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(回答先: 安倍総裁4選論 独裁政治招く恐れがある 投稿者 肝話窮題 日時 2019 年 9 月 23 日 23:23:46)
古賀太 日本大学芸術学部映画学科教授(映画史、映像/アートマネジメント)
論座 2019年09月20日 より無料公開部分を転載。
最近は映画界でも「忖度」がはびこっているようだ。安倍政権を批判していると話題になった6月28日公開の『新聞記者』でも、2社がその制作を引き受けるのを断ったことをプロデューサーの河村光庸氏が朝日新聞の取材に答えている(https://digital.asahi.com/articles/ASM725JF0M72ULZU00L.html)が、最近、個人的に少し似た経験をした。
9月20日公開の映画『帰ってきたムッソリーニ』(http://www.finefilms.co.jp/imback/)のプレスシートとパンフレット用の文章を配給会社から依頼されて原稿を送ると、後半の数行を削除するか直して欲しいと返事がきた。文章を読んでもらえばわかるが、『帰ってきたヒトラー』というドイツ映画もあったので、さて日本で作るとしたらどうなるだろうかと考えたくだり。昭和天皇や東条英機の名前を出した部分が問題となった。配給会社としては特に昭和天皇の名前を出すことに抵抗があったようだ。令和の時代が始まって皇室に注目が集まっていることに配慮したのだろう。
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『帰ってきたムッソリーニ』=公式サイトより
もともとこの映画は、ムッソリーニが現代に蘇ったらという仮定で作られたものである。実は既に、ティムール・ヴェルメシュ著『帰ってきたヒトラー』(原著は2012年、邦訳は2014年)を元にドイツ映画『帰ってきたヒトラー』(デヴィッド・ヴェンド監督、2015年、日本公開は2016年)が作られている。『帰ってきたムッソリーニ』はこれをイタリアに移し替えた作品で、ヒトラー、ムッソリーニと来たら、やはり日本は誰だろうと考えるのが普通だと思ったので、文の最後にそのことに数行触れた。
すると前述のような反応が返ってきた。最初は応じようかと思ったが、このような「忖度」を受け入れることは検閲につながると考えて、あえて文章を変えないことにした。一般観客は読まないプレスシートでは昭和天皇のくだりを省略し、パンフでは元に戻す提案もしたが、受け入れてもらえなかった。結局、原稿料は払うが載せないという先方の提案を受け入れた。あくまでエンタテインメント映画として見て欲しく、政治色は出したくないという意向だった。
この映画は『帰ってきたヒトラー』より明らかに監督の皮肉が効いていておもしろい映画だと思う。ぜひ多くの人に見て欲しいが、このようなことがあったことは明らかにしておきたいと思った。もちろんこの重要な映画を買い付けて日本で公開した配給会社には感謝している。ここに私が送った文章を載せるのは、ぜひみなさんで映画を見てこの文章が行き過ぎかどうか考えて欲しいと思ったからである。
またイタリアから数本のDVDを取り寄せて書いた解説なので、私の映画史的知識も含めてたぶんほかでは得られない情報もあると思う。監督がイタリア映画祭で来日した時に会場で自分で質問したり、その後直接個人的に聞いた話も含んでいるし、かなり手間をかけた文章だと自負している。以下、全文を掲載する。
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「ファシズムではなく、今のイタリアを見せた」
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近年、ヒトラーを扱った映画はドイツを始めとして毎年のように作られるが、ムッソリーニの出る映画はイタリアでも少ない。最近だとマルコ・ベロッキオ監督の『愛の勝利を ムッソリーニを愛した女』(2009)が記憶に新しいが、これはムッソリーニよりも愛人のイーダ・ダルセルが中心だ。それ以前だとフランコ・ゼフィレッリ監督の『ムッソリーニとお茶を』(1998)があるが、題名に(原題も同じ)ムッソリーニの名前があるのに、出るのはほんの2、3分。唯一カルロ・リッツァーニ監督の『ブラック・シャツ/独裁者ムッソリーニを狙え!』(1974)はムッソリーニの末期を描いているが、そのほかはTVやドキュメンタリーを除くとこれまで10本もないのでは。
一時期はヨーロッパの大半を占領し、何百万人ものユダヤ人を虐殺したヒトラーに比べたら、ムッソリーニは小さな存在だ。そのうえヒトラーは見た目も特徴がはっきりしていて、カリカチュアもしやすい。ドイツ人はヒトラーに一斉に従って、戦後は全否定した。イタリアではムッソリーニに対して当時から反対運動があったし、逆に今でも信奉者が普通にいるという。そんな曖昧な感じがあるので、容易に映画化はできないのだろう。
https://image.chess443.net/S2010/upload/2019091900009_3.jpg
イタリアを訪問、ローマでイタリア軍を閲兵するヒトラー・ドイツ総統(前列中央)。左はムッソリーニ・イタリア首相、右はイタリア国王ヴィットリオ・エマヌエーレ1938年5月
『帰ってきたムッソリーニ』(2018)はドイツ映画『帰ってきたヒトラー』(デヴィッド・ヴェンド監督、2015)と同じくティムール・ヴェルメシュ著『帰ってきたヒトラー』(原著は2012年、邦訳は2014年)の映画化だが、監督のルカ・ミニエーロは、現代イタリアを描く喜劇の名手として知られている。日本でも『おとなの事情』(2016)や『ザ・プレイス 運命の交差点』(2017)で知られるパオロ・ジェノヴェーゼ監督と共同監督で3本を作っているが、今回の作品は、監督によればプロデューサーが彼を指名したという。
実は彼の最初の単独監督長編『南部へようこそ』(Benvenuti al Sud、2010、日本未公開)もリメイクだった。これは2000万人以上が見たフランス映画史上最大のヒット映画『シュティの国へようこそ』(Bienvenue chez les Ch'tis、2008、日本未公開)を換骨奪胎して南イタリアに舞台を移し、その年のイタリア映画一番のヒットとなった。さらに続編の『北部へようこそ』(Benvenuti al Nord、2012)も大ヒット。
ミニエーロ監督の「換骨奪胎」ぶりは『帰ってきたムッソリーニ』でも健在だ。ヒトラーの代わりにムッソリーニが現代に現れて、新聞店で一夜を過ごし、テレビの契約ディレクターに目をつけられてテレビ出演を果たして有名になるという大筋は同じ。その後にかつて犬を殺した映像が出てきて非難の的になるが、復権を果たす結末も。これは原作にほぼある。
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https://webronza.asahi.com/culture/articles/2019091900009.html
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