円の赤字(前年同期は431億円の黒字)。営業損益段階から赤字だから、一過性の損失によるものではない。
「減収減益のほとんどがコロナによるもの」。キヤノンの田中稔三副社長兼最高財務責任者(CFO)は7月28日のオンライン記者会見で、こう語った。影響したのは売上高で約2100億円、営業利益は約700億円と試算している。
営業の4つのセグメントすべてで減収になった。事務機器のオフィス事業の売上高は前年同期比30.2%減の3075億円で、営業利益は9億円の赤字(前年同期は404億円の黒字)に沈んだ。4月の緊急事態宣言でオフィスの多くが閉鎖され、オフィス向けのプリンタの設置や印刷需要が落ち込んだ。
デジカメなどイメージングシステム事業の売上高は30.8%減の1417億円。営業利益は8億円と前年に比べ大幅減(前年同期は127億円の利益)。外出制限で旅行やイベントが減り、一眼レフやミラーレスの販売台数は54%減の50万台と半分以下にとどまった。家庭向けインクジェットプリンタが在宅勤務や在宅学習の増加で伸びたが、販売店の休業が響きイメージングシステム全体は大幅な減収、減益となった。
営業増益となったのは医療機器のメディカルシステム事業だけ。売上高は3.1%減の1019億円だが、営業利益は75.5%増の59億円。新型コロナの影響で医療機関との商談は停滞したが、徹底した経費コントロールが奏功し増益を確保した。産業機器事業の売上高は22.4%減の1393億円、営業損益は24億円の赤字(前年同期は95億円の黒字)だ。液晶や有機ELパネルの製造装置は渡航制限で設置が遅れたことが響いた。監視カメラも都市開発や商業施設の計画の遅れが影響した。
20年12月期通期の業績予想は、売上高は前期比14.3%減の3兆800億円、営業利益は74.2%減の450億円、最終損益は65.6%減の430億円を見込む。経済活動の再開で事務機器は最悪期を脱し、徐々に商談が増え、需要が戻ってきているというが、「新型コロナ自体の収束のめどが立っておらず、下期の回復のペースは限定的」(田中CFO)の見方を示した。
業績悪化を受け、6月末の配当は前年同期に比べて40円減の40円にする。6月末に配当を減らすのは円高不況に見舞われた1987年以来33年ぶりのこと。期末配当(前期は80円)は「未定」とした。株主還元に充てていた資金を事業運営や成長投資に振り向ける。高配当株の代表といわれていたキヤノン株もコロナには勝てなかった。
■事務機はペーパーレス化、デジカメはスマホに押され大苦戦
キヤノンの業績悪化は構造的要因によるものだ。コロナはダメを押したにすぎない。主力の事務機器はペーパーレス化の浸透で低迷し、デジカメもスマホの台頭で苦戦が続いている。
カメラが祖業のキヤノンは1967年、事務機器事業に本格参入した。「右手にカメラ、左手に事務機」を経営スローガンに掲げ、経営の両輪としてきた。95年に社長になった御手洗冨士夫氏(現・会長兼社長兼最高経営責任者<CEO>)が円高などで財務が悪化したキヤノンをたて直した。
御手洗氏は事業の「選択と集中」を実践。パソコンなど赤字事業から撤退し、プリンタ向けのインク、カートリッジなどの消耗品で稼ぐオフィス機器とデジタルカメラに経営資源を集中した。その結果、デジカメでは世界ナンバーワンになった。
だが、10年代に入ると、事務機はペーパーレス化、デジカメはスマホ普及で縮小していく。19年、オフィス機器やデジカメ市場の縮小に合わせて約300億円をかけて構造改革を行った。だが、構造的な問題にコロナによる需要減が追い打ちをかけた。今期は販売減に伴う構造改革費用を150億円計上し、追加的な合理化策を検討している。
10年にオランダの商業印刷オセを約1000億円、15年にスウェーデンの監視カメラメーカー、アクシスコミュニケーションズを約3300億円で買収。16年には東芝からコンピュータ断層撮影装置(CT)などの医療機器を約6600億円で買収した。だが、大型M&Aが際立った利益貢献をしておらず、デジカメや事務機の落ち込みをカバーしているとはいいがたい。
■御手洗会長の社長復帰は時代に逆行
コロナが経営に大きな影を落としている最中に、キヤノンのトップ人事が経済界を驚かせた。5月1日付で真栄田雅也社長兼COO(最高執行責任者)が退き、御手洗会長兼CEOが社長を兼務した。67歳から84歳へのトップ交代。若返りに完全に逆行した。
御手洗氏は過去に2度、計15年近く社長を務め(会長兼務を含む)、今回で3度目の社長就任となる。異例中の異例といっていいトップ人事である。
「世の中は10年単位で大きく変わる」。これが御手洗氏の持論であった。今、通用している経営手法は、次の時代にまったく役に立たなくなる。今までとは違った人によって、違った仕組みをつくらねばならないと御手洗氏は主張してきた。3回目の社長復帰は持論に、まったく反する。四半期決算で初の最終赤字、33年ぶりの減配。コロナのせいにして、経営責任については口を拭うつもりなのだろうか。
これまでにない逆境下のキヤノンをどうやって復活させるのか。まず御手洗氏が身を引くことから始めるべきとの声もある。
(文=編集部)
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