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皮肉な現実:ロシアに残りたい人が過去最高に
理由は希望ではなく諦め、ロシアを去る者と目指す者の苦悩
2019.2.14(木) 徳山 あすか
旧ソ連時代の映画館に「エンドロール」 保存か解体か? モスクワ再開発の波
保存か解体か? モスクワ再開発の波。写真はモスクワ北東部にある映画館「ロージナ」。1938年に建設され、巨大な支柱とソ連のモザイク画を有するスターリン時代の歴史的建造物(2018年12月13日撮影)。(c)Yuri KADOBNOV / AFP〔AFPBB News〕
日本で今年4月から外国人労働者の受け入れが拡大されることは、ロシアでもニュースとして取り上げられた。
日本語試験が行なわれるのは主に東南アジアの国であり、ロシアは(もちろん)テスト実施対象国になっていない。
筆者の周りのロシア人たちは、冗談半分で「何でロシアでやってくれないの。不公平だよ」と言ってきた。
しかし、ロシアの諺にある「どんな冗談の中にも真実の一部がある」が示すように、外国、特に欧米の先進国や、タイ・ベトナム・オーストラリアといった温暖な地域に住みたいと願うロシア人は一定の割合で存在するし、実際にたくさん住んでいる。
米国で優秀なロシア人エンジニアが多数活躍していることはよく知られている。
筆者が最近知り合ったビジネスパーソンは、ブルガリアなどEU圏の中でも“ゆるい”国に提出する書類を偽造して、現地に架空の親戚をつくって国籍を取り、後はドイツに移住するという計画を話してくれた。
見た目は普通そうな人だったが、頭の中ではとんでもないことを考えているものである。
例外はあるがロシアは2重国籍自体は禁止ではないので、国籍に対するロシア人の考え方も軽いと思う。
この記事を書いている最中も、「アンティグア・バーブーダ国籍を取ろう!」という広告が筆者のPCに表示されている。
英連邦王国の国籍があれば、英国への滞在がぐっと容易になるからだ。
その一方、ロシアの独立系世論調査機関「レバダ・センター」が昨年12月13日から19日にかけて実施した海外移住についての対面調査では、興味深い数字が出た。
61%の回答者が「外国に移住したいとは全く思わない」と答え、2011年の調査開始以来、過去最高となった。
「あまり移住したいとは思わない」の21%と合わせると、移住否定派は82%にものぼり、やはり過去最高である。
しかしこの結果は、生まれ故郷への愛着とか、今の暮らしに満足、といった単純な理由だけでは説明できない。
経済紙「コメルサント」に対し、レバダ・センター社会政治調査部のナタリア・ゾルカヤ研究員は次のようにコメントしている。
「回答者の多くは、生活が貧しすぎて、海外移住などというのは叶わない夢だと思っている」
「そういうアイデアを現実的な可能性として捉えることができないほど、生活が苦しい。移住資金もないし、自分の生活圏に、刺激を与えてくれるような雰囲気もない」
また政治学者のアッバス・ガリリャモフ氏は、同紙の取材に対し、ヨーロッパに一度も行ったことのない人に対して、次のようにテレビによるプロパガンダの影響を指摘している。
「ヨーロッパはセクシャルマイノリティと、ロシア人への憎しみに支配されている」
モスクワに住んでいると、ゾルカヤ氏が指摘するほと貧しすぎるという実感はないのだが、「モスクワはロシアではない」という表現もあるように、実際のところ地方経済はかなり疲弊しているのだろう。
移住願望があると答えたのは、「とても移住したい」7%と、「まあ移住したい」10%を合わせた17%だった。
この17%という数字自体は高くも低くもない。調査開始以来、15〜22%の間を行き来している。
今回の特徴は18歳から24歳までの若年層のうち41%が、移住願望を表明したことだ。
その層に限れば、「とても移住したい」が18%、「まあ移住したい」が23%となっている。
「実際に海外に居を移した人に対してどう思うか?」との問いに、若年層では「肯定的」と「何とも思わない」を合わせると96%に達した。
対して、55歳以上では「否定的」と答えた人が23%もいたので、やはり若い世代の柔軟さ、寛容さが顕著である。
55歳以上といえばテレビの視聴率も高く、アンチ欧米戦略の影響を直接受けている世代である。
ロシアの若者も、日本の若者と同じように社会の閉塞感を感じていると思う。
ただし日本の若者が、自分の周りの世界で、身の丈に合った暮らしに満足する人が多いのに比べて、ロシア人の情熱は外へ外へと向いていくように思う。
この調査結果の発表に伴って、ラトビア発の反政府系ロシア語メディア「メドゥーサ」は、「そろそろロシアから出て行くべきか診断」というゲームを作った。
これが人気となり、ネットで拡散した。
「グレーチカ(ロシアの国民食、そばの実)がないと生きていけないですか?」などの他愛もない質問に回答していくと、海外移住したいかどうかが分かるというもので、なかなか面白い。
もちろん単なるお遊びだが、これが流行るということは、やはり皆このテーマに少なからず関心があるのだろう。
ロシアから出て行く人がいる一方、目指す人もまた多い。
都市部に暮らす人なら、休日の大型スーパーで、中央アジアからの出稼ぎ移民が1本10ルーブル(約17円)程度の特大パンを買い物かご一杯につめている光景を目にしたことがあるだろう。
彼らは狭いマンションで集団生活し、給料を地元に送金しているのである。
この季節には屋根から雪落としをする外国人の姿を毎日見る。屋上に立って雪をスコップで投げ落とし、建物の倒壊を防ぐという体力勝負の仕事だ。
ちなみに昨年夏に開催されたサッカーW杯ロシア大会の際には、サポーター専用の身分証明書「ファンID」が発行されていた。
このファンIDを使うと、W杯閉幕後も12月末までロシアにビザなしで入国し、自由旅行ができた。
しかし、大会閉幕後に入国した旅行者のうち約5500人が、1月末の段階でロシアに不法滞在している。
旅行資金が尽きたのか、ロシアが気に入りすぎて帰りたくないのかは、定かでない。内務省移民局は、3月末までには全員を摘発・一掃すると意気込んでいる。
そして日本人の筆者もこの国では移民である。
どの国でもそうだが、観光でなく長期滞在するとなると、途端にハードルが上がる。書類が大好きな国・ロシアでは、なおのことだ。
特に日本のように、ビザが必要な国からやって来て、移民としてまともなステータスを確立するのは無理ゲーである。
筆者はその無理ゲーのクリア一歩手前にいるので、誰かの役に立つとはあまり思えないが、一つの現在進行形の経験としてご紹介する。
もともと筆者は留学ビザ、その後に就職したので労働ビザを持っていた。
しかし労働ビザは、ビザ発給を申請した会社に紐づいており、毎年更新が必須なうえ、万が一会社を解雇されると、ロシアから去らなければいけない。
そこで、まず「一時滞在許可」(3年間有効、更新不可)を取得してから「長期滞在許可」(5年間有効、回数無制限で更新可)を取ることにした。
モスクワ市内に住む場合の手続きは、「多機能移民センター」で行なわれる。
モスクワ市内から地下鉄駅のほぼ終点まで行き、そこから直通バスに乗る。バスの所要時間は道路状況にもよるが片道1時間40分から2時間半ほどだ。
なぜこんなに時間がかかるのかというと、2012年、モスクワは南西方向に拡張され「新モスクワ」というゾーンが出現した。
「人口が増えてきて手狭になったから、モスクワ自体を拡大してしまおう」ということで、今のモスクワは地図で見ると不自然な形になっている。
移民センターはこの「突然モスクワ扱いになったど田舎」の端っこの方にあるのである。
バスは頻繁には出ていないので、座れることは滅多にない。冷たい隙間風を感じながら2時間立ちっぱなしで、ひたすら真っ白な草原を眺める。
ようやく到着すると、路上に荷物検査の列ができている。センターは、無機質な巨大な建物で、厳重な囲いはまるで刑務所か収容所のようだ。
林の中にあるので、体感気温は実際の気温よりもっと寒い。ようやくセンターの敷地内に入っても、建物内に入れるのは予約時間まで30分を切ってからだ。
この予約時間が曲者で、筆者が昨年夏に「一時滞在許可」を申請したときは、午後1時の予約だとしたら、番号が呼ばれるのは午後3時半くらいだった。
後になればなるほど時間が押すので、皆、できるだけ午前中の予約を取ろうと必死だ。
ただし先日、「長期滞在許可」を申請した際は予約時刻から1時間半しか待たなかったので、若干の改善は見られる。単に、冬場で人が少なかっただけかもしれないが・・・。
予約するには、申請日の3日〜1日前にあらかじめ移民センターまで足を運び、整理券をもらっておく必要がある。つまり整理券のために往復するだけで、1日つぶれてしまうのだ。
以前は予約日時が選べず一方的な指定だったが、今では直近3日間に限り選べるので、ここでも一応の改善が見られる。ただしオンライン予約などは夢のまた夢である。
書類はもちろん丹念に調べられる。書き方が独特な申請書のほか、パスポートの翻訳、無犯罪証明、収入証明、健康診断、ロシア語やロシア法・歴史の知識を証明する書類など、必要なものはケースによって異なる。
少しでも不備があると窓口で書類を突き返されるが、次に申請したときの検査官が同じ意見とは限らない。
筆者の経験では、毎回違う検査官が、新しい「不備」を指摘し、「一時滞在許可」は申請7回目にしてようやく提出できた。
このたびは「長期滞在許可」は3回目で提出できたので、大進歩である。
審査の結果は最短で半年後に分かる。そんな調子なので、窓口の対応に納得がいかず怒鳴り出す人もいるし、暴れ出して警察を呼ばれたケースも何度も見た。
必要なのはとにかく、我慢と忍耐である。そうこうしているうちに書類の有効期限が切れて、取り直しになったりする。
こんなことが続くと、ロシアという国は、我々外国人の心を折れさせてあきらめさせようとしているのではないかと疑いたくなる。
または、この程度の困難を乗り越えられないようでは首都モスクワに住む資格がない、というメッセージなのかもしれない。
帰路は、またバスに乗る。
ロシアでは公共交通機関で女性や子どもに席を譲ることが日常的に行なわれており、大きな荷物を持っていたり具合悪そうにしていたりすると、サッと譲ってもらえることが多い。
しかし移民センター直通バスは外国人ばかりなのでそういう文化はなく、民度の低い人ばかりだ。
年配の女性の中には譲ってもらうのが当然と思っている人もいる。ぐったりして腰かける男性に向かって「譲りなさい」と迫ったり、「こんな老人を立たせておいて何とも思わないのかしら」と嫌味を言ったりする。
ターゲットにされた男性も疲れているので、すぐには承諾しない。そんな言い争いを何十分も聞き続けると(最後は男性が席を譲って決着する)、精神的に滅入る。痴漢や執拗なナンパ男などもいるが、満員のバスなので逃げ場がない。
ようやく下車して地下鉄に乗り込むと、隣の初老の男性がカタコトのロシア語で話しかけてきた。
どうやら彼も同じバスの乗客だったようで、見るからに憔悴している。
男性はフランス人で、長年ロシア人の妻とフランスで暮らしていたが、妻の提案で最近モスクワに引っ越してきた。
男性は「HIV検査証明書の件でフランスから電話したら、フランスで取得した書類でもOKだと言われました。だからわざわざ検査したのに、今日行ったらダメだと言われて、整理券さえもらえなかったんです」とさめざめと訴える。
筆者が「そりゃダメに決まってますよ。電話の問い合わせは信じないで」と言うと、がっくり肩を落としていた。
よくある誤解として、ロシア人と結婚すれば何かの手続きが簡単になると思っている人が多いが、それは全く違う。
「一時滞在許可」は基本的に抽選に当選した人しか申請できないが、結婚すると抽選なしで申請できるようになるだけで、その他の手続きは全く同じである。
筆者の知人でも、手続きのハードルが高すぎて日本に帰国した日露カップルが何組もいる。
特にロシアの法律と歴史の試験はネックになっている。夫婦が英語などで会話している場合はなおさらだ。
と、いろいろ愚痴は言ってみても、選挙権のない移民は声を挙げることもできないので、決められたことに従うだけである。
移民センターが国籍を取りたい人たちで大賑わいなのを見ると、若者がいくら流出しても、ロシアという国自体が滅びることはないのだろうなと思う。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/55459
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