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おもてなしも誠意もダメ。北方領土交渉で安倍首相が犯した大失策
https://www.mag2.com/p/news/395848
2019.04.23 高野孟『高野孟のTHE JOURNAL』 まぐまぐニュース 一部報道機関が「日ロ間の6月大筋合意見送り」と報じるなど、北方領土返還交渉が暗礁に乗り上げているようです。以前掲載の「参院選に暗雲。プーチン談話で判った、北方領土返還交渉の大失敗」で、早くも3月の段階で「北方領土返還交渉は失敗」と断定していたジャーナリストの高野孟さんは、自身のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』で、交渉失敗の原因は安倍首相の「卑俗なおもてなし主義」にあると指摘。さらに「情緒レベルで物事を考えてしまうところに首相の欠陥がある」と厳しく批判しています。 ※本記事は有料メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2019年4月22日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め初月無料のお試し購読をどうぞ。 プロフィール:高野孟(たかの・はじめ) 1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。2002年に早稲田大学客員教授に就任。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。 6月合意断念に追い込まれた安倍「北方領土」交渉──“言葉遊び”でプーチンを引っかけようとするなんて 本誌は最初からこれではうまくいかないと言い続け、3月18日付のNo.986では「失敗に終わった安倍『北方領土』交渉」と断定してしまっていたが、ここへきてようやくマスコミもその見通しを公然と語り始めた。先鞭を付けたのは4月18日付毎日新聞第1面左肩の「日露、6月大筋合意見送り」という報道記事と、第2面の3分の2ほどを費やした検証記事である。それを共同・時事がフォローしたらしく、19日には北海道新聞の「日ロ条約交渉、無理だった『6月合意』」はじめ地方紙やジャパン・タイムズなどが一斉に伝え、この悲惨な結末が多くの国民に知られることとなった。しかし、毎日以外の中央各紙やNHKなどテレビは、20日現在、まだそれを取り上げていない。 情緒的な“おもてなし”のいやらしさ 安倍首相の外交が、対ロシアに限らずよろず上手く行かないのは、情緒に訴えて個人的に仲良くなれば話が通じるのではないかという卑俗なおもてなし主義のためである。 安倍首相は、1月22日のモスクワでの会談までにプーチンと25回も会ったと自慢し、親密さをアピールするけれども、そのうちプーチンが来日して実現した首脳会談は16年12月の1回だけで、後はすべて安倍首相が訪露するか、どこか第三国での国際会議のついでにサイドで会っただけである。その貴重なプーチン来日ということになると、安倍首相のベタベタとしたサービス精神がフル稼働して、自分の故郷の山口県の高級温泉旅館に招いて、出来れば一緒に温泉に浸かって、“裸の付き合い”を宣伝しようというウェットな情緒的演出にのめり込んでいく。 プーチンというのは世にも希なるクールなロジカル人間で、こういう趣味とは縁遠い。「何で東京で会談をやらないんだ」と文句を言いつつ、東京から山口までの飛行時間の余分を上回って3時間も遅れて到着して一切の“おもてなし”を拒否する姿勢を示し、温泉の大浴場には安倍首相と一緒にはもちろん、独りでも入らなかったようだ。 こういう安倍首相のベタベタぶりは、トランプ米大統領に対しても同じで、彼の就任前に50万円のゴルフクラブをお土産にNYの私邸に押しかけたところから始まり、この5月末には新天皇が初めて迎える国賓という“栄誉”をトランプに割り振って、さらにゴルフと大相撲観戦までパッケージにするという超豪華観光ツァー企画の提供に至るまで、一貫している。対露外交が失敗し、対北朝鮮の拉致問題の打開も自分では達成出来ずにトランプを頼りにせざるを得ないという窮状の下では、トランプ訪日がいよいよ露骨な過剰接待に突き進んで行くのは必然で、結局、安倍首相の外交センスとはこんな田舎芸者風のものでしかないということである。 外交には論理に支えられた戦略が必要 外交は仲良くするとか喧嘩するとかいう幼稚園レベルの話ではなくて、お互いに国益とその裏付けとなる歴史的経緯やそれを織りなす条約関係などの解釈に基づく論理とがあって、しかしそれを剥き出しにしたのでは交渉が成り立たないので、戦略というものが必要になる。戦略とは、どこを入口にして次にどう踏みこんで、上手く行けばここまでは到達したいけれども、上手く行かない場合でもこのあたりを落とし所にしようというような、二重三重のレイヤーを用意して交渉に臨むことである。 日本は昔も今も戦略不在で、いきなり戦術から始めてしまう。戦略抜きの戦術というのは常に過激になりやすく、さらにはその場限りの奇襲作戦に傾きがちになる。奇襲というのは、奇襲であるが故に成功する場合が多いけれども、だからといってそれが戦略不在を補ってくれる訳ではないことは、真珠湾攻撃とその後の太平洋戦争の経過を見れば分かる。 高級温泉旅館とか50万円のゴルフクラブとか新天皇との晩餐会とかはみな真珠湾攻撃のようなものであって、刹那的な戦術的過激主義でしかない。今回の、4島一括返還という伝来の主張をいきなり投げ捨てて歯舞・色丹の「2島返還プラスアルファ」にシフトダウンするというのも、それと同様で、戦略抜きの戦術主義の結果である。 本誌が繰り返し指摘してきたことだが、「4島一括」どころか「4島」そのものも言わないようにすることで「2島先行返還」の2段階交渉論も取り下げるということになると、つまりは「国後・択捉の主権主張放棄=歯舞・色丹のみ主権主張維持」ということで、そうすると必然的に、4島が「固有の領土」でありそれを1945年に旧ソ連軍が「不法占拠」したという歴史理解も放棄せざるを得ないことになる。 それならそれでいいし、私自身は最初から2島返還=決着論なので何も問題はないと思うが、日本政府としてはそれでは済まず、今まで言ってきたことのどこをどういう論拠で改めるのかを国民に対しても相手国に対しても論理的に説明しなくてはならない。それを「4島」「一括」「固有」「不法占拠」などの“言葉”を使わないようにすれば相手に“誠意”が伝わるのではないかという情緒レベルで物事を考えてしまうところに、安倍首相の根本的な思考欠陥がある こんな幼稚極まりない交渉姿勢で、プーチンのような強か者を釣り上げられるはずがない。 image by: 首相官邸 ※本記事は有料メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2019年4月22日号の一部抜粋です。
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