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北方領土「二島先行」に世論が反対しなくなった理由
領土はナショナリズムの象徴だが、固執しすぎれば高くつくことも
2019.1.19(土) 舛添 要一
安倍首相、プーチン大統領と会談 平和条約交渉の加速で合意
〔AFPBB News〕シンガポールでロシアのウラジーミル・プーチン大統領(右)と握手をする安倍晋三首相(2018年11月14日撮影)。(c)Alexey DRUZHININ / SPUTNIK / AFP
(舛添要一・国際政治学者)
1月14日、北方領土・平和条約問題をめぐって、モスクワで日露外相会談が行われた。これは、22日に行われる安倍首相とプーチン大統領の首脳会談の準備と位置づけられる。
昨年(2018年)の11月14日、シンガポールで日露首脳会談が行われ、安倍首相とプーチン大統領は、1956年の日ソ共同宣言に基づいて、問題解決のための交渉を加速化させることで合意した。日ソ共同宣言を基礎にするということは、平和条約締結後に歯舞・色丹二島が日本に引き渡されるということである。
しかし、国後・択捉については、これからの協議次第である。これは、「四島一括返還、その後に平和条約」という我が国の従来からの主張とは大きくかけ離れている。歯舞・色丹二島のみを切り離し、先行して返還することを是とする理由は何か。
圧倒的だった「四島一括」より「二島先行」が多数派に
12月8、9日に産経新聞社とFNNが実施した世論調査で、北方領土帰属問題についてどの案を目指すべきかを問うたところ、「歯舞・色丹二島返還先行、国後・択捉引き続き協議」が50.0%、「四島一括返還」が30.8%、「歯舞・色丹の二島だけでよい」が7.7%であった。
かつては「四島一括返還」が圧倒的に多かったが、今回「二島先行論」が過半数になったとことに驚いている。しかもこの調査は、保守色の強い新聞社・テレビ局が行ったものだけに尚更である。他のマスコミの調査でも、6割前後が二島先行返還論に賛成しているのである。
この変化はなぜ起こったのか。私は、日本人が北方領土問題への関心を失いつつあるからではないかと思っている。北方領土担当大臣が、四島の名称を正しく発音できない時代である。
「戦後外交の総決算」という安倍首相の決意を評価する雰囲気が支配的になり、「四島一括返還、その後に平和条約」という日本のこれまでの主張が一気に反古にされそうである。それでも構わないということを、安倍首相は内外に説明することができるのであろうか。
「日本は第二次世界大戦の結果を認めない唯一の国」
タテマエ上は、「まず平和条約締結、そして二島返還、その後に四島を取り戻す」ということであろうが、平和条約を締結することがそんなにも重要なのであろうか。1956年の日ソ共同宣言以降は、平和条約が存在しているのと同じ状況にあり、日露両国民とも何の不便も感じていない。形式的には、平和条約締結が「戦後外交の総決算」となるのかもしれないが、実質的にはほとんど意味の無いことである。
ロシアには国後・択捉を返還する意思はないので、二島先行返還論は、結局は二島のみ返還になってしまうということである。
ロシア側は、北方領土は、第二次大戦の結果、ロシア(当時のソ連)が獲得したものであり、不法な占拠ではないと主張している。ラブロフ外相は、「北方領土」という呼称も批判しているし、16日の記者会見では、国連憲章107条(旧敵国条項)に言及し、「日本は第二次世界大戦の結果を認めない唯一の国」と批判した。そして、日露関係は「国際関係でパートナーと呼ぶにはほど遠い」と厳しい見方をした。
日ロは「パートナーには程遠い」、ラブロフ外相が発言
ロシア首都モスクワで記者会見に臨むセルゲイ・ラブロフ外相(2019年1月16日撮影)。(c)Kirill KUDRYAVTSEV / AFP〔AFPBB News〕
このようなロシアが二島を日本側に引き渡すのは、一つの恩恵を与えることを意味し、経済支援など何らかの見返りが必要だとロシア側が考えて当然である。この論理を突き詰めれば、かつてアラスカをアメリカに売ったように、自らの領土を売却するということになる。
二島の引き渡しにしても、歯舞島には軍関係者しかいないが、色丹島には約3000人のロシア人が住んでおり、土地の所有権をはじめ、彼らの処遇をどうするのか、旧日本人住民の権利や賠償をどうするのかといった様々な問題が出てくる。
北方領土解決策としては、従来の四島一括返還論と「二島+α」論がある。後者は、「平和条約締結後に歯舞・色丹二島が返還される、その後、国後・択捉については協議を進め、共同で開発を進めたり、日本人の自由往来を可能にする措置をとったりする」という考え方である。
この考え方の人たちは、サンフランシスコ平和条約で千島列島の放棄を定めたときには、国後・択捉は千島列島に含まれていると解釈されていたと主張する。吉田茂首相は、両島を「千島南部」と呼び、歯舞・色丹の二島については「北海道の一部」という異なった表現をしたことを根拠とする。
安倍首相がこの主張を取り入れて国境線の画定を行えば、ロシアとの間で協議がまとまるかもしれないが、従来の主張との整合性がとれなくなる。この点を考えると、解決が容易ではないことが分かる。安倍首相の支持基盤である保守層は、四島一括返還論に固執するであろう。
四島一括論を弊履のように捨て去ると、それは他の領土問題にも影響する。竹島や尖閣諸島は、それぞれ韓国と中国が領有権を主張している。日本は容易に主張を撤回する国と見られれば、韓国や中国はますます態度を硬化させるであろう。
一方、四島一括返還に固執すれば、一島たりとも永遠に戻ってこないという観測もまた成り立つ。つまり、時間が経てば経つほど、北方領土のロシア化が進み、返還はますます困難になる。従って、二島だけでも帰ってくるときにチャンスを逃すなというわけである。
つまり、「時間の経過がどちらの側に有利に働くか」という観点からは、四島一括論者は日本、「二島+α」論者はロシアと考えるのである。そこで、前者は「焦る必要はない」、後者は「急げ」となる。
ロシアにとって認めがたい「北方領土への米軍駐留」
交渉が順調に進む前提は、安倍首相、プーチン大統領の権力基盤が強固であることであるが、日本では春に統一地方選挙、夏に参議院選挙が行われる。その結果次第では、安倍首相のレームダック化の可能性もある。
ロシアにとっては、アメリカ政府の意向も問題となる。ロシアが絶対に避けたいのは、返還した北方領土に米軍が展開することである。トランプ政権が、米軍を駐留させないことを日本側に約束できるのか、これも大きな論点である。
先に北方領土に対する国民の関心が薄まっていることに言及したが、その背景には領土の経済的効用についての冷徹な視点が広まっているのではあるまいか。石油や金が大量に埋蔵されているような領土なら別だが、寒冷地の領土の資源的価値は大きくない。北方領土の場合、水産資源が最大の経済的利益をもたらすが、島を管理するためにかかるコストと経済的利益を天秤にかける発想が出てくるのも仕方ない。
1970年代に中国が尖閣列島に対する領有権を声高に主張し始めたのは、周辺海域に石油資源が眠っているという観測が1960年代に出たからである。竹島に関しては、漁業資源以外にはめぼしいものはない。
しかしながら、領土は、単に経済的利益のみならず、ナショナリズムのシンボルとして大きな意味を持っている。韓国が竹島を実効支配しているのは、反日ナショナリズムの砦にしたいからであるが、ナショナリズムは高くつくこともある。20世紀が生んだナショナリズムや民族自決主義のイデオロギーは21世紀には克服する対象と考えてもよいのかもしれない。
いずれにしても、平和条約締結・北方領土問題の解決はロシアという相手との交渉次第である。両国の国民世論をはじめ、乗り越えなければならないハードルが山積している。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/55248
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- 捕鯨論争を巡る「賛成の正義」と「反対の正義」 『おクジラさま』から「理解」のための学びを得る うまき 2019/1/20 20:00:33
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