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これはプロパガンダ? 大ヒット中国SF映画の政治性 さまよえる地球、さまよえる中国映画界  空前の大ヒットまでの紆余曲折
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投稿者 うまき 日時 2019 年 2 月 14 日 16:16:15: ufjzQf6660gRM gqSC3IKr
 

これはプロパガンダ? 大ヒット中国SF映画の政治性
さまよえる地球、さまよえる中国映画界
2019.2.14(木) 福島 香織
宇宙を舞台にした中国映画が大ヒットしている(写真はイメージ)
 中国で総製作費3.2億元の国産本格SFアドベンチャー映画「流浪地球(さまよえる地球)」(英語タイトル:The Wondering Earth)が2月5日に封切られ、10日までに劇場チケット売り上げ20億元を突破した。これは春節映画全体の売り上げの約半分を占める快挙。米国紙「ニューヨーク・タイムズ」までが「中国映画界の新時代の曙」「中国映画も宇宙競争に参入」とかなり持ち上げた記事を書いている。

映画「流浪地球」のポスター
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 確かに、面白そうだ。なにせ、原作は、ヒューゴー賞を受賞した中国SF小説『三体』(早川書房から邦訳が2019年に出版予定)の著者、劉慈欣の同名小説。主演は中国版ランボーともいえる戦争活劇「戦狼」のヒーロー、冷峰役を演じた愛国演技派俳優、呉京(ウー・ジン)。監督は15歳のときにジェームズ・キャメロン監督の「ターミネーター2」を見てSF映画監督を目指したという80后(1980年生まれ)の郭帆(グオ・ファン)。

 郭帆は3作目にしてこの大作に挑んだわけだが、中国のSNS「微博」でジェームズ・キャメロンの公式アカウントから「ワンダリング・アースにグッドラック、中国SF映画の航海にグッドラック」とコメントをもらっている。キャメロンのお眼鏡にもかなっているのか? だが、この映画も娯楽性と出来映えとはまた別に、相当政治性が絡んでいるともいえそうだ。

「地球を救うのは共産党だけ」
 映画のストーリーははるか未来、太陽がいよいよ寿命がつき赤色巨星となって地球を飲み込まんとする時代が舞台。人類は巨大な推進機を使って地球を太陽系から脱出させて新しい太陽系のもとへ移動させる計画を実行する。だが、木星のそばを通るとき、絶体絶命の危機に襲われて・・・。ハリウッド映画では地球を救うのはたいてい米国人だったのが、この映画のヒーローは数人の中国人。何度も銀幕に翻る五星紅旗。なるほど、プロパガンダ臭がしないでもない。主役が愛国プロパガンダ軍事映画の「戦狼」の呉京なので、余計にそう感じるところもある。

 実際、淘票票(アリババの映画チケット購入ショップ)で購入された一部チケットに「地球を救うのは共産党だけ」と印刷されていたことがネットで揶揄されていた。これは、一部購入者がチケット印刷時に好きな言葉を書き込めるサービスを利用しただけで、別に当局サイドがそのような宣伝を強要しているわけではないらしい。だが、習近平のスローガンである「人類運命共同体」の思想を最もよく体現している、と共産党のお墨付きをもらっているのは本当のようだ。

 ラジオ・フリーアジアによれば、1月中旬、この映画のメーン製作会社である中国電影集団公司(中影集団)内で、「映画館に対して封切り1週間の間、上映率を30%より低くしてはならないと要求する」という通達を出しているという。党からは、ネットやメディア上での映画評欄でこの映画を大宣伝すべし、という指示も出ているという匿名のメディア関係者のコメントもあった。同時に批判評が削除されている、という話も。行政単位や組織、企業、工場、学校などでは職員、従業員 生徒に対し映画館への動員令も出ていると、微信で暴露する人もいる。

映画「流浪地球」予告編のワンシーン
途中で出資を引き揚げた万達電影
 この映画の出資者は23社。中影集団と北京文化が製作・配給会社となって出資者を募った。もともと、中国映画界最大手の中影が、国際社会でもファンの多い中国SFの大御所・劉慈欣の小説の映画化を狙っていた。2014年に発表された中影の24の映画プロジェクト中には、劉慈欣SF作品が3部含まれている。その中に「流浪地球」があった。2014年に青春映画「同桌的你(同じテーブルで)」で頭角を現した監督の郭帆に白羽の矢を立て、意見を聞いたところ「流浪地球」に反応したという。2016年に国家新聞出版広電総局の認可を得た。ここに、郭帆の「同桌的你」に出資した縁のある北京文化が乗ってきた。北京文化は「戦狼」や「我不是薬神」とヒット作を飛ばし株価うなぎのぼり勢いがある映画会社で、1億元を投資。2017年4月に出資者を公募したところ、阿里影業、騰訊影業など23社が出資に参加した。

 実はもう1社、出資会社があったのだが、途中で出資を引き揚げた。それが王健林率いる不動産系コングロマリット万達集団傘下の映画館運営会社・万達電影だ。

 2018年6月に公表した報告書によれば、このときはまだ「流浪地球」への出資が事業計画に記載されていた。だから出資を引き揚げたのはごく最近だ。2017年5月26日に青島でクランクインしていたのだから、いくらなんでも出資撤回のタイミングとしては奇妙だ。

 しかも万達電影が出資している別の映画「情聖2」の主演の呉秀波(ウー・ショウポー)は昨年(2018年)秋から不倫スキャンダルに見舞われ、中国芸能界から完全に締め出されてしまった。「情聖2」の公開日は未定。

 ちょっと脱線して、芸能ゴシップを解説すると、中国で一番かっこいいおじさん俳優といわれる呉秀波と不倫関係にあったのは25歳の若手女優・陳c霖(チェン・ユーリン)。呉秀波は彼女に1年半にわたって強請(ゆす)られていた、と主張しており、陳c霖は恐喝で逮捕されている。だが彼女の両親は、呉秀波がコネを使って公安に逮捕させたのであって、冤罪だと主張。両親によれば、呉秀波と陳c霖はスキャンダル発覚後、2018年10月に弁護士を挟んで関係を整理し、陳c霖は海外に世論が鎮まるまで避難、時が来たら呼び戻すと約束。11月に呉秀波が彼女を呼び戻したところ、空港で公安に逮捕されたのだった。真相はどうであれ、娘ほどの年の差の女優に7年も身の回りの世話をさせ尽くさせていたことを思えば、彼女が金銭を要求しても当然ではないか、と世論は呉秀波バッシングに動いている。

 万達が引き揚げた資金の穴埋めをしたのは呉京自身で、彼の個人会社が6000万元を出資。呉秀波の没落と呉京の俳優としての株の上昇は対照的だ。

習近平にお灸を据えられた王健林
 万達はまさか「流浪地球」がこれほどヒットするとは思わなかっただろう。万達の“大損”は、単に経営判断のミスや不幸な事件に巻き込まれたせいなのか?

 やはり政治が影を落としている気がする。

 振り返れば、2016年まで、映画業界を牛耳っていたのは万達だった。創業者の王健林は解放軍出身の実業家で、不動産会社の万達を起業したあと、不動産業バブルに乗って、2013年にはフォーブスの長者番付で中国一の大富豪となった。

 不動産業で巨額の富を築いた万達集団は2012年から映画業界に乗り出し、中国全土で映画館の買収、映画製作への出資を開始。また北米で2番目の映画館チェーン・AMCシアターズやハリウッドの映画製作会社・レジェンダリーピクチャーズ、カーマイクシネマズなどを次々と買収。世界最大の映画館運営会社となって、“ハリウッドを買い取る”とまで豪語していた時期もあった。

 また青島に東方ハリウッドともいうべき映画スタジオテーマパーク・東方影都を建設。ヨーロッパや清朝時代の街並みセットや20の映画スタジオ、3000人を収容する映画館、ホテルやショッピングモールを備え、ここでハリウッドをしのぐ国内外の映画製作を行い、また青島国際映画祭を開いてアカデミー賞を越える映画界の権威となるという壮大な夢を広げていた。

 万達の勢いに対しては米映画界も実際、危機感をもっていたようで、米国メディアも、中国に映画産業をコントロールされることへの警鐘を込めた記事を結構報じていた。なにせ、中国は言論・表現の不自由な国であり、暴力や性表現、政治的表現については非常に厳しい検閲が行われているからだ。同時に映画のプロパガンダ性、洗脳性の強さは米国自身が身をもって証明しているところ。ハリウッド映画が米国の自由と正義のイメージを作り上げたといっても過言ではない。中国が世界の映画産業を牛耳るようになれば、中国が道徳と正義の象徴の国になる、ということもあり得るわけだ。

 ところが2017年、王健林と万達集団の勢いは突如、失墜する。これは、習近平の直命で、銀行からの融資制限を受けたからだ。融資されなくなったらすぐに資金繰りにいき詰まり、5月には国内に保有するホテル、不動産、テーマパークなどの9割近くの投げ売りを余儀なくされたのだった。これは習近平政権が、2015年ごろからキャピタルフライトを警戒して、中国の民営企業に対し海外資産の“爆買い”を控えるように通達を出していたにもかかわらず、万達側がいうことを聞かなかったから。

 王健林は、習近平ファミリーの資産の洗浄などを伝ったこともある「ホワイト・グローブ(共産党官僚のために資金洗浄や資金移動を行う企業家を差す隠語、汚職に汚れた手を見せないように白手袋をはめているという意味)」。だから自分たちが特別扱いを当然受けられると思っていたのかもしれない。こうした態度が習近平の逆鱗に触れた。同じころ、習近平の逆鱗に触れた民営企業には安邦保険集団や海南航空集団などがある。

 習近平にお灸を据えられた王健林は、今後は国内投資に重点を置くと宣言、万達集団の経営立て直し・再編計画を出して生まれ変わることをアピール中だ。万達の資産も王健林の資産もずいぶん減ったが、他の民営企業、安邦保険集団や海南航空集団のようにトップが逮捕されたり、謎の事故死にあったりしなかった分、運がいいのかもしれない。

 こういう政治的躓きがやはり尾をひいて、「流浪地球」への出資を継続しきれなかったのか。あるいはもっと、核心的な理由がそのうちわかるかもしれない。

どんどん厳しくなる検閲と指導
 万達問題のほか、人気女優・范冰冰(ファン・ビンビン)の脱税で、長期拘束を行った上に見せしめ的な巨額罰金を科した事件や、俳優や監督への報酬上限を共産党が指導する昨今の状況も含め、この数年、中国の映画産業、娯楽業界は政治に振り回され続けている。呉秀波の不倫スキャンダルも、ひと昔前なら、よくある男と女の芸能ゴシップとして扱われていただろう。女優が逮捕され、映画の公開がストップすることもなかったのではないか。

 コンテンツに対する検閲と指導もこの数年どんどん厳しくなった。文革時代を舞台にした「ワン・セカンド(一秒鐘)」(張芸謀監督)や香港・中国合作の「ベター・デイズ(少年的你)」(デレク・ツァン=曽国祥)が今年のベルリン国際映画祭のコンペティション部門に出品予定だったのにポスプロ(仕上がり)がいまいち、という意味不明の理由で取り下げられた。中国政府が政治的理由でストップをかけたのではないか、とみられている。

 今の中国映画・娯楽業界は、政治の風向きに戦々兢々(せんせんきょうきょう)している。息苦しく、不景気もあって金の流れも悪くなってきている。春節映画全体の動員数は前年より10%以上も低かった。

 政治が産業を委縮させている。さて、そんな状態で中国映画はハリウッドを超えられるのだろうか。方向性を失ってさまよっているのは中国映画なのか、中国政治なのか。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/55479

 

2019年2月14日 莫 邦富 :作家・ジャーナリスト
中国で公開された「SF映画」が空前の大ヒットとなるまでの紆余曲折
中国の春節
多くの人で賑わう中国の春節 Photo by Yasuhisa Tajima
春節に公開された映画が
わずか6日で390億円の興行収入
 2月5日から始まった旧正月(春節)は、約2週間後の元宵節(旧暦の1月15日)まで続くのが習わしだが、「春節休暇」としては2月10日で終わるのがほとんどで、11日から“仕事始め”となった。

 例年だと、大晦日の夜に放送される「春節聯歓晩会(略して「春晩」)が休暇中の最大の話題となるが、今年は全くと言っていいほど話題にならなかった。ネット上では、「レベルの低さに絶望したから」「批判する価値も見出せなくなったのではないか」などと痛烈に批判されていた。

 話題を独占したものは別にあった。映画だ。私のFacebookを見ている方ならお気づきだと思うが、『流浪地球(さまよえる地球の意、英題:The Wandering Earth)』だ。春節中の数日は、私はこの中国版「日本沈没」と言ってもいいようなSF映画にはまっていたのだ。

 春節の初日(2月5日)に公開されたこの映画は、わずか数日で大評判となり、国内外で大きな注目を集めている。興行収入も2月11日の時点ですでに24億元(約390億円)に達したという。

 日本の映画興行収入ランキングのトップは2001年の大ヒット『千と千尋の神隠し』。その興行収入が308億円だったことからも、いかにすごいかが分かってもらえるだろう。

 映画のあらすじは、次のようなものだ。

 太陽の爆発が迫り、地球の終わりが近づいている。そんな中で、近づいた木星の引力によって滅亡の危機に瀕した人類は、地球をまるごと太陽系の外に脱出させようと決意し、行動を起こした。その後、新天地を求めて宇宙を旅するというストーリーだ。

 中国人SF作家である劉慈欣の同名小説を原作とし、4年の歳月をかけて制作したこの作品。公開わずか5日間で大ヒットとなったことで、今年は間違いなく「中国SF映画元年」として記憶されることだろう。

ハリウッドで
衝撃を受け決意
 監督は、ほとんど無名の郭帆。報道によれば、15歳のとき、ジェームズ・キャメロン監督の『ターミネーター2』を観てから興奮して一睡もできず、「将来、SF映画の監督になろう」と心に決めたという。

 しかし、北京電影学院への入学に失敗。海南大学法律学科に合格したものの、納得がいってなかった郭帆はビデオカメラを購入し、大学在学中にすでに短編映画を撮り始めていた。

 絵にも造詣があり、海南大学を卒業してからは北京に住みつき、映画やテレビ番組製作現場でバイトとして働いていた。有名な映画監督である張芸謀のクルーで働いたこともあった。数年後、再び北京電影学院の映画監督学科を受験、念願の合格を果たした。

 郭帆は、10年から14年の間に2本の映画でメガホンを取った。この映画は売れなかったが、「富川国際ファンタスティック映画祭」で最優秀アジア映画賞を、「北京大学生映画祭」で大賞を受賞。次世代の監督11人の1人と評価された。

 しかし、SF映画への夢は捨てられなかった。暇なときには天体物理や量子力学まで勉強し、SF映画を撮る準備をした。

 15年になって米国のハリウッドを訪問したとき、郭帆はあっけにとられ、衝撃を受けた。

「中国と米国の映画産業を比べるとその差はじつに大きい。その最たるものがSF映画だ。われわれが乗っているのは自転車だとすれば、あっちはフェラーリなんだから」

ポケットマネーから
100万元を投じて準備
 しかし、文学の分野では、中国人の作家が業績を残し始めていた。

 15年8月23日、世界のSF文学分野で最も栄誉のある「ヒューゴー賞」が発表され、中国の作家・劉慈欣が執筆した『三体』が長編小説部門最優秀賞を受賞したのだ。アジア人で初めての受賞だ。

 まもなくして、郭帆は映画製作会社の大手、中影制片公司の社長から呼ばれた。そこで『流浪地球』の映画化を打診されたのだ。

 実は、中影制片は郭帆に話を持っていく前に、ジェームズ・キャメロンやアルフォンソ・キュアロン、リュック・ベッソンといったそうそうたる映画監督のもとを訪ね、「監督を引き受けてほしい」と頼んだものの、きっぱりと断られた。さらに中国の有名な監督にも当たってみたが、やはり断られた。

 中影制片の意向を知った郭帆は、自分のポケットマネーで100万元の資金を投じ、早速動き始めた。

 50年後の世界を具現化するために、郭帆は3000枚ものコンテンツイメージを描いた。惑星エンジンから、地下都市、運搬車まで、あらゆるシーンの細かいイメージを描き、絵コンテは8000枚にもなった。

 まだ契約さえ結んでいない段階であるにもかかわらず私財を投じ、準備作業を黙々と進めた。

「命がけでこのチャンスをつかみたかった。そのために、こんなに準備を進めているんですと見せた方が出資者の心を動かすことができるだろうと考えた。たとえ最終的に失敗したとしても、悔いは残さずに済む」と思ったからだ。

 16年4月、郭帆とプロデューサーの〓格尓(〓の文字は龍の下に共。以下同)の2人は、中影制片に進捗状況を報告した。中影制片の役員らは、構想の説明書を始め、さまよえる地球(流浪地球)の100年の編年史や3000枚のコンテンツイメージ、8000枚の絵コンテ、ハラハラドキドキで中国テイスト満載のシナリオを目にして心を打たれた。

 その翌日、郭帆は「映画製作を始めましょう」という通知を受け取った。

大規模なセットや小道具で
制作費が底をついても…
 投資リスクが大きすぎると判断した中影制片は、万達影業や北京文化なども誘い、総額1億元以上を投入。郭帆の手に入った予算は、当初1億元(約16億円)だった。ハリウッドがSF映画を製作する際の予算は、通常1本2〜3億米ドル(約220億〜330億円)で、その差は十数倍だ。郭帆は、「資金の大半をセットと道具、特殊効果に使おう」と決意した。

『さまよえる地球』には1万点以上のセットや小道具が使われたが、その全ては自分たちで作ったものだ。地下都市や氷原、惑星エンジンコントロール室、宇宙ステーションなども実景として作った。“宇宙村”ともいえるこの実景は、10万平方メートルもあり、大型の住宅街に相当する規模だ。

 しかし、1億元をあっという間に使い果たし、製作資金は底をついた。そこで投資会社は数千万元の増資を実施したが、それでも全然足りなかった。郭帆は全財産の900万元を注ぎ込み、プロデューサーの〓格尓も所有していた車を売却した。俳優らも自主的にギャラの引き下げを申し出たし、ディレクターの劉寅も数百万元する設備を自ら購入し、チームに貸した。

 〓格尓は「映画制作手記」で、「映画のために自分の金をつぎ込んで撮影したのは初めての体験だった」と書いている。

 それでも地上の部分の撮影が終わったところで資金が尽き、スポンサーの万達影業は映画製作から撤退した。

 宇宙ステーションの部分については、もともと大物俳優を起用しようと考えていたが、来てくれる人は1人もいなかった。結局、同じく財産を使い果たして『戦狼2(ウルフ・オブ・ウォー2)』を撮影した、監督兼俳優の呉京がノーギャラで友情出演を引き受けた。やがて、製作資金の困窮ぶりを知った呉京は、6000万元も出資した。

 後に、ある人が呉京に問うた。

「この映画の製作が途中で挫折したらどうするの?」

 それに対し呉京は、「たとえ製作がストップしても、行動を起こさないよりは立派だったと言えるだろう。しかも、私たちはその時点ですでに成功したと言っていいのだ。なぜなら7000人もこの映画撮影に関わっているんだ。将来、そのスタッフたちは中国SF映画の“シード選手”となるのだから」

 近年、呉京が関わった映画は全て大ヒットしたため、「運が良かったのだ」という声もあったが、並々ならぬ覚悟と行動力があったからだと評価したい。

まだ幼稚さはあるものの
「中国のSF元年」と評価の声
 こうして完成し、上映されている映画は、素晴らしい評価を受けている。例えばニューヨーク・タイムズも「中国映画産業、ついに宇宙競争に参入」と好意的に報じた。

 とはいえ、シナリオや演技など全てにおいてまだ幼稚さが隠せない。ただ、重要なのは、SF映画分野においては、中国は大きな一歩を踏み出したことだ。

「中国で、ついに本当の意味でのSF映画ができた」
「中国のSF元年ここに始まる」

 こうした視聴者の声は、まさにこの映画の成功の真髄を語っているといえる。

(文中・敬称略)

(作家・ジャーナリスト 莫 邦富)
https://diamond.jp/articles/-/193900  

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