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ロシア疑惑の最終報告書は「フェイク・レポート」になるのか?
2019/02/04
海野素央 (明治大学教授、心理学博士)
(AP/AFLO)
今回のテーマは「モラー報告書の行方」です。マシュー・ウィタカ米司法省長官代行は1月28日、記者団の質問に対して2016年米大統領選挙を巡るロシア疑惑の捜査が、最終段階に入っていることを明かし、「間もなく結論に達するだろう」と回答しました。捜査の途中で、司法当局のトップがこのような発言をするのは異例です。
米メディアは、ウィタカ司法長官代行の発言を受けて、ロシア疑惑の捜査チームを率いるロバート・モラー特別検察官の最終報告書が、数週間後に出ると報じました。
ウィタカ司法長官代行はなぜこのタイミングで、異例の発言をしたのでしょうか。何がモラー特別検察官の最終報告書に対する懸念材料になるのでしょうか。
本稿では、トランプ陣営の元顧問で政治コンサルタントのロージャー・ストーン被告の起訴状を分析しながら、「モラー報告書」の行方について述べます。
2人のニクソン信奉者
ストーン被告は1月25日、司法妨害1件、偽証5件、証人買収1件を含めた7つの罪で起訴されました。同被告は、トランプ大統領と30年以上にわたる友人です。リチャード・ニクソン元大統領を英雄とみなし、背中に同元大統領の顔の入れ墨を入れています。
ウォーターゲート事件で弾劾に追い込まれる前に辞任を発表したニクソン元大統領は1974年8月9日、ホワイトハウスの庭園に待機している米大統領専用機(マリーンワン)に乗り込む前に、両腕を高く上げて二重のVサインをしました。ストーン被告も南部フロリダ州フォートローダーデールの連邦地裁から出てきたとき、このニクソン流のVサインを作ったのです。
ストーン被告はかなりのニクソン信奉者だといえます。以前述べましたが、トランプ大統領も若き頃、ニクソン元大統領から一通の手紙を受け取り、それ以来同元大統領の影響を受けています。
つながった点と点
24ページに及ぶストーン被告の起訴状を読むと、どの程度までモラー特別検察官の捜査が進んでいるのか、推測することができます。
まず起訴状には、組織名と人物名が匿名で書かれています。しかし、「組織1」は2016年米大統領選挙において、ロシア政府がハッキングをした民主党全国委員会(DNC)及びクリントン陣営のメール内容を公表した「内部告発サイト」ウィキリークスであることは容易に理解できます。
起訴状によれば、トランプ陣営の「上級スタッフ」が、組織1が今後もクリントン陣営に打撃を与える情報を所有しているのかを知るために、ストーン被告に接触しました。それに対して、ストーン被告は「組織1がクリントン陣営を傷つける情報を持っている可能性がある」と回答しています。
ストーン被告は、組織1がどのような内容のメールを、どのタイミングで公表するのかを事前に把握していたのです。
では、どのようにしてストーン被告は、ロシア政府がハッキングをしたメールを所有している組織1と連絡をとることができたのでしょうか。
起訴状には、(ウィキリークスの創設者で現在ロンドンのエクアドル大使館に身柄を寄せているジュリアン・アサンジ氏と思われる)組織1のトップとストーン被告の間に、「人物2」が仲介役を果たしたことが記されています。人物2はラジオ番組のホスト役で、ストーン被告と10年以上の関係があるコメディアンのランディ・クレディコ氏だといわれています。以前、人物2のラジオ番組に組織1のトップが、ゲストとして参加しています。
ストーン被告は、仲介役の人物2と少なくともメールのやりとりを30回行い、組織1のトップの動向を知り、その内容をトランプ陣営の「上級スタッフ」に伝えていました(図表)。モラー特別検察官は、約2年間の捜査の結果、やっと「点と点をつなげる」ことができたのです。
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「クリプトナイト」の威力
モラー特別検察官は、メールの通信履歴と内容からかなり詳細なところまでストーン被告のメール内容を把握していたことが、起訴状から読み取れます。起訴状には、人物2がストーン被告に送信したメール内容が明記されています。
たとえば、「組織1のトップはヒラリーに対するクリプトナイトを持っている」と送っています。「クリプトナイト」は、スーパーマンの超人的能力を無力化する架空の物質です。つまり、組織1のトップはヒラリー・クリントン元国務長官に決定的な打撃を与える情報を得ていたという意味になります。
モラー特別検察官は、ストーン被告と下院情報特別委員会で議会証言をする予定であった人物2のメール内容も捜査しています。同被告は自分の証言内容と一致させるように人物2を説得し、口裏を合わせをしていました。
ストーン被告は、人物2とメールを通じてコミュニケーションをとっていたのにもかかわらず、電話で会話をしていたと議会に証言をしています。加えて、組織1のトップに言及したメールを所有していないと証言しました。こららのメールに関する証言は偽証でした。
トランプ陣営の「メール問題」
偽証罪に加えて、ストーン被告は司法妨害と証人買収においても罪を問われました。ストーン被告は映画「ゴッドファーザーパート2」に登場する架空の人物フランク・ペンタンジェリを持ち出して、人物2に対してペンタジェリのように議会証言を取りやめるように促しました。
ペンタジェリは、コルレオーネ・ファミリーの一員で、直前になってマイケル・コルレオーネを追及する証言を取りやめた人物です。ここでもストーン被告が、自分と人物2の証言の不一致を恐れていたことが理解できます。
思えば、2016年米大統領選挙でヒラリー・クリントン元国務長官は私的なメールサーバーで公務を行った問題、いわゆる「メール問題」を選挙期間中取り上げられ、トランプ大統領からの攻撃に終始守勢に回りました。しかしこの起訴状では、ストーン氏、人物2及び組織1のトップとのメールのやり取りに捜査の焦点が当たっています。
前回の大統領選挙では有権者に明らかになっていませんでしたが、トランプ陣営には極めて深刻な「メール問題」が存在していたわけです。
「上級スタッフ」と「高位の幹部」は誰か?
起訴状には、ストーン被告がやりとりをしていたトランプ陣営の2人の幹部が匿名で記されています。「上級スタッフ」と「高位の幹部」です。
一部の米メディアによると、上級スタッフはすでに有罪となっている元選対本部長ポール・マナフォート被告の部下で政治コンサルタントのリック・ゲイツ被告といわれています。仮にそれが事実であれば、高位の幹部とは一体誰なのでしょうか。
率直に言ってしまえば、長男のドナルド・トランプ・ジュニア氏ないし娘婿のジャレッド・クシュナー氏が有力でしょう。ただ、トランプ大統領本人である可能性も捨てきれません。
いずれにしてもモラー特別検察官は、高位の幹部を把握しており、その人物に焦点を当てて捜査をしているはずです。仮に高位の幹部がドナルド・トランプ・ジュニア氏で、モラー特別検察官が同氏を起訴できれば、ロシア疑惑は急展開します。
このとき、トランプ大統領は長男に恩赦を出すのか決断を迫られます。最終報告書が出るまでに、高位の幹部を起訴できるのかがカギになります。
報告書に対する懸念
以前、ウィタカ司法長官代行は、モラー特別検察官の捜査がトランプ大統領のビジネス取引まで拡大したと米メディアが報じたとき、「行き過ぎた」「魔女狩りだ」と捜査を批判しました。さらに、トランプ大統領がジェームズ・コミー前連邦捜査局(FBI)長官を解任した際には、同大統領の決断を擁護しました。議会民主党は、ウィタカ司法長官代行がロシア疑惑の捜査に関与している点に不快感を抱いています。
そのウィタカ司法長官代行は、モラー特別検察官によるロシア疑惑の捜査がかなり進展している点を危惧し、捜査を終了させるために、同検察官に圧力をかけたとみることができます。
議会民主党はトランプ大統領から次期司法長官に指名されたウィリアム・バー氏に対しても懐疑的です。というのは、バー氏も過去にモラー特別検察官の捜査を批判しているからです。
トランプ大統領には、ウィタカ司法長官代行とバー次期司法長官を使って、モラー特別検察官に対する監督強化を図る意図があります。バー氏が米議会での承認を経て司法長官に就任すると、モラー特別検察官は同氏に最終報告書を提出することになります。
野党民主党議員の中には、バー氏が報告書を検閲して修正するのではないかと警戒感を強めている議員がいます。ソフトな表現に変えたり、トランプ大統領に不利な文章の一部を削除するなどの行為が可能になるからです。
バー氏が修正を加えないで最終報告書を米議会に提出し、有権者に公表するのかが焦点になります。もしホワイトハウスが米司法省に圧力をかけ、同省が報告書の書き換えや手直しをした場合、結局、ロシア疑惑の最終報告書は「フェイク・レポート(偽の報告書)」になり得るのです。
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/15258
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