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衆院補選で2連敗の安倍政権が消費税10%延期「不可避」の訳
https://www.mag2.com/p/news/396317
2019.04.26 新恭(あらたきょう)『国家権力&メディア一刀両断』 まぐまぐニュース 「消費増税延期と衆院解散・衆参ダブル選挙の可能性」を匂わす発言で政財界に大きな動揺をもたらした、自民党の萩生田幹事長代行。与党幹部は火消しに追われましたが、安倍首相の側近中の側近である萩生田氏の言葉だけに、様々な憶測が流れているようです。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では元全国紙社会部記者の新 恭さんが、同発言の裏には消費増税先送りを選挙対策に利用したい安倍首相の意があるとし、その根拠を記しています。 またも選挙対策で消費増税先送りか 沖縄と大阪、二つの衆議院補欠選挙はいずれも自民党候補の敗北に終わった。 安倍首相は衆院大阪12区補選の応援のため大阪入りし、なぜか吉本新喜劇の舞台に登場してまで大阪人の気をひこうとしたが、若い自民党候補を勝たせるほどの力にはならなかった。 いずれも苦戦が予想されていたとはいえ、今夏の参院選を前に、出鼻をくじかれたかっこうだ。 こういう状況だと、ますます気になるのは、自民党幹事長代行、萩生田光一氏がインターネットテレビで発言した内容だ。 「6月の日銀短観の数字を見て、危ないぞとなったら、崖に向かって皆を連れていくわけにはいかない…消費増税をやめるとなれば、国民の了解を得ないといけない。信を問うことにもなる」 安倍首相が消費増税の延期を表明して衆議院を解散し、参議院とのダブル選挙にする可能性もあり得るというのだ。 先週「自民党の議席減を鈍らせる、国民民主党内の『小沢一郎アレルギー』」で、「増税延期」どころか「減税」の可能性まで永田町で囁かれていると書いたが、萩生田氏の発言からも、消費増税を嫌がる安倍首相の本音が透けて見える。 さすがに萩生田氏は「個人的見解だ」とかわすが、つい口が滑ったというより、“確信犯”だろう。 萩生田氏といえば、面がまえも体格もでかい。今井秘書官が安倍首相の参謀総長とするなら、腕力をウリにした親衛隊長のようである。東京都議を経て2003年に衆院選に出馬し当選したのも、拉致問題を通じて知り合った安倍氏の勧めだったとか。 2009年に落選すると、安倍氏の“腹心の友”加計孝太郎氏が理事長をつとめる加計学園の千葉科学大学で客員教授にしてもらい、急場をしのいだ。 2012年に国会へ戻った後は、安倍首相に総裁特別補佐として取り立てられ、15年10月には内閣官房副長官に任命された。側近中の側近ともいわれるが、要するに安倍首相には頭が上がらない。 その萩生田氏が、かなり右に偏ったネットメディアで、安倍首相の専権事項だと与党の言う「解散」について語ったのである。 首相の意を受けてアドバルーンを上げ、世間の反応をうかがうのが目的。そう見られるのも仕方がない。いやむしろ、増税中止、衆院解散ダブル選挙への地ならしではないかという疑いも出てこよう。 消費増税で不況がさらに深刻化し、アベノミクスの失敗を隠しきれなくなる事態を、安倍首相が恐れているのは間違いない。 実質賃金が下降し続けているこの国で、予定通り消費税を上げたらどうなるか。国内消費がガクンと落ちるのは、わかりきってる。それを回避するのは、財務省や輸出売上の還付額が大きい企業を除き、大方の国民が納得できることに違いない。 だが、社会保障のために消費増税が必要だと唱えながら、ここぞという時には何度も同じ“中止カード”を選挙対策として使うという安倍首相の政治手法は、あまりに姑息であり、国民に対して不誠実ではないか。 消費増税はもともと民主党政権時代に、民主、自民、公明の三党が合意し5%の消費税率を2014年4月に8%、15年10月に10%に引き上げる法案を成立させたものだ。 14年4月、消費税は予定通り8%になったが、この引き上げが日本経済に与えたダメージは今に至るまで尾を引いている。 安倍首相はアベノミクスで経済が活性化するので消費税をアップしても大丈夫と豪語していたが、周知の通り、この政策で潤ったのは株高、円安を享受できる大企業や富裕層だけだ。 消費税を8%にしてから約半年後の14年11月18日、安倍首相は翌年10月に予定される10%への引き上げを延期すると表明し、衆議院の解散を宣言した。そのときの記者会見。 「7月、8月、9月のGDP速報が発表されました。成長軌道には戻っていません。40名を超える有識者から御意見を伺いました。…消費税10%への引き上げを法定どおり来年10月には行わず、18カ月延期すべきであるとの結論に至りました。重い決断をする以上、速やかに国民に信を問うべきである。そう決心いたしました。今週21日に衆議院を解散いたします」 安倍首相は「2017年4月に確実に消費税を10%へと引き上げる」と断言した。それを信じるに足る根拠はあるかと問われ、アベノミクスによる賃金上昇をあげた。 「来年、再来年、そしてそのまた翌年、賃金が確実に上がっていく。名目所得が上がり、そして実質賃金も上がっていく状況をつくっていくことによって、そういう経済をつくっていきたい」 この会見から1カ月も経たない12月14日に投票された衆議院選挙は、安倍首相の思惑通り、自民党が291議席を獲得、公明党と合わせて議席数の3分の2以上を維持した。前回同様の大勝だった。 「賃金を上げて確実に10%に」という安倍首相の発言とは裏腹に、その後も実質賃金は下がり続けた。それでも、安倍首相は国会で「リーマンショック級の出来事が起こらない限り消費税を引き上げる」と答弁を繰り返した。 雲行きが怪しくなったのは16年5月に開かれたG7の伊勢志摩サミット直前だ。同年5月16日の衆院予算委員会で馬場伸幸議員の「消費税の増税は延期すべきではないか」という質問に対し、安倍首相はこう答えている。 「リーマン・ショックや大震災のような重大な事態が発生しない限り引き上げていく従来の方針には変わりはないが、いずれにせよ適時適切に判断してまいります」 その翌日の参院予算委員会で、さっそく櫻井充議員がこの発言を取り上げた。 「ちょっと従来と変わったような御答弁です。この適時適切というのは一体何を指しているんでしょうか」 方針は変わらないとしつつも安倍首相は「時期等も含めて、判断は適時適切に行っていきたいということでございます」と答えた。 時期の判断すなわち「延期」を示唆しているとも受け取れる発言だった。 このすぐあとの5月26日から開催された伊勢志摩サミットで、安倍首相が「リーマン・ペーパー」と呼ばれる資料を各国首脳に配って、「世界経済が危機に陥る大きなリスクに直面している」と強調したのは記憶に新しい。そんな状況とは、とうてい思えなかったからだ。 実は、安倍首相が国会で「延期」を示唆する答弁を行っていたころ、今井秘書官を中心とする経産省ラインで「リーマン・ペーパー」の作成準備が進められていたのだ。 2016年6月1日、安倍首相は再び消費増税の延期を表明した。17年4月に予定されていた10%引き上げの時期をさらに2年半延期し、19年10月にするとした。 「新しい判断であります」とごまかして「確実に消費税を10%へ引き上げる」という約束を反故にしたわけだ。会見で述べた延期の理由はこうだった。 「新興国や途上国の経済が落ち込み、世界経済が大きなリスクに直面している。こうした認識を、伊勢志摩サミットに集まった世界のリーダーたちと共有しました。…新たに危機に陥ることを回避するため、適時に全ての政策対応を行うことで合意し、首脳宣言に明記されました。直面しているリスクは、リーマンショックのような金融不安とは全く異なります。しかし、私たちは、あの経験から学ばなければなりません」 リーマンショック級ではないが、そうならないよう、経験から学んで消費増税をやめます、というわけだ。恐るべき政権である。「新しい判断」と言えば、いかようにでも公約を破ることができる悪しき例を政治史に残してしまった。 安倍首相は消費増税延期表明をして同年7月の参院選を戦い、自民党は圧勝、議席を6つ増やした。 先日の萩生田発言は、二度あったことが三度もありうることを明確に示したものだ。 選挙に勝つためなら、どんな手段も厭わない。そんな安倍政権の体質からすると、たとえば米中貿易戦争や英国のEU離脱問題などをリーマンショック級の経済危機とこじつけて、消費増税を先送りし、有権者の歓心を買うというえげつない選挙作戦をまたまた仕掛けてくるとしても、不思議はない。 安倍首相の約束を信じるのが間違い、と言われれば、それまでだが。 image by: 安倍晋三 − Home | Facebook 新恭(あらたきょう) この著者の記事一覧 記者クラブを通した官とメディアの共同体がこの国の情報空間を歪めている。その実態を抉り出し、新聞記事の細部に宿る官製情報のウソを暴くとともに、官とメディアの構造改革を提言したい。記者クラブを通した官とメディアの共同体がこの国の情報空間を歪めている。
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